SUPER BEAVERはどのように形作られたのか?さいたまスーパーアリーナ公演を前に語る、8つのターニングポイント (3/3)

⑥POLYSICSハヤシさんからの言葉(2015年)

柳沢 eggmanに入ってから喜べることがすごく増えてきたんですよ。赤坂BLITZでツアーファイナルをできるようになったり、アルバイトをしなくてよくなったり。でも、それで逆に不安になっていた時期もありました。メジャーを辞めて以降は悔しさを燃料に長いこと曲を書いてきたけど、このハングリー精神が消えてしまったときに、俺はちゃんと曲が書けるんだろうか?って。そういう話をツーマンツアーの仙台公演のときにPOLYSICSのハヤシさんにしたら、「マイナスとマイナスをかけるとプラスになるけど、プラスとプラスは最初からプラスだよ」と言われたんです。それがめちゃくちゃ刺さったんですよね。ハングリー精神や悔しさのようなネガティブな感情をポジティブに変換する歌にはものすごいパワーがあるし、きっとこれからも悔しいことがあるたびに歌にしていくんだろうけど、うれしいことを「すごくうれしい」と言ったり、楽しいことを「やっぱり楽しいよね」と言うこともすごく大事なことじゃないかと。もっともっと、自分の感情に素直に曲を書いていこうと思えた大きなきっかけだったかなと思います。

──最新アルバム「音楽」では、反骨心で曲を書いていた頃の柳沢さんとはまた違う形で「マイナス×マイナス=プラス」的な表現をされている印象を受けました。「幸せのために生きているだけさ」の「明けない夜は無いとしても 明けないで欲しい夜もあると 涙まじりに 零れた声 無いものにはしたくないな」や、「小さな革命」の「歓びがもし倍になったって 哀しみは半分になったりしない 本当の意味で 痛みは分かち合えない」など、世の中にすでに広まっている言葉を引用しながら「とはいえ、そうとは言い切れないケースもある」というふうにメッセージを展開していく曲が多いですよね。

柳沢 そこまで聴いてくれてうれしいです。斜に構えないと書けないことがあると思い込んでいた時期もあるんですけど、「マイノリティに目を向けたい」とか「マジョリティは悪だ」みたいな話では必ずしもなくて。今は物事を純粋に見ながら「でも、一概にそうは言えないよな」と素直に目を向けられるようになってきました。自分たちなりにまっすぐに物事を見たら、「こういうことだってちゃんと歌いたい」というところに気付けるようになったんだと思います。

⑦コロナ禍でのバンド活動(2020年)

上杉 俺は、2020年にチームで円滑に動けたことが大きいと思っていて。円滑に動けた理由は、さかのぼって、東日本大震災のときにすごく悔しい思いをしたからなんじゃないかと個人的には思っているんですけど。音楽は衣食住にまつわるものじゃないけど、じゃあ自分らには何ができるのかと考えるきっかけになりましたし、「何もできなかった」というモヤモヤ感が残っていたからこそ、「次こういうことが起きたらどういうふうにするべきなのか」と2011年以降どこかでずっと考えていた気がするんですよね。コロナ初年度の我々は、「ルールを守りながら、やってもいいとされていることは責任を持ってやろう」という方針で動いてました。そのために4人だけじゃなくて、レーベルやマネジメント、ライブ制作に携わってくれる人とは、常にディスカッションしていましたし、「今はそういうムードじゃないからさ」じゃなくて、自分たちのことは自分たちで意思決定するようにしてました。あのときチームで連携をとれたことは、絶対に今のSUPER BEAVERの活動につながっていると思う。そういう意味で、大きなターニングポイントだったんじゃないかと思いますね。

上杉研太(B)

上杉研太(B)

──そこに関連する話ですが、先日、6月24日に金沢歌劇座でワンマンライブ「都会のラクダSP 行脚 ~EXTRA~」を開催することを急遽決定してましたね(参照:SUPER BEAVERが金沢でのワンマン開催を急遽決定、YouTubeでライブ配信も)。

