音楽ナタリー Power Push - やなぎなぎ
ニューシングル「オラリオン」が示す 彼女と言葉、彼女と他者の距離
あとサビは……暴力的?
──今おっしゃっていたように頭で思考して身体で具現化していくボーカルワークは「オラリオン」に限らず、常にしていることなんですか?
曲にもよるんですけど、特に難しい曲はそうなりがちですね。この曲ってシンプルな構成なんだけど、実は展開が多いじゃないですか。
──かなり表情の違うAメロ、コーラス、サビが畳みかけるように連続するから、展開はド派手ですよね。
そういう曲を一本調子で歌うわけにはいかないので、その展開をより広がりのあるものにするためにできることは考えました。
──それがコーラスパートの声にどれだけ息をはらませるか、であったり?
そうですね。あとサビは……適切な言い方がわからないんですけど、暴力的?
──あはははは(笑)。「力強い」ではちょっと片付かないくらい、お行儀よくない感じで歌っています。
ぶっきらぼうというか、投げ捨てるように荒々しく歌って(笑)。かと思えばAメロの語尾の部分はちょっと切なく響くように声を抜いてみたり、そのあとのコーラスは息を多めにはらませつつ、遠くに届くような伸びやかな声で歌うようにしてみたり。同じスタジオで録ってはいるんだけど、パートごとに声が鳴るときの空気感を変えられたら、とは思ってました。
やなぎなぎと考えるギリシャ語と英語と日本語の話
──で、この曲の作詞はやなぎさんで、タイトルの「オラリオン」はギリシャ語で「祈り」。なぜ祈ろうと?
えーっとですね……「オラリオン」っていうのは「オラリ」っていう言葉のもとになっていて。
──「オラリ」?
聖職者の人がお祈りをするときに首からかけてるタスキみたいな布のことなんですけど、「終わりのセラフ」の“セラフ”が天使という意味だから、「オラリ」の持つ聖職者的であったり、神聖だったりするイメージがアニメの世界につながっているように思えて。
──そのもととなった「オラリオン」=「祈り」自体、宗教的儀式ですし。
ええ。あと藤間さんからデモをいただいたとき、最初とサビ前のコーラス部分のメロディに乗せるのは絶対に日本語じゃないだろうな、という印象を受けたんです。
──このコーラスって何語でなんて歌ってるんですか?
意味的には「さよなら、僕たちの祈り」「さよなら、僕たちの世界」というけっこうシンプルな内容なんですけど、タイトルと同じギリシャ語ですね。個人的な印象なんですけど、ギリシャ語って日本語に比べて基本的に重たいんだけど、でもどこかふわっとしている、不思議な響きをもっている気がして。それがあのメロディにはハマる気がしたからギリシャ語で歌うことにして。だからタイトルもギリシャ語で「祈り」や「口で唱える」という意味の「オラリオン」にした感じですね。
──なるほど。一方カップリングの「ズーン・ポリティコン」は……。
あっ、これは「ゾーン・ポリティコン」(zoon politikon)です。
──すみません(笑)。「政治的動物=ヒト」という意味のドイツ語ですよね。で、今、僕がまるっきり読めなかったように、やなぎさんは我々にはあまりなじみのない言語を曲に使うことがけっこうありますよね。
はい。
──そして重たいんだけど、どこかふわっとした印象があるからギリシャ語を選んだ、と言っている。「zoon politikon」というドイツ語も、もちろんその意味から言葉を選び取っている面もあるんでしょうけど、その一方で響きでセレクトしたんじゃないか、という気もしていて。
今回のギリシャ語やドイツ語に限らずなんですけど、言葉を選ぶときは必ず響きは気にしますね。
──じゃあやなぎさんの耳には日本語ってどう響いてます?
ものすごく繊細で、英語や欧米の言葉ほど勢いは出せない言葉なんじゃないか、と思ってます。その代わり、繊細さの裏にちょっとしたしたたかさを隠し持てる言葉なんじゃないかって。秘めた思いみたいなものを歌うのに最適な言葉なんじゃないかな、と。
──そう感じる理由は? 日本語にも「バカヤロウ」みたいな破裂音から始まって意味もダーティで直接的、強くて勢いのある言葉はありますよね。
そういう1つひとつの言葉にではなくて、こうやってお話しているときや文章を書いたときの全体の流れの中に繊細さを帯びている印象がある、って感じですね。1音1音の長さと、その連なりというか。特に歌の場合、英語ならもっとたくさんの言葉を詰め込んで早く言えたりする符割であっても、日本語だと1文字と1音が対照の関係になりがちだから、ゆっくり言葉が流れていく気がするんです。
──音韻論みたいな話? 例えば日本人が「dog」という詞を書く場合、音節は気にせず「ドッ」と「グ」の2音に割ることがあるけど、英語ネイティブの人はもっと音節に厳密で、1音節の「dog」は……。
1音で「dog」って歌うはずなんですよね。で、日本人が「グ」を歌っている2音目には別の単語を乗せるから、言葉の流れが早いし、1曲の中の情報量も多くなって。だから特に英語には繊細さよりも強さや勢いを感じるんです。逆に1つの単語に2音以上使うことも多い日本語は想像力を働かせるための余白が多いというか。その音と音の間に情感みたいなものを込められるんじゃないかな、って思ってます。
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- ニューシングル「オラリオン」 / 2015年12月9日発売 / NBCユニバーサル・エンターテイメント
- 初回限定盤 [CD+DVD] 1944円 / GNCA-0406
- 通常盤 [CD] 1296円 / GNCA-0407
CD収録曲
- オラリオン
[作詞:やなぎなぎ / 作曲・編曲:藤間仁(Elements Garden)] - zoon politikon
[作詞:やなぎなぎ / 作曲・編曲:齋藤真也] - オラリオン(instrumental)
- zoon politikon(instrumental)
初回限定盤DVD収録内容
- 「オラリオン」Music Video
- ライブBlu-ray / DVD「やなぎなぎ ライブツアー2015『ポリオミノ』渋谷公会堂」 / 2015年12月23日発売 / NBCユニバーサル・エンターテイメント
- 「やなぎなぎ ライブツアー2015『ポリオミノ』渋谷公会堂」
- Blu-ray Disc 5400円 / GNXA-1169
- DVD 4860円 / GNBA-1410
やなぎなぎ
関西出身の女性シンガーソングライター。2006年からライブハウスやインターネット上で音楽活動を開始するや注目を集め、2009年にはsupercell「君の知らない物語」にnagi名義でゲスト参加。幅広い層の支持を集める。2012年2月、テレビアニメ「あの夏で待ってる」のエンディングテーマ「ビードロ模様」でメジャーデビュー。以来「ヨルムンガンド」のエンディングテーマ「Ambivalentidea」、「AMNESIA」のオープニングテーマ「Zoetrope」、「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」のオープニングテーマ「ユキトキ」など、話題のアニメのテーマソングを立て続けに発表し、2013年7月には1stアルバム「エウアル」を発売。以降もアニメ「凪のあすから」の前期エンディングテーマ「アクアテラリウム」、「ブラック・ブレット」のエンディング曲「トコハナ」などを発表し、また2014年12月には2ndアルバム「ポリオミノ」を完成させた。そして2015年6月、「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。続」のオープニングテーマ「春擬き」をリリース。10月には弦楽四重奏を伴ってのコンセプトライブ「color palette ~2015 Silver / Gold~」を開催し、12月にはアニメ「『終わりのセラフ』名古屋決戦編」のエンディングテーマ「オラリオン」を発表する。