WOWOWプラス「石井竜也 TATUYA ISHII CONCERT TOUR 2022『ISHYST』」放送記念インタビュー

石井竜也のコンサートツアー「TATUYA ISHII CONCERT TOUR 2022『ISHYST』」の模様が、7月31日(日)にWOWOWプラスで全曲ノーカット放送される。

今年5月から6月にかけて行われたこのツアーではフランスにある遺跡・ラスコー洞窟の壁画をイメージした独自の世界観のもと、隠れた名曲を中心にじっくり歌を聴かせるコンサートを構築した石井。1997年のソロ活動開始から今年で25周年を迎えた彼は、どのような思いを抱いてこのツアーに挑んだのか。今回のステージのコンセプトや見どころ、またソロアーティストとして歩んできた現在の境地を聞いた。

取材・文 / 佐野郷子撮影 / 森好弘

僕なりの問題意識を音楽に反映させたい

──「ISHYST」と題したツアーは5年ぶりの開催になりましたね。

ツアーのコンセプトは明確にありました。今、我々が生きている世界では、ラスコー洞窟の壁画を含め、何万年も前の人類の遺産を見ることができるじゃないですか。でも、現代の建造物などは果たして後世に残るのか?と言えば甚だ疑問ですよね。コンクリートでできた高層ビルにしても、せいぜい2~300年しか持たないと言われているし、僕らはそういうかりそめの世界に生きているんですよね。そんな話を、吉村作治先生とさせていただいたことがあったんです。

石井竜也

──エジプト考古学の第一人者の方ですね。

吉村先生はエジプトのクフ王のピラミッドで「第2の太陽の船」を発見されて、それを発掘して復元するプロジェクトを進めているんですが、お会いしたときに僕の日頃の疑問を思いきりぶつけたんですよ。古代エジプト人の審美眼や技術は確かにすごいですが、歴史が積み重なっていくうちに人類の価値観や社会通念はどんどん変わっていった。そんな歴史を通してみると、デジタル化された現代の文明はなんとも危ういものなんじゃないかと。

──今回のステージセットが2万年前のラスコー洞窟の壁画をイメージしたものだったのは、そういう思いを象徴しているのでしょうか?

そうです。あれは先史時代の美術を象徴していますからね。当時は壁画を描いたクロマニヨン人とネアンデルタール人は共生していたという説もあるんです。ネアンデルタール人は疫病や気候変動によって絶滅したと言われていますが、「現代人も果たしてこれから生き抜いていけるのか?」といった問題を、コロナ禍が起き、温暖化も著しい今の世の中で僕なりに考えたことがテーマになっていきました。

──2020年以降のコロナ禍も影響していると。

そうですね、パンデミックは地球規模ですから。まあ地球からしたら、人類の歴史なんてちっぽけなものじゃないですか? そう考えると、俺たち現代人はちょっといい気になりすぎていたんじゃないかと。警鐘と言うと少し大袈裟になりますが、そういう僕なりの問題意識を今回のライブで音楽に反映させたいと思ったんです。

石井竜也
石井竜也

人間が音楽に求めてきたものは“響き”

──2011年のアルバム「MOON & EARTH」から「輪廻」「命の球体」「夕焼け飛行船」といった、今回のテーマに沿う曲も披露していますね。

そう。米米CLUB時代から考えていたことでもあるんですが、ソロになってからは自分のそういう志向が出しやすくなったというのもありますね。そうした曲をこの時代に改めて歌ってみたかったんです。コロナ禍に加え、ウクライナ侵攻が起こり、核の脅威にさらされている今、ライブで何を伝えていくべきかは熟慮しました。地球のはるかな歴史に思いを馳せると、人間はなんて愚かな争いをしているんだろうと思って。

──そういうテーマに導かれていくきっかけはあったんですか?

コロナ禍が始まる前にドイツのパッサウという、日本で言えば奈良のような古都を訪れたことも大きかったと思います。オーストリアとチェコの国境に隣接した3つの河川が合流する中世のような古い町なんですが、その町のシュテファン大聖堂というところに世界最大級と言われるパイプオルガンがあってね。1万数千本のパイプから鳴り響くその荘厳な音は、筆舌に尽くしがたい響きだったんですよ。それを生で聴いて、人間が音楽に求めてきたものは旋律だけでなく、この神々しいまでの響きなんだなと感じたんです。そのためにヨーロッパでは大聖堂が作られ、賛美歌や宗教音楽が生まれた。スピーカーやマイクが発明される以前から、人は音の響きに心を震わせてきたんだろうと確信したんです。

石井竜也

──石井さんが今まで体験し、会得したものが今回の「ISHYST」の世界観や選曲に色濃く表れていると。

そんなリアルな経験や、自ら体感したことをエンタテインメントとしてどう表現するかですよね。人が活動することでウイルスが広がってしまうコロナ禍でライブ活動がままならなかった時期は、さすがに僕も音楽の根源的な意味や人に与える影響について考える時間が増えましたからね。歌や響き、音の振動がなぜ人間のあらゆる感情を呼び覚ますのか。そんなことをつらつら考えていたら、ふとラスコー洞窟が思い浮かんだんです。

──というのは?

人の営みに思いを巡らせていると、先史時代の人間が身を守るために洞窟に暮らしていたのも、なんとなくわかるような気がしたんですよ。そんなさまざまなヒントが点と点で結ばれ、リバーヴ=響きを前に押し出したコンサートという構想になっていきました。