ウォルピスカーター|“高音出したい系男子”、クリエイターとして覚醒

40のフルーツが生る木

──これまでウォルピスさんは「ウォルピス社の提供で〇〇」というタイトルのアルバムを発表してきました。今作からはコンセプト自体が一新されていますが、「40果実の木」というタイトルはどこから着想を得たんでしょうか?

アルバムの構想を考える前からいくつかオリジナル曲を作っていたんですよ。レーベルの方からアルバムの話をいただいたとき、どうせならその時点で動かしていた全部の曲を入れたくて。でもそうすると何もテーマがない。自分が作りたいものが雑多に入っている、理路整然としていなくて、統一性のないものって世の中にあるのかな、と思っていろいろ調べていたら、海外に「40果実の木」というものがあることを知ったんです。1つの樹木に40のフルーツが生る実在の木なんですけど、この木の存在は僕が表現したいことに似ているんじゃないかなと。ジャケットのアートワークを手がけてくれた南條(沙歩)さんには「統一感のないイラストにしてください」とお願いしました。

──今作の特徴を1つ挙げるとするならば、ウォルピスさん自身が作詞をしている曲が多いことだと思います。

確かに、ここまで自分で作詞をした曲が多く入ったアルバムは初めてですね。実はこの1年、隙間を見つけては歌詞を書くことにチャレンジしていたんです。これは個人的なこだわりでもあるんですが、「アルバムが出るから1曲だけ詞を書きました」みたいな形が嫌だったんですよ。詞を書くのであれば、ちゃんと自分の活動の一環として評価していただきたいし、ボーカリストとしてだけではなく、作詞に対しても力を入れているんだということをちゃんと伝えたかったんです。なので今回は11曲中7曲の作詞を担当しています。

──ボーカリストとしてのみならず、作詞家としての活動も充実させていきたいわけですね。

“歌ってみた”出身というのもあって、どうしてもボーカリストとして見られがちなんですけど、活動を始めた当初からいろんなことができるようになりたいとは思っていたんです。歌うだけじゃなくて、曲も作りたいし、ラジオのパーソナリティのようなトークのお仕事もしたい。あと、これはまだ実現していませんが、声の演技のお仕事もしてみたいし。ご縁があってプロデュース業にも携わることができたので、今後もいろんなことに挑戦してみたいですね。

歌詞を伏せ字にすることで

──アルバムの1曲目「Colors」は、これまでもウォルピスさんのオリジナル曲を作り続けてきた神谷志龍さんの書き下ろし曲です。

神谷に関しては基本的に僕から何か注文を付けることはないんですよ。神谷から「今こういう曲を作りたいんだけど」と連絡がきて、「なら歌うよ」みたいな感じで曲が作られることがほとんどで。特に今回の「Colors」には元ネタが存在していて、神谷は「リトルバスターズ!」のアニソンみたいな曲を作りたかったみたいです。

──なるほど。

できあがったものを聴いてみたら本当に「リトルバスターズ!」そっくりだったけど、僕もアニソンは好きなので喜んで歌いました。もう1曲「偶像信仰上過失致死」という曲は、僕と神谷で「今っぽい曲がいいね」という話をしていたことがきっかけで生まれたんですよ。ただ、その話をしていたのが去年だったこともあり、今考えると2019年時点での“今っぽい”だから、アルバムがリリースされる2020年時点ではちょっと古く感じてしまう(笑)。誤算ではありましたが、もともと僕は時代に沿った音楽を歌うタイプではないので、新鮮な気持ちで歌えました。

──3曲目に収録されている「マキナの祈り」はウォルピスさんが作詞をした楽曲ですが、一部の歌詞が伏せ字になっていますよね? これはなぜですか?

よく気付きましたね……作曲をしてくれたLITCHIさんがラップのパートを作ってくれて、この伏せ字の部分にはどうやら英語のカッコいいラップを入れることを想定していたみたいなんです。しかしですね、作詞を担当する僕には英語力がまったくなくて。翻訳ツールを使ってそれらしい英文を作りつつ、響きを優先して単語を変えていったところ、この英文が正しいかどうか全然わからなくなっちゃったんです。

──もしかして、伏せ字にすることでその英文が明るみに出ないように……?

なんとかこの英文を載せずに乗り切る方法はないかと考えた結果、伏せ字にすることになりました。なんかちょっとおしゃれに見えますよね?

──今のお話を伺うまでは表現の1つとしてあえて伏せ字にしているのかと思っていました。

実は苦肉の策でした(笑)。

──歌詞の話で言うと、ウォルピスさん作詞の「ありきたりなさよなら」には驚きました。いい意味で“らしくない詞”ですよね。ほかの曲よりも素直な言葉が並べられている印象がありました。

制作中に同じことを言われました(笑)。この曲のテーマは“春”で、作曲してくれたSILVANAは春を別れの季節と捉えて切ないバラードを書いてくれて。僕はその曲を聴いて「卒業式っぽい詞を書いてみよう」と、いつもと違う気持ちで詞を書いてみました。僕の書く詞はいつも抽象的ですけど、「ありきたりなさよなら」に関しては現実的な詞を書いてみたくなったんです。目の前の誰かと別れるとき、変な比喩を使っていちいち大げさに悲しみを表現することはないじゃないですか。だからちょっと恥ずかしさもあったけど「泣いちゃうかも」みたいなすごく口語的な言葉も使ってみました。

本当に男性だったんですね

──「REVE」は「東京クロノス」というVRゲームの劇中歌として制作された楽曲です。ウォルピスさんがゲーム音楽を歌うのは初めてですよね?

はい。ありがたいことに作曲家の郡(陽介)さんが僕の歌をどこかで聴いてくれたみたいで。ゲームのスタッフさんとの会議で「この人に歌ってもらいたい」と提案してくれたみたいなんですが、どうやら郡さんは僕のことを女性だと思ってオファーしていたらしくて(笑)。

──歌声を聴いて女性シンガーだと思い込んでいたわけですね。

ゲームの劇中歌やテーマソングに参加しているアーティストは藍井エイルさんとかASCAさんとか、僕以外は女性ばかりだからおかしいとは思っていたんですけど、まさかそんな勘違いが発生しているとは露知らず。スタッフさんには「本当に男性だったんですね」と驚かれたくらいで(笑)。

──ということは、もしかしたら作曲の段階では女性向けのキーで制作されていた可能性も……?

そうかもしれません。僕にとってはどちらかと言うとうれしい勘違いでしたね(笑)。こうして僕の歌がゲームに収録されることになったわけですし、高い曲にこだわってなかったら、もしかしたら勘違いされることもなかったかもしれませんから。