Perfumeとゆかりの深いライターたちが振り返る「PLASMA」ツアー|WOWOWでの放送に向けて見どころを語り合う座談会

Perfumeが最新アルバム「PLASMA」を携えて今年開催した約4年ぶりのアリーナツアー「Perfume 9th Tour 2022 "PLASMA"」のうち、10月29、30日に行われた埼玉・さいたまスーパーアリーナ公演の模様が、1月8日にWOWOWライブ / WOWOWオンデマンドで放送・配信される。

音楽ナタリーではこの番組のオンエアを記念して、Perfumeとゆかりの深いライターたちを迎え、ツアーの感想を語り合う座談会を企画。長年にわたってPerfumeのオフィシャルインタビューやライブレポートなどを執筆している藤井美保氏、2007年から続くPerfumeによる「TV Bros.」での連載「たちまち、語リンピックせん?」にて聞き手を担当している照山紅葉氏を招き、各々がさいたまスーパーアリーナ公演を観て感じたことについて振り返ってもらった。

トークテーマが1公演のみということで、始める前まではそこまで長い時間はかからないだろうと編集部が予想していた座談会だったが、いざ話し始めてみるとついつい熱が入り、予定していた時間は大幅にオーバー。結果、本稿は2022年現在のPerfumeの魅力についてたっぷりのボリュームで掘り下げる内容となった。会場でライブを体験できた人もできなかった人も、ぜひこの記事を読みながらWOWOWでの放送に向けて気持ちを高めてほしい。

取材・文 / 橋本尚平

それぞれのPerfumeとの関わり

藤井 はじめましてですし、まず自己紹介代わりに、それぞれのPerfumeとの関わりみたいな話をしましょうか。私は2008年にアルバム「GAME」が発売されたときに初めてインタビューで3人にお会いしました。それまでは、CMで「ポリリズム」が流れてるってことくらいしか知識はなかったんですが、話してみたら3人ともすごく面白いキャラクターで。普通、10代くらいだと台本を読むようにインタビューに答える人も多いんですけど、Perfumeはまったくそうじゃなかったんですよね。そこから興味を持ってライブも追いかけるようになりました。

──藤井さんは海外ツアーも一緒に回って取材されてましたよね。

藤井 雑誌の派遣だったり、レコード会社のオフィシャルだったりで、運よくいろいろ行かせてもらっています。シンガポール、ロンドン、ロサンゼルスとか。あとニューヨークには2度行きました。「Coachella」を観られたのも本当にラッキーですね。

照山 藤井さんのおかげで海外でのライブの状況を詳しく知ることができました。いかんせん、「TV Bros.」は庶民派テレビ誌なので海外取材なんて夢のまた夢で(笑)。

藤井 いやいや、私「TV Bros.」の愛読者ですから(笑)。照山さんが担当している「TV Bros.」の連載(「たちまち、語リンピックせん?」。現在は「TV Bros.WEB」「TV Bros. note版」で毎月更新中)は長くやってますよね。

照山 2007年9月に「ポリリズム」がCDリリースされるタイミングで連載がスタートしたので16年目になります。最初にPerfumeを知ったのは「ビタミンドロップ」がリリースされる頃、掟ポルシェ(ロマンポルシェ。)さんに「とにかく彼女たちはすごいから!」と勧めてもらったことがきっかけです。ちなみにPerfumeの「TV Bros.」初登場は2005年。「リニアモーターガール」でメジャーデビューする際、掟さんが編集部に直談判した結果「音源を聴いたらすごくよかったので見開きでインタビューやりましょう」と掲載が決まりました。

「Perfume 9th Tour 2022 "PLASMA"」より「Puppy love」のパフォーマンスの様子。

「Perfume 9th Tour 2022 "PLASMA"」より「Puppy love」のパフォーマンスの様子。

藤井 橋本さんはいつから関わられているんですか?

──Perfumeを知ったのは2004年に「モノクロームエフェクト」がネットで話題になっていたのを見たのが最初です。その時点ではアイドルの曲をまったく聴いていなかったので「面白い音楽をやってるグループがいるんだな」という印象しかなかったんですけど、その後「コンピューターシティ」で「これは本当にすごいぞ……」と思って積極的に追いかけるようになって。音楽ナタリーがオープンするのはシングル「ファン・サーヴィス[sweet]」が発売された2007年2月なんですが、このときスターティングメンバーとして編集部に入れてもらって記者の仕事を始めて、仕事としてPerfumeのニュース記事を書くようになりました。メンバーに初めて会ったのは2011年のアルバム「JPN」発売時のインタビューですね。

照山 当時「ナタリーはニュースにするのが速すぎてキモい!」ということで、愛情を込めて「ナタキモ」なんて言われ方をしていましたね(笑)。

藤井 お二人とも初期の頃から注目されていたんですね。お宝の目利き!

