音楽ナタリー Power Push - やなぎなぎ
ニューシングル「オラリオン」が示す 彼女と言葉、彼女と他者の距離
やなぎなぎがニューシングル「オラリオン」を12月9日にリリースする。
やなぎ11枚目のシングル「オラリオン」の表題曲は、現在放送中のテレビアニメ「『終わりのセラフ』名古屋決戦編」のエンディングテーマ。作・編曲の藤間仁(Elements Garden)からデモ音源が届いた瞬間、彼女自身「ものすごくものすごいことになっていた」と感じたという、トリッキーなメロディラインが耳に残る楽曲だ。一方カップリングの「zoon politikon」はスマートフォン用ゲーム「LAPLACE LINK -ラプラスリンク-」の主題歌に採用されている1曲。齋藤真也による曲とアレンジは「オラリオン」とトーンやマナーを近しくしながらも、また独特の大胆さをたたえている。
そして両曲の詞を手がけたやなぎは「オラリオン」ではギリシャ語、「zoon politikon」ではドイツ語を大きくフィーチャー。これらは「終わりのセラフ」「LAPLACE LINK」という2つの作品と、藤間、齋藤2人のメロディとアレンジが呼んだ言葉たちだという。今回のインタビューではシングルの制作秘話を聞くとともに、彼女の言語観と、その言語を駆使して紡がれる彼女流の楽曲世界に迫った。
取材 / 成松哲 文 / 小林千絵・成松哲
今までにない曲だからこのままいきましょう
──今回のシングル曲「オラリオン」なんですけど、やなぎなぎというアーティストのキャリア的な意味と楽曲的な意味、両方の意味で驚きがありました。
実は私も(笑)。
──ご本人もでしたか(笑)。まず2014年末から2015年序盤にかけて冨田恵一さんや末光篤さんといった作家陣を迎えたアルバム「ポリオミノ」のリリースとそのツアーがあって(参照:やなぎなぎ「ポリオミノ」インタビュー)、この10月には弦楽カルテットとともに既発曲をポストクラシカル的に再解釈したライブ「color palette ~2015 Silver / Gold~」(参照:やなぎなぎ、弦楽四重奏らと魅せた「color palette」劇場公演)があり。それに続くのが、このエモいロックナンバーで……。
「おおっ! 挑戦的だな」って。藤間(仁)さんが「終わりのセラフ」の世界観とやなぎなぎの音楽性を汲んで作ってくださったんですけど、それがものすごくものすごいことになっていて(笑)。
──Aメロとサビと落ちサビしかない変わった構成で、しかもAメロとサビの間にクワイヤっぽいコーラスがインサートされるんだけど、その8小節は極端にテンポダウンして。
明らかにライブ向きではないですよね(笑)。そのコーラスがサビより目立ってますし。
──Aメロとサビを橋渡しするだけでなく、頭サビならぬ、頭コーラスとして使われているし、アウトロでもその旋律をピアノでなぞってますもんね。
でもこういう構成の曲だからこそ「今までにない曲だし、ぜひこのままでいきましょう」というお話をさせてもらいました。
パートごとに別の人が歌ってるんじゃないか?
──「ナタリーはいつもその話をしやがる」って感じなんですけど(笑)、やなぎさんは、歌うときに覚える快楽と曲を作るときの快楽はまた別モノだとおっしゃっていて(参照:やなぎなぎ「ユキトキ」インタビュー)。この曲は歌う快楽を刺激される曲ですよね?
ですね。Aメロは地声に近いキーで歌えるんだけど、サビの最後、「トリックスター」というフレーズのファルセット気味に音が上がっていくところは、歌っていてすごく気持ちよくなれるキーに設定していただいてますし。
──それにしてもこのある種変態的な構成を気持ちよく歌いこなすあたりは、さすがだな、と。
レコーディング前にかなり練習しました(笑)。自宅で歌ってはそれを録音して聴き直してっていうのを繰り返して。特にこの曲はコーラスとサビの雰囲気が明確に違うので、歌い方も「パートごとに別の人が歌ってるんじゃないか?」と思えるくらい明確に区別したいなと思っていたので。ただ、当然曲全体のトーンのことも考えなきゃいけないからコーラスだけ極端にウィスパーにして優しくなりすぎるのも違いますし。どこまで声に息を入れるか、その量の調整はけっこうしましたね。
──「こういう雰囲気で歌おう」という感覚的な話ではなく、ある意味アスリート的。彼らがどの高さまで脚を上げるか、どのくらいヒジを曲げるかをロジカルに考えて、そのフォームを実践するように声を作っている?
それに近いと思います。
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- ニューシングル「オラリオン」 / 2015年12月9日発売 / NBCユニバーサル・エンターテイメント
- 初回限定盤 [CD+DVD] 1944円 / GNCA-0406
- 通常盤 [CD] 1296円 / GNCA-0407
CD収録曲
- オラリオン
[作詞:やなぎなぎ / 作曲・編曲:藤間仁(Elements Garden)] - zoon politikon
[作詞:やなぎなぎ / 作曲・編曲:齋藤真也] - オラリオン(instrumental)
- zoon politikon(instrumental)
初回限定盤DVD収録内容
- 「オラリオン」Music Video
- ライブBlu-ray / DVD「やなぎなぎ ライブツアー2015『ポリオミノ』渋谷公会堂」 / 2015年12月23日発売 / NBCユニバーサル・エンターテイメント
- Blu-ray Disc 5400円 / GNXA-1169
- DVD 4860円 / GNBA-1410
やなぎなぎ
関西出身の女性シンガーソングライター。2006年からライブハウスやインターネット上で音楽活動を開始するや注目を集め、2009年にはsupercell「君の知らない物語」にnagi名義でゲスト参加。幅広い層の支持を集める。2012年2月、テレビアニメ「あの夏で待ってる」のエンディングテーマ「ビードロ模様」でメジャーデビュー。以来「ヨルムンガンド」のエンディングテーマ「Ambivalentidea」、「AMNESIA」のオープニングテーマ「Zoetrope」、「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」のオープニングテーマ「ユキトキ」など、話題のアニメのテーマソングを立て続けに発表し、2013年7月には1stアルバム「エウアル」を発売。以降もアニメ「凪のあすから」の前期エンディングテーマ「アクアテラリウム」、「ブラック・ブレット」のエンディング曲「トコハナ」などを発表し、また2014年12月には2ndアルバム「ポリオミノ」を完成させた。そして2015年6月、「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。続」のオープニングテーマ「春擬き」をリリース。10月には弦楽四重奏を伴ってのコンセプトライブ「color palette ~2015 Silver / Gold~」を開催し、12月にはアニメ「『終わりのセラフ』名古屋決戦編」のエンディングテーマ「オラリオン」を発表する。