武道館ならではの迫力ある演出
──武道館公演の演出面についても振り返っていただければと思います。まずオープニングのメンバー登場シーンからすごいインパクトでした。
南 まさかLEDのスクリーンが上下に割れて、その間からメンバーが出てくるとはみんな思わなかったはず(笑)。あとはファイアボールがたくさん吹き出していて、熱かったです。武道館の場内って基本的に冬は寒いんですけど、ファイアボールで体が暖まりました(笑)。
大上 「Anything New」「Ray」では10人のストリングス隊の方々に参加いただきました。ストリングス隊もスクリーンの間から登場したのでインパクトがあったと思います。
南 あと武道館公演では、曲に合わせてLEDが光る「シンクロリング」をお客さんに配りました。普段、PassCodeのライブではサイリウムやペンライトを取り入れていないので、武道館だけの特別な演出でした。コロナ禍でお客さんが声を出せなくなったのもあり、ステージを観てもらうだけで楽しめるライブを目指していたのですが、ライブに来てもらったからにはお客さん1人ひとりに「その場所にいる意味があるんだ」と感じてほしくて。どうしたらお客さんが一体感を持ってライブを楽しめるかを考えて、今回は腕に装着する形の「シンクロリング」を使う方法を思いついたので提案しました。そしたらすごくきれいでしたね。
大上 めっちゃきれいだった!
南 あの光にグッとくるものがあって、言うならば魂が照らされているような感覚。お客さんが強く掲げた拳の光がステージまで届いていたし、それが武道館を埋め尽くしていて。「シンクロリング」はコロナ禍がなければ思いつかないことだったので、できないことがたくさんあるご時世ですけど、こういうときだからこそできることもあるんだなと感じました。「It's you」で会場の人たちが歌っているかのような演出を用意できたのがその最たるもので。
──事前に募集したファンの歌声がシンガロングパートに使用されたそうですね。
南 状況が状況でどうしても武道館に来られなかった方も多くいました。うちの親もすごく楽しみにしてくれていたんですが、来られなかったんです。会場に足を運べなかった方にも何か思い出を残したかったので、歌声を事前に募集するという方法を取りました。だから「It's you」で募集した皆さんの歌声は、会場にいる人のものでもあるし、会場に来られなかった人に武道館を味わってもらうためのものでもあります。本当にたくさんの人の声が入っているので、ライブ映像でもぜひチェックしてもらえたらうれしいです。
──皆さんはよく自分たちのライブ映像を見返すんですか?
高嶋 よく観ますね。定点で撮影した記録用のライブ映像をメンバーみんな何回も観てます。
南 今回も武道館のスクリーンに流していた映像の生データをすぐ観させてもらいました。でも、会場でみんなが観ていた映像を見返すというのは初めてで、「ほかのメンバーはライブ中にこんな顔してるんだ」という新しい発見がありましたね。WOWOWさんで放送される映像はしっかり編集していただいてもっと観やすくなると思うので、放送が楽しみです。自分たちの映像が大好きなので(笑)。
──PassCodeはこれまでにいくつかライブ映像作品をリリースしていますが、映像でパフォーマンスを客観的に観て、自分たちの魅力に気付くことはありますか?
南 メンバーの成長を実感することはあります。年齢も重ねてきたから、「昔より少しは色気あるな」とか(笑)。ステージに立つ人の顔にだんだんなってきているのはいいことだなと思います。
大上 昔は子供ががんばってる感じだったからね。同じ曲のパフォーマンスでも、歌い方が変わっていることに気付くと感動します。
──なるほど。武道館公演では演出以外にもすごいなと思ったところがいろいろありまして、1曲目のメジャーデビュー曲「MISS UNLIMITED」から一気に盛り上がる感じがありましたが、この曲はしばらくやってなかったんですよね?
