2月11日に開催されたくるりの結成25周年記念ライブ「くるりの25回転」東京公演の模様が、4月10日(日)にWOWOWライブ / WOWOWオンデマンドで放送および配信される。
「くるりの25回転」は、くるりのバンド結成25周年を記念して大阪、東京の2都市で開催されたライブイベント。東京公演には石若駿(Dr)、松本大樹(G)、野崎泰弘(Key)、ハタヤテツヤ(Key)、山崎大輝(Per)、加藤哉子(Cho)、ヤマグチヒロコ(Cho)、副田整歩(Sax、Clarinet)、大石俊太郎(Sax, Clarinet)、沢圭輔(Manipulator)という腕利きのバンドメンバーが参加し、新旧織り交ぜた全27曲がパフォーマンスされた(参照:くるりが25年の歴史を総ざらい、豊潤なアンサンブルを奏でた「くるりの25回転」)。
WOWOWでは、4月から5月にかけてくるりの結成25周年を記念した特集を展開。「くるりの25回転」のほかに、パッケージ化されていない公演を含む過去のライブ映像4本を順次オンエアする。音楽ナタリーでは25周年を終えた岸田繁(Vo, G)と佐藤征史(B)にインタビュー。「くるりの25回転」の話題を中心に、この25年間で起こったバンドの変化について聞いた。
取材・文 / 柳樂光隆撮影 / トヤマタクロウ
「くるりの25回転」を終えて
──「くるりの25回転」、大阪と東京の2公演を終えてみていかがですか?
岸田繁(Vo, G) 楽しかったけど、疲れましたね。
佐藤征史(B) 怒涛でしたからね。自分らとしては25周年の節目云々というより、ライブができてよかったなという感覚のほうが強かったです。
──選曲や編成に関してはどんな意図があったんですか?
岸田 僕らは普段、ライブの選曲が偏っていると言われますが、今回は各アルバムから人気曲を中心に2曲ずつくらい満遍なく選びました。僕ら的にはいつも偏ってないつもりなんですけどね(笑)。編成については最初からだいたいのイメージがあって、編曲に関しては弦楽四重奏で書かれているものを木管楽器、マレット楽器、鍵盤に分担していく形で、スコアを作り直す作業を年末年始に突貫工事的にやったので疲れました。
佐藤 この短期間であらきゆうこさん、石若(駿)くんという2人のドラマーと一緒にやれたのもいい体験になりました(※大阪公演はあらき、東京公演は石若がドラムを担当)。オリジナルのドラマー(2002年に脱退した森信行)が抜けてから、いろんな人とやらせてもらっていますけど、ドラマーが変わっても自分たちのやることは変わらないとずっと思ってたんですよ。誰とやっていてもその曲に対しての自分の演奏の正解は1つみたいな感じで。でも、この短期間にいろんな曲をやって、ドラマーが変わったらやっぱ違うなと気付いて。そういうのも含めて、大阪でも東京でもフレッシュに演奏できました。ツアーで何十回と同じ曲をやっていくと、「ここはこういうキメでやるのが正しい」とか変な癖が付いたりするんだけど、今回はまっさらな状態でその瞬間瞬間の演奏を届けられたかなと思います。しかも、あまりやらない曲をフレッシュにやってる状態やからこそ如実に出ている。それが楽しかったかな。
──ドラマーが変わると変わりますよね。
佐藤 変わりましたね。
岸田 しかも、2人は真逆の人やから。東京と大阪で同じセットリストなんですけど、別のことを2回やった感じですよね。でも全然違っていても、その曲をちゃんとお客さんに聴かせないといけない。そういう意味では演者みんなそうですけど、佐藤さんは“その曲に聴こえるために”みたいなところでいろんなことをやったんじゃないかなと思います。
初期曲をやればやるほど課題が山積み
──WOWOWでは「25回転」のほかに、2006年から2011年にかけてのライブの中から厳選された4公演の映像がオンエアされます。この取材の前に2009年と2011年の武道館公演の映像を観て来たんですけど、馴染みのある曲がびっくりするくらい違う曲になっていて。
