音楽ナタリー Power Push - やなぎなぎ
旅の果てに見つけた宝物
やなぎなぎが3rdアルバム「Follow My Tracks」を4月20日にリリースする。本作は「旅」をテーマに、日常と非日常問わずさまざまなシチュエーションを齋藤真也、北川勝利(ROUND TABLE)、40mP、コレサワら作家陣を迎えて描いた作品となっている。今回のインタビューでは「旅」というテーマを用いたきっかけをはじめ、彼女自身が感じている旅の魅力や意味、そしてアルバムを通じて描きたかった世界観について話を聞いた。
取材・文 / 西原史顕
私が思う「旅」と作家が思う「旅」
──3枚目のフルアルバム「Follow My Tracks」のテーマは「旅」と発表されていましたね。
私自身、旅が大好きで休みがあると国内を回ったりしているんですが、ここ2年くらいは仕事でも海外を含めた遠出をする機会が増えて。旅の途中のワクワク感とか、帰ってくるときの寂しさとか、あるいはどこかに行きたいなという願望だとか、そういうものを1枚のアルバムとして音楽にできたら面白いかなと思ったのが始まりですね。
──なるほど。どんなところに行かれるんでしょうか?
伊豆諸島でドルフィンスイムしたり、車で栃木に出かけて餃子だけ食べたりとか(笑)。いろんな場所の景色や文化を見るのが好きなんです。
──そんな旅の魅力をサウンドにはどう落とし込んでいったのでしょうか?
作曲を各所にお願いする段階では、私が思う「旅」と作家さんそれぞれが思う「旅」とでいろんなタイプがあると思ったので、あまり具体的すぎるイメージは伝えず、ほぼお任せで作っていただきました。リクエストしたのは、声を楽器として面白く使いたいということと、どんどん進行していく、流れの止まらない展開にすることくらいかな。
──今作のサウンドはこれまで以上に叙景的ですよね。
例えば「未来ペンシル」を書いてくださった齋藤真也さんは、実際に制作中に旅に行かれたみたいで。そのときに見た遺跡とか、そういうものを音にしてくれています。
──「未来ペンシル」は壮大なシンフォニックロックと思いきや、途中で突然曲調が変わる意外性のある1曲でした。
すごく希望が湧いてくる曲ですよね。今回のアルバムには比較的自由なタイプの曲が多くて。Aメロ、Bメロ、サビという王道の構成だけでなく、思うがままに展開をする曲もたくさん作ってもらいました。
──「ターミナル」にも、北川勝利さんらしいポップロックの中にさまざまなギミックが取り入れられていて。
ノイズがけっこう入っていたり、一筋縄ではいかないサウンドですよね。「ターミナル」は今回のアルバムのイメージにものすごく合っていて。北川さんといえば「ユキトキ」や「春擬き」のイメージが強いと思うんですけど、カップリングで作っていただいた「音のない夢」が忘れられなくて。こういう曲をもう一度違う形でやりたいですねと話していたら、すぐに「ターミナル」のデモが上がってきたんです。聴いたら「これだ!」と思って、アルバム終盤のクライマックスになるべき曲だと予感しましたね。
日常から、非日常へ
──詞はどういうところから着想を得たのですか?
