歌ってみたら地声で出た
──アルバムにはウォルピスさんが初投稿した際に歌唱した「天ノ弱」のカバーが新録音源で収録されています。これはもちろん「原点回帰」を意識した選曲ですよね?
そうですね。実は僕が「天ノ弱」をカバーするのってこれが3回目なんですよ(笑)。
──動画投稿者によっては一度歌った曲を歌い直さない人もいますが、ウォルピスさんは何度も歌い直すタイプですよね。
本当に何回でも歌えます。これはさっきお話した「自分は歌がうまくない」って話とつながるんですけど、僕はまだ歌がうまくないから現在進行形でどんどん上達してるんです。「天ノ弱」は4年前に歌い直しを投稿しているんですけど、そのときよりも今のほうが絶対うまくなっているので、もう一度歌いたくなって。
──4年前に公開していた「天ノ弱」より、今作に収録されたバージョンのほうが歌に余裕が生まれた感じがしました。
ラジオで鍛えられた成果もあって、滑舌もよくなってます(笑)。それと単純に僕の歌声の適正キーが年々上がっているので、聴き苦しかった部分が少なくなっているんですよね。
──今作には「天ノ弱」の作曲者である164さんの書き下ろし曲「STILL GREEN」も収録されています。この曲もキーは相当高いですよね。
発注のとき、キーの指定を僕から送ったんですけど、曲を送ってもらったらそれより高い音が入っていて「そこはファルセットで歌ってください」とメッセージをいただいていたんです。でも歌ってみたら地声で出たのでそのまま地声で歌いました。ファルセットに逃げちゃうと曲の疾走感がちょっと削がれちゃうし、キーが高ければ高いほど燃えるんですよね。「よし、出すぞ!」って(笑)。
──曲を発注する際にはキー以外にどんな要望を送ったんですか?
164さんの持ち味はちょっとテンポを落としたロックバラードのようなサウンドなんですけど、これをアップテンポにしたすごく激しい曲を歌いたいと思いまして。確か「バトルアニメのオープニングテーマのような曲をお願いします!」ってオーダーさせていただきました(笑)。「君の声を聞かせてくれないか」って歌詞のあとにシンガロングのパートが入るんですよ。それがメチャクチャカッコよくて。あんまりライブをやる回数は多くないんですけど、この曲はライブでやったらどうなるんだろうって、すごく気になってます。
ボカロのカバーとJ-POPのカバーの違い
──今作にはJ-POPのカバーとして「M」「未来予想図Ⅱ」の2曲が収められています。これまで特典CDなどにJ-POPのカバーが収録されたことはありますが、アルバムの本編ディスクにJ-POPのカバーが堂々と収録されるのは今回が初めてですよね?
はい。最初に話したコンセプトの「原点回帰と新しい一歩」の原点回帰でありつつ、新しい一歩の側面も表現できるのがJ-POPなんです。高校時代の軽音楽部に僕の原点があるんですけど、そもそも僕はJ-POPが歌いたくて入部したんです。具体的に言うとスピッツのカバーがしたくて軽音楽部に入ったんですけど、部員がメタラーばっかりで……。その影響があって、僕の音楽性がロックやメタルに寄っていくわけなんですけど、今回の原点回帰でひさしぶりに「そう言えば僕はJ-POPが歌いたかったんだ」と気付いたんです。
──アルバムの制作に当たってボカロ曲とJ-POPのカバー、どちらも歌ってみてどういう違いを感じましたか?
難易度が全然違うんですよ。僕がボカロ曲のカバーに慣れてしまったからかもしれないんですけど、人間が歌った曲をカバーするのがものすごく難しくて。ボカロ曲って、複雑がゆえに音程を当てさえすれば歌として成立するんです。Vocaloidの歌声って楽器に近いものなので、音程が合っていればカバーとしてそれが正解になるんですけど、人間が歌った曲をカバーするときに音程を当てるだけだと、素人のカラオケみたいになってしまうんです。例えば「未来予想図Ⅱ」は吉田美和さんのメチャクチャうまいボーカルでみんなの記憶に残っているから、音程を当てただけでは聴き手を満足させられない。特に僕はカバーするときはオリジナルの歌マネをすることがリスペクトだと思っているので、ビブラートとかをメチャクチャ練習しました。とはいえ、同じようにビブラートをかけているつもりでも、吉田さんのビブラートにはすごく深みがあって、シンガーと呼ばれる人たちの歌唱力を改めて実感しました。
──ではボカロ曲のカバーで苦労するところはどんなところでしょうか?
