back numberの全国アリーナツアー「SCENT OF HUMOR TOUR 2022」ファイナル公演の模様が、11月19日(土)にWOWOWプライム / WOWOWオンデマンドで放送および配信される。
「SCENT OF HUMOR TOUR 2022」はback numberにとって約2年半ぶりとなるアリーナツアー。4月の愛媛・愛媛県武道館公演を皮切りに、当初は7月にツアーファイナルを迎える予定だったが、清水依与吏(Vo, G)が体調不良を訴えたため最終公演は延期に。9月に千葉・幕張メッセ国際展示場9~11ホールにて振替公演が行われた。
WOWOWでは、「SCENT OF HUMOR TOUR 2022」ファイナル公演と2019年に行われたツアー「NO MAGIC TOUR 2019」の模様を2カ月連続でオンエア。WOWOWでの放送を前に、音楽ナタリーでは9月8日に行われた最終公演のレポートを掲載する。
取材・文 / 森朋之撮影 / 佐藤祐介、半田安政
アンコールの際、清水依与吏(Vo, G)は観客に向かってこう言った。「こんなこと言わないほうがいいのかもしれないけど……こんなにアクセルを踏み込んだことは人生でありません」。まさに全身全霊。back numberはこの日、1曲1曲に強い思いを刻み込みながら、持てるものすべてを体現してみせた。
4月2日の愛媛・愛媛県武道館公演から始まった、約2年半ぶりの全国アリーナツアー「SCENT OF HUMOR TOUR 2022」。そのファイナル公演が9月8日、千葉・幕張メッセ国際展示場9~11ホールで行われた。この2年半の中で生み出してきた楽曲とキャリアを代表するヒット曲を織り交ぜたセットリスト。そして、清水、小島和也(B, Cho)、栗原寿(Dr)とサポートメンバーの村田昭(Key)、矢澤壮太(G)、柿澤秀吉(G)によるエモーショナルかつダイナミックな演奏。この日back numberは、キャリアハイを更新するような素晴らしいステージを繰り広げた。
オープニングでは往年のハリウッド映画のようなCG映像とSEが流れる。メンバーがステージに登場し、大きな拍手が巻き起こる中、「怪盗」でライブはスタートした。昨年5月にリリースされたこの曲は、力強いバンドサウンドと華やかなストリングス、ドラマチックなメロディがひとつになったポップナンバー。「君は今日も明日も君のままでいていいんだよ」という観客を全肯定するフレーズ、感情の針を振り切るような清水のボーカルにいきなり心をつかまれる。続く「泡と羊」では清水、小島がステージの前方に進みオーディエンスとの距離を縮め、「アップルパイ」では観客のハンドクラップによって心地よい一体感が生まれた。そして4曲目の「オールドファッション」でライブは早くも最初のピークへ。切なさと愛らしさがみなぎるラブソングに美しい躍動を与える清水のボーカルは、このツアーを経てさらなる飛躍を果たしていた。
最初のMCで清水は、ツアーファイナルを一度延期したことを踏まえ、「ご迷惑とご心配をおかけしました」とコメント。さらに「とにかく1曲1曲を全力でやって。その結果、全然違う人生を歩んできたはずの1人ひとりに、俺らがどんな思いで曲を作って、何を大事にしているかが伝わるようにできればと思っているので、最後までよろしくお願いします」と語った。その後はアリーナライブならではの演出とステージングを体感できるシーンが続く。「エメラルド」では派手なレーザーとサイケデリックな雰囲気のCGが楽曲の世界観を際立たせ、アッパーチューン「MOTTO」では、ノイズ交じりの映像やミラーボールの光が、官能的な性愛の在り方を描いた歌のインパクトを増幅させる。清水の鋭利なギターリフ、小島のスラップベース、栗原の疾走感あふれるビートなど3人のプレイも迫力十分だ。切ない失恋を女性目線で描いた未発表曲「赤い花火」、ピアノと歌で始まった「HAPPY BIRTHDAY」も素晴らしかったが、中でも印象に残ったのは「風の強い日」だ。アルバム「あとのまつり」に収録されたこの曲は、フォーキーな手触りの旋律、オーガニックな音像、離れてしまった“あなた”への思いを叙情的につづったミディアムチューン。発表から10年以上が経っているが、この歌が描き出す風景と感情はまさに普遍だ。じっくりと聴き入り、曲が終わった瞬間に割れんばかりの拍手を送ったオーディエンスの姿も印象的だった。
