WOWOW 緑黄色社会「SINGALONG tour 2020 -夏を生きる-」|去年とは違う夏、生の音楽を届ける喜び

7月24日にWOWOWオンデマンドで配信ライブ「SINGALONG tour 2020 -夏を生きる-」を開催した緑黄色社会。4月のフルアルバム「SINGALONG」配信リリース後に開催を予定していた全国ツアー「SINGALONG tour 2020」が延期されたことを受け、「ツアーを待つファンのためにひと足早く音楽を届けたい」という思いから、4人は無観客の会場でのライブパフォーマンスを生配信した。

音楽ナタリーでは、この公演の模様が9月27日(日)にWOWOWでオンエアされることを記念してリョクシャカのメンバーにインタビュー。さまざまな変化や制限が強いられる状況下で、新曲「夏を生きる」を初披露したほか生配信ならではの演出を取り入れたエンタテインメント性あふれるステージを展開した4人に、今夏の心境や新曲および配信ライブに込めた思いを語ってもらった。

取材・文 / 天野史彬 撮影 / 笹原清明

私も世界の一員なんだな

──まず、このコロナ禍における自粛期間中、皆さんはどのようなことを考えながら過ごしていたか伺いたいです。

長屋晴子(Vo, G)

長屋晴子(Vo, G) 私はいまだに戸惑っていますね。思ってもいなかったことが起こってしまって、まだ悪い意味でどこかフワフワしている感じがします。自分が生きている間にこんな状況を体験するなんて、きっと誰も想像していなかったですよね。あと、私はすごく緊張しいで、これまでライブに対して楽しみよりも緊張が勝ることもあったんですけど、それでもこの期間に「ライブしたいな」と思うことが多くなって。アルバムも配信という形で先にリリースしましたけど、やっぱりファンの方にはCDとして、モノとして手に取ってもらいたいとも思いましたし。

──音楽を鳴らしたい、届けたいという欲求が強まっていったんですね。

長屋 そうですね。音楽を聴いてほしいという気持ちはどんどん強くなりました。あと、ほかのアーティストさんたちもきっと同じだと思いますけど、「今自分たちに何ができるのか?」ということを考えながら過ごしていましたね。そういう中で私たちもSNSに“おうちでSINGALONG”と題したリモートセッション動画をアップしたりしたんですけど、その頃はメンバー同士も本当に会えていなかったので、画面越しにお互いの顔を見ることができて、私たちにとってもいい機会だったと思います。

穴見真吾(B, Cho) 僕も長屋と同じことを考えていました。その中で全国ツアーは延期になってしまいましたが、その代わりにWOWOWさんから配信ライブの話をいただいて、ミュージシャンとしては前向きになれていたと思います。ただ個人的な感想としては、自粛期間は精神的につらかったですね。何が正解かわからない中、SNS上ではバトルばかりが繰り広げられていて、周りのことが嫌になってしまったり……結果として、前より自分と向き合う時間が長くなりました。あと、今年僕は社会人1年目の年なんですけど、大学生の頃よりも「大人になる」ということに向き合い始めていた。僕は就職したわけではないけど、「人間としてどう生きていくのか?」ということを考え始めたところでしたが、その矢先に状況が変わっていって。人生って一筋縄ではいかないんだなと、この半年で痛感しました。

peppe(Key, Cho)

peppe(Key, Cho) 私は、世界規模でこれだけの多くの人々が同じ境遇に立たされることの重大さを感じました。アメリカでもヨーロッパでも日本でも同じことが起きていて、「私も世界の一員なんだな」「人って同じなんだな」と思ったり。あと、私は真吾とは逆に、こういう状況だからこそSNSがあってよかったなと思っていて。もしSNSがなかったら、毎日ずっと孤独で世界の様子もわからないまま自分のダークな部分に入り込んでしまっていたと思うんです。実際、ずっと自分はポジティブなタイプだと思っていたけど、コロナ禍で少しダークサイドに入ってしまった感覚があって。部屋に1人でいると気分が沈んでしまって、「自分ってこんなにブラックでネガティブだったんだ」と気付かされたというか。

──peppeさんのダークサイドというのはすごく意外というか、リョクシャカとして活動する姿からはなかなか見えてこない側面ですよね。

peppe もともと外に出ることが好きだったんですけど、今まではそれで自分を安定させていたんだなと気付きましたね。5月後半くらいがピークで、朝起きた瞬間に、もう夜のことを考えてしまうんですよ。「ああ、今日も晩ごはんはひとりで食べるんだ」「もう晩ごはん食べなくてもいいや」とか。食べることに対してエネルギーも使えなくなっていたし、それでも食べないと元気が出ないし……なので外出自粛期間は自分のメンタルを整えることで精一杯でした。その時期は、歌詞のある音楽よりもインストゥルメンタル音楽にどっぷり浸かっていて。特にヨーロッパのピアノミュージック……ランバートとか、オーラヴル・アルナルズとかが好きでよく聴いていました。新しい音楽に出会えたのはよかったなと思います。

──小林さんはどうでしたか?

