WONKインタビュー|久保田利伸ら多彩なアーティストと描いた「Shades of」 (2/2)

久保田利伸のすごすぎるグルーヴ

──今作の中で久保田利伸さんが参加した「Life Like This」は大きなトピックだと思います。そもそもWONKにとって久保田さんはどんな存在ですか?

長塚 もう本当に憧れですよね。僕にとっては学生時代、歌に興味を持ち始めたときからずっとそういう存在です。

──長塚さんのシンガーとしてのルーツの話ではホセ・ジェイムズの名前が挙がることも多いですが、それよりも前のきっかけとして久保田さんがいた?

長塚 もちろんです。ずっと曲を聴いてきて、カラオケでも歌い続けてきた人だったので、「この人と音楽を作ったんだ」という実感がなかなか湧かなかったんですよ。でも先日久保田さんのライブを観に行かせていただいて、ちらっとご挨拶をしたときに「この人と曲を作ったのか、ヤバ!」って、急に実感が湧いて(笑)。

長塚健斗(Vo)

長塚健斗(Vo)

江﨑 「LIVE AZUMA 2024」(2024年10月19、20日に福島・あづま総合運動公園 / あづま球場で開催されたライブイベント)での長塚さんの振る舞いとMCが、その前の週に見た久保田さんのライブとほぼ同じだったんですよ。本当に好きなんだなと思って(笑)。

──もちろん日本のR&Bシーンを引っ張ってきた人でもあるし、クエストラブと仕事をしていたり、J・ディラがリミックスをやっていたり、ネオソウルのムーブメントと並走していた数少ない日本人ミュージシャンでもあるので、やはりWONKと共作する必然性があるなと。

荒田 憧れですよね、本当に。キャリア的にもそうで、アンダーグラウンドっぽいビートミュージックをやったり、ターゲットが日本じゃないアルバムがあったり、でも日本の誰もが知ってるような代表曲もある。しかもJ-POPに寄せて作ってるわけじゃなくて、ブラックミュージックを自分の中でしっかり消化していて、それが日本でポップスとしてヒットしていて。うらやましいなと思ったりもするし、憧れますよね。

──そんな憧れの人とのコラボレーションということもあり、どんなトラックにするか、かなり時間をかけて練ったそうですね。

井上 時間がかかりましたね。当初はちょっとゴスペルっぽい、盛り上がれる曲を作ろうとしてたんですけど、デモが1回ボツになりまして、そのあと荒田と一緒に作ったのが「Life Like This」なんです。長い間「ああでもない、こうでもない」とやってましたけど、この曲の原型ができるまではけっこうすぐだったよね。

荒田 すんなりと1日でできましたね。久保田さんからのダメ出しみたいなことも特になく、「すごくいいね」と言ってもらえて、対面での打ち合わせも1回だけ。コーラスを入れる量とか、キーの問題とか、そういうところだけ協議をしながら進めて、あとはレコーディングスタジオに入って、その場で試しながらという感じでした。

──トラックを作る段階では、どんなイメージがありましたか?

井上 ネオソウルっぽい横ノリの感じだけど、ギターはしっかり入れて、ちょっと泥臭さを出す、みたいな方向性でした。なのでイントロもギターのリフだし、ずっと単音が鳴っていて、アコースティックギターも入っていて。「コード進行とかノリ自体はネオソウルの定番だけど、聴いたらそうでもない」みたいな、そういうところが狙いでしたね。

荒田 歌い分けは少し時間がかかりました。最初は久保田さんが真ん中にいて、長塚さんがコーラスっぽくサイドを支えるみたいなイメージだったんですけど、久保田さんは「俺は真ん中じゃなくていいよ」とおっしゃって。なので、サビは基本的に長塚さんに歌ってもらったんです。でも実際にスタジオに入ったら、久保田さんが「こういうのをやってみようか」とサビに久保田さん節を付けてくれて。その場でやりとりをしながら一緒に制作できたのは楽しかったですね。

長塚 レコーディングのときに久保田さんがやったフェイクが全部よくて、本当にすごいなって。僕も同じトラックの上で、同じパートを歌ったはずなんですけど、リズムの取り方というか、歌のグルーヴがすごすぎて、とても勉強になりました。

江﨑 「歌だけでこんなにグルーヴするんだ!」と思いましたね。ドラムとか入ってなくても踊れる歌なんですよ。ライブを観させてもらったときも思いましたけど、呼吸するタイミングも、言葉を切るタイミングも、全部がリズムの要素になっていて、その積み重ねが「歌1本で踊れる」ということになるんだと感じました。

