ナタリー PowerPush - やなぎなぎ
デビュー1周年目前に直球ギターロックで勝負
真也さんにお任せしたほうが絶対に面白くなる
──齋藤真也さんとの制作現場の雰囲気っていかがでした?
厳しい方だって伺っていたんですけど、全然そんなことはなくて(笑)。優しいお兄さんっていう感じでしたし、歌入れもスムーズでしたね。私自身もともと「AMNESIA」に登場するような並行世界に興味があったっていうのもあって、仮歌の段階から歌い方のイメージを固めていったんですけど「そのまま歌って」って言ってくださって。あとはチョコチョコと細かいところについて「こうしたほうがいいんじゃない」っていうやりとりをしたくらい。2時間ちょいくらいで完成しました。
──ただ、当然ながらイージーに歌っているわけではないですよね。いつもに比べてタフな歌い方をしている印象があります。
最初は「直球な上にちょっとゴシックなロックだから、あんまり怖くなりすぎないように」と思って、少し明るい声でかわいらしく、女の子らしく歌うつもりだったんですけど、真也さんとやりとりするにつれ、こういう声に変わっていったって感じですね。力強さや語尾が跳ねる感じや、あと自分で言うのはちょっと照れるんですけど(笑)、艶っぽい感じが加わって、新しい上にいい形になったな、とは思ってます。
──そして同じく齋藤さんとの共作となるカップリング曲「星々の渡り鳥」なんですけど、これにもビックリさせられました。明るくてかわいらしいギターポップに仕上がっています。
卒業をテーマにした終始前向きな曲にしたかったので、真也さんにも「ストリングスがパーッって鳴ってる感じで」ってお話をして。
──自分も作曲や編曲をしているし、音楽理論も知っているはずの人が「曲をクルクル」に続いて「ストリングスがパーッ」って(笑)。
ざっくりしすぎですよね(笑)。でも、真也さんにお任せしたほうが絶対に面白くなるのはわかっていたので「ストリングスがパーッと鳴っていて、明るくて前向きになれる曲にしてください」とだけお願いしてみました。
誰かに具体的なメッセージを届けてみてもいいのかな
──でも、やなぎさんは以前から「個人的には内省的な詞やアレンジが好きだ」と再三言っていましたよね。そしてそのテイストもやなぎ作品の魅力の1つになっているわけですけど、今回はなぜ「ストリングスがパーッ」と鳴る明るい楽曲を作ろうと?
デビューからこの1年で聴いてくださる方の幅が広がったっていうのが一番の理由ですね。以前もお話した通り、デビュー前の私の曲を聴いてくれる方って20~30代の男性が中心だったんですけど、今はアニメの影響もあって、本当に小学生の男の子や女の子から40~50代の方にも知っていただけるようになっていて。たぶんその方々の中にはこの春に卒業を迎える方や、社会人になったり新生活を始めたりする方もたくさんいるはずなんですよね。これまで聴いてくださる方の姿をここまで明確に意識することってなかったんですけど、最近はファンの方とすごくいい感じでコミュニケーションを取れるようになってきているので「今なら誰かに直接、具体的なメッセージを届けてみてもいいのかな」「そういう曲が1曲あってもいいのかな」って気持ちになれたんですよ。
──そして届ける言葉も具体的ですよね。それこそ「Zoetrope」にも「白日夢」「塵屑と粒子の端繋ぎ合わせて」とあるように、基本的に抽象性の高い物語を描いてきたやなぎさんが「真新しいシャツも 毎日見慣れた部屋も 気づかないあいだに窮屈になった」と、人々の暮らしを直接的な言葉で歌っています。
ドキュメンタリー番組を観ているような感じにしたかったんです。「目の前に広がる星の海」っていう、ちょっと幻想的な風景、しかも広い視界から始まって「真新しいシャツ」や「見慣れた部屋」という、ちょっとミクロで現実的な風景を経由して、最後にまた「走る空から見たこの星」にカメラが戻っていくお話にしたかったんです。
──「窮屈になった」現状から「広がる星の海」という新しい世界に旅立っていく感じ?
そうですね。
──リアリティがあって、しかも前向きな詞って書きやすいですか? 「Zoetrope」の作詞が楽だったならけっこう難産なのかな、っていう気もするんですけど。
案外楽でしたね。確かにドキュメンタリーというか現実の話ではあるんですけど、それだからこそ、ある意味「Zoetrope」と同じ作り方ができたんですよ。詞の中にある言葉は全部自分の中にもとからあるものですから。
──自分の思いや体験や見たことのある風景をダイレクトに吐き出すのって勇気がいりません?
これまでの楽曲や「Zoetrope」では、自分がインプットした言葉を解釈し直して新しい言葉としてアウトプットしていたので、確かに今もビクビクしてはいるんですけど、デビューしてこの1年、いろんな経験をしてきたことでけっこう度胸もついてきたので(笑)。それにさっきも言ったとおり、聴いてくださる方とつながれている実感もあったので「インプットしてあった前向きな気持ちをそのままアウトプットしてみても面白いんじゃないか?」「そういう曲にも耳を傾けてくださるんじゃないか?」っていう気持ちのほうが強かったですね。
収録曲
- Zoetrope
- 星々の渡り鳥
- replica
- Zoetrope (instrumental)
- 星々の渡り鳥 (instrumental)
- replica (instrumental)
やなぎなぎ
関西出身の女性シンガーソングライター。2006年からライブハウスやインターネット上で音楽活動を開始する。動画投稿サイトに数多くのカバー楽曲を公開して注目を集め、「君の知らない物語」をはじめとするsupercellの楽曲にnagi名義でゲスト参加したことでも話題となった。繊細かつ透明感あふれる歌声と、印象的な楽曲の世界観が幅広い層から支持される。2012年2月、テレビアニメ「あの夏で待ってる」のエンディングテーマ「ビードロ模様」でメジャーソロデビュー。同曲はオリコンCDシングル週間ランキング11位にランクインした。6月にはテレビアニメ「ヨルムンガンド」のエンディングテーマを含む2ndシングル「Ambivalentidea」、11月にはテレビアニメ「ヨルムンガンド PERFECT ORDER」のエンディングテーマを収録した3rdシングル「ラテラリティ」を発表。そして2013年1月にテレビアニメ「AMNESIA」のオープニングテーマを含む4thシングル「Zoetrope」をリリースした。