「天気がよくて気持ちいいなあ」の最上級
──今回のツアーで初めてwacciのライブに来たというお客さんが多いそうですね。
橋口 そうなんです。MCで「初めての人ー?」と聞いたときに手を挙げてくれる人が多くて。初めての人がどのくらいいるかはもちろん日ごとに違うんですけど、今回のツアーはだいたい7割くらいで、つまり初めてのお客さんのほうが多いんです。
横山 ライブに来てくださった人たちにWebアンケートの回答をお願いしているんですけど、それを見ると、「恋だろ」や「別カノ」がきっかけでライブに来たという人がいる一方、「実はこの曲に思い入れがあってライブに来ました」と挙げてくれた曲の名前が「恋だろ」でも「別カノ」でもないということもけっこうあるんですよ。10代の子が「大丈夫」という7年前にリリースした曲を好きだと言ってくれていたりするし、サブスクのおかげなのか、曲を幅広く聴いてもらえているみたいなんですよね。だからこそ新旧問わず、迷いなくセットリストに入れられているというのもあって。
橋口 うれしいことだよね。だから今回のツアーでは、そういう人たちに対してちゃんと「はじめまして」と挨拶をして、僕らのよさを知ってもらうことが大事だったんですけど、もちろんいつも応援してくれている人にも楽しんでもらいたいから、「どうすればこの会場をひとつにすることができるのかな?」と考えることが多くて。
──そのためには演奏だけでなく、MCも含めてお客さんに何を伝えるかが大事になってきますよね。そこが今回のツアーで特に向き合った部分だったんでしょうか?
橋口 まあ、僕個人の話ですけどね。
横山 実際にお客さんに言葉を届けているのは橋口だからね。でもライブでの一体感はもちろん僕らも実感しているもので、特に大阪公演は、MCを経てライブの終盤に向かっていくときの一体感が今までにないものでした。
橋口 11月20日の大阪、すごかったよね。正直今までは「昔からのファンと、初めてライブに来てくれた人たちは混ざり合わないのかもしれない。難しいな」と思っていたところもあったんですよ。だけどこのツアーでヒントをもらったというか、自分の中で「こういうことなんじゃないか」とわかり始めた感じがあって。特に大阪公演では、初めての人に対しても、いつも応援してくれている人に対しても、すごく納得のいく形でアプローチできたと思っています。
──ちなみに、「今日はいいライブができたな」と思う瞬間って5人それぞれ違うんですか? それとも共通していますか?
因幡 意外とバラバラなのかもしれないです。例えば4人が「楽しかったね」と言っているのに、1人だけ落ち込んでいるみたいなこともあります。たぶん、感じていることが各々違うんでしょうね。
村中 僕は大前提として「自分が楽しめないとお客さんも楽しめない」と思っているので、「まずは自分が楽しむ」という気持ちでライブに臨んでいて。だけど自分が縮こまったプレイをしてしまった日は「もっといけたのに」という気持ちが自分の中に残ってしまうので、みんなが「楽しかったね」と言っていたとしても、1人で凹んでしまうときもあります。
橋口 僕がいいライブだったと思えるときは、自分に負けなかったときかな。
村中 でも近い気がする。要は、自分に課した目標をちゃんと達成できるかということだよね。
橋口 そうそう。
因幡 確かにそれはあるかもしれないね。逆に、全員の感情がカチッとハマる瞬間もあるんですよ。その瞬間は僕らだけじゃなくてお客さんのノリもいいし、終わったあとに「いいライブだったね」と言い合うようなことは別にしないけど、楽屋の雰囲気もよかったりして。
村中 去年の武道館がまさにそんな感じでした。そういうときの感覚ってすごく言語化しづらいんですけど……「今日は天気がよくて気持ちいいなあ」というときに感じる気持ちよさの最上級のような感じと言ったら伝わりますかね? あの日は目に見えない“幸せ物質”が武道館中にたくさんあって、「こういうの、すごくいいな」と感じながらライブしていましたね。
画面越しでも届け得るものを目指して
──1月7日に神奈川県民ホールで行われるツアーファイナル公演は、WOWOWプラスで生中継されます。2021年の武道館ライブもWOWOWプラスで放送されましたし、それ以外にもwacciはライブ配信を頻繁に行っているイメージがあります。ライブを配信することに対して何か強い思いを持っているのでしょうか?
