WOWOWプラス「THE COLLECTORS 35th Anniversary "This is Mods"」放送記念|加藤ひさしインタビュー (2/2)

「これが35年なんだ」って妙に納得しながら歌ってた

──オープニングナンバーは昨年11月に発売された35周年記念DVD BOX「Filmography」に収録された新曲「裸のランチ」でしたね。

さっきも言ったように、今のメンバーのTHE COLLECTORSが最強だってことをみんなに知ってもらうためには一番新しい曲でスタートするのがいいなと思ったんです。だから「裸のランチ」が1曲目というのは最初から決まっていて。ただあの曲はアカペラで始まるんで、ちょっとドキドキもんでしたよ。一発目で声がひっくり返ったら、「すいません、もう1回やらしてください!」って感じだもんね(笑)。

──加藤さんと古市コータロー(G)さんのポッドキャスト「池袋交差点24時」でも当日の感想をいろいろお話しされていましたが、序盤はモニターの音が取りにくかったそうですね。全然気付きませんでした。

武道館でやったことがある人だったらみんな知っていると思うんですけど、大きな体育館みたいなスペースじゃないですか。音楽用に作られているホールではない。だから、お客さんのいないリハーサルのときは、ドラムとかベースの音が銭湯みたいにすっごい響くんですよ。ドラムをドンと1回打つと、跳ね返ってきた音がドンドンって2つ聞こえるぐらい、めちゃくちゃやりにくいの。ところが、客席が埋まると、お客さんが音を吸ってくれて、いい感じにホールの響きがよくなるんですよ。1回目のときはほぼほぼ満員でやったから、本当に歌ってて気持ちいいなってぐらい、いい感じで音が吸われたの。だけど今回はコロナの影響もあって最初からチケットを半分しか売ってはいけませんということになってたんで、半分人がいない。そうすると半分残響が残るんだよね。

「THE COLLECTORS 35th Anniversary "This is Mods"」の様子。

「THE COLLECTORS 35th Anniversary "This is Mods"」の様子。

──そうだったんですか。

俺も初めて知ったんだけどね。だからすごくやりにくい感じで。でも、あんまりやりやすいと逆に緊張しちゃうんです。自分がちょっと外したりした音なんかがすぐわかっちゃうから。ところがそれがあんまりハッキリしてないと、いい意味で開き直れるというか。もう「やってやれ!」みたいな感じになっちゃうんだよね。やけくそみたいな。それが今回は逆によかったかな。やっぱり1本しか武道館やらなくて、それがツアーファイナルみたいになっていて、周年のライブで、カメラクルーも入ってる……となったら、緊張しないやつはいないと思うのね。だって間違ったら撮り直しができないし。例えば武道館公演を3日、4日やるんだったら、その中のベストセレクションを選んで1公演分、けっこういい映像ができると思うんです。でも、1回勝負の武道館って、すごい緊張するじゃないですか? ちょっとだけやりにくい環境だったせいで“どうにでもなれ精神”がいい方向に出て、激しくロックンロールを歌おうみたいな気持ちになったね。

──それはよい効果ですね。

そう、よかったの。だから、何がいい方向に転ぶかわかんないなって。35年もやってて、そういうことを初めて知ったライブでもあるね。

──演奏もすごくタイトでビシッと決めていらっしゃった感じがあったんですけども、実際にボーカリストとして演奏を聴いていて、いかがでしたか?

