槇原敬之×WOWOW特集|“90年代縛り”のライブを経て、デビュー34年目の槇原が今思うこと (3/3)

愛があるところには、いろんなことが生まれていく

──さっき「みんなの演奏で音楽が変わっていくのが楽しい」というお話をされていましたが、同じようなことが映像にも言えると思うんです。今回WOWOWで放送される映像を観させていただいて、僕はとても個性的な映像だと感じました。

おおー。

──映像を監督した松井(菜穂)ディレクターがそこで頭を抱えていらっしゃいますが(笑)、いい意味で、ですよ。2022年の「槇原敬之 Concert Tour 2022 ~宜候~」に続いてWOWOWのチームと組まれたのはなぜですか?

こういう言い方しかできないんですけど、松井さんのことが大好きだし、松井さんがいいと思ってるものが好きなんです。前回の映像を観たときに、本当に今までと違って、僕の中ではすごくエキサイティングな体験だったんですよ。「こういうふうに僕のコンサートを観る人がいるんだ」とか「観たときにこういうふうに感じられるんだ」と思う場面があって。いわゆるアーティスティックインプレッションっていうんですかね。それが高いのと、考え方がお客さんに近いのかな。ファンの人からも「自分たちに通じるものを感じる」という声がけっこう届いたので。

──前回の映像が槇原さんのみならず、ファンの方たちにも好評だったんですね。

はい。ライブ番組って「本人が歌っているところが映っていればいいじゃないか」と思われがちですけど、僕らが表現したいのはそこではないので。僕たちが音楽を奏でているという現実と、それを聴いてみんながハッピーになっているという現実の、両方がちゃんと見えている映像が、僕にとってはすごく幸せなんです。

──先日WOWOWチームの皆さんにもインタビューをさせていただいたんですが、彼らの表現に対する強い思いと槇原さんへのリスペクトを実感したので、今の槇原さんのお話には僕も納得です。

ライブって、本当は映像作品にしなくてもいいんですよ。観にきてくれた人だけが楽しんでくれればいいものなので。でも、WOWOWさんや松井さんが作ってくれることによって、違った側面を僕もお客さんも見れるし、そこにまた新たな意味合いとか、可能性みたいなものが絶対に生まれてくると思うんですね。松井さんのチームが自分の作品を作るような気持ちでいてくださったのは伝わっているし、それこそが僕が欲しいもので。「はい、ライブ撮りましたよ。これでいいんでしょ」みたいなことじゃなくてね。もう僕はリリースしてますから。

──曲と同じですね。

そうなんです。でもやっぱり愛情を感じるか感じないかって大きいと思うんですよ、物事って。愛があるところには、いろんなことが生まれていく気がします。

「Makihara Noriyuki Concert 2024 "TIME TRAVELING TOUR" 2nd Season ~Yesterday Once More~」の様子。

「Makihara Noriyuki Concert 2024 "TIME TRAVELING TOUR" 2nd Season ~Yesterday Once More~」の様子。

──ちょっと偉そうな言い方になってしまいますが、そういう意味では本当に槇原さんは、周囲に恵まれているんでしょうし、その環境を作ったのは槇原さんご自身であるということですよね。

本当に恵まれてますね。いくら環境を作っても、やってくださる方がいらっしゃらないと始まらないので。「ありがとうございます」の言葉をいくつ用意すれば足りるだろう、という感じです。

──ある意味、槇原ドリル(参照:「槇原ドリル」ブームでTikTokユーザーが槇原敬之に注目 / 「人マニア」は新たなボカロアンセムになるか)もそうかもしれませんし(笑)。

あれね(笑)。MCでも言いましたけど、仕掛けようと思っても絶対に無理なことが起こるのって、楽しいし、うれしいし、ありがたいんですよ。

やっと人に委ねられるようになってきた

──今の映像の話とさっきの演奏の話は、映画「マンガ家、堀マモル」の主人公の目線で制作された新曲「うるさくて愛おしいこの世界に」にもつながる部分があるように感じます。他者に自分を委ねることによって変化を得る、という映画のテーマにも通じているといいますか。槇原さん自身、音楽を作ることを通して、歌詞にある「窮屈な温もり」を手に入れてこられたということなのかなと。

そう言われると、本当にその通りだと思います。どう考えたって、1人では生きていないってことですよね。最近はその状況に潔くなれているというか、そこを認めて、本当に心から周りに感謝できるようになってきたのかもしれないです。もちろん、そんなこと気にしないで生きるのが若さなので、若い頃はそれでいいんですけどね。でも、今やっと人に委ねられるようになってきたのかなって。自分の思いとかいろんなものを共有できる、あるいはそれをマジックのように全然別物にしてくれる人たちと出会える楽しさまで含めて、やっぱり人は誰かしらと関わりながら生きていくんだなということを感じます。

──「マンガ家、堀マモル」からもそのテーマを感じられたんですね。

そうですね。主人公にものすごいシンパシーを覚えたんですよ。今まで自分がテーマソングをいろいろ書いた中で、たぶん一番シンパシーを感じました。だからすごい思い入れが強いです。いい仕事に巡り合わせてもらえて、seta(「マンガ家、堀マモル」原作者)さんや関係者の方たちにも感謝です。

槇原敬之

槇原敬之

──ありがとうございました。最後に槇原さんから話しておきたいことがありましたら。

実はツアーはこれで終わりじゃなくてですね。今年もう1つあるんです。すごく短い、7本ぐらいのツアーですけど。「マキハラボ」といって、クリックに支配されたいつものライブとは真逆の、実験的なことをやるコンサートで、今後“不定期に定例化”していこうと思っています。今年は手始めに、ピアノと弦のダブルカルテットとコーラスとパーカッションだけで、一切クリックを使わずに、バラードからハードな曲まで、どこまで表現できるかを実験します。すごい年の瀬に(笑)。

──もう準備は始まっているんですか?

少しずつ始まっております。アレンジもまったく違う形になる曲が多くて。なんかちょっと面白いことをやろうかなと思っております。よろしくお願いいたします!

公演情報

槇原敬之 2024年ツアー「マキハラボ」

  • 2024年11月25日(月)東京都 東京文化会館 大ホール
  • 2024年11月27日(水)京都府 ロームシアター京都 メインホール
  • 2024年11月28日(木)京都府 ロームシアター京都 メインホール
  • 2024年12月16日(月)東京都 東京文化会館 大ホール
  • 2024年12月23日(月)兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール
  • 2024年12月24日(火)兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール
  • 2024年12月26日(木)大阪府 フェスティバルホール

プロフィール

槇原敬之(マキハラノリユキ)

1969年大阪府生まれのシンガーソングライター。1990年にデビューし、1991年の3rdシングル「どんなときも。」がミリオンセラーを記録。その後も「冬がはじまるよ」「もう恋なんてしない」「僕が一番欲しかったもの」などヒット曲を連発し、2004年にはアルバム総売上枚数が1000万枚突破の快挙を遂げる。2010年11月には自主レーベル「Buppu Label」を設立。楽曲のリリースやライブ活動を重ね、2021年10月にアルバム「宜候」、2022年3月にセルフカバーアルバム「Bespoke」、11月にライブDVD / Blu-rayと配信限定のライブ音源集「槇原敬之 Concert Tour 2022 ~宜候~」を発表した。また他アーティストへの楽曲提供も多数あり、代表作はSMAPの「世界に一つだけの花」など。