岸田 最近の曲はまだ育ってないからわからへんけど、キャリア初期の曲は当時のまま演奏できないんですよ。俺の声も全然違うし、さっき佐藤さんが言っていた「こういうときはこうですよね」というやり方の蓄積みたいなものがある。それが初期の曲だと通用しないので、全然違う答えを出さないといけないわけです。くるりは私と佐藤さんと森さんの3人で始めたバンドですから、正解はそれなんだろうなと思うし、クリストファー(・マグワイア)がいた4人時代も、そのときそのときの音でバンドはできあがっている。それを追って演奏してもコピバンぽくなっちゃうんですよ。だから初期曲をやればやるほど、課題が山積みになるんです。
──僕は1979年生まれで、高校生の頃に初めてくるりの音楽を聴いたんですよ。その当時、「自分と年齢がそんなに変わらないのに成熟していてすごい。大人だな」という印象があって。でも今回改めて2009年のくるりを見てみると、当然2人ともすごく若いし、「岸田さんってこんなにイキってた?」みたいな感じで新鮮でした。
一同 (笑)。
岸田 イキってましたよね、すいません。
──くるりってずっと活動を追いかけていると、あまり変化に気付かれないバンドだと思うんです。「25回転」も「くるりってこんな感じでずっとやってきたよね」と思って観ていたんですけど、過去と比べるととんでもなく違う。
岸田 サザンオールスターズみたいなバンドなら、いろんなことをやられているでしょうし、たぶん初期と後期でわかりやすく違うと思うんです。彼らの場合はマスに対するイメージとかパッケージとしての売り方とかに一貫性があるからだと思うけど、くるりの場合は垂れ流しみたいな感じですから(笑)。
佐藤 ちなみに、2009年の武道館公演は石若くんがギタリストの西田(修大)くんに勧められて観たライブですね。
岸田 そうそう。石若に「くるり大好きなんです」と言われて、きっかけを聞いたらそのライブだった。だから「入り口として間違ってるよ」と伝えて(笑)。
佐藤 石若くんと初めて一緒に演奏したとき、ホンマに爆音で叩いてたんですよ。ちっちゃなライブハウスだからけっこう大変で、ライブが終わってから聞いてみたら「すいません、ロックってフルでいくものだと思っていました」みたいなことを言っていて(笑)。
岸田 言っとったな(笑)。
佐藤 それも含めて「25回転」は、石若くんが参加してからの期間をまとめるようなライブでもあったんじゃないかな。石若くんはやろうと思えばもっといろんなことができる人だと思う。「惑星づくり」みたいなけっこうフリーな曲でも、譜面通りにやってくれて。もちろん原曲はツインドラムなんで、1人で叩くのは難しいんですけどね。そんな感じでお互いがいろんなアプローチをやり合えた中で「25回転」の27曲をこなす結果になったなと。
──石若さんは原曲をかなり聴き込んで、それを踏まえて忠実に叩いていますよね。
岸田 石若くんはいつも採譜してきて、ある程度形が決まっているものや特徴的なフィルに関してはオリジナルのものを一度自分の体に入れるんですよ。彼には「特段決まっているもの以外は自分の形でやって」と伝えていて、今回もイメージをしっかり組み立ててやってくれたなと思います。あと今回はギターの松本(大樹)くんが敢闘賞だと思っていて。なんの打ち合わせもしてないし、演奏のデータも「いらん」と言われたんですけど、やってみたら痒いところを全部弾いてくれていてすごいなと。
佐藤 職人ですよね。
岸田 「お前すごいな」と言ったら「今回は時間があったんで」って。いつもすんません、という感じですよ。
──それだけ準備して仕上げてきたってことですね。
岸田 僕らは普段は誰とやるときでもノリでやっちゃうんです。でも今回はスコアを書いたし、クリックも使ってますしね。みんなきっちり仕上げてきてたから、そういうよさが出たのかなと思います。準備をすればそれだけの結果が出るなって。
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「25回転」は楽曲にとっての七五三