sumikaがサーカス小屋で見せた新しい景色──ライブツアー「FLYDAY CIRCUS」を振り返る (2/2)

「この人がそう考えているなら、乗ってみよう」と思えるのが“信頼”

──荒井さんはドラムだけではなく、サックスプレイヤーとしても魅せてくれました。

荒井 サックスは4、5年前に趣味で始めたんです。いつかは自分のバンドで吹けたらいいなと思っていたし、さっき健太が言っていた通り「今までのsumikaのフォーマットとは違うものを見せていかなければ」という気持ちもあったので、2023年3月ぐらいから再び本格的に練習し始めて。その時点で「SING ALONG」と「FLYDAY CIRCUS」という2本のツアーが決まっていたので、そこを見据えて準備していました。「SING ALONG」ツアーは途中で延期になりましたが、sumika[roof session]で引き続きサックスを吹いて、そこから「FLYDAY CIRCUS」に入って。「SING ALONG」ツアーの中断は予定外でしたが、sumika[roof session]の活動を通して、結果的にはsumikaの新しい一面を見せることができたと思っています。

荒井智之(Dr, Cho)

荒井智之(Dr, Cho)

──荒井さんのサックスの音色にお客さんが聴き入っているのが伝わってきて。演奏が終わったあとに「カッコいい!」という声が客席から上がったり、とてもいい雰囲気でしたね。

荒井 sumikaを好きでいてくれてる方って、ネタバレを守ってくださる方ばかりなんですよ。「SING ALONG」ツアーでサックスを吹いたときも、「ネタバレ厳禁」とファンの方々が言ってくださっていたみたいで。sumika[roof session]でもネタバレ厳禁だったようで、「これはどこまで続くんだろう?」と(笑)。

小川 誰も言わない(笑)。

荒井 当初は「SING ALONG」ツアーを完走したら、「実はこのツアーからサックスを吹き始めたんですよ」と言おうと思っていたんですが、中断したことによって、ファンの皆さんに報告するタイミングを見失ってしまって。「FLYDAY CIRCUS」ツアーが終わった時点で「実はサックスを始めました」と言っても今さら感があるし、このまましれっと吹いてる感じがよさそうですね(笑)。サックスを吹くツアーを1本ちゃんと完走したいなと思っていたので、僕は今回すごくうれしかったし、ホッとしています。

荒井智之(Dr, Cho)

荒井智之(Dr, Cho)

片岡 今回のツアーを通して、お客さんの受容する力もすごいなと思いましたね。おがりんも言っていましたけど、ボーカルが変わってクレームがこないのもそうだし。やってみなきゃわからないことが、今回のツアーではいっぱいありましたけど、それが好意的に受け入れられて、ツアーファイナルまで行けたというのは、本当に来てくださる方の器がでかいということです。それはめちゃくちゃすごいことだし、誇らしいことだなと思います。

──確かにそうですね。

片岡 僕らは普通に音楽が好きで集まっていて、「この楽器ができる」というメンバーがそれぞれ加入しましたけど、それはもはや枝葉なのかもしれない。僕らはスキル的なところを重視して手を組んだビジネスライクなチームではなく、人としての魅力があるから一緒にバンドをやっていた。だから、メンバーには枝葉の部分にとらわれないでほしい。その人がやりたいことをやっていれば、ポジティブな空気が生まれていくと思う。そういう空気があるからこそ、僕らはいいバンドなんですよ。

荒井 確かに我々は「この人だから」という人間的な部分で一緒にいられていることがすごく大きいと思う。でも、考え方や音楽性、今後の方向性が一緒だからやっていけてるというわけでもなくて。バンドって考え方や思い描いているイメージが絶対にメンバーみんな一緒じゃなきゃいけないと昔は思っていたこともありました。もちろんそれも1つのバンドの形だとは思うんですけど、僕としてはメンバーそれぞれ考えていることや価値観が違っていたほうが面白いし、「この人がそう考えているなら、乗ってみよう」と思えるのが“信頼”だと思う。sumikaにはそういう空気がずっとあります。まずはやってみて、お互いにどう感じるかということを、素直に、ネガティブではなくポジティブに言い合える関係を、メンバーともお客さんともずっと続けていきたいです。

sumika

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来てくれる人が僕たちにとっての住処

──4月21日に神奈川・ぴあアリーナMMで行われたツアーファイナルのステージの模様が、WOWOWで5月26日に放送されます。あの日、どんなことを考えながらステージに立っていましたか?

