日常に根付くアルバムにした

──今しがた、目の前で「スタートライン」の弾き語りを聴かせていただきましたが、ものすごく力強い意志が込められていてしびれました。そこには大学を卒業して、ここから新たな一歩を踏み出す山根さんの気持ちが鮮明に投影されているということなんでしょうね。

そうですね。この曲には「あした」っていう言葉がたくさん出てくるので、明日への力強い思いを込めて歌ってます。去年は自分としても世の中的にもいろんなことがあった年だったので、明日というものの大切さや、そこに向けた希望を強く感じることが多かったんです。なので、やっぱり真っすぐに未来を見つめていかなきゃなって、今改めて思いますね。

──そんな「スタートライン」を含む1stアルバム「空な色」は、山根さんが真っすぐに歩んできたこれまでの音楽活動の軌跡が詰まった作品になっています。ご自身ではその仕上がりにどのような印象を抱いてますか？

アルバムに向けて曲作りをするというよりは、その時々で楽曲や人とのいい出会いを繰り返しながら1曲1曲を精一杯作ってきたことでできた1枚なので、最終的に作品としてまとまりのあるものになったかなって思っています。

──さまざまなタイプの楽曲が並んでいますよね。

「STAR」や「あなたが好きで」のように明るくてポップな曲もあれば、もっと闇の部分というか、人間の心の奥の感情を歌ってる曲もあったりしますからね。人はみんないろんなことを考えて生きていると思うので、日常に根付いて、いろんな場面で聴きたくなるような内容になってると思います。

──これだけ曲が並ぶと、山根さんの声のバリエーションをより感じることができます。

YouTubeにアップしてる弾き語りも曲によって感情の込め方はいろいろ使い分けてたつもりなんですけど、ちゃんとレコーディングをすることで、新しい自分の歌い方がすごく見えてきたんです。自分ってこういうこともできたんだなっていう発見もほんとに多かったし、いろんな挑戦ができたと思いますね。

レコーディングで発見した“新たな声”

──自分の新たな声を発見したという意味で印象的な曲ってあります？

「メリーゴーラウンド」とか「fish」ですかね。

──うんうん。あとは「blue」のコーラスも面白かったですよ。

あー！ あれは自分でもすごく好きですね。ため息でコーラスをするのが面白かったです。

──「メリーゴーラウンド」はどんな気持ちで歌いましたか？ ものすごく切ない恋の歌ですが。

自分の体験を思い出しつつ歌いました。ただ、切ない曲なんだけど曲調はほんとにメリーゴーラウンドに乗ってるようなかわいらしいワルツなので、歌詞の内容に寄せすぎて、あまりアダルトにするのはちょっと違うかなって思ったんですね。女の人が恋をする気持ちって、少女の頃から変わらなかったりするじゃないですか。

──ピュアな感じということ？

そうそう。だからそのピュアな感情を前に出したいから、アダルトな雰囲気というよりは、ちょっとあどけなさが残る感じで歌えたらなって。情念に近いくらいの感情は入ってますけどね（笑）。

──「fish」は山根さんのイメージからすると斬新なサウンドだし、それに合わせた歌声も素敵で。アルバムの中で一番好きかも。

ありがとうございます！ 今までは具体的な絵が見えるような、物語になってる曲を歌うことが多かったんですけど、この曲はすごく抽象的な感じで。聴いてくれた人がそれぞれに思いを当てはめてもらえる曲だと思うんです。それを私はこのアルバムから改めてのスタートになるんだっていう意味を込めて、自分の奥にいるもう1人の自分との対話みたいな感じで歌ったんですね。表にいる自分はまだまだ頼りないし、もろい部分がたくさんあるけど、いつかはほんとの奥の部分に届いてしっかり芯のある人になれるようにがんばっていくよっていうことを、自分に対してメッセージとして届けたというか。そういうことを曲から想像できるようになったのも新しい発見でしたね。

──あと資料を見ていて気になったのは「蒼き日々」という曲。作詞・作曲を手掛けられた藤原隆之さんは高校時代からの友人だそうですね。これはどういう経緯で収録されることになったんですか？

高校時代からそれぞれ音楽活動をしていて、たまに会えば普通に遊ぶような仲だったんですけど、私のデビューが決まる頃にちょうど電話があったんですよ。実は作曲家を目指していて、そういう仕事もちょっと始めてるみたいな話をしたあとに、昔から大事にしてる曲を山根さんの声が好きだから歌ってくれないかって言われて。私がデビューすることをまだ話してなかったのにそういうことを言ってくれたのにびっくりしたんですけど、その曲のことは昔から知っていて私も好きな曲だったので、「そりゃ歌うでしょ」みたいな（笑）。で、その後、その曲をYouTubeに弾き語りでアップしたり、ライブで歌ったりしてるうちに、ファンの方たちに好きだって言ってもらえるようになり、こうやって音源にして届けられることになったんです。

──いい話ですね。

まさかのタイミングで電話がかかってきて、ほんとに良かったなって思いますね。