「ことばのない世界」に言葉と音を与える

──3曲目の「unjour」ですが、フランス語でいう「1日」……。

意味自体はそうなんですけど、実は「unjour」（ガブリエル・バンサン「アンジュール ある犬の物語」）っていう絵本があって。そのタイトルをお借りしたんです。その絵本は文字が一切なくて、絵も丁寧なものではなくて、簡単なデッサンだったりするんですけど、パラパラめくってると「あれ？ もしかしてこういう話なのかな」って。いろんな受け取り方ができるんですよ。1匹のイヌの1日を描いているんですけど、作者は明確なストーリーを語ってはいないので、読んだ人それぞれの中に自分だけの「unjour」の物語ができあがって。で、私の中の「unjour」の世界っていうのがこれなんです（笑）。

──まさにAメロ頭の「ことばのない世界」「柔らかい線だけが終わりを描いてる」っていうのが……。

「unjour」の絵本のことなんです。

──なぜ「ことばのない世界」に言葉はおろか、音まで与えてみようと？

前にもお話したかもしれないんですけど、同じものを見ているのに人によって感想がそれぞれ違うことってけっこう面白いなって思ってて（参考：やなぎなぎ「エウアル」インタビュー）。実際自分は「unjour」を読んでこういう世界を見つけたからそういう曲を作ったわけですけど、ほかの人が聴いたらもっと違う言葉や世界が出てくるんでしょうし。

──「エウアル」リリース時のインタビューで言っていた、自分の思いを歌うことで聴き手と興味関心のある領域を共有したかった？

そうですね。この曲をきっかけに「unjour」を手にしてくれる人がいるなら、その人があの絵本についてどう思ったのか、ぜひ知りたいですから（笑）。

──で、やなぎさんは「unjour」という本をどう読んだのか？ または読んでいるときどんな音が頭の中に鳴っていたのか？っていうと、けっこうストレンジなエレクトロニカが鳴っていたという（笑）。

絵本には人に捨てられたであろうイヌがいろんなところをテクテクと歩いている絵がひたすら描いてあるんですけど、その歩いているときの気持ちが音に表れるといいなと思って作ってみたんです。もしかしたら楽しいと思っているかもしれないし、捨てられたことに気付いているかもしれないし、「解放されたから冒険でもしてみるか」くらいの感じなのかもしれないし。なんかそういう、ちょっと寂しくもあるし、どこか楽しくもあるし、みたいな感じが出てくれるといいな、と思って作ったらこうなってました（笑）。

──イヌの気持ちという、我々にとっては未分化に見える感情を歌ったという意味では実はテーマ的に「三つ葉の結びめ」と……。

近いのかもしれませんね（笑）。

Produced by やなぎなぎ

──やなぎさんの場合、今回のシングルに限らずなんですけど、ストレートに“いいアニソン”である「三つ葉の結びめ」と、エモいダンスミュージック「インテンション・プロペラント」と、ストレンジなエレクトロニカの「unjour」と、まあボリューミーな構成になりましたね。

はい（笑）。

──でも、ちゃんとどの曲もやなぎなぎの楽曲たり得ている。もちろん歌っている人が全部同じだからっていうのはあると思うんですけど。

うーん……。でもあまりやなぎなぎ像みたいなものは意識してないですね。曲がもっているものを一番いい形で引きだそうっていうのが最初にあるので。あまり「私の歌を聴いてください」とか「私はこういうキャラだよ」とかっていう作り方はしていないつもりではあるんですけど。ホントに曲がよく聞こえたらいいなくらいのことしか思ってないので。

──なのになんで一本筋が通るんだと思います？

わりと自分を客観的に見れるというか、自分のことがどこか他人事だからなんですかねえ（笑）。「私が！」ってなりすぎないのが逆にいいというか、曲のことはもちろん自分のことも外側からぼんやり眺めているイメージはあります。で「この曲に対してやなぎなぎはこういうふうにアプローチしたらいいんだろうな」って思っている感じというか。常に「やなぎなぎをやなぎなぎがプロデュースしている」っていう感じになっている気はします。「プロデューサーやなぎなぎ」みたいな（笑）。