2度目のMCでは、小島が「今日は誰にとってもツアーファイナル。頭から全力で楽しむぞ!と意気込みすぎて……結局、最後までみんなに助けられてここに立ってます」と語り、栗原が「『幕張のみんな、まだまだいけるか?』って聞くから、みんなはその意気込みを挙手で見せてくれるかな!?」と盛り上げるなど、3人で自由なトークを展開。ツッコミを入れながらメンバーに絡む清水も楽しそうだ。変わることがない“バンドキッズ感”もまたback numberの魅力だろう。そんなリラックスした雰囲気の中で披露されたのは、夏の匂いを放つ「サマーワンダーランド」。思春期の恋心を鮮やかに投影した「恋」のあとは、恋愛における色とりどりの思いや美しさ、切なさ、汚さ、儚さを繊細かつダイナミックに響かせた「黄色」が演奏される。さらに「人としゃべったりするのは嫌いじゃないのに、誰かを好きになるとそれが苦手種目みたいに思えて。でもホントは、その人に合わせるとか周りに合わせるとかじゃなくて、自分の得意種目で『俺ってこんな人間なんだよ』と伝えられたらいいな」という清水の言葉に導かれた「勝手にオリンピック」へ。ライブが進むにつれて各楽曲に込められたさまざまな感情が連なっていき、感動の波が大きくなっていく。
スクリーンに“180、179、178……”というカウントダウンが映し出された約3分間のインターバルを経て、シャープなバンドサウンドに貫かれた「003」からライブはクライマックスへと向かい始める。ステージ前方にLEDスクリーンが下ろされ、無数の線が激しく動き回るエッジィな映像が映し出される演出も強烈なインパクトだ。四つ打ちのキックによって観客の手拍子がさらに大きくなり、「君の前から姿を消すって言ったのに / きちんと姿を消せない」というあまりにも切ないフレーズが響いた「半透明人間」では、強靭な演奏とリリカルな歌の表情が共鳴する。音数を抑えることでグルーヴをしっかりと際立たせた「sympathy」のあとには、清水の渾身のボーカルが胸を打つ「瞬き」が披露され、ライブバンドとしての魅力をダイレクトに体感できるシーンが続いた。ロックバンドとしての強さとポップスとしての魅力をここまで高いレベルで共存できるback numberは、本当に稀有な存在だと思う。
長い長い拍手に感極まった様子の清水は、ここで観客に向けて語りかける。「不安が大きくて、もう歌えないんじゃないかと思ったけど、逃げなくてよかった。俺たちは一生懸命に曲を作ってるけど、評価して、褒めてくれたのは“あなた”。いつも支えてもらってばかりで、いつも『俺たちは何ができるだろう』と考えている」「周りには見せてないけど、『俺、めっちゃくちゃキツイんだよね』『私、限界です』という人もいるかもしれない」「俺たちが一生懸命やってるのを見てもらって、もしかしたら何かが変わるかもしれないじゃない」「これからも、あなたに関係ある曲だけを一生懸命作っていきます。あなたの人生はいいことばかりじゃなかったかもしれないけど、『でも、特別だったんだ』と俺たちがきちんと証明してみせるんで。これからもback numberを聴き続けてください」。そんな言葉のあとに演奏されたのは、「水平線」。2020年の夏に発表されて以来、今も大きな反響を集めている楽曲だ。この曲が制作されたきっかけは、2020年に中止となったインターハイの実行に関わった高校生たちからの手紙。もともとは“高校生へのエール“という意味合いが強かった曲だが、リリックビデオが公開されて2年が経ち、「水平線」は今やあらゆる年齢層、さまざまな状況に置かれた人たちが自らの人生や生活を重ねる楽曲になっている。涙を浮かべながらこの曲に没入している観客を見て、そのことを改めて実感した。