照山 広島時代からPerfumeを応援しているファンの方がイベント映像など膨大なアーカイブを残してくれたおかげで、Perfumeを深く知ることができたことは大きいですね。2005年から2007年頃はちょうどYouTubeやニコニコ動画がオープンしたタイミングでもあって。だから当時は「Perfumeはネットとの親和性がある」みたいに言われていたんですが、むしろ本人たちはネットとの距離がすごくあるんですよね。最近ようやくInstagramの個人アカウントを開設しましたが、ネットよりライブで対面しての人と人とのつながりを一貫してずっと大切にしている印象があります。

周囲のどの角度からでも完璧に見えるように考えられた振付と演出

藤井 そう! そこがPerfumeのいいところなんですよね。そして「PLASMA」ツアーの演出はその面が極まっているなと感じました。

──お客さんと向き合うことを重視している感じがありましたよね。ぴあアリーナMMでやった「Perfume LIVE 2021 [polygon wave]」はアリーナ全面をステージとして使い、観客は上からそれを見下ろすというライブだったので、メンバーとお客さんとの物理的な距離は遠かった(参照:Perfumeが念願の有観客ライブに涙、バックダンサー迎えた初のパフォーマンスや新曲初披露も)。これに対して「PLASMA」ツアーはセンターステージを360°囲んでみっちりと観客を入れていたので、フィジカル面でもメンタル面でもメンバーとの距離の近さをすごく感じて。「polygon wave」は演出面なども含めて今のPerfumeの完成形と言えるような素晴らしい公演で、個人的にはこれまででベストなライブの1つだったと思うんですが、そんな「polygon wave」ではやらなかったことをやろうとしたのが「PLASMA」ツアーなのかなと感じました。

「Perfume 9th Tour 2022 "PLASMA"」より「ポリゴンウェイヴ」のパフォーマンスの様子。

「Perfume 9th Tour 2022 "PLASMA"」より「ポリゴンウェイヴ」のパフォーマンスの様子。

照山 まったく同じように思いました。やっぱり2020年2月26日に東京ドーム公演の2日目がコロナ禍で当日中止になったことは、本人たちにとってもファンの人たちにとっても忘れられない大きな出来事として残り続けてると思うんです。だからその後、オンラインフェスをやって「リモートでどうお客さんを楽しませるか」を考えたり(参照:Perfumeオンラインフェスで圧倒的バーチャルパフォーマンス、中止になった東京ドームに決着付ける)、「polygon wave」で新しいライブの見せ方に挑んだり、歓声を上げずに着席のまま鑑賞する「Reframe」でツアーをしたり(参照:Perfumeが地元広島で「Reframe」ツアーに幕「辞められん!何にも変えられん!震えるほど幸せ」)、今できるライブのやり方を模索していたわけで。

──そうやっていろんなことを試しているうちにコロナ禍がひと段落して、1周して「お客さんと対面でつながる」に帰ってきたのが「PLASMA」ツアーだったのかもしれませんね。

照山 360°をお客さんに囲まれてのパフォーマンスは普段と立ち位置も向きも変わるから大変だと思うんです。しかも今回は1曲目から正面方向を変えながら歌っていましたし。

藤井 あれはすごかったですよね。

照山 圧倒されました。360°センターステージでのライブは過去にも2015年の日本武道館「LIVE 3:5:6:9」などでやっていますが。

──サイコロを転がしてセトリを決めたときですね(参照:Perfume、武道館で「彼氏募集中」披露!すごろくコーナーにファン歓喜)。

照山 あのときは客席を4方向に分けて、順番に「今度はこっち向き」みたいな感じで、その方向に向けてライブをやってたんですよね。

藤井 そうでした! 南とか東とか方角で分けてましたね。

照山 でも今回はどこが正面ということはなく、1曲の中でフォーメーションを変えながらより自然にパフォーマンスしていた印象を受けました。

藤井 すごいですよね。前から観てきれいなのはもちろん、横からでも、後ろ姿でもきれいだった。どの角度からでも完璧に見えるように振り付けられてましたね。「そのままケースに入れてMoMAに飾りたいくらい美しいな」って思いながら観てました(笑)。

照山 演出面においても、中盤で3人を囲うように円筒状のスクリーンを垂らしたり、目の前で行われていることが客席のどの角度からも同じものが見えるようにしていましたよね。あれだけ巨大なスクリーンに360°映像を歪みなく流れるように数台のプロジェクターで投影する技術は、さすがライゾマティクスさんです。過去にあった「正面から見れば立体に見える」映像演出だと座席の場所によっては制作サイドが望んだ通り観られなかった人もいたので、そういうお客さんの声に応えてくれたんだと思います。「あの3DCG映像は誰が作ったんだろう?」と思った方は、ツアーサイトの最後に掲載されているスタッフクレジットを確認しながらオンエアをご覧になると、より楽しいです。

「Perfume 9th Tour 2022 "PLASMA"」より「Spinning World」のパフォーマンスの様子。

「Perfume 9th Tour 2022 "PLASMA"」より「Spinning World」のパフォーマンスの様子。

藤井 最初の頃のPerfumeは三角形をモチーフにすることが多かったし、いろいろなものが直線的な幾何学模様でデザインされていたんですけど、だんだん曲線や円を使うようになってきましたよね。たぶんそれは、ライブで生身の3人の魅力をフィーチャーするようになったのに伴ってのことだと私は感じていて。これっていつからかなと思い出してみたんですけど、2018年の「FUTURE POP」ツアーの最後のほうで、照明の光をメンバーに集めて、それ以外に演出らしい演出はほとんどなく3人の踊りだけに焦点を当てている場面があって、「これだよな」って思った印象があるんですよ(参照:驚きの演出を盛り込んだPerfumeツアー終幕「歳を重ねるってこんなに楽しいんだ」)。2019年の「Reframe」も、テクノロジーを見せるというテーマの公演だったのに、最後の「Dream Land」は“普通にパフォーマンスする”という内容でしたし(参照:Perfume、バージョンアップした圧倒的な演出と新曲で「Reframe」8公演完遂)。以前、MIKIKO先生とお話する機会があったのでこれについて聞いてみたら、もう先生が思い描いた通りにメンバーがやれるようになっているから、演出よりも本人たちの魅力に目が行くようにしていきたいんだという話をされていて。それがまさに今回のツアーで形になったんじゃないかと思いましたね。