音楽ナタリー Power Push - やなぎなぎ
ニューシングル「オラリオン」が示す 彼女と言葉、彼女と他者の距離
「終わりのセラフ」で語られる心当たりを紡ぎ出す
──そしてやなぎさんはコーラスパート以外、Aメロとサビでは外来語を「バイタリティ」「トリックスター」「オラリオン」しか使っていません。歌詞はほぼほぼ日本語である上に「黎明」「環状」「悠遠」と漢字が多い。
ふふふふふ(笑)。コーラスと聴いたときの対比を効かせたかったというのもあるし、あと日本語は繊細なものではあるんですけど、見た目はまた違っていて。漢字ってけっこうインパクトがあるじゃないですか。
──だから前回のシングル曲が「春擬き」で、カップリングが「鱗翅目標本」だったわけですもんね(参照:やなぎなぎ「春擬き」インタビュー)。
その字面のインパクトを求めて漢字を使うことは多いですね。
──じゃあ今回も「夜明け」でもよかったところをあえて「黎明」と書いた?
いや、やっぱり響きやメロディに乗せたときの気持ちのよさが最優先で。メロディに乗せたとき「黎明」が一番気持ちよく響いた上に、漢字のインパクトもあったって感じですね。
──あとタイトルやコーラスにある種宗教性のようなものを帯びさせたり、今回の詞って「終わりのセラフ」の物語にかなり寄り添ったものになってますよね。
そうですね。この詞で描いているのは「対比」や「二面性」みたいなものなんです。自分が信じているものが正義か悪か。「終わりのセラフ」の物語の中にそういう対比がよく出てきますし。
──吸血鬼憎しで闘う人間には人間なりの正義があるし、吸血鬼には吸血鬼なりの道理があるし、っていうお話ですもんね。しかも今は人間側と吸血鬼側に分かれて闘っているけど、実はかつての親友で、っていう2人が主人公ですし。
そういうストーリーや設定の中に自分の心当たりがあったというか、自分が感じている対比、二面性について描けたらな、と。「トリックスター」というフレーズがまさにそうなんですけど、主人公の百夜優一郎の行動とか闘い方がトリックスター的。だからある人にはすごくいいものに見えるんだけど、また別のある人には悪いものに見えることもあって。私も気付いていないだけで、実はそう見られていることもあるだろうし、逆に誰かをそう見ていることもあるんだろうな、っていう感覚があったんです。
ランダムな集団に秩序が生まれるダイナミズム
──カップリングは先ほども少しお話させていただいた「zoon politikon」。なぜスマートフォン向けRPGの主題歌のタイトルが「政治的動物」という意味での「ヒト」なんでしょう?
ゲームの中に、ある場所にみんなが集っていくシーンがあるんですけど、それを観たとき「人間ってやっぱりアリストテレスが言っていた政治的な存在というか、集合体や群れをなす存在なんだな」「そういう面を描いてみたら面白いかな」と思って。たくさんのキャラクターたちが、ある場所につなぎ止められたとき何が起きるのか? どんな形の集団になるのか?ということに興味があったので。
──なぜ集団が生み出す政治や秩序に興味が?
ゲームに限らず、みんな実は別々のことを思いながら集まっているのに、その集団の中に秩序やルールが生まれるのってダイナミックだなと思っているからですね。例えば「小学校に入学して、初登校して、クラスが決まりました」ってなったとき、そのクラスはどんな形になっていくんだろう?みたいな感じで。
──特に公立小学校のクラスの場合「近所に住んでいる6歳児」という条件のみで集められた集団だから、何が起こるか予測できなそうですね。
でも、誰かが「こうしようぜ!」って音頭を取るわけでもないのに自然と子供たちなりの秩序が生まれるんですよね。本当にたまたま集められた、ランダム性の高い集団のはずなのに。それが不思議だし、面白いな、と思ってます。
──ただ詞を読むに、ヒトが「zoon politikon」的な振る舞いをする不思議さを過度に面白がってはいないし、逆に「クラス内政治や場の空気に流されてるんじゃねえよ」と否定的に捉えてもいないですよね。
そうですね。どっちでもいいかな、って。
──あはははは(笑)。
誤解を招く言い方になっちゃってますけど(笑)、でも本当に歌詞の中の私はその集団に主体的に関わってはいなくて。ランダム性の高い集団の中にいる人たち、それぞれの人生を俯瞰している感じですし、ただ眺めているだけの私にはその中の秩序を否定も肯定もできないかな、と思ってます。私にしてみたら苦手な秩序やルールであっても、その秩序があるから集団が円滑に回るのなら当然否定はできないですし、そもそも苦手意識よりも、秩序ができあがっていく様子に興味がありますから。なんでこんな秩序ができあがったんだろう?とか、みんなこの場ではこの場の秩序に従って生きているけど、それぞれにはいろんな人生の1ページがあるんだろうな、って。
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- ニューシングル「オラリオン」 / 2015年12月9日発売 / NBCユニバーサル・エンターテイメント
- 初回限定盤 [CD+DVD] 1944円 / GNCA-0406
- 通常盤 [CD] 1296円 / GNCA-0407
CD収録曲
- オラリオン
[作詞:やなぎなぎ / 作曲・編曲:藤間仁(Elements Garden)] - zoon politikon
[作詞:やなぎなぎ / 作曲・編曲:齋藤真也] - オラリオン(instrumental)
- zoon politikon(instrumental)
初回限定盤DVD収録内容
- 「オラリオン」Music Video
- ライブBlu-ray / DVD「やなぎなぎ ライブツアー2015『ポリオミノ』渋谷公会堂」 / 2015年12月23日発売 / NBCユニバーサル・エンターテイメント
- 「やなぎなぎ ライブツアー2015『ポリオミノ』渋谷公会堂」
- Blu-ray Disc 5400円 / GNXA-1169
- DVD 4860円 / GNBA-1410
やなぎなぎ
関西出身の女性シンガーソングライター。2006年からライブハウスやインターネット上で音楽活動を開始するや注目を集め、2009年にはsupercell「君の知らない物語」にnagi名義でゲスト参加。幅広い層の支持を集める。2012年2月、テレビアニメ「あの夏で待ってる」のエンディングテーマ「ビードロ模様」でメジャーデビュー。以来「ヨルムンガンド」のエンディングテーマ「Ambivalentidea」、「AMNESIA」のオープニングテーマ「Zoetrope」、「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」のオープニングテーマ「ユキトキ」など、話題のアニメのテーマソングを立て続けに発表し、2013年7月には1stアルバム「エウアル」を発売。以降もアニメ「凪のあすから」の前期エンディングテーマ「アクアテラリウム」、「ブラック・ブレット」のエンディング曲「トコハナ」などを発表し、また2014年12月には2ndアルバム「ポリオミノ」を完成させた。そして2015年6月、「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。続」のオープニングテーマ「春擬き」をリリース。10月には弦楽四重奏を伴ってのコンセプトライブ「color palette ~2015 Silver / Gold~」を開催し、12月にはアニメ「『終わりのセラフ』名古屋決戦編」のエンディングテーマ「オラリオン」を発表する。