ライブ本編のラストは、「高嶺の花子さん」「スーパースターになったら」。back numberのライブを支えてきたアンセムによって、アリーナ全体が圧倒的な高揚感に包まれた。鳴り止まない拍手に導かれるように、ツアーTシャツに着替えたメンバーが再びステージへ。まずは「僕の名前を」を演奏し、「これからずっと僕の全ては君のものだ」というラインによって、会場により一層感動的なムードが広がっていく。清水がサポートメンバーを丁寧に紹介したあと、小島が「このツアーは今日で終わりだけど、まだまだやっていくので。ほかの会場にも遊びに来てください」と語り、栗原は「すげえいい1日になったなって、本当にうれしかったです。今日だけじゃなく、いつも本当にありがとうございます!」と改めて感謝の言葉を伝える。そして「日曜日」「そのドレスちょっと待った」とアッパーチューンを続け、ライブは終了。「back numberって、こういうライブやるんだね。ライブを一緒に作るって、こういうことだって教えてもらいました。俺たちまだ日本一じゃないし、まだまだ満足してないんで。これからもよかったら応援してやってください!」と語る清水を筆頭に、メンバーの表情からは“今やれることは全部やった”という満足感が伝わってきた。
2020年以降もback numberは、配信ライブやファンクラブツアーなど、さまざまな方法で音楽を届けてきた。「エメラルド」「怪盗」「水平線」「黄色」「ベルベットの詩」など、この間に発表された楽曲もすべてヒットを記録し、音楽ファンの心を捉え続けている。今回のツアーは、この2年半の彼らの集大成であり、新たなスタート。カッコよさ、情けなさ、切なさ、葛藤や不安、そして未来への希望。すべてをさらけ出しながら、ロックバンドとしての矜持と魅力を見せつけたツアーファイナルを、ぜひWOWOWの放送で追体験してほしい。
back number「SCENT OF HUMOR TOUR 2022」
2022年9月8日 千葉・幕張メッセ国際展示場9~11ホール セットリスト
- 怪盗
- 泡と羊
- アップルパイ
- オールドファッション
- エメラルド
- MOTTO
- 赤い花火
- HAPPY BIRTHDAY
- 風の強い日
- サマーワンダーランド
- 恋
- 黄色
- 勝手にオリンピック
- 003
- 半透明人間
- sympathy
- 瞬き
- 水平線
- 高嶺の花子さん
- スーパースターになったら
<アンコール>
- 僕の名前を
- 日曜日
- そのドレスちょっと待った
プロフィール
back number(バックナンバー)
2004年に清水依与吏(Vo, G)を中心に群馬県で結成。幾度かのメンバーチェンジを経て、2007年に小島和也(B, Cho)と栗原寿(Dr)を迎え現在の編成に。2009年に発売した初のミニアルバム「逃した魚」は大手レコード店で絶賛され、全国的に話題となる。2010年にフルアルバム「あとのまつり」を発表し、美しいメロディに切ない歌詞を乗せるというスタイルを確立。2011年4月にシングル「はなびら」でメジャーデビューを果たし、その後も「高嶺の花子さん」「クリスマスソング」「ハッピーエンド」「HAPPY BIRTHDAY」「水平線」など数々のヒット曲を生み出す。2021年にはBTS「Film out」の楽曲制作とプロデュースを担当し大きな話題を呼んだ。2022年4月より全国アリーナツアー「SCENT OF HUMOR TOUR 2022」を開催。また楽曲「アイラブユー」が同年10月に放送スタートした連続テレビ小説「舞いあがれ!」にて主題歌として使用されている。
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