柳沢 「やっぱり行きたいよね」という話がチーム内で出て、スタッフに会場を探してもらったら、6月に空いてる小屋があるということで。ツアーとかライブって、今までは理由を付けてやることが多かったんですよ。リリースしたからツアーやります、とか。だけど2020年以降、「行脚」という便利な名前を編み出して、今やってるツアーも含め「行けるときに行きたいからただ行く」という感じでガンガンライブをやってますし、そういう意味では金沢もそこまで深い意味はないですね。

上杉 「やりたいからやります」というのは、すごく健全な気がする。

柳沢 そうだよね。ツアーの最中にアルバムが出て、「じゃあ『音楽』のリリースツアーはいつやるんですか?」という空気も一瞬あったんですけど、別にもう、リリースツアーと銘打ってやらなくてもいいかなと思っていて。年間かけて、アルバムの楽曲も含めたセットリストでいろんなところでライブをやれればいいんじゃないかと。

──なるほど。

柳沢 渋谷もSNSで発信してましたけど、俺らにやれることは音楽でしかないので。とはいえ、同じ石川県内でも金沢市まで足を運べない人はきっとまだまだいるだろうから、YouTubeで無料配信をやっちゃおうと。YouTube配信も2020年以降の経験があってできるようになったことですよね。自分たちで発信しているものを無料で渡そうなんてつもりはないですけど、足を運びたいけど運べない人、なんらかの事情で足を運ばないという決断を自らする人もいるんだということは、2020年以降すごく意識するようになって。俺たちの音楽で何か感じてもらえることがあるんだったら、俺たちはどこにだって行くんですけど、来れない人にも何か楽しんでもらえたら、という気持ちはあります。

──もちろんレーベルや事務所の協力があって成り立っていることだと考えれば、先ほど藤原さんが話してくれたエピソードともつながっているというか。

藤原 そうですね。「配信を無料でやってみようよ」なんてアイデアに対して「いいよ」と言ってくれる取締役がいるような会社に入れたというのも、ありがたいことだなって思います。

⑧9thアルバム「音楽」の制作(2024年)

上杉 実はまた最近、ターニングポイントを迎えておりまして。今回のアルバムで、プロデューサーの河野圭さんと一緒に制作をしたことで、音楽への興味がさらに湧いたんですよ。今まではけっこうパッションでベースや音楽に対してアプローチをかけていたし、そこに生きがいを感じていたので、「わからないものはわからないままでいい」というエネルギーだけで突っ走っていたところがあったんですよ。だけど河野さんが音楽の先生みたいな感じでいい距離感でアドバイスをくれて、より専門的な知識を得る中で、自分の中でいろいろ合点がいったりして、もっと音楽が楽しくなってきました。なので、最近またベースの練習に時間を割くようになってきてますね。理論に詳しい知り合いのバンドマンにレッスンをしてもらったりとか。もうすぐ結成20周年ですけど、このタイミングで新たなターニングポイントを迎えられていること、音楽を楽しめていることをうれしく思っています。今後の制作における考え方やアプローチも変わってきそうなので、そういう変化も楽しみながらやっていきたいですね。

アルバム「音楽」ジャケット

アルバム「音楽」ジャケット

過去最高の夜を作っていけたら

──先述の通り、現在SUPER BEAVERは全国ツアー中です。全国を回りながら、どんな手応えを感じていますか?

藤原 去年の9月から11月にかけてホールを回って、年明けからはアリーナを回っているんですけど、その間に新曲のリリースもいくつかあったので、セットリストもちょっとずつ変わっていったんですよ。演出や見せ方も含め、ホールはホールならではの、アリーナはアリーナならではの表現がちゃんとできてるんじゃないかと思います。ホールも観に行ったしアリーナも観に行くという人がどれだけいるのかはわからないけど、「両方よかったね」と言ってもらえるようなツアーになってるんじゃないかと。

