昨年11月12日に開催されたwacciの東京・日本武道館公演「wacci Live at 日本武道館 2021 ~YOUdience~」の模様が、1月23日(日)にWOWOWプラスで放送される。
「wacci Live at 日本武道館 2021 ~YOUdience~」は2020年に行われた無観客配信ライブに続き、wacciにとって2回目の武道館公演。メジャーデビュー10年目の皮切りとして有観客で開催された、彼らとファンにとってメモリアルなライブである。音楽ナタリーではこの公演のテレビ初オンエアを記念して、メンバー5人にインタビュー。武道館という会場への思いや、公演中に感じていたことなどを振り返りながら、ライブ映像の見どころもそれぞれ語ってもらった。
取材・文 / 倉嶌孝彦撮影 / 笹原清明
武道館のスイートスポット
──wacciは2020年10月に日本武道館で無観客のワンマンライブを開催していますから、約1年の間に2度、武道館という大舞台に立ったわけですよね。「wacci Live at 日本武道館 2021 ~YOUdience~」を拝見して、皆さんは武道館という会場に強いこだわりがあるように感じました(参照:wacci、念願の有観客で武道館ライブ完遂「このバンドは世界一のバンド」)。
橋口洋平(Vo, G) 2020年に無観客の武道館でライブをやらせていただいて、すごく素敵な場所だと感じました。みんなが目指す気持ちがわかったし、絶対に有観客で武道館ライブをやりたいという、具体的な目標を持てるようにもなった。最初から有観客で開催できていたらそれはそれでよかったかもしれないけど、今回のライブには、1年前にやった無観客ライブの1日もやっぱり必要だったような気がします。
村中慧慈(G) ツアーでいろんな会場を回ってきたけど、武道館が一番気持ちいい会場だったかもしれませんね。例えば拍手。武道館の“箱鳴り”はすごく気持ちよくて、拍手の音が頭上から降り注いでくるような感覚がありますね。
横山祐介(Dr) 僕らの武道館ライブは去年の無観客のときでも、今回の有観客ライブでも、アリーナの真ん中にステージを作らせてもらって。会場の中心で太鼓を鳴らすのはめちゃくちゃ気持ちいいんですよ。で、有観客の際には“エンドステージ”という、会場の端に構えるステージも用意してもらって、そこでもドラムを叩くことができて。ステージの場所によって自分たちの音の聞こえ方も違ってくるから、そういう部分も味わいつつ、すごく贅沢な音の体験をさせてもらったなと。
因幡始(Key) さっき村中が話した通り、武道館の音の反響には嫌な感じが一切ないのが印象的でした。例えば有観客でのセンターステージでは、僕らは演奏者用のモニタのほか、客席に設置されたスピーカーの音も聞かなきゃいけないシチュエーションなんですよね。そこにさらに会場の跳ね返りの音があるはずなんだけど、センターステージで演奏したときの跳ね返りが全然気にならなかった。会場の中心に設置したあのステージが、もしかしたら武道館のスイートスポットなのかもしれないですね。それくらい、センターステージでの演奏は気持ちよかったです。
小野裕基(B) 僕はみんなと違って、武道館での演奏は難しいなと感じる部分もありました。ベースはローを出しすぎたらダメ、かと言ってローを抑えすぎて物足りない音になるのももったいない。なので、そのバランスをPAさんと綿密にすり合わせながら、ベストな音を探していきました。ベースという音の性質的に、純粋にドーンとやって気持ちいい音が鳴らせるわけではないので、みんながうらやましかったです(笑)。
村中 ごめんね(笑)。気持ちよく演奏しちゃって。
──橋口さんは武道館でのパフォーマンス、いかがでしたか?
橋口 4人が僕に気を遣って音作りをしてくれたし、音響のスタッフの皆さんも僕がどれだけ楽に歌えるかを意識して動いてくれていたので、僕自身はすごく楽しんで歌うことができました。メンバーはもちろん、スタッフも含めて、僕が信頼している人たちと一緒に武道館ライブに臨むことができたのが、何より一番よかったと思っています。
因幡 いい音で歌えた?
橋口 いい音だったよ(笑)。
──今のお話にも出てきましたが、2020年の無観客ライブはセンターステージで、昨年の有観客ライブはセンターステージとエンドステージの両方で行われました。有観客であってもセンターステージを用意した理由は?
