WOWOWプラス「石井竜也 TATUYA ISHII CONCERT TOUR 2022『ISHYST』」放送記念インタビュー (2/2)

米米では思いきり楽しいライブを、ソロでは歌が立つステージを

──バンド編成にストリングスを配して、あくまでも歌をじっくり聴かせる内容になっていますね。

いつになく、そうなりましたね。ソロでは「NYLON CLUB」のような踊れるタイプのライブも開催してきましたが、まだ感染が収束したとは言えない状況ですし、僕も座って全曲を丁寧に歌うスタイルにしてみたんです。お客さんもこの2年は今までとは違う暮らしの中、いろんなことを感じたり、考えたりしたと思うんですよ。仕事がリモートになったり、ライフスタイルが激変した人も多いし、指1本で操れるSNSで心ない中傷が頻発する非常に不安定で危うい世の中になっている。それは誰もがどこかで感じていることだと思うので、ひさしぶりのソロライブでは、ゆっくり落ち着いて歌を聴いてもらいたいと思ったんです。

石井竜也

──1997年の米米CLUB解散後、ソロ活動を開始して25周年になりますが、その節目という意味合いもありましたか?

気が付いたら還暦を超えてましたからね(笑)。ソロになってから、米米CLUBも再始動して並行して活動してきましたが、米米では思いきり楽しいライブを見せて、ソロではその時々に自分が伝えていきたいことを正直に表現していきたいと思うようになってきましたね。まあ、この歳になると、お客さんの年齢層の幅も広がり、小さいお子さんも客席にいたりするので、嘘偽りのないありのままの自分を観ていただくほうが表現者としても誠実なんじゃないかと。

──25年にわたるキャリアの中から今回のテーマにふさわしい選曲にしたわけですね。

そうですね。「ISHYST」では、今、自分が感じていることを真摯に音楽として響かせたい。それが根底にあるんです。面白おかしい部分は米米で大いに楽しんでもらって、ソロは自分がやりたいことを自由に歌うというスタンスでいきたいんです。

──近年では、Billboard Liveで定期的に開催している「LIKE A JAZZ」のようなジャジーなステージもありますが。

「LIKE A JAZZ」は客席の近い親密な空間の中で、ジャジーなアレンジを施した曲をいつもとはひと味違う歌にしてゆっくり味わってもらう、というコンセプトなんです。会場の規模や雰囲気によってそれぞれ異なるステージを見せていくのはボーカリストとしてチャレンジのしがいがあるんですが、最近はじっくり歌を聴いてもらいたいという思いが強くなってきましたね。米米CLUBではあくまでもバンドのボーカリストですし、ダンスなどの“魅せる”要素がどうしても必要になってくるので、ソロでは米米ではできないパフォーマンス、セット、世界観で、歌が立つようなステージを心がけています。

石井竜也
石井竜也

お客さん1人ひとりの生きていく希望になったら

──25年におよぶソロ活動を振り返って、ここは節目だったと感じるのは?

ソロを始めて最初の数年間は、とにかく無我夢中でした。米米を解散してしばらくは、ダンサブルなステージで楽しんでもらおうとしていたし、自分もお客さんもまだまだ体力は有り余っていましたからね(笑)。以降も「NYLON CLUB」のように歌って踊れるライブシリーズも続けていましたが、数年前に「LIKE A JAZZ」を始めてからは、セットも何もないシンプルなステージで歌うことの難しさ、それゆえの面白さに開眼したところがありましたね。そこで、今までソロでやってきたことがいかに米米CLUBを意識していたかに気が付いたんです。

──それは石井さんのエンタテイナーとしてのサービス精神でもありますよね?

そうなんでしょうね。米米の華やかなステージを見慣れてきたお客さんに満足してもらうにはどうすればいいかをずーっと考えてきた気がしたんですよ。カールスモーキー石井なら許されることも、石井竜也ではできない。そんなジレンマもなかったわけではないし。でも、「LIKE A JAZZ」シリーズを続けているうちに、シンプルに飾らず、歌を中心にしたステージでもなんとかいけるんじゃないかと自信がついてきた。今までの音楽、エンタテインメントの捉え方がそこで少し変わったんです。その延長にあるのが今回の「ISHYST」だと思っていただければ。

──これまでアリーナから、クラブ空間、世界遺産の名所旧跡まで、さまざまな場所でライブを行っていますが、今後はどんなステージを見せていこうと思いますか?

Billboard Liveも最初は手が震えるほど緊張したんですよ。目の前にお客さんがいることにドキドキしてしまって。1万人を前にしたライブや世界遺産の東大寺や薬師寺でも歌った経験もあるというのに。ステージは毎回が勝負だし、いくつになっても慣れるということはないんですが、歳を重ねるごとに、ライブを観に来てくれるお客さん1人ひとりの人生がここに集まって来ているんだと感じるようになりましたね。その人たちがライブを観て、聴いて、少しでも気持ちがなごんだり、何かしらの生きていく希望になったら……今はそういう気持ちで歌っています。1本の映画を観て、満ち足りた気持ちで帰路に着くような、そんなコンサートを今後も続けていきたいですね。

プロフィール

石井竜也(イシイタツヤ)

1959年生まれ、茨城県出身。1985年に米米CLUBのボーカリストとしてデビューし、作詞作曲、ステージセットや衣装のデザイン、ミュージックビデオの監督なども手がける。1994年には初監督作品の映画「河童」が、1996年には2作目の映画「ACRI」が公開された。1997年の米米CLUB解散後はソロ活動を開始。音楽だけでなくアートのジャンルでも活躍し、個展の開催、大阪・HEP FIVEの空間プロデュース、「愛・地球博」レギュラープログラムの総合プロデュースなどを手がけている。2022年9月からは全国ツアー「TATUYA ISHII SPECIAL CONCERT TOUR 2022『MESSAGE』」の開催が決定。ツアーに合わせ、9月7日には2年半ぶりとなるニューアルバム「LOST MESSAGE」のリリースも予定されている。