南 去年の3月くらいからやってませんでした。それまでは毎回ライブやるような定番曲で、メンバーもファンの方も「MISS UNLIMITED」に慣れている感じがあったので、1年間やらずに武道館の1曲目に持ってきたんです。
──セットリストは南さんの考案によるものだそうですが、1曲目から最後までどのようなイメージで考えたんですか?
PassCode「PassCode NIPPON BUDOKAN 2022」2022年2月12日 日本武道館 セットリスト
- MISS UNLIMITED
- Toxic
- Freely
- Taking you out
- Seize Approaching BRAND NEW ERA
- DIVE INTO THE LIGHT
- ONE STEP BEYOND
- Future's near by
- Club Kids Never Die
- rise in revolt
- FLAVOR OF BLUE
- horoscope
- Remnants of my youth
- STARRY SKY
- Tonight
- Same to you
- Anything New
- Ray
<アンコール>
- ATLAS
- Seize the day!!
- It's you
南 まず、3曲目までで「PassCodeはこういうグループだよ」というものを示しました。1曲目がメジャーデビュー曲で、2曲目は「Toxic」という、インディーズ時代の1stアルバム(2014年10月発表の「ALL is VANITY」)の冒頭に収録されている曲。昔からやってきた曲を武道館でやりたい、昔のPassCodeを見せたいという思いがあったんです。そして3曲目は最新曲の「Freely」で、有馬えみりが入ってから初めて発表した曲ですね。この3曲でPassCodeがずっと地続きになって、今に至っているということを伝えました。アンコールでは「ATLAS」をまずパフォーマンスしたんですけど、「ATLAS」は武道館に立つことを宣言した新木場で1曲目に披露した曲なんですよ。「こういう意味があってこのセットリストになってたんだ」「だから、ああいうことを言ってたんだ」とか、ライブの中で過去と今のつながりを表現することに意味があると思ったし、PassCodeを好きな人になら気付いてもらえるなって。全体を通して、これまでのすべてがつながって今日がある、ということをわかってもらえるように意識してセットリストを組みました。ちなみにスクリーンに歌詞を表示した曲もあるんですが、あれは当日になって「歌詞があったほうがグッと来るよね」という話から、急遽歌詞を見せることになったんです。制作の方々が忙しそうにしていました(笑)。
「続ける」という選択肢によって開かれた未来
──話は戻りますが、アンコール最後に披露された「It's you」は今のPassCodeを示す1つのカギになっていたかと思います。スクリーンに投影された映像の中に、去年8月に“勇退”された今田夢菜さんの姿も映っていましたが、今田さん自体をフィーチャーするというわけではなく、あくまでPassCodeがたどってきた道の中に今田さんがいたということをしっかりと示すような見せ方でした。後任である有馬さんがステージで歌い、その後ろのスクリーンに今田さんの姿が映っているという場面は感動的でもありました。改めて、昨年のメンバー脱退、加入の時期は気持ち的に大変だったんじゃないでしょうか?
