「Vaundy LIVE in London」放送記念|歴史あるホールでのライブを経て、彼は何を感じたのか? (2/2)

イギリス=日本のクリエイティブのほぼ“祖”

──番組内のインタビューでも「イギリスに来て自分の知らない世界というのがこんなにあると気付いた」ということをおっしゃっていましたけど、あの場所にいるとそういう感覚になると。

僕は東京出身で、ずっと東京にいて。ツアーで全国各地に行きますけど、それとはレベルが違うんですよ。国内だとどこに行っても結局日本なので、根本はあまり変わらない。食べ物とかも、おいしいものはあるけど、細かい違いなんです。「オレンジ色にも〇〇オレンジ、〇〇オレンジ、〇〇オレンジっていう種類があります」みたいなもので。でもイギリスに行くと、それがいきなり青になる。自分が見ていた色とまったく違う色のものがそこにはあって。普段から、そこで生まれてきたものを使って、僕らは音楽をやってるんですよ。The BeatlesやOasisが好きなのに、イギリスには行ったことがないという人がたくさんいる。イギリスの物作りの文化が、現代の日本のクリエイティブのほぼ“祖”になっているなと、僕は感じるくらい影響を与えてると思っているので、その匂いを嗅ぐだけでも違うのかなという気がしますね。

Vaundy

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──ロンドンには去年初めて滞在したんですよね。それも最初から「日本のクリエイティブの祖であるイギリスの空気を嗅ぐ」という目的を持って行ったんですか?

なんで行ったんだろう? 大学時代に漠然と「イギリスに行かなきゃ」と思ったんです。「replica」(2023年リリースのアルバム)を作る前から「イギリスの音楽はバックボーンとして必要だよね」と考えていて。デヴィッド・ボウイとかいろいろ聴きながら「これは行かないといけないかも」と思っていたんです。そのときから「2年後に行きます」と言っていて、大学を卒業したら1年間留学するつもりだったんですけど、まったく時間がなくなって卒業まで残り2カ月になり。それでも行かないといけない。最初は、そういう漠然とした使命感でしかなかった。だから初めて行ったときは、何もせずにずっと滞在先の家にいて。日本での生活をイギリスでしている感じでした。でも、同じ生活をしてみないと違いがわからないんですよ。それで、やっぱり日本とは違うなとわかって、何回も行くようになりました。

──普通の生活を送るというのは、Vaundyの場合は要するに物作りをするということですよね。曲書いたり、絵を描いたりという。

そうですね。日本でできていなかったことが向こうでできたから「うわあ、そうなっちゃった」ともちょっと思いましたけど。やっぱり日本にいると仕事も多いので、クリエイティブ以外のことを考えちゃうんですよね。僕は時間ができると、ついいろいろやろうとしちゃうんですけど、イギリスに行くと本来の自分が持っているものしか使えなくなるから、よくも悪くもリセットできる。細かい仕事がまったくできなくなる代わりに、自分にとって大切なテーマについて歌った曲を作るとか、そういうところにフォーカスされていくという。例えば「GORILLA芝居」は向こうで作ったんですけど、日本ではあの曲は生まれなかったと思います。

「Vaundy LIVE in London」の様子。

「Vaundy LIVE in London」の様子。

「LIVE in London」で次のVaundyの一手がわかる

──そうやって文化の違いを感じる一方で、日本とイギリスのポップミュージックには共通するものを感じるともおっしゃっていました。どちらの言葉も二面性を持っている、と。

はい。「日本語には裏表があるよね」という認識はみんな持っていると思うんですけど、じゃあ音楽としてはどうなんだろう?と歌手を目指していた頃から考えていたんです。自分が歌うときも、「メロディと歌い方に、絶対に裏がなければいけない。そうじゃないと本当の意味が伝わらない」という意識があって。例えば「愛が必要なんだ」みたいな歌詞にも、絶対に何かしら裏の意味があるし、その“裏の意味”は悲しかったり苦しかったりもする。そういう裏の言葉がわかっていないと“演技”ができないというか。だから自分で曲を作るときも当然裏の意味は入ってくる。イギリスの音楽もそういうところがあるなと僕は感じたんですよ。歌詞やメロディ、コード進行が持つ多面性は、日本の音楽とものすごく似ていると思うし、常に「月が綺麗ですね」みたいな表現をしている感じがするんです。そこが似ているから肌に合うのかもしれない。

──音楽以外のイギリスのカルチャーにも興味を持っているんですか?

服やプロダクトにも興味がありますね。絵画の世界はバンクシーがいたりするし、街中にウォールアートがいっぱいある。日本はそういう場所が少ないよなと思って。ああいう“解放の場”があるからクリエイティブが成長するんだなと、ちょっと思ったりします。向こうは何をやっても褒められるんですよ。向こうの美術館でスケッチしたりしていたら、知らない人が「すごいね」と話しかけてくれたりして。そういう環境にいたら否が応でも成長しますよね。