上杉 めちゃめちゃいいクオリティで、チームの士気も高い状態でアリーナ編に入れたので、とても充実してます。ホールもアリーナも年々ちょっとずつ経験を積ませてもらってるので、バンドもチームもよりタフになったように感じていて……やっぱり何事も積み重ねですよね。昨年の富士急2DAYSとかの経験もけっこう生きてる気がする。

柳沢 今回ってるアリーナ編って、僕ら的には2023年度の集大成なんですよ。2023年はアコースティック編成でのツアーで始まりましたけど、2月に自主公演があって、3月にファンクラブツアーがあって、4月はなかなか行けなかった街のホールへ行くツアーがあって、夏には富士急ライブがあって……とけっこう新しいことが続いたし、1年通していろいろなSUPER BEAVERを届けられた気がしていて。そんな2023年度のピークというか、すべてが積み重なって今のツアーがある。なので、いろいろな経験が生かされていて。熱量は高いけど、リラックスできていて、ニュートラルにいいものを届けられている感覚はあります。

渋谷 まだ5本残ってるので一概にこうだとは言えないですけど、楽しいツアーですね。アリーナ公演に関しては、楽しいと思えるまでにけっこう時間がかかったんですよ。正直今までは意気込みすぎちゃっていたようなところがあって。「おそらくここは肩の力を抜いたほうが遠くまで飛ばせるだろう」というときに、そう思いつつ、ガチガチになりながら、無理やり肩の力で投げていたんですよね。だけど今回は自分たちやバンドのことをちゃんと客観視して、抜くべきところでは抜くことができている。気持ちはいつも120%ですけど、届かせるべき場所へ必要最低限の力で100%届けられるようになってきた気がするんです。なので、よりちゃんと届けられるようになったし、自分自身も楽しめるようになってきています。

SUPER BEAVER

SUPER BEAVER

──3月24日にWOWOWで生中継されるさいたまスーパーアリーナでのツアーファイナル公演は、どんなステージになりそうですか?

渋谷 前回のさいたまスーパーアリーナ公演がコロナ禍だったので、ソールドアウトはしたんですが、空けなきゃいけない席もあったんですよね。だけど今回のさいたまスーパーアリーナはギチギチに人を入れられる状態でのソールドアウトで、しかも声出しもできる。前回とはひと味もふた味も違ったライブになるんじゃないかと感じています。いつもと違わず、「楽しませながら、自分たちも楽しむ」ということを絶対に忘れないようにしながら、過去最高の夜を作っていけたらいいんじゃないかと。まあ、いい日になるんじゃないかなと思ってます。

柳沢 実はツアーではアルバムの新曲を先行してやっていたんですが、ファイナルはアルバムが出たあとのライブになるので、アルバムを聴いてからライブに来てくださる方も多くいらっしゃるんじゃないかと。もしかしたら曲をやってるときの空気が少し変わってくるのかもしれないので、そういう変化も楽しみですね。

プロフィール

SUPER BEAVER(スーパービーバー)

渋谷龍太(Vo)、柳沢亮太(G)、上杉研太(B)、藤原“35才”広明(Dr)の4人によって2005年に東京で結成されたロックバンド。2009年6月にEPICレコードジャパンよりシングル「深呼吸」でメジャーデビューした。2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタートさせた。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと契約を結んだことを発表。2021年7月に映画「東京リベンジャーズ」の主題歌を表題曲としたシングル「名前を呼ぶよ」をリリースした。2023年は映画「東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 –運命- / -決戦-」に主題歌「グラデーション」「儚くない」を提供し、7月に山梨・富士急ハイランド・コニファーフォレストでキャリア史上最大キャパシティの野外ワンマンライブ「都会のラクダSP ~ 真夏のフジQ、ラクダにっぽんいち ~」を開催。さらに8月より対バンツアー「都会のラクダSP ~サシ飲み五番勝負、ラクダグビグビ~」、9月よりホールとアリーナを回るツアー「都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」を行っている。2024年2月にアルバム「音楽」を発表。6月より野外ツアー「都会のラクダ 野外TOUR 2024 ~ビルシロコ・モリヤマ~」を行う。