大上 去年のメンバー体制が変わるときは一瞬だけ、グループの継続をあきらめかけたんです。それまで7、8年という長い間、同じメンバーでやってきたので、「この4人だからこそPassCode」と思ってくれているファンの方もたくさんいたと思いますし。形を変えてまでやるべきなのか、すごく悩みましたね。でも、ここで終わらせたくないという気持ちが勝って、「形が変わっても続けてくれてありがとう」と思ってもらえるようなグループにしていかないといけないな、と決心したのが去年でした。
南 ツアー中だったので、正直に言うと悩む時間もそんなに多くなくて。武道館までのスケジュールもすべて決まっていたし、どうしていくかを早く決断しなきゃいけない状況だったんです。ファンの方からしたら、体制変更について「言っていたことと違うじゃん」「今までのはすべて嘘だったのか」と感じたかもしれませんが、「グループを続けるか、やめるか」という話になったときに、私たちとしてはやっぱりやり残したことがあったし、自分たちが納得できるところまでいきたいと思ったんです。カッコいい終わり方、きれいな終わり方じゃなくても、「これで終わってもいい」と思えるところまでやりたかった。すごく大きな決断で、今田が勇退してから1カ月も経たずに新メンバーを入れるという、ファンの方にとって心苦しい状況になってしまいましたけど、それでも私たちを信じてライブを観に来てくれた。観てくれるからには納得してもらえるようなステージをやらなきゃいけないという思いもあったから、えみりも本当に大変だったと思います。求めるレベルが必然的にすごく高くなって、えみりには大変な思いをさせたと思うんですけど、ちゃんとファンの方々の期待に応えるパフォーマンスをしてくれました。
有馬 (頷く)
南 もう1回PassCodeを信じて一緒に歩きたいと思ってくれた人がたくさんいたから、2月12日の武道館公演が素晴らしいものになったんだと思います。何か1つでもそろってなかったらああいうライブにはならなかったはず。これまでの活動ももちろん私たちの大事な歴史なんですけど、これから先、えみりが入ってからの期間と今までの活動期間が同じくらいになったとき、「あのときにPassCodeを続けることを選んでよかったな」と思いたいし、ファンの方に「続けることを選んだPassCodeについてきてよかった」と思ってもらえるグループでありたいです。今はまだこの体制になって半年くらいですが、これからもっと濃い時間を過ごして、やり残したことがないと思うところまで続けたいですね。去年の出来事は簡単に揺らぐような決心じゃなかったですし、すべてを背負って、続けていきたいと思っています。
──有馬さんがつらい状況でも「期待されると気持ちいい」と思えるような方で本当によかったですね。
有馬 そうですね(笑)。
南 そうじゃなかったら、きっとここにいないですから(笑)。えみりは音楽に対してすごく真面目なんですよ。私たちがPassCodeを続けてきた理由は「PassCodeが好き」という気持ちがあるからで、えみりもその気持ちと同じような感覚がメタルや自身のボーカルに対してあったからこそ、ここまで歌い続けてきたんだろうなと思ったんです。そういう子じゃないと一緒にできないと感じて、その理由だけでえみりを選んだんですけど、それで本当によかったなと思うし、ファンの方も間違ってなかったと認めてくれた気がしています。
4人のバランスは“きれいな正方形”でありたい
──ここで南さん以外の3人に質問です。南さんはいつも熱いMCでライブを盛り上げていて、強いリーダーシップを発揮していますが、ほかのメンバーにとって南菜生とはどんな人ですか?
南 褒めて! 褒めて!(笑)
有馬 南は……顔がかわいいな。
大上 あははは。
高嶋 ビジュアル?
南 一番いいこと言ってくれはった(笑)。
高嶋 南はPassCodeのことだけを考えて生きていると言っても過言じゃないくらい、PassCodeへの愛がすごい人間ですね。頭もいいから感じていることを言葉にするのも上手で、私たちが困ったときに「それそれ!」と思う表現をよくしてくれます。私たちの気持ちをちゃんと代弁してくれる人。
大上 本当にPassCodeのことをめちゃくちゃ考えてくれているんです。私たちもPassCodeのことが好きだから、どうやったらグループが大きくなれるか、長く続けていけるかということを考えるんですけど、その答えをたくさん出せるのが南で。本当にいっぱい貢献してくれてありがとう!
南 なんか言わされてるみたい(笑)。
有馬 私は新メンバーなので、加入してからパフォーマンス面とかでわからないこと、困ることが多かったんですけど、そういうときにいち早く気付いてくれるのが南菜生で。PassCodeがこんなに長く続いてきた理由やなと思います。
南 (小声で)100点の答えやで……!
有馬 (小声で)ありがとう!