橋口 無観客での武道館を踏襲した形にしたかったんです。同じ武道館という場所で、無観客から有観客への物語を作れるバンドってそういないと思うので、それを生かすべきだなと思った。それに、僕らはお客さんにステージを360°囲んでもらって演奏する機会も過去に何度かあったから、僕らのライブスタイルの1つを武道館公演で表現することに意味があるとも考えていました。
村中 無観客で僕らがパフォーマンスしていた景色を、みんなに直接観てもらいたくて。もう一度武道館でライブできるならどっちもやっちゃえ、みたいな欲がありましたね。
橋口 「自分たちを武道館に連れてきてくれてありがとう」という思いを、ファンのみんなに伝えることはもちろん大事なんですけど、それを伝えるために、まずは僕らが武道館を堪能する必要があるとも感じていて。だから最初はセンターステージで演奏して、3曲目からエンドステージで演奏する、というちょっとストーリーを感じさせる演出に挑戦してみました。
今までで一番早く決まったセトリ
──「wacci Live at 日本武道館 2021 ~YOUdience~」のセットリストはどのように決めたんですか?
村中 毎回セットリストを作るときは、基本的に今の僕らのベストを披露するというコンセプトで作るんですが、「武道館でやるんだったら、この曲を、こんな演出でやってみたい」という意見が、各メンバーからけっこう出てきて。
橋口 それぞれの考えるセトリをホワイトボードに書き出していったんですけど、その時点でみんな、ある程度方向性がそろっていたんですよね。例えば、「ライブの最初はセンターステージで『宝物』(2017年発表)や『あなたがいる』(2021年)みたいな曲を演奏したいよね」というイメージをすぐに共有できて。今までのセトリ決めで一番早く決まったんじゃないかというくらいスムーズだったと思います。
──「武道館でやるならこれ」という意見が多かったのはどの曲ですか?
横山 やっぱり「東京」(2014年)じゃない?
橋口 「東京」はアンコールの最後に披露した曲なんですが、東京のど真ん中で「東京」を歌って終わりたい、という気持ちが強くて。特にこの曲はインディーズ時代からある曲で、昔はこの曲を超えようと必死になっていたこともあるし、かつての自分たちのハードルでもある、大事な曲なんです。
──「東京」に限らず、wacciの楽曲には東京を舞台にした曲がいくつもありますよね。橋口さんは東京という街をどのように捉えて曲に落とし込んでいるんですか?
橋口 東京って冷たくもあり、温かくもある場所だと感じていて。僕は都心から少し離れた青梅に住んでいたから、都民でありながらもどこか客観的に東京という街を見ることができた。よく言われる「東京は冷たい」みたいな側面ももちろんあるけど、住んでいる人1人ひとりは温かいし、プレッシャーや葛藤に負けそうになりながらも夢を追ってワンルームで過ごしている人もいる。僕は東京でそういう1人の人間のドラマを間近で見てきたから、東京をテーマに曲を書くときは、温かさも冷たさも両方描きたいなといつも思っています。
──ツアーで各地を回ったときに歌う「東京」と、都内で歌う「東京」では、聴き手の解釈も異なってきますよね。今回のように東京を象徴する場所で歌う「東京」は、これまで披露してきたどの「東京」とも違う意味合いが込められているようにも感じました。
橋口 そうですね。実際、地方で「東京」を歌うときは、地方の人にも東京という街のことをちゃんと伝えられるようにという気持ちで歌うことが多いんです。でも今回の武道館ライブに関してはそこがちょっと特殊で、自分たちのために「東京」を歌ったような感覚があった。僕らは「東京」という曲を生み出して、それを大事にしながらここまでやってきたから、あの日の公演で「東京」を歌うことは、曲への感謝とか、自分たちへのご褒美みたいな意味合いが強くて。東京のド真ん中でこの曲を歌える喜びを噛みしめていました。
──「東京」以外で武道館ならではの選曲になったのは?
橋口 慧慈くんが推してたのは「坂道」(2019年)だったよね。
村中 九段下駅から武道館に向かうまでの坂道になぞらえて、武道館だったらこの曲をやりたいと思ったんです。あともう1曲、僕がやりたかったのは「ケラケラ」(2017年)。wacciの曲の中でも特に世界観がミニマムで静かな曲なんです。武道館のような広い会場だからこそ、僕ら5人が小さい円を作って演奏する意味があるんじゃないかなと思って。実際に演奏できてうれしかったです。
小野 あの日のセトリは、ほかの曲もだいたいみんな意見が一致したよね?
橋口 うん。僕らはバンドの名前以上に曲が世の中に広まっていくということを経験していたから、みんなが聴きたい曲やバンドに広がりを持たせてくれた曲って、いい意味でも悪い意味でもわかりやすいんです。そういう曲をあえて避けるセトリにすることもできたけど、武道館でやるならド真ん中のセトリでいっていいんじゃないかというのは、メンバー全員が感じていたことで。とにかく僕らも楽しみたいし、観てくれるお客さんにも楽しんでもらいたいライブだったから、どの曲をやるかはすぐに決まりました。
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大きい会場で歌う応援歌の力