yaiko(矢井田瞳)|デビュー20周年に向けた新たな一歩、名曲セルフカバーを含む新作完成

矢井田瞳ヒストリーで大切な3曲を厳選セルフカバー

──セルフカバー楽曲はどんな基準で選んでいったんですか?

原点回帰と再スタートみたいな思いから“Beginning”というワードが頭の中にあったので、それに準じた選曲をしました。周りのスタッフさんに意見をもらったりしつつ……個人的な感情が加味されると選ぶのがどんどん大変になってくるので(笑)。結果、自分の名刺的な1曲である「My Sweet Darlin'」、インディーズデビュー曲「How?」、そしてライブを通してお客さんに育ててもらった印象の強い「Life's like a love song」の3曲になりました。すべてが大切な曲たちではあるけど、その中でも自分の音楽史的に意味のある3曲だと思います。で、曲が決まった段階でリハスタに入り、みんなで合わせて音を出してみたんですけど……最初はどうしても単なる過去曲のアコースティックバージョンになっちゃうんですよ。そこでGAKUさんにお願いしたんです。過去のイメージをぶっ壊しつつ、ただテンポをスロウにするとかジャンルをボサノバにするとかそういうことでもなく、これまでのファンの方の気持ちを裏切らずにちゃんと未来を感じて楽しんでもらえるようなアレンジにしてくださいって。

──相当難易度の高いリクエストですよね(笑)。

そうそう(笑)。だから、「じゃ、ここはリズムをバッサリ変えてみよう」とかね、ああでもないこうでもないって言いながら、みんなで考えていったところもあって。その作業が大変ではあったけど、やっていく中でどんどん自分の固定概念が壊されていくのは快感だったし、そうやって仕上がっていく楽曲たちが純粋にカッコいいなって思えたんですよね。

2000回は歌った「マイダリ」などが新たなアレンジに

──せっかくなので、それぞれの仕上がりについて聞かせてください。まず「My Sweet Darlin'」から。

正直言って、この曲が一番不安でした。軽く計算しただけでも今までに2000回は歌ってきてる曲なので(笑)、自分の中に原曲のイメージが染み付いちゃってるんですよ。だから、そのイメージを一旦忘れるために、GAKUさんとtakatakaと一緒にいろいろなアレンジを試してみましたね。「マイダリ」がニュー「マイダリ」にどんどん変化していく過程を見ているのはすごく楽しかったし、その中でサビのリズムを変えてみようというアイデアをGAKUさんが出してくれて、それがハマった瞬間はホントにうれしかったです。思わず「ありがとう!」って言っちゃいましたから(笑)。原曲のアレンジに並ぶ、力強くも新しい「マイダリ」が生まれてホントによかったなって思います。

──サビのリズムが変わったところがこのアレンジの最大のポイントだと思いますけど、最後のサビでは原曲に近いリズムになりますよね。そこにグッときました。

そうなんです! 原曲をたくさん聴いてくださっていた方はきっとそこでニヤッとしてくれるだろうなと思ってそういうアレンジにしたんです。気付いていただけてよかった(笑)。

──収録曲すべてに言えることですけど、コーラスが効果的に盛り込まれているのもすごく印象に残りますね。

コーラスワークに関してもGAKUさんがたくさんアドバイスしてくれて。私は昔から自分の曲に男性のコーラスを入れるのがすごく好きだったんです。それを今回はtakatakaのお二人ががっつりやってくれたので、そこも私の願いがしっかり叶った形になってますね。今後のライブではそういったコーラスの部分も聴きどころになるんじゃないかなと思います。

10代だったからこそ書けた歌詞

──「How?」にはエフェクティブな音が盛り込まれていますよね。それがアコースティックなサウンドのいいアクセントになっているなと。

takatakaはアコギを歪ませるようなエフェクトを効果的に使える方々なので、この曲の持っているちょっとダークな部分を引き出す意味合いも込めていろいろやっていただきました。ちょっとザラザラしたエレキっぽい雰囲気が感じられるミックスにもなっています。この曲のアウトロのコーラスもいいですよね。ライブだったらそこをエックスタイムにしてお客さんにも歌ってもらいたいよね、みたいなアイデアから生まれたものなんです。これもみんなと顔を合わせてスタジオに入っていたからこそできたものだと思います。

──この曲の歌詞の世界観って改めてどう感じます?

yaiko(矢井田瞳)

こういうヒリヒリして刺々しい歌詞は今の私には絶対書けないものではありますよね。18、19歳だったからこそ書けた自己中な部分もたくさん入っているし(笑)。自分から出てきたものではあるけど、ちょっと不思議な感覚がありますね。妹が書いた歌詞みたいな感じ(笑)。同じ歌詞であっても歌う時期によってその聞こえ方が変わるような瞬間もありますしね。そのへんは面白いなって思います。

──今回収録されている曲たちには、紛れもなく20周年目前の今の矢井田さんの歌声が刻まれているわけですけど、一方では当時のままの瑞々しさを感じたところもあったんですよ。記憶と照らし合わせても違和感がないというか。

あ、それはうれしいです! そこは最近ちょっと気をつけていることでもあるんですよ。デビュー当時の私は細かいことを何も考えずに歌っていたんだけど、いろんな方からの指摘なんかもあって一時期、歌い方が小ぢんまりしちゃったことがあったんですよね。まっすぐ歌おうとか、渋く歌おうとか、エアリーに歌おうとか意識的に頭で考えて歌うようになっちゃったというか。でも今は一周して、そんな歌は違うなって改めて思うようになって。だから今回は何も考えずに歌ってた時期に近い感覚の歌が録れているような気はするんですよね。ちなみにリアレンジの3曲に関しては、いわゆる仮歌のテイクがそのまま本チャンとして使われてますからね。そういうことなんだと思います(笑)。

──「Life's like a love song」は原曲よりもゆったりしたテンポになっていますね。

この19年、ライブで歌い続けてきた中でこのテンポ感に落ち着いたところがあって。最初にレコーディングしたときには気付いていなかったこの曲の持つ包容力が原曲とのテンポの差に表れているんだと思います。不思議な感覚なんだけど、この曲はリリースした瞬間から聴いてくださる皆さんのものになった実感がすごくあって。シングルの表題曲でもないのに好きと言ってくださる方が多いので、今回改めて大切に歌わせていただきました。

──この歌詞は聴き手の年齢によって受け取り方が変化するような気もします。僕自身、当時は恋愛としてのラブソングという聴き方をしていましたけど、今はもっと大きな愛を歌った曲のように感じたんですよね。

うん、確かに聴き手の年齢や感情によって詞のイメージが変化しやすい曲ではありますよね。だからこそ、たくさんの方に好きでいてもらえているのかもしれないです。あ、そうだ。この曲をライブでやるときはお客さんに「LaLaLai」というコーラスを歌ってもらうのが定番になっているんですけど、今回初めてその形を音源として収録することができたので、それも自分としてはうれしかったです。これを聴いたら、ぜひライブでも一緒に歌ってください。