──今回ライブをやったホールもThe Painted Hallというぐらいなので、そこら中に絵が描かれていますしね。

モダン以前の文化というか、木の壁があったときに、そのままじゃ嫌だと言って絵を描くみたいな……あとは王宮の文化がそのまま降りてきたとか、王宮の所有物だったとか、やっぱりそういう影響が強いのかな。ロウアートじゃなくて“ハイアート”なんですよ。ロウアートというのが一般階級にも届く芸術のことで、ああいう壁画とかはハイアートに分類されると思うんですが、実際に神聖できれいなものとして作られている。みんな背中にナイフを突き立てられてるような気持ちで描いていたと思うんです。だから魂がこもってる。クオリティがいいとか悪いとか関係なく、魂がこもってるからすごいなと思うし、今でも残っているのは当たり前だと思います。僕らにも、そういうナイフが必要なんですよ。じゃないと何年、何十年と残っていかないから。だからそういう、魂がこもってるアートを見ると「がんばらないとな」って思いますよね。現代では命を懸ける感覚を持つのは難しいし、2、3年でブームが去っていっちゃうけど、マジで命を懸けて、「俺はこの曲できなかったら死ぬ」と思いながら作ったら、たぶんそれまでとは違うものができると思う。

「Vaundy LIVE in London」の様子。

「Vaundy LIVE in London」の様子。

──Vaundyはナイフのない時代に、自分でナイフから作って自分に突き付けて物作りをしている感じがありますよね。

そうしないとダメなんですよ。昔の人も遊んでいたとは思うけど、それなりに自分にナイフを突き付けて物作りをしていたはずで。常に縛りを加えるんだけど、その縛りは自分の力をマイナスにするためのものじゃなくて、「ここをこう縛らないとこうならないでしょ」みたいな理論的な縛りというか。そういう枷を常に設けていたと思うし、そういう物作りの仕方をちゃんと受け継いでいかなきゃいけない。それでも僕はまだ全然ぬるま湯に浸かっているなってすごく思います。毎日働いてるわけでもないし。

──イギリスで物作りをしていると、普段のサイクルからちょっと外れて、より自分自身に向き合ったものが作れるんでしょうね。

きっとそういうことだと思います。僕はタイアップ曲以外のものがやっぱり一番僕っぽい曲になるんです。いい悪いは置いといて、消費物ではない、自分の生涯に残るものとタイアップ曲を分ける癖がついちゃってて。でも最近は、その2つをだんだん混ぜ始めています。それが吉と出るか凶と出るかはわからないけど、そういう賭けを始めている。消費物以外の曲を作るのと、大衆に対しての提案を並行してやっていく段階に入ったのかなって。「Vaundy LIVE in London」はその一部だけど、これを観ると僕が次に何をやるのかがわかるんじゃないかなと思います。

「Vaundy LIVE in London」の様子。

「Vaundy LIVE in London」の様子。

ツアー情報

Vaundy one man live ARENA tour 2024-2025

  • 2024年11月9日(土)神奈川県 横浜アリーナ
  • 2024年11月10日(日)神奈川県 横浜アリーナ
  • 2024年11月23日(土・祝)北海道 真駒内セキスイハイムアイスアリーナ
  • 2024年11月24日(日)北海道 真駒内セキスイハイムアイスアリーナ
  • 2024年11月30日(土)新潟県 朱鷺メッセ・新潟コンベンションセンター
  • 2024年12月1日(日)新潟県 朱鷺メッセ・新潟コンベンションセンター
  • 2024年12月7日(土)宮城県 セキスイハイムスーパーアリーナ
  • 2024年12月8日(日)宮城県 セキスイハイムスーパーアリーナ
  • 2024年12月14日(土)大阪府 大阪城ホール
  • 2024年12月15日(日)大阪府 大阪城ホール
  • 2025年1月11日(土)愛知県 ポートメッセなごや 第1展示館
  • 2025年1月12日(日)愛知県 ポートメッセなごや 第1展示館
  • 2025年1月18日(土)埼玉県 さいたまスーパーアリーナ
  • 2025年1月19日(日)埼玉県 さいたまスーパーアリーナ
  • 2025年2月14日(金)兵庫県 神戸ワールド記念ホール
  • 2025年2月15日(土)兵庫県 神戸ワールド記念ホール
  • 2025年2月22日(土)徳島県 アスティ徳島
  • 2025年2月23日(日・祝)徳島県 アスティ徳島
  • 2025年3月1日(土)福岡県 マリンメッセ福岡 A館
  • 2025年3月2日(日)福岡県 マリンメッセ福岡 A館

プロフィール

Vaundy(バウンディ)

作詞作曲、楽曲のアレンジ、アートワークデザイン、映像制作のセルフプロデュースなども自身で担当するマルチアーティスト。2019年6月にYouTubeに楽曲を投稿し始める。2019年11月に1stシングル「東京フラッシュ」を配信リリース。2020年5月に1stアルバム「strobo」を発表した。その後も「怪獣の花唄」「踊り子」「花占い」などヒット曲を連発。2022年の大晦日には「NHK紅白歌合戦」に初出場した。2023年11月に2ndアルバム「replica」をリリース。同月よりアリーナツアー「Vaundy one man live ARENA tour “replica ZERO”」を開催した。2024年2月に「映画ドラえもん のび太の地球交響楽」の主題歌「タイムパラドックス」をリリース。自身最速での1億再生を突破。8月に映画「僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ユアネクスト」のオープニング主題歌とエンディング主題歌を表題曲とした両A面シングル「ホムンクルス / Gift」を発表し、11月より自身最大規模10都市20公演アリーナツアー「Vaundy one man live ARENA tour 2024-2025」を行う。現在までに計14曲がサブスクリプションサービスでの累計再生回数1億回を突破。国内ソロアーティスト1位の記録を打ち出し、令和の音楽シーンをけん引する存在として支持されている。