いやあ、そんな調子だから、ベースがどこ弾いてるかさっぱりわかんなくて(笑)。勝手に弾いてるって感じだもんね。JEFF(山森“JEFF”正之 / B)のベースの音は聞こえるんだけどボワボワしてて。だからずっとcozi(古沢'cozi'岳之 / Dr)の手を見て、自分で拍を取りながら歌わないと、ズレてっちゃうのね。跳ね返ってくる音がリアルな音なのか、後ろから聞こえてくる音なのか、わかんなくなってくるから。そんな中でもやれちゃうのは、35年バンドやってるからなんだよなって途中で思ったりもしたね。過去にもそういうシーンに何回か出くわしたことあるんですよ。大きなホールですごい反響が多くてやりにくい状況。デビューしたての頃はそういう状況下でライブが始まると絶対バンドが委縮してきて、あんまりいいライブをやれた記憶がないんだよね。でもそれを逆手に取れるようになってて、「これが35年なんだ」と妙に納得しながら歌ってたんですよね。

──中盤の「全部やれ!」「ノビシロマックス」は、バンドの未来が感じられてグッときました。

あの「ノビシロマックス」はよかったね。「全部やれ!」も最初は単純に、最新アルバム「別世界旅行~A Trip in Any Other World~」に入ってる曲で、ノリのいいナンバーだから入れようっていうシンプルな考えだったんですけど、歌っているうちに違う思いが出てきちゃってね。ステージでも言いましたけど、武道館を発表したあと、開催時期に感染者がものすごく増えちゃったら、ロックダウンみたいなことも起こり得るじゃないですか? そんなことが起こったら、いったい事務所とかどうなるんだろう……とか考えて、スタッフもメンバーも全員すごいヒリヒリしてたんですよ。でも、キャンセルしたらしたで、もしコロナが収まっていたらやらなかったことをすごく後悔するだろうし。そうしたら、やって後悔するしかないよね。「全部やれ!」は途中からそういう思いに駆られながら歌ったかな。

加藤ひさし

加藤ひさし

──見事、賭けに勝ったわけですね。

勝ったんだか負けたんだかわかんないけど、「納得はした」ってことかな。でも、ロックンロールの一番いいところは出せたんじゃないかなとすごく思いましたね。自分もいろんなバンドの曲に励まされることがあったし、ハッキリ歌い切ってくれると、理由はわかんないけど元気になれる瞬間があったりするじゃないですか。例えば、The Whoの「My Generation」とか、「老いぼれる前に死にたいぜ」とか歌ってくれると若い頃は「俺もそう思う!」みたいに思えるじゃない。けっこうロックンロールの歌詞って無責任だけど、元気にさせてくれるよね。

THE COLLECTORSのスタートは反戦

──楽曲のみならず衣装やセットも英国の香り漂うものばかりで、しっかり堪能させていただきました。加藤さんもステージ上で優雅にハーブティーを飲まれていましたね。

イギリスが大好きなんでね。日本人なのにユニオンジャックの衣装を着てるっておかしな話ですけど、それぐらいイギリスのロックバンドからずっと影響を受けてる。だからもうコスプレですよね。まあでも俺の場合、好きなものが最初から全然変わらないんですよ。その好きなものを、ただみんなに伝えたいだけなんです。最初に出会ったブリティッシュロックがすごく好きで、それを超える音楽がなかなか出てこないもんだから、いまだに追求してる感じなんです。

──それと、オンエアではカットされているかもしれませんが、加藤さんがステージを離れた際に古市さんが突然Deep Purpleの「Burn」を弾かれていましたね。

あれ、さっぱりわかんないんだよ。なんの話もなく始めるから。いつかあれをまたステージでやったら「タマホーム」って歌ってやろうと思ってるんだけど(笑)。なんで武道館で「Burn」弾いてんだよ?ってね。

──「NICK! NICK! NICK!」では、照明がウクライナカラーでしたね。観客席も気付いて、瞬時にペンライトを青色と黄色に変えていました。

あれね、俺知らなかったんですよ。照明スタッフがそういう演出をしてくれたみたいで。「NICK! NICK! NICK!」はTHE COLLECTORSを結成して初めて作った曲なんですけど、それが反戦歌だった。THE COLLECTORSのスタートは反戦なんです。今、ロシアとウクライナが戦争状態になっている中で「NICK! NICK! NICK!」の照明がウクライナカラーになったとあとから聞いて、「ああ、粋なことやってくれるな」と思って。スタッフとも話し合ったわけじゃないのに、そういう意思の疎通が図れているのがうれしかったですね。スタッフも自分のメッセージをTHE COLLECTORSに託せるわけじゃないですか? それはいいことですよね。

