wacciが語る“武道館”、あの場所だからこそ心に響く曲。WOWOWプラス「wacci Live at 日本武道館 2021 ~YOUdience~」特集 (2/2)

大きい会場で歌う応援歌の力

──ライブを振り返って、メンバーの皆さん自身がそれぞれ考える見どころはどこですか?

横山 アーカイブ映像を何度も観返して見どころだと感じたのは「風」(2021年)ですね。スクリーンにミュージックビデオを映しながら披露したんですが、それがすごくよくて。

因幡 あの演出のために作ったんじゃないかってくらい、よかったよね。

横山 僕らの背後にMVが映し出されてたから、僕らからはこの景色は観られないんですよ。「これ、生で観たかったな!」と思いました(笑)。

橋口 僕は「坂道」かな。友人からも「『坂道』がよかった」と言ってもらったし、こういう応援歌って大きい会場ほど映えるんですよね。小さい会場で歌うと、なんだか薄っぺらく聞こえたり、使い古された言葉として届いてしまうような感覚があって。もちろんそれは曲のせいとかではなくて、僕の力量不足なところもあるんですが、大きい会場で歌う「坂道」には、僕がこれまで考えていた以上のエネルギーがあることに気付かされて。この曲に励まされる人がこんなにたくさんいるのかと、改めて感じましたね。

村中 僕は「東京ドリーム」(2019年)。武道館ライブのイメージっていろいろあると思うんですが、僕はずっと武道館の端から端まで歩きながら演奏するのに憧れていて。それが実現できたのがすごくうれしかった。「これこれ。これが武道館ライブだよね!」と思いました。「やったぜ!」という僕らのドヤ顔を見てほしいですね(笑)。

村中慧慈(G)

村中慧慈(G)

小野 僕が考える見どころは、センターステージを使った曲かな。冒頭の「宝物」や、「最上級」(2018年)、あとは「ケラケラ」とか。僕らはセンターステージをサブステージという扱いにしたくなくて、センターステージでもちゃんと照明も用意しているし、いい音を届けようと綿密に準備していたので。

橋口 あとWOWOWプラスでの放送で観られるかどうかわからないけど、スタッフの転換スピードが本当にすごくて。メインステージで演奏しているときに僕がセンターステージまで出て行くと、ついさっきまでそこにあったはずのドラムセットやキーボードが、すべてきれいに撤収されているんです。その手際のよさが本当にすごかった。

横山 F1のピットインくらいの速さだったよね(笑)。

橋口 本当にね。それに、映像には映ってないかもしれないけど、画面の外にいるお客さんやファンのみんなの存在感も一緒に感じてもらえたらうれしいですね。

「世界一のバンド」と言ったのは必然

──因幡さんが考える見どころはどこですか?

因幡 「リスタート」(2014年)ですね。「リスタート」はパフォーマンスだけじゃなくて、その前のMCと合わせて注目してもらいたいです。おそらく僕らのライブの中で、もっともエモい曲振りだったんじゃないかな。

因幡始(Key)

因幡始(Key)

──「wacciは世界一のバンドだ」と、橋口さんが発言する場面ですね。この言葉を聞いてメンバーの皆さんはどう感じましたか?

村中 そう言い切ってくれたこと、素直にうれしかったです。世界一のバンドって、The Beatlesだったり、Led Zeppelinだったり、みんなそれぞれいろいろ思い浮かべるアーティストがいると思うんですが、橋口が自分で曲を作って歌っているwacciというバンドを世界一だと言ってくれたのは、すごい信頼の証だと思って。その言葉を聞いて、必死で泣かないようにしてました(笑)。あと、「これだけいいこと言われたんだから『リスタート』のイントロは絶対ミスれないぞ」という気持ちも。

橋口 そういう顔してたよね(笑)。

横山 僕も「リスタート」のカウントを出さなきゃいけなかったから、緊張しました(笑)。下を向いてMCを聞いてたんですけど、そのままだと泣きそうだったので、途中から前を向いて。橋口くんが「僕は世界一いい曲を書く男だと思っている」と言ったときは、「そうだ、もっと言え!」と思いながら聞いてました。その分気分が高揚してたから、カウントが勢いよくなりすぎないように、本当に気を付けてやりました。

横山祐介(Dr)

横山祐介(Dr)

村中 わかるわかる(笑)。思わず力んじゃいそうになるくらい、いいMCだったよね。

──因幡さんは橋口さんのMCをどう受け止めていましたか?

因幡 ちょっとドライな言い方になってしまいますが、ステージに立つ以上はみんな平等というか、キャリアもセールスも関係なく、お客さんをどれだけ感動させられるかという世界だと思っていて。ステージに立ったら、誰しも「自分が世界一だ」と思ってやらないといけないと思うんです。だから、あの日あの場所で橋口が「wacciは世界一のバンド」と言ったのは、必然だったと思うんです。ただ、フロントマンとしてそう言い切ることに勇気を感じたし、メンバーとして背筋が伸びる思いでした。

小野 僕が感じたのは、「橋口くんもカッコいいことを言うようになったな」ということ。出会った頃はこんなことを言う人じゃなかったから(笑)。出会ってから10年以上、成長してきたんだなと感慨深かったです。

──橋口さんご自身はどのような思いであのMCを?