──歌詞は以前文武さんが一緒に楽曲を制作している作詞家の渡辺なつみさん。今の日本社会の混沌とした状況を描きつつ、それをポジティブに変換するような内容ですね。

長塚 この曲を制作していた当時、ちょうど新宿周辺のさまざまなニュースが話題になっていて、世の中の混迷しているさまが露呈していたので、「今の東京をテーマにしてみませんか」と提案しました。そういったニュースの話を久保田さんとお話しさせていただいて、渡辺さんとも何度か直接お電話をして、意見を出し合って、できあがった感じです。

WONK

WONK

ドープでカオスなJinmenusagi / トリッキーなSlum Village

──次のJinmenusagiが参加した「Here I Am」もシアトリカルな内容になっていて、日本人ゲストとのコラボレーション2曲は歌詞の面ではドープですね。

長塚 Jinmenusagiとの曲は荒田から「テーマはカオスで」と言われていたので、普段使わないような言葉を意識しました。結局使わなかったんですけど、WONKの曲で初めてFワードを使ってみようかなと思ったり。そういう強い言葉でストレートに表現していったら、Jinmenusagiからもすごくいい歌詞が出てきたので、さすがだなと思いました。

荒田 ウサさん(Jinmenusagi)はプライベートで会ってもカオスだなと思うことがけっこうあるので(笑)。普通に書いてもらえればカオスになる、ウサさんしかいないと思って声をかけさせてもらいました。一緒にやれてうれしかったですね。

──「Shades」や「Endless Gray」がビートミュージックの側面を担いつつ、ビラルが参加した11曲目「Miracle Mantra」、そしてビラルとT3(Slum Village)、K-Naturalという豪華ゲストが参加したラスト12曲目「One Voice」の流れがやはり素晴らしいです。「One Voice」の最後に「Miracle Mantra」の1節がもう1回出てくる流れもすごくいいなと思いましたが、この2曲に関しては人選含めてどういう流れでできていったのでしょうか?

荒田 もともとSlum Villageと一緒に曲を作りたいと思っていたところ、知り合いから紹介してもらえることになったんです。だからこの曲はSlum Villageありきで作り始めました。

江﨑 確かデモのタイトルが「Slum Village」だった(笑)。

荒田 最後の2曲がつながるイメージは最初からありました。先に12曲目の「One Voice」のデモを送ったんですが、当初1番が32小節という特殊な小節割りだったので、T3に「16小節しか無理だ」と言われてしまって。それでトラックを16小節に編集し直して、届いたラップをはめてみたら、全然16小節じゃなかった(笑)。数えてみたら24小節ぐらいの絶妙な数字で、でもこれはこれでトリッキーでいいかなと。一応もう1回「16小節にできますか?」と聞いてみたら、「いや、できない」と言われて、「最初に言ってたのと違うな」とは思いましたけど(笑)、この人たちはそういうことじゃないんだなって。

井上 言いたいことを並べて、それが24小節だったら24小節なんだよっていう。まあ、Slum Villageだから。

井上幹(B)

井上幹(B)

──レジェンドですからね。

荒田 2番のK-Naturalのパートはヴァースの中でいろいろ色が変わっていくストーリー性を付けて、ストリングスアレンジも付けて。そこも確か24小節とかの絶妙な数だったんですけど、K-Naturalのリリックはそれに呼応して、最後にエモくなるようなヴァースをしっかり蹴ってきてくれました。「Let’s Go」をこんなにカッコよく言えるのもすごいなって。

──リリックの説得力は2人ともさすがですよね。

荒田 その後にビラルを持ってくるのは僕の中で決めていましたね。もう一方の「Miracle Mantra」はビラルだけに歌ってほしくて、文武に「こういう感じのBPMで、12曲目につながるようにしてほしい」と説明して、いい感じに作ってもらいました。長塚さんは途中まで出てこず、最後の曲のビラルが戻ってくるところで長塚さんも合流して、それで終わるのがすごくきれいというか、最後に憧れの人と合流して終わるというストーリー性を意識しています。