片岡 1つのツアーをやり切ることができたのが、「Ten To Ten」ツアーぶりなんですよね。1年以上空いちゃって。本当にひさしぶりに、ロールプレイングゲームを最初から最後までやった感じというか、みんなでレベルを上げて、「このパーティでラスボスに勝負を挑めるところまできたんだ」みたいな気持ちになれたことがまずうれしかったです。最後までライブをやり切って、お客さんに向けてスクリーンで流れていたエンドロールを、ステージの袖からメンバー全員で観ていたんですよ。とんでもない角度で顔を上げていたので、首が折れるかと思ったんですけど(笑)、横一列になってみんなでエンドロールを観ているときに、「本当にこのゲームが終わったんだな」という気持ちになって。あそこが一番泣けたかもしれない。「いい物語だったな」って。

小川 あれはいい場面だった。

片岡健太(Vo, G)

片岡健太(Vo, G)

「sumika Live Tour 2024『FLYDAY CIRCUS』」神奈川・ぴあアリーナMM公演の様子。

「sumika Live Tour 2024『FLYDAY CIRCUS』」神奈川・ぴあアリーナMM公演の様子。

荒井 「ツアーを完走したときにどんな感情になるのかな?」とツアー中にずっと思っていて。寂しいと感じるのか、ホッとするのか、いろいろ考えていたんですけど、シンプルに「うわー、楽しかった!」という感情が最初にきました。去年は本当にいろいろあって、想像もできない出来事も起きて、それでも音楽を続けたいと思ったからバンドをやっているわけですけど、多少なりとも虚勢を張っている部分もあったなと。自分たちの決意を込めた「Phoenix」というシングルを去年10月にリリースして、「FLYDAY CIRCUS」ツアーにも焼け野原からの復興という意味を込めて、“復活”という思いを打ち出してきて。そんな中で、みんなで「笑顔で楽しくいこうぜ」とは言っていたけれども、「本当に心が健康な状態で打ち出せていたか?」と言われると、そうでもない部分もあったし。それでもやっぱり、不死鳥のように灰の中から立ち上がろうとしたり、サーカスを観るように笑っていようと思えたりしたのは、待っていてくれる人がいるからだなと感じています。それを、ツアーファイナルが終わって、みんなで前に出て挨拶をしているときにすごく思ったんです。お客さん1人ひとりの顔が、sumikaを愛する感情にあふれているように僕には見えたので。来てくれる人は本当に、僕たちを“住処”だと思ってくれているんだろうなと思うと同時に、こうして来てくれる人が僕たちにとっての住処なんだなということを感じました。そういう人がいてくれることがこんなに幸せで、それだけで人はポジティブになれるんだなということを感じたツアーファイナルでした。

小川 ツアーファイナルでは、メンバーの表情を見ながら演奏してみようと思ったんですよね。そしたら今までの公演以上に、みんなの表情が「バンドやってるな」という感じですごく生き生きとしていて。バンドってメンバーそれぞれお互いに影響を与え合いながらライブで演奏していくものですが、特にファイナルの日は、メンバーのエネルギーをビシビシと感じていました。「めちゃくちゃいいライブをしているな」という実感がありましたね。僕自身も、2人もゲストメンバーも、チームのメンバーも含めて、みんながいい表情をしながら立てたステージだった。ライブに向けていろんな苦労があったんですけど、それを乗り越えて出た表情がファイナルの日にはあったと思います。

片岡 音楽的な見せ場も、演出的な面白い仕掛けもいっぱいあるツアーだったと思います。今までのsumikaともかけ離れたライブができたので、ぜひとも放送で楽しんでほしいです。

──6月にはツアーのドキュメンタリー映像もWOWOWで放送されます。リハーサルからずっとカメラが密着していたそうですね。

小川 ケータリングで何をよそうかも、全部撮られました(笑)。

片岡 取り繕いようがないよね(笑)。何が映っているか僕らもまだ知らないんですけど、きっといいものになってると思いますよ。そちらもぜひ、お楽しみに。

sumika

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プロフィール

sumika(スミカ)

2013年5月に結成。2017年にバンド初のフルアルバム「Familia」をリリースし、2018年には東京・日本武道館公演2DAYSを含むホールツアーを開催。その後も映画「君の膵臓をたべたい」「僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ヒーローズ:ライジング」「ぐらんぶる」、テレビドラマ「おっさんずラブ-in the sky-」、テレビアニメ「ヲタクに恋は難しい」「MIX」「美少年探偵団」「カッコウの許嫁」など、数々のタイアップソングを手がけてお茶の間に自分たちの音楽を広げた。2022年に結成10周年イヤーを迎え、9月に4thアルバム「For.」を発表し、同月よりライブツアーを行った。2023年3月にアコースティック編成・sumika[camp session]名義での初のミニアルバム「Sugar Salt Pepper Green」をリリース。5月に神奈川・横浜スタジアムで結成10周年ライブを開催した。同年はテレビアニメ「MIX MEISEI STORY ~二度目の夏、空の向こうへ~」オープニングテーマ、ドラマ「ポケットに冒険をつめこんで」エンディングテーマを担当。年末は片岡健太(Vo, G)の急性声帯炎のため、小川貴之(Key, Cho)がリードボーカルを務める別名義バンドsumika[roof session]として活動を行った。2024年2月からホール&アリーナツアー「sumika Live Tour 2024『FLYDAY CIRCUS』」を開催。5月にEP「Unmei e.p」をリリースした。