ナタリー PowerPush - やなぎなぎ
デビュー1周年目前に直球ギターロックで勝負
私は模造品なんじゃないか
──ところが、自ら詞と曲、そして編曲を手がけた3曲目「replica」では……。
私らしさが出ちゃいました(笑)。
──本当にシンプルなピアノをバックに「誰にも言えない秘密がある」「偽物の塊ならばもういらない」と、かなり後ろ向きな詞をポツポツと歌うという(笑)。「Zoetrope」「星々の渡り鳥」とギャップが大きくて、またもやビックリしました。
これ、去年の3月くらいに書いた曲なんです。
──去年の3月ってメジャーデビュー直後ですよね。まさに「星々の渡り鳥」的な明るい門出の瞬間だったのに、この詞なんですか?
というのも、新しいことを始めるときだからこその不安があって……。「これから先どうなっていくんだろう?」とか「うまくやっていけるんだろうか」とか。あと「今、私がやっている音楽ってもしかしたらもう誰かがやっていることなのかもしれない」みたいな不安やモヤモヤも。そんな気持ちのままピアノを弾きながら歌っていたらできた曲なので、こんな詞になったし、タイトルも「replica」。「私は模造品なんじゃないか」「ニセモノなんじゃないか」っていう意味なんです。
「replica」も自分にとっては門出の歌
──「星々の渡り鳥」から「replica」まで、なんでも歌えるボーカリストであり、しかもたった2分17秒の間に同じ展開が3度もループする、こんなミニマルな楽曲を書ける作曲家って、かなりオリジナルな存在だと思うんですけど……。
ありがとうございます(笑)。ただ、もういろんなジャンルの音楽が出尽くしちゃっていることがホントに不安だったんですよ。曲を書くたび、自分らしく曲を作れているのか?って毎回モヤモヤしてました。
──とはいえ「不安やモヤモヤをピアノにぶつけた!」っていうテンションの曲でもないですよね。
不安やモヤモヤを断ち切るつもりで作った曲ですから。「不安になったり、内へ内へと深く潜っていったりするのは今日でおしまいにしよう」「この曲を書いたら気持ちを切り替える」っていう感じで。そういう意味ではこの曲って私にとっては明るいし、門出の歌なんです(笑)。実際、3回ループする構成になってはいるんですけど、自分の気持ちが変化していくのに合わせて、メロディラインやピアノのフレーズもちょっとずつ変化しているし、詞についても最初は「水で溶かした色を重ね」とホントにモヤモヤしているんですけど、最後には「虹を手に入れ」てますし。
──そして、誕生から1年の時を経てこの曲を発表できるようになったということは、制作目的通り、不安やモヤモヤは解消された?
さすがに曲を書いたからといってモヤモヤが完全に解消されたわけではないんですけど、1年間活動を続けていくうちにちょっと自信も付きましたし、徐々に前向きな方向に気持ちをシフトさせられるようにはなりましたね。だから、そのときの気持ちをそのまんま聴いてもらおう、一緒に編曲してくださった河野伸さんにピアノを弾いていただこうと思えたんだと思います。
いろんな国でフィールドレコーディングしたい
──今日のインタビューのキーワードの1つに「デビューから1年」っていうのがあると思うんですけど、2年目にしたいことって何かありますか? これは多くのファンの希望でもあるとは思うんですけど、例えばアルバムを作りたい、とか。
あっ、アルバムの構想自体はけっこう前々からあるんですよ。なのでぼちぼち進めたいな、とは思っています。あとは、今までもやってきたことなんですけど、もっともっといろんなものを見たり聞いたりしたいというか。この1年でいろいろ知ったこともあるんですけど、当然まだまだ知らないこともたくさんあると思うので。
──知らなかったことを知るために、まずは何をしましょう?
以前からいろんな国でフィールドレコーディングしたいなとは思っていて。去年シンガポールに行ったんですけど、話している言葉が違うのはもちろんなんですけど、周りで鳴っている音が違うんですよね。スコールの雨音なんかも日本では聴けない音ですし、それが上がったあと、雨上がりの街の音っていうのも、気温や湿度や空気感が違うからなんでしょうけど、日本とは全然違いますし。きっとそれはシンガポールだけが違うんじゃなくて、ほかの国ではまた違う音が鳴っているはずなので、それを聴いてみたいんです。
──目で見るのではなく、文字通りのアンビエントサウンド、環境音を聴くことで海外の風景や空気を感じるあたりは、いかにもアブストラクト系やミニマルミュージックの影響を受けたやなぎさんらしいですね(笑)。
そういうのが好きなんですよ。日本の街中にいるときもイヤホンとかしてなくて、ずっと外の音を聴いていますし。で、今もそういう音を蓄えていくことが作品作りに影響を与えているので、海外のいろんな音を集められたら、またいずれ新しい形の私の音として表に出てくるんだろうな、って思ってるんです。
収録曲
- Zoetrope
- 星々の渡り鳥
- replica
- Zoetrope (instrumental)
- 星々の渡り鳥 (instrumental)
- replica (instrumental)
やなぎなぎ
関西出身の女性シンガーソングライター。2006年からライブハウスやインターネット上で音楽活動を開始する。動画投稿サイトに数多くのカバー楽曲を公開して注目を集め、「君の知らない物語」をはじめとするsupercellの楽曲にnagi名義でゲスト参加したことでも話題となった。繊細かつ透明感あふれる歌声と、印象的な楽曲の世界観が幅広い層から支持される。2012年2月、テレビアニメ「あの夏で待ってる」のエンディングテーマ「ビードロ模様」でメジャーソロデビュー。同曲はオリコンCDシングル週間ランキング11位にランクインした。6月にはテレビアニメ「ヨルムンガンド」のエンディングテーマを含む2ndシングル「Ambivalentidea」、11月にはテレビアニメ「ヨルムンガンド PERFECT ORDER」のエンディングテーマを収録した3rdシングル「ラテラリティ」を発表。そして2013年1月にテレビアニメ「AMNESIA」のオープニングテーマを含む4thシングル「Zoetrope」をリリースした。