江﨑 僕はWONKを始めてからビラルの楽曲を本格的に聴き始めたんですけど、ハイトーンの使い手であることと、「耳馴染みがいい帯域はこの辺だな」というところはなんとなくつかんでたんです。さらに荒田から「ドラムレスで」というリクエストもあったので、その時点でバラードだと確信して、長塚さんと一緒に仮歌を入れてデモをお送りしたら、仮歌とまったく関係ないメロディが戻ってきて(笑)。それが最高によかった。しかもよくよく聴いてみたら、まったく違うものを入れてきたんじゃなくて、ちゃんと元のメロディや雰囲気に寄り添いつつ、彼の「これが一番きれいに歌える」というものをちゃんと送ってくれていたんです。

荒田 ビラルから送られてきた音源は本当に最高だったね。

江﨑 「真の歌入れってこういうことか」と思いました。僕も僕なりにビラルに合いそうなメロディや節回しを考えたし、長塚さんも仮歌の歌詞にビラルの曲の歌詞を入れたり、いろんなアプローチをしたんだけど、それを超えてきた。「俺、もっとこういうことできるよ」と送り返してきてくれるのは本当に素晴らしいなと。単に“上手な歌”というのはおそらく今後AIに代替されていくと思うんですけど、クリエーションとクリエーションのぶつかり合いによる化学反応は人間同士だから起きることで、そういった意味でも今作の中では一番根っこの部分から一緒に共作したと言える曲だなと思いました。

荒田 それがコラボレーションの一番の醍醐味ですよね。

井上 結局バンドもそうだしね。人が何人かいて、ぶつかり合うから面白いわけで。

荒田 今作を作り終えて、僕は全体像を考えながらアルバムを作るのが好きだということに改めて気付きましたね。「Shades」は「Passione」が終わったあとの弦の余韻を、そのまま逆再生で頭に入れるというのをどうしてもやりたくて作った曲なんです。

──最初からコンセプトを決めて作り始めたわけではないけど、アルバムとして仕上げるときには全体の設計図を意識すると。

荒田 そうですね。WONKはけっこう考えすぎちゃうんですけど、今回は自由にお絵かきをした感じです。例えば現代アートにおいてはコンセプトありきというか、必ず問題提起がされていると思います。でもそれに値段が付くかどうかは世の中の流れや時代によって変わってくるから、物作りをしてる人がそこまで考えるのも違うかなと。今まではコンセプトがないとダメだと思っていた節もあったんですけど、今回は「赤ちゃんが適当にクレヨンを持って描く絵もよくない?」と思いましたね。

──じゃあ、原点回帰どころか……。

荒田 赤ちゃんになろうと思って作ったアルバムかもしれない(笑)。

WONK

WONK

公演情報

オープンフェスティバル2024「WONK Live」

2024年11月30日(土)東京都 秋川キララホール


Montreux Jazz Festival Japan 2024

  • 2024年12月6日(金)神奈川県 ぴあアリーナMM
    <出演者>
    ハービー・ハンコック / YOKO KANNO SEATBELTS / ペトロールズ
  • 2024年12月7日(土)神奈川県 ぴあアリーナMM
    <出演者>
    YOKO KANNO SEATBELTS / WONK / Shing02 x THE EITHER with SPIN MASTER A-1 / and more
  • 2024年12月8日(日)神奈川県 ぴあアリーナMM
    <出演者>
    ハービー・ハンコック / Bialystocks / 小曽根真トリオ「TRiNFiNiTY+」(松井秀太郎、陸悠)/ Shing02 × THE EITHER with SPIN MASTER A-1 / TOMOAKI BABA ELECTRIC RIDERS Special Guest:BIGYUKI

WONK "Shades of" Tour

  • 2024年12月22日(日)大阪府 Yogibo META VALLEY
  • 2025年1月12日(日)東京都 Spotify O-EAST
  • 2025年2月1日(土)北海道 SPiCE
  • 2025年2月7日(金)福岡県 BEAT STATION
  • 2025年2月11日(火・祝)愛知県 新栄シャングリラ
  • 2025年3月2日(日)石川県 金沢GOLD CREEK
  • 2025年3月8日(土)宮城県 仙台MACANA

プロフィール

WONK(ウォンク)

荒田洸(Dr)、長塚健斗(Vo)、井上幹(B)、江﨑文武(Key)によって2013年に結成された“エクスペリメンタルソウルバンド”。2016年9月にリリースした1stアルバム「Sphere」でデビュー。これまで国内外で広くライブ活動を行っており、ホセ・ジェイムズ、オスカー・ジェローム、myd、9m88と音楽制作をともにするなど、海外アーティストとの交流も深い。2024年11月に6thアルバム「Shades of」をリリースした。