──ほかにもまだまだありますよね? ぜひこの機会に聞かせてください。
南 私のこと、もっと褒めや(笑)。
大上 いつもメンバーの先陣を切ってくれて。矢面に立つポジションなので、いろいろ言われることも一番多いと思うんですよ。自分だったら「メンバー4人いる中でなんで私だけこんなに言われなきゃいけないんだろう」という気持ちになっちゃうと思うんですけど、南はあきらめず、何を言われてもPassCodeを引っ張ってくれるのが本当にすごいと思います。
──南さんは目立とうと思えば、もっと目立てそうな感じもするのですが、決してそうならないですよね。PassCodeはグループとしての存在感が大きいと言いますか。
南 誰か1人が目立つなら、PassCodeでやる意味がないんですよね。私はPassCodeというグループがすごく好きなんです。自分1人で何かをやってここまで来たと感じることはないし、メンバーがいてPassCodeというグループがあるから自分がいると思っていて。PassCodeをよく知らない人から見たら、私は目立ちたがりだと思われやすいポジションかもしれないですけど、自分としてはPassCodeとしてよく見える1つの要因であればいいなと思っています。ソロでやりたいとか、1人だけ目立ちたいとか思ったこともなくて、もしPassCodeが終わったとしたら音楽を続けていくのかもわからないです。別に意識してその姿勢になっているわけでもなく、PassCode自体がそういうグループなんだと思います。例えば音楽の中ではシャウトが目立つけど、シャウトだけのグループかと言ったらそれも違うし。もちろんすごく大事な要因で、「PassCodeの音楽と言えば」という話でシャウトがピックアップされるのは誇らしいですが、陽奈子や楓の歌とダンスがあって、それにプラスしてシャウトという飛び道具、必殺技があるわけじゃないですか。だから何か1つを取って「これがPassCodeだ」ということはなくて、4人が持つ全部が合わさったものがPassCodeだと思っています。
──誰かを立てるとかそういったことではなく、グループをよりよく見せるためにメンバーがいるという堅実な考えが個々にあるからこそ、メインストリームとは違うジャンルのアイドルグループがここまで成長できたのかもしれませんね。グループへの愛が本当に強いとも思いました。
南 均一な四角形が描けるようなグループでありたいなと思っています。どこかが尖っているわけじゃなくて、きれいな正方形。例えばシャウトばかりの曲を作ろうと思ったら作れるけど、そうしないからこそPassCodeというバランスが保たれている。音楽に関しては平地(サウンドプロデューサーの平地孝次)さん次第なところもあるんですけど、自分たちはそれを信じてやっていくだけですし、グループの色はしっかりできあがってきていると思います。
──最後にWOWOWの視聴者に向けて、ひと言メッセージをお願いします。
高嶋 武道館公演ではいつもとは違う演出がありつつ、パフォーマンスはいい意味でいつも通りにやっているので、表情や歌、ダンスからメンバーの気持ちを感じ取ってもらいながら見てもらえたらいいなと思います!
プロフィール
PassCode(パスコード)
バンドサウンドをベースにスクリーモ、メタルコアなど変幻自在の楽曲群を擁し、シャウトスクリームが異彩を放つ4人組グループ。2016年10月、シングル「MISS UNLIMITED」でメジャーデビューした。これまで「SUMMER SONIC」「JOIN ALIVE」「Vans Warped Tour Japan 2018 presented by XFLAG」「ジャイガ OSAKA GIGANTIC MUSIC FESTIVAL」など、数々の大型フェスへの出演を果たし、本格志向のロックファンからアイドルファンまで幅広い支持を獲得している。2020年12月、約1年後の2022年2月に東京・日本武道館公演を行うことを発表。2021年2月よりメジャー3rdフルアルバム「STRIVE」を携えて全国ツアー「"STRIVE" for BUDOKAN Tour 2021」を行った。8月にメンバーの今田夢菜が“勇退”したのち、新たに有馬えみりが加入することを発表。11月に新体制初となるニューシングル「Freely / FLAVOR OF BLUE」をリリースし、2022年2月に日本武道館でのワンマンライブ「PassCode NIPPON BUDOKAN 2022」を行った。5月には大阪と東京の野外音楽堂でワンマンライブ「PassCode HIBIYA PARK / OSAKA CASTLE PARK 2022」を実施する。