山本彩|ついに本格始動!元国民的アイドルが目指すロックな理想像

シンガーソングライター山本彩の強みは?

──さて、これまで山本さんはグループ活動と並行して2枚のアルバムをリリースしてきましたが、本格的にシンガーソングライターとしての活動を始めた今、過去の作品での経験は今の活動にどんな影響を与えていますか?

あのときはまだグループの活動をしながらどうにか時間を見つけて作品を作っていたのでわりとスケジュールがタイトで、それでも「そうするしか道がない」と思ってやってたんですけど、今考えるとけっこう大変なことをやってたなと自分でも思います。なので今は「あれができたならなんでもできる」という気持ちになれてるし、あの2枚のアルバムでできたことよりももっと成長したものを残したいなと思ってます。

──そうすると、今は作品作りに対する臨み方も変わってきてるわけですね。

そうですね。前は「この期間で曲を作らなきゃいけないから、これぐらいから歌詞やメロディを作り始めないと」という感じだったんですけど、今は常に制作期間なので「この日に作ればいいや」という感覚になれない大変さがあるし、毎日インプットしなきゃいけない大変さも感じてます。なので、いざ曲を作るときに頭の切り替えが難しいところはありますね。

──「いつ作ろうかな……いや、今じゃん」みたいな。

そうなんですよ。だけど「でも、明日もあるし……」みたいな甘えがちょっと出てきちゃうときもあります(笑)。 

山本彩

──そんな中、山本さんが新たに活動をスタートさせるうえで、どんな曲が最初に必要だと思いましたか?

うーん……今までの私を見てきてくれた人たちの中にある私のイメージを壊したくはないけど、予想を裏切りたいし、まだ自分を知らない方にも「あ、こういう音楽をやる人なんだ」と思ってもらえるような曲、ライブでやって楽しい曲を作りたいと思っていました。あと昔はマイナーな曲やスローな曲を作ることが多かったんですけど、今ではメジャーな曲やアッパーな曲を好んで作れるようになったし、自分の音楽のルーツがロックなのでそういう部分も見てほしいなと。ロックな部分は自分の意外性でもあるのかなと思うので。それに最近はロックな女性シンガーソングライターがあまりいない気がするので、それをこれからの強みにしていけたらいいなと思ってます。

秘めたロックスピリットを少しずつ出していけたら

──ところで、最近はどんな音楽を聴いているんですか?

最近はジョン・トロペイっていうジャズギタリストのアルバムを聴いてます。知り合いのギタリストからお薦めされて、「すごいな!」って。ギター以外のインストも好きで、バイオリンとかピアノもけっこう聴きます。

──女性のシンガーソングライターは?

山本彩

よくも悪くも影響されそうな気がして、あまり聴けないんです。もちろん、重要なアーティストの方々は押さえてるんですけど、それ以上はあまり聴かないようにしてますね。

──作詞作曲してるときに引っ張られることもありそうですもんね。

そうなんですよ。それで作った曲が“誰々っぽい”って言われたらよくないし。

──今の活動をする上でベースになっているアーティストは?

メタルとかヴィジュアル系とか……。

──DIR EN GREYが好きなんですよね。メタルだとどのへんですか?

全般的に好きですね。学生時代にそういう音楽を教えてくれた先生がいて。

──MetallicaとかBlack Sabbathとか……。

好きです!

──じゃあ、メタルの基本みたいなところはだいたい通ってると。

そうですね。ロックの有名どころというか、そのジャンルのベースになっている方々は聴いてますね。Guns N' RosesとかSlipknotとか……。それを自分の音楽に還元するのは難しいですけど。

──取り入れるとしたら音楽的にというよりも魂の部分ですよね。

そうですね。そういう根っこにはあるものをこれから少しずつ出していけたらなと。

──では、作詞作曲に関して影響を受けているアーティストは?

たくさんいます。作詞に関しては、私は歌謡曲が好きなので、中島みゆきさんとか年上の方が書く歌詞から影響を受けてます。同世代の方が書く歌詞は共感できるところが多いのに対して、年上の方々が書く歌詞って共感というよりも教えを説かれる感じが強くて、そういうところに救われます。私もそういう言葉をつづれる人になりたいなと思います。中島みゆきさんは生々しくも繊細な歌詞が書けるし、歌い方にも表情があってすごいなと思いますね。

「イチリンソウ」に込めた思い

──今後はそういったシンガーソングライターの先輩方の要素とメタルのスピリットを融合させていくわけですね。さて、今回の1stシングルですが、なぜこの「イチリンソウ」を表題曲に選んだんでしょうか。

今の自分の声を一番生かせるのがこの曲だと周りの方が言ってくださって。この曲のキーやテンポ感に私の魅力が一番出ていると。そういうところが大きいです。

──確かに、この昭和歌謡的なメロディは山本さんの声にすごく合ってます。

よく言われます。自分ではあまりそうは思っていなかったんですけど、テレビ番組で昔の曲を歌うようになってからそう言っていただけることが増えて。周りから言われるということは本当にそうなんだと思うし、それは自分の長所になり得ると思うので、「これは消したらダメだな」と。自分が歌いたいと思う曲はもちろんだけど、人から「こういう曲が似合ってるよ」と言われるものも大事にしたいなと思うようになりました。

山本彩

──そういう話を踏まえたうえでこの曲を聴くと、「これぞ山本彩節」と言えるような雰囲気がありますよね。歌詞はどん底から這い上がる静かな決意を感じさせる内容ですが、どういうところから着想を得たんでしょうか。

これは当時の自分の状況や思いを素直に書いたものですね。この歌詞を書いたときの自分はめちゃくちゃ前を向いていたわけではなくて、前を向かないといけないことはわかってるんだけど、不安がなくなりきっていないという状況だったんです。そういう経験をしている方はきっと多いと思うんですよね。

──春をきっかけに晴れ晴れしいスタートを切るというよりは、不安はあるけどもがんばらないと、というちょっと複雑な心情が描かれています。

こういう心情を表現するのはちょっと難しくて。前向きなんだけどちょっとネガティブだし、ネガティブなんだけどしっかり前を向いてるという、どっちの感覚も強いんです。でも、いずれにしても今の自分に満足してるわけではないので、「また次の春が来たら」という形で終わってます。