小野 ライブ配信、好きなんです。そもそも僕は生のライブを観て育ったのではなく、ライブ動画を観て育ったタイプで。世代的にはVHSやDVDなんですけど、学生の頃から画面にかじりついてライブ映像を観るのがすごく好きだったんです。今はYouTubeでいろいろなアーティストのライブ映像をひたすら探しては観たりしています。で、wacciに関して言うと、同じ会場で同じ空気を吸っていないと楽しめないというバンドでは決してないと思うんですよ。読み物を読むように曲の歌詞をじっくり聴く人もいれば、バンドのサウンドを聴く人もいる。あと、うちのお客さんには家族ぐるみで聴いてくださっている方も多いから、「ちょっと今日はお母さん行けそうにないや」というふうに忙しいご家族や、「家族みんなで一緒に観たいな」と思ってくれている方々にもライブを届けたいという気持ちがあるんですよね。実際そういう人たちもライブ配信はけっこう観てくれているみたいなので、ありがたいことだなと思っていて。もちろん会場に来てもらえたら会場でしか得られない情報を肌で感じられるけど、我々が伝えたい曲や歌詞のメッセージ、照明の演出などは画面越しでも届け得るものを目指してしっかり作っているので。ライブ配信はやれる機会があるならどんどんやっていきたいなと思っています。
──最後に、神奈川公演の見どころを教えてください。
横山 大阪までの3公演がそうであったように、初めてwacciのライブを観る人にも、ずっと応援してくれている人にも、自信を持って見せられるライブになるはずです。なので、wacciのライブを観たことがないという人にもぜひ観てほしいですね。
村中 生中継だとザッピングをしているときにたまたまパッと映るようなこともあると思うんですけど、そのときに「あ、wacciのライブやってるんだ」という感じで僕らのことを知ってくれていたらうれしいですね。その中に「『恋だろ』しか知らないけど、『恋だろ』をやるまではちょっと観てみようかな」という気分の人がいたとしても、目当ての曲が演奏されるまでの間も、目当ての曲が演奏されたあとも楽しめるようなライブになっていると思うし、そういう曲を僕らはこの10年でたくさん作ってきているので。一度つけたら、リモコンを置いて観てほしいなと思います。
因幡 僕は“バンドである”ということを一番見てほしいですね。たぶん、wacciのライブを観たことがない人は驚くと思うんですよ。「こんなにバンドバンドしているサウンドなんだ」「けっこうゴリゴリいくんだな」って。その印象をしっかり植え付けていきたい。生中継していただけるということで、そういうところをファン以外の方にも見てもらえるチャンスなんじゃないかと思っています。
橋口 見どころといえば、ツアーファイナルであるということ自体が見どころですよね。トライアンドエラーを繰り返して、1公演ずつどんどんよくなっていくのがツアーというものだし、そう考えると、ツアーファイナルは一番いいライブであるべきだと思うんですよ。今の僕らにできる最高のライブをお届けするので、ぜひ観てください。
公演情報
「wacci Hall Tour 2022 ~Boost!~」ツアーファイナル
2023年1月7日(土)神奈川県 神奈川県民ホール
プロフィール
wacci(ワッチ)
橋口洋平(Vo, G)、村中慧慈(G)、小野裕基(B)、横山祐介(Dr)、因幡始(Key)の5人からなるバンド。2009年12月に橋口が中心となって結成。2012年11月にミニアルバム「ウィークリー・ウィークデイ」でメジャーデビューを果たす。2018年8月に配信リリースしたシングル「別の人の彼女になったよ」が話題に。2021年11月に東京・日本武道館での初の有観客ワンマンライブ「wacci Live at 日本武道館 2021 ~YOUdience~」を開催した。翌2022年には、6月にシングル「恋だろ / 僕らの一歩」の表題曲としてリリースした「恋だろ」が「第64回 日本レコード大賞」で優秀作品賞を受賞した。