小林壱誓(G, Cho)

小林壱誓(G, Cho) 「ミュージシャンならこういう状況下でこそ曲を作るべきだ」と思って作ろうとしたんですけど、なにぶん外部からの刺激がないので、全然アイデアが浮かばない日々が続いて。それが一番苦しかったですね。普段人としゃべったり笑ったりしているから、作りたいという意欲や作品が生まれてくるんですよね。人との関わりがこんなにも自分の創作活動に直結していたのかと気付かされました。最近少しずつ外に出る仕事も増えて、メンバーとも顔を合わせるようになったら、家に帰ってちょっとギターを弾いただけでもラフにメロディが生まれてくるようになって。「夏を生きる」を配信することが決まってから心中が穏やかになってきたような気がします。

穴見 それまではほんっとうにヤバかったよね。

──「夏を生きる」は配信ライブ後の7月31日に発表されましたが、レコーディングの様子はいかがでしたか?

穴見 レコーディングでは3カ月ぶりくらいにメンバーに会いました。

長屋 それまでアレンジの話などはリモートでやりとりしていたので、ひさしぶりに音を合わせてみたら、まず生音の大きさにビックリしました。家ではそんなに大きな音は出せなかったから、その音の大きさが気持ちよかったし、テンションも上がったし、「やっぱりこれだな」という感覚がありましたね。

──ひさしぶりで皆さん探り探りな部分もあったのでは?

長屋 でも、レコーディング自体はすんなりいきましたね。というのも、この曲はあえてテイクを重ねない録り方をしたんです。若さや未完成さを閉じ込めようというアレンジャーのNaoki Itaiさんの意向もあって、あえてやりすぎず、聴かせすぎないように作っていきました。私たちの最近の曲は「sabotage」にしろ「Shout Baby」にしろエネルギーが強めの曲が多かったので、だからこそ「夏を生きる」ではちょっとだけ肩の力が抜けたところを狙いたかったんです。

穴見 曲を作ってからリリースが決まるまでの時間がすごく短かったから、この曲にはそのスピード感を考えても生感というか、リアルさがあると思います。

緑黄色社会

去年見た夏とは違いすぎるから

──「夏を生きる」はコロナ禍で産み落とされた曲ですが、状況の閉塞感や陰鬱さは感じさせない、むしろ突破力のある楽曲ですよね。そもそもこのタイミングでこういった曲ができたのはなぜだったのでしょうか。

長屋 曲の構想自体は去年の夏くらいからあったんですけど、今年に入ってコロナの雰囲気が漂ってきた頃に書き進めて完成させた曲で。結果として、このモヤモヤした状況の中で自分たちの背中を押してくれる曲になったなと思います。曲の原型を作り始めた段階から夏の曲を書こうとしていたんですが、私の中で「夏といえば野球だな」となって、最初は野球をテーマに書きたいと思ってたんです。ただ、そもそもの話なんですけど、私、夏が苦手なんですよ。

──そんな感じがします(笑)。

長屋 ですよね(笑)。夏ってキラキラしているし、みんなが楽しそうに見えるし、私にとってはちょっと苦手な季節なんです。でも夏にキラキラしている人たちは、キラキラするために今を生きているんだなとも思うんですよね。遊ぶにしても、ちゃんと学校の課題を終わらせてがんばったあとに遊んでいるんだろうなとか、その人たちの裏側まで想像してみると夏をキラキラと生き抜いている人って、すごくカッコいいなと思えたんですよね。

──自分とは違う人たちに対しての想像力を働かせることで、その人たちを受け入れることができたし、憧れも生まれてきた。

長屋 そうなんです。夏はすごく早く終わってしまう季節だけど、そのスピードに負けないぐらい濃密な夏を私たちも過ごせたらいいなと思って「夏を生きる」を書いたんです。ただ、曲の根底にあるテーマは変わっていないけど、構想を考え始めた去年と今年では私たちの気持ちは大きく変わっていると思います。やっぱり今年見た夏は、去年見た夏とは違いすぎるから。でも去年書いたものに今の気持ちを乗せられたことで、かえってより強い曲になったとも思います。

小林 僕も長屋と同じく夏はあまり好きではないので、最初に「夏を生きる」の原型ができたときは歌詞の「早く駆け抜けてしまえ」という部分はわかるなと思って……。

穴見 そういう意味なの?(笑)

小林 ははは(笑)。でも今年に入って曲の全貌が見えてきたときには、「この曲は今年の日本の夏の代表曲になるんじゃないか」という予感を持っていました。正直、僕は今、キラキラした夏ソングは聴きたくない。でも「夏を生きる」は変にキラキラしすぎていない、いいバランスの夏の曲だと思うんです。今年の夏を生き抜くための歌になり得るんじゃないかと。

──「君の続きが見たい 逞しくあれ」という一節は、今の状況にすごく刺さるラインだと思います。そういう意味でも、「2020年の日本の夏の歌」という感じがしますよね。

peppe そうですね。この曲は日本で暮らしていて、日本の夏を知っている人たちにこそ刺さる曲だと思う。

穴見真吾(B, Cho)

穴見 僕はもともと夏の曲が大好きで、最初に「夏を生きる」の原型を聴いたときはノスタルジーのようなものを感じました。夏って、派手さの裏側に儚さがあるじゃないですか。「夏を生きる」は、その儚さのほうを切り取った曲だと思うし、もし自分が10代だったらすごく聴いていたと思う。それにさっきも少し言いましたけど、曲のレコーディングが決まるまではすごく憂鬱だったんです。でも自分だけじゃなくてみんなもそうなんだろうと思って。僕はこの曲のベースを練習することですごく心を支えられていたし、だからこそ演奏にすべてを詰め込もう思ってレコーディングに臨みました。「この曲を聴く人たちみんなで一緒に気持ちを上げていきたい」という気持ちをベースに込めましたね。