音楽ナタリー PowerPush - やなぎなぎ
“ポリオミノ”を手に探す、私なりの“答え”
やなぎなぎがニューアルバム「ポリオミノ」をリリースする。
複数の正方形を組み合わせた多角形と、その多角形のブロックを組み合わせて遊ぶパズルを意味するゲーム「ポリオミノ」をタイトルに冠した今作。アルバムにはテレビアニメ「凪のあすから」のテーマ曲「アクアテラリウム」や、「ブラック・ブレット」のエンディング曲「トコハナ」、新海誠とのコラボレーションが実現したZ会アニメーションCMイメージソング「クロスロード」など既発のタイアップ曲から、冨田恵一や末光篤といったゲスト作家陣による新録曲までさまざまな楽曲が“多角形”ならぬ1枚の“円盤”に収められている。
果たしてやなぎはどのような「ポリオミノ」を完成させたかったのか。本人に話を聞いた。
取材 / 成松哲 文 / 小林千絵
さまざまなブロックで形作られる音楽と生活
──まず素朴な質問なんですけど、タイトルはなぜ「ポリオミノ」なんでしょう? 「ポリオミノ」ってアーティスト写真のやなぎさんが持っている“人力テトリス”のようなもののことですよね。
そうですね。いくつかの正方形をつないで作られたいろんな形のブロックを大きな長方形の枠の中にすき間なく埋めていくパズルのことで。その同じ素材でできたブロックであってもそれぞれ形は違うし、組み合わせ方は1通りじゃない。1つの長方形を作るのが目的なのに、ブロックの組み合わせ方は自分なりでいいっていうところが面白いなと思っていて。これはポリオミノだけじゃなくて、音楽や生活にも言えることなんですけど、楽器と楽器、曲と曲、生活のシーンとシーンも組み合わせ方や見方を変えてみたら、同じ“音楽”、“生活”であっても、誰かとは違う、その人なりの何かが見えてくるんじゃないか?っていう気持ちがあったのでアルバムタイトルにしてみました。
──それってやなぎさんの以前からのテーマの1つですよね。人それぞれ感じ方や考え方が違う上に、他人の内実はなかなか感知し得ない。でもそうやって違っている人たちで構成された世界がちゃんと回っていることを不思議がったり、面白がったりすることって。
だからとても自分らしいタイトルだと思ってます。もともとテーブルゲームやボードゲームが好きだったのでポリオミノのことは知っていたんですけど、名前の響き自体すごくキャッチーだし、頭の中にずっと残っていて。アルバムを作るにあたってふとその名前を思い出した瞬間「これだ!」ってなってました。
──ただ、今のやなぎさんは違いを違いのままにしていない気もしていて。タイトルがパズルの名前=“解”を導き出すゲームの名前である上に、1曲目の「polyomino -intro-」でも「解けるまで何度でも」「今 私は答えを探す」と歌っている。1人ひとり違っていたり移ろっていたりする人の気持ちが重なって、なんらかの変化や答えが生まれることに興味を向けている印象を受けました。
確かにその気持ちやありようをポリオミノ的にいろいろ組み替えてみたり、重ね合わせてみたりしたらどこに行けるのかな? 何が生まれるのかな?っていうことに興味が移っている気はします。気持ちが移ろった先に何があるのか、明確な答えはまだ見つけられてないんですけど、だんだん正解に近付いている。正解にたどり着くその途中にいる感じというか。
些細な“もしかしたら”を組み合わせる
──そうやって対象への興味のレベルが1段階先に進んだのには何かきっかけが?