橋口 武道館公演が決まって、「ついに武道館にたどり着いた」みたいに言われていたけど、実際には当日会場には空席もあったし、悔いのない武道館ライブになったかと聞かれると正直難しい気持ちもあって。そういう部分に触れずに進めることもできたけど、僕の性格上それは無理だった。だからこそ、武道館が埋まらなかったという事実と悔しい思いをちゃんと受け止めたときに、「12年かけてこのバンドでここまでやってこれたことは、本当に幸せなことだ」と感じることができたんです。胸を張って武道館に立てたことは事実であり、空席があることに対して恥ずかしいとも思わない。僕らはこれまで、このメンバーでいろんな困難を乗り越えてきたから、今度はここを満員にするライブができるように、これから先も5人でがんばっていく。その覚悟をあのMCに込めました。

──その後に披露された「リスタート」にも、そのメッセージがつながったわけですよね。

橋口 無観客の武道館ライブがあったから有観客の武道館を目指したように、今回の公演があったから、次は満員の武道館を目指す。今までだったらぼんやりとイメージだけで語るしかできなかったけど、実際にこの目で武道館ライブの景色を観たから、今では具体的な目標として次の公演を見据えられるようになったんです。そのためにはいい曲を作り続けて、いいライブを1人でも多くの人に届けるということを、コツコツ積み重ねていくしかないんですよね。だから今回のライブが、僕らの新しいリスタートになればいいなと思っています。

大きな会場を主戦場にできるバンドに

──2度の武道館公演を経て、橋口さんがこれから先、どんな曲を書くのかも気になります。大舞台で新しい曲のインスピレーションを得るようなことはありましたか?

橋口 まだ具体的に新曲のアイデアが浮かんでいるわけではないんですが、あの日のライブを経て、ガツンとしたメッセージを伝えたいというより、武道館のような大きな会場でもみんなと1つになれる、自然体で歌える曲があったらいいなという感覚になってます。例えば「リスタート」はもう8年前に書いた曲なので、当時歌っていた「リスタート」と今歌う「リスタート」では、曲に乗っかってくる覚悟の重さが違うんですよね(笑)。強いメッセージを届ける曲は過去に作ったものに任せて、バンドとして背伸びをせずに自然体で歌う曲を増やしたいな、と今は考えています。

──先ほど「坂道」のときに話していましたが、「大きい会場だからこそ響く曲がある」という実感は、今後の曲作りにも影響してきそうですよね。

橋口 もともとwacciはホールや大きめの会場でこそメッセージが届くバンドだと感じていたんですが、今回の武道館では、あの会場だからこそ響いた言葉や曲があるという発見もあって。会場が変わると、歌の響き方や、聴き手へのメッセージの届き方も変わってくるんだと。もちろん小さなライブハウスで、すぐ近くで聴いてくれる人の心に曲を届けることも必要だけど、wacciとしては大きな会場を主戦場にできるバンドになりたいですね。

──橋口さんは私的な曲を作るのも得意ですよね。wacciには1人でイヤフォンで聴くのが合う曲もたくさんあります。

橋口 バンドを結成した頃は、それこそイヤフォンで聴くような“狭い範囲”を歌う曲ばかり作っていて。だからそのエッセンスはもともと持っているものなんです。その後メジャーデビューをして、「どうしたらもっと多くのお客さんに楽しんでもらえるライブができるか」とか「わかりやすいってなんだろう」とか、いろんなことに向き合って曲を作り続けてきて、試行錯誤を繰り返して生まれた曲たちが、ようやく武道館で曲本来の輝きを見せてくれた。僕らがやってきたことは間違いじゃなかったんだということを、はっきりと感じられるライブでした。

村中 2回もやっておいて欲張りだけど、もう一度武道館でやりたいよね。

橋口 うん。今度こそ満員の武道館の景色をみんなに見せます。それくらいのことができるバンドだと思っていますから。

wacci

wacci

プロフィール

wacci(ワッチ)

橋口洋平(Vo, G)、村中慧慈(G)、小野裕基(B)、横山祐介(Dr)、因幡始(Key)の5人からなるバンド。2009年12月に橋口が中心となって結成。2012年11月にミニアルバム「ウィークリー・ウィークデイ」でメジャーデビューを果たす。2018年8月に配信リリースしたシングル「別の人の彼女になったよ」が異色の楽曲と話題に。2020年10月には東京・日本武道館にて無観客配信ライブ「wacci Streaming Live at 日本武道館」を実施。2021年10月に「風」「東京24区」を2曲同時に配信リリースした。また11月には東京・日本武道館での初の有観客ワンマンライブ「wacci Live at 日本武道館 2021 ~YOUdience~」を開催した。