いろんな「旅」の形を考えました。実際に出かけるのもそうですし、妄想の世界を冒険することもあれば、自分探しという抽象的なパターンもある。そういうモチーフを曲調に合わせてピックアップしていきました。アルバム全体に1本の筋書きがあるということではなくて、曲それぞれに物語があるイメージです。「キャメルバックの街」なんかはわかりやすいですよね。田舎から上京してきた女の子が、都会の景色に驚きながらも感動している様子を具体的に描いています。一方で「パラレルエレベーター」とかは、勤め先のエレベーターの中で、扉が開くたびに「別の世界に行けたらいいのにな」「夢の世界が広がっていたらいいのにな」と妄想している様子を歌詞にしました。現実や妄想、大なり小なり、いろんなパターンの「旅」が混ざり合った作品になったのかなと。
──前半の曲は特に、そうした日常の風景の中で発見できる「旅」の歌が多いですね。
日常の中で「今いるところからどこかへ行きたいな」という気持ちを歌った曲が、確かに前半には多いですね。私も常々どこかへ行きたいなと思うことがあって(笑)、詞を書いているとき無駄に旅サイトとかを見て妄想を膨らませたりしていました。
──ところが中盤の「モノクローム・サイレントシティ」で、一度歌詞の雰囲気がガラッと変わります。
今作では基本的に「どこかへ行きたいな」という気持ちを歌っているんですけど、この曲は旅を見送る側に立っています。どこにも行けない自分が捨てられた動物に出会って、「この子も私もどこにも行けないんだ」と思っていたら、ある日、その動物だけがどこかへ行ってしまっていた。自分だけが取り残された気持ちになってしまった物語で……。アルバムの後半は日常ではなく非日常の「旅」の世界を歌っていくことになるので、ここで一度日常の終わりという物悲しさを挟みたかったんです。
──なるほど。後半の楽曲は、壮大だったりにぎやかな曲が中心になってきますものね。
「夜天幕」のサーカス団をイメージしたサウンドとか、「ワンルームトラベル」の青春感とか。歌詞の面では後半の楽曲ほど決断を下している人が多いというか、1つの「旅」の始まりから終わりまでがしっかり描かれています。そしてその旅がいいものであることへの願いも、より強まっているんですよね。そのピークがリード曲の「ターミナル」になっているんです。
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- 3rdアルバム「Follow My Tracks」2016年4月20日発売 / NBCユニバーサル・エンターテイメント
- Blu-ray付き初回限定盤 [CD2枚組+Blu-ray] 4536円 / GNCA-1477
- DVD付き初回限定盤 [CD2枚組+DVD] 4320円 / GNCA-1478
- 通常盤 [CD] 3240円 / GNCA-1479
DISC 1収録曲
- Follw My Tracks
- 春擬き
- キャメルバックの街
- rooter's song
- パラレルエレベーター
- モノクローム・サイレントシティ
- オラリオン
- 夜天幕
- ワンルームトラベル
- カザキリ
- 未来ペンシル
- ターミナル
- どこにも行かない
DISC 2(初回限定盤のみ)収録曲
- ユキトキ
- Sweet Track
- 三つ葉の結びめ
- ビードロ模様
- 春擬き
初回限定盤付属DVD / Blu-ray
2015年10月に行われたライブ「color palette ~2015 Silver + Gold~」から厳選された映像を収録
やなぎなぎ ライブツアー2016
「Follow Your Tracks」
- 2016年4月24日(日)東京都 EX THEATER ROPPONGI
- 2016年4月30日(土)北海道 cube garden
- 2016年5月3日(火・祝)広島県 広島CLUB QUATTRO
- 2016年5月4日(水・祝)福岡県 イムズホール
- 2016年5月21日(土)宮城県 Rensa
- 2016年5月22日(日)新潟県 新潟LOTS
- 2016年5月28日(土)愛知県 ElectricLadyLand
- 2016年5月29日(日)大阪府 umeda AKASO
- 2016年6月4日(土)東京都 TOKYO DOME CITY HALL
やなぎなぎ
関西出身の女性シンガーソングライター。2006年にライブハウスやインターネット上で音楽活動を開始するや注目を集め、2009年発表のsupercell「君の知らない物語」にnagi名義でゲスト参加。2012年2月にはテレビアニメ「あの夏で待ってる」のエンディングテーマ「ビードロ模様」でメジャーデビューした。その後も2013年7月に1stアルバム「エウアル」、2014年12月に2ndアルバム「ポリオミノ」を発売。2015年12月にはアニメ「『終わりのセラフ』名古屋決戦編」のエンディングテーマ「オラリオン」を発表している。そして2016年4月、自身3作目となるアルバム「Follow My Tracks」をリリースした。