うーん……そんなに劇的に何かが変わったっていう感じではないですね。現状ではない、どこかしら別の場所に行こうとしているな、っていうだけで。
──でも言葉はタフですよね。「ファラウェイ・ハイウェイ」では「もう何もかもトランクに詰めて空まで走っていけ」とハッパをかけていて、「landspace」では「変わっていく今日も きっと悪いことじゃない」と変化を祝福している。
そんなに強い決意があるわけでもないんですよ(笑)。“もしかしたら”の世界への興味から出てきた言葉というか。(テーブルの上のコーヒーを指さしながら)「私は今コーヒーを飲んでるけど、さっきこのコーヒーを買ったカフェの前を素通りしてたら違う何かが起きていたかもしれない」みたいなことが昔からけっこう気になっていて。
──アドベンチャーゲームの選択肢みたいなもの? 選択肢Aのルートに進んだから真犯人を言い当てられたけど、Bを選んでたら殺されていたかもしれないっていう。
そうですそうです。でもそうなった理由って実は些細なことな気がしていて。
──ゲームの中では刃傷沙汰が起きてるかもしれないけど、その原因はプレイヤーがボタンを1~2回押してみたからという些細極まりないことですもんね(笑)。
いろんな物事はそんな些細な“もしかしたら”をきっかけに変わるものなのかな?って。
──だったらいっそ“ハイウェイ”を“ファラウェイ”までぶっ飛ばしてみたら……。
“やなぎなぎ”ではあるんだけど、これまでの私とは何か違う、“もしかしたら”いたのかもしれない“やなぎなぎ”が現れるのかもしれない(笑)。
──それこそ、デカい長方形ができあがることに変わりはないんだけど、実は毎回ブロックの配列が変わるポリオミノのように。
そうですね。前回のアルバム(「エウアル」)を作っているときは初めてのアルバムっていうこともあって、焦りや気負いっていうほど重くはないんですけど「とにかく完成させなきゃ」みたいな感覚があって。けど、今回はいい意味で通過点というか。人の気持ちの重なり方、組み合わさり方に興味があったり、別の場所に行こうとしたりしている今の私のことを言葉や音にしてみたら、1つの「ポリオミノ」っていう形になりましたよ、みたいな気持ちなんです。
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- 2ndアルバム「ポリオミノ」2014年12月10日発売 / NBCユニバーサル・エンターテイメント
- 初回限定盤 [CD2枚組+Blu-ray]4536円 / GNCA-1421
- 初回限定盤 [CD2枚組+DVD]4320円 / GNCA-1422
- 通常盤 [CD] 3240円 / GNCA-1423
CD収録曲
- polyomino -intro-
- トコハナ
- 2つの月
- テトラゴン
- ファラウェイ・ハイウェイ
- Sweet Track
- landscape
- 逆転スペクトル
- navis
- アクアテラリウム
- 三つ葉の結びめ
- Rainy veil
- Esse
- クロスロード
- polyomino -outro-
初回限定盤特典CD収録曲
- プリズム
- センチメンタル
- 流星ビバップ
- 月灯りふんわり落ちてくる夜
- セルの恋
- 冬のオルカ
初回限定盤Blu-ray/DVD収録内容
- ライブ映像 やなぎなぎ1st album発売記念ワンマンライブ「エウアル」アンコールツアー @東京 国際フォーラム・ホールC
- PVメイキング映像「三つ葉の結びめ」、「トコハナ」
やなぎなぎ ライブツアー2015「ポリオミノ」
- 2015年1月31日(土)宮城県 Rensa
- 2015年2月7日(土)愛知県 ElectricLadyLand
- 2015年2月8日(日)大阪府 BIGCAT
- 2015年2月11日(水・祝)福岡県 イムズホール
- 2015年2月15日(日)北海道 札幌PENNY LANE24
- 2015年2月21日(土)東京都 渋谷公会堂
※全公演のチケットとも現在各プレイガイドで発売中。
やなぎなぎ
関西出身の女性シンガーソングライター。2006年からライブハウスやインターネット上で音楽活動を開始する。動画投稿サイトに数多くのカバー楽曲を公開して注目を集め、「君の知らない物語」をはじめとするsupercellの楽曲にnagi名義でゲスト参加したことでも話題となった。繊細かつ透明感あふれる歌声と、印象的な楽曲の世界観が幅広い層から支持される。2012年2月、テレビアニメ「あの夏で待ってる」のエンディングテーマ「ビードロ模様」でメジャーソロデビュー。同曲はオリコンCDシングル週間ランキング11位にランクインした。以来、アニメ「ヨルムンガンド」のエンディングテーマ「Ambivalentidea」、「ヨルムンガンド PERFECT ORDER」のエンディング曲「ラテラリティ」、「AMNESIA」のオープニングテーマ「Zoetrope」、「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」のオープニングテーマ「ユキトキ」を立て続けに発表。2013年7月には1stアルバム「エウアル」を発売。アニメ「凪のあすから」の前期エンディングテーマ「アクアテラリウム」、同アニメ後期エンディングテーマ「三つ葉の結びめ」、さらにアニメ「ブラック・ブレット」のエンディング曲「トコハナ」のリリースを経て、2014年12月に2ndアルバム「ポリオミノ」を完成させた。