加藤ひさし

加藤ひさし

──35年の歴史を感じます。最初期曲の1つ「ロボット工場」もカッコよかったです。

それこそTHE COLLECTORS結成以前のTHE BIKEってバンドの頃からやってる曲だし、THE COLLECTORSの1stアルバム(「僕はコレクター」)にも入っていますしね。35年の歴史の中で、やっぱり1stアルバムの曲もやらなきゃねと言ったときに、コータローが「『ロボット工場』がいいよ」と言い出して。それでやったんですけど、いつも以上にパンク魂が炸裂してましたね。

好きなものを35年続けている男たちの姿が武道館で輝く瞬間

──2度のワンマンのステージを経験されて、加藤さんの中で武道館の印象は変わりましたか?

全然変わりますよ。やっぱり人は経験値を積むことが大事で、やればやるほどそのホールに慣れていきますから。もっといいステージングを……照明とか映像とか、自分の動きも含めて、やりたいなと思いますよね。次にやるとしたら、もっと細かな部分まで意識して、いろいろとやってけいるんじゃないかなと思いました。実際、THE COLLECTORSクラスのバンドで武道館をやるのはすごく大変なんですけど、本当に好きな会場なので何度でもやりたいんですよ。毎年ぐらいのペースで武道館ワンマンができたら楽しいだろうなって、いつも思います。

──本当に素晴らしいライブだったので、たくさんの方にWOWOWプラスで観ていただきたいです。そして7月、8月の東名阪ツアーも決まりました。

不器用なロックバンドですけど、好きなものを35年続けている男たちの姿が武道館で輝く瞬間をぜひとも見ていただいてね。それで気に入ってもらったら、東名阪のツアーに足を運んでいただいて、実際に今度は生のライブを体験してほしいなと思っています。あとは映像をどこまでカッコよく仕上げてくれるかですね。問題は被写体が前回から5年分、歳をとっていること。そこはちょっと品質が保証できないっていうか……(笑)。

──あはは。5年経って、さらに若返っていますから大丈夫です。

そりゃあ遠くから見たらね。でも実際は車も人も時間が経てば古くなる(笑)。そこだけなんですよ、心配なのは。でも、前回もカッコいい映像を作ってくれたから、いいものになっていると思います。

「THE COLLECTORS 35th Anniversary "This is Mods"」の様子。

「THE COLLECTORS 35th Anniversary "This is Mods"」の様子。

ライブ情報

THE COLLECTORS 東名阪ツアー

  • 2022年7月23日(土)東京都 チームスマイル・豊洲PIT
  • 2022年8月27日(土)大阪府 BIGCAT
  • 2022年8月28日(日)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO

プロフィール

THE COLLECTORS(コレクターズ)

1986年に加藤ひさし(Vo)と古市コータロー(G)を中心に結成。1987年にアルバム「僕はコレクター」でデビューすると同時に、ブリティッシュロック、サイケデリックなどのエッセンスを取り入れたサウンドが話題を集め、日本のモッズシーンを代表するバンドとして認知される。2014年3月に小里誠(B)が脱退し、同年11月にそれまでサポートベーシストを務めていた山森“JEFF”正之(B)が正式加入。2016年6月の阿部耕作(Dr)脱退後、2017年2月よりサポートドラマーとして参加していた古沢'cozi'岳之が正式メンバーとなった。同年3月にはバンド史上初となる東京・日本武道館公演を開催。2020年11月には24枚目のアルバム「別世界旅行~A Trip in Any Other World~」をリリースし、2021年11月にはデビュー35周年記念DVD BOX「Filmography」を発表。2022年3月に、自身2度目の日本武道館ワンマンを成功させた。