今作で言うとOrangestarさんの「DAYBREAK FRONTLINE」が特に難しかったですね。すごく言葉が詰まっていて聴いている分には疾走感を感じるんですけど、歌ってみると実はそんなに速く感じないんです。これ“歌い手あるある”だと思うんですけど、テンポの遅い曲って難しいんですよ。速い曲だと母音を飛ばして「S」だけで歌っちゃう、みたいな省略を入れながら歌っても成立しちゃうんですけど、テンポがゆっくりな曲だとそれができない。「DAYBREAK FRONTLINE」はズルができない曲だったんですよね。結果として1音1音丁寧に向き合って歌わないといけなかったので、レコーディングに時間がかかりました。
高い声だけじゃないぞ
──先ほど「“提供シリーズ”は今作で終わりにする」とおっしゃっていましたが、もちろん今後もボーカリストとしての活動は続けていくんですよね?
もちろん、歌は歌っていきますが、ちょっと自分のペースで自分のやりたいようにしたほうがいいかな、とも思っているんです。自分から「高音出したい系男子」とか名乗っておいて恐縮なんですけど、歌に関しては高い声ばかりフィーチャーされてしまう感じをちょっと抑えたいなと思っていて。高い声にばかり注目されてしまうと、例えば番組なりイベントなりに呼ばれた際に「高い曲をお願いします」みたいに言われるんですよね。以前から話しているようにイベントのような一発勝負の場で高い曲を歌うのはかなり難しいし「ウォルピスカーターというボーカリストの魅力は高い声だけじゃないぞ」ってことをちゃんと提示していかなきゃいけないなと思っています。
──ライブに関して言えば、すでに「株主総会」と題したウォルピスさんの単独公演が何度か行われています(参照:ウォルピスカーター、8月に「株主総会」再び)。しかしながらイベント出演などでウォルピスさんが登場する機会は少ないですよね。
出演のオファーはちょこちょこいただいているんですけど、ほぼ断っています(笑)。
──それはなぜですか?
例えば「3曲だけ歌ってください」みたいに言われた場合、普通の人なら「3曲なら……」って思うかもしれないんですけど、僕に期待されているのは高音ボーカルの曲なわけですから。一発勝負で特に高い曲を選びながら3曲も歌わなきゃいけないって感じになってしまうので……。
──なるほど。
しかもイベントの場合は僕のことを知らない人もお客さんの中にいるわけで。そういう方々に向けて、失敗した僕の歌を届けるわけにはいかないし、だからと言って僕の代表曲と呼ばれる曲たちを披露しないのもどうなんだろう……とか考え出すと難しいんですよね。
──ただ、まったくライブをやらないわけではないですよね。
はい。年明けにSouくんといすぼくろくんと3人でライブを開催することが決まってますし、年に1回か2回くらい、お祭り騒ぎみたいなことができればいいかなと思っています。
──ラジオのパーソナリティのような声を使ったお仕事にも引き続き力を入れていくんでしょうか?
次は声優業に挑戦したいですね。イケメンのキャラはちょっと敷居が高そうなので、まずは三枚目的なキャラクターから……。
──ウォルピスさんの声質なら二枚目のキャラクターボイスも合うと思いますが。
もちろん二枚目もいけますのでアニメ制作の方々からの連絡、お待ちしております!
- ウォルピスカーター「これからもウォルピス社の提供でお送りします。」
- 2018年12月26日発売 / Subcul-rise Record
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[CD] 2400円
SCGA-00081
- 収録曲
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- 天ノ弱
- 廃景に鉄塔、「千鶴」は田園にて待つ。
- STILL GREEN
- 命のユースティティア
- ストリーミングハート
- お天道様とドブネズミ
- M
- オレンジ
- 傀儡マイム
- 未来予想図Ⅱ
- 泥中に咲く
- DAYBREAK FRONTLINE
- THE JOURNEY HOME
- ウォルピスカーター
- ニコニコ動画を中心に活動する男性ボーカリスト。“高音出したい系男子”の異名を持つ。2012年の初投稿以来、ニコニコ動画に“歌ってみた”動画を多数公開している。2015年4月に投稿した「アスノヨゾラ哨戒班」(Orangestar)の歌唱動画が1000万再生を記録した。2016年1月、1stアルバム「ウォルピス社の提供でお送りします。」をリリース。同年12月にはAfter the Rainのカウントダウンイベント「After the Rain COUNTDOWN PARTY 2016-17」に出演し、約4年ぶりにオーディエンスの前でライブを行った。2017年2月に2ndアルバム「ウォルピス社の提供でお送りしました。」を発表し、5月には初のワンマンライブとなる「ウォルピスカーター1stワンマンLIVE ~2017年度 ウォルピス社株主総会~」を開催した。2017年10月にFM NACK5にて冠番組「ウォルピスカーターの社長室からお送りします。」のオンエアがスタート。2018年12月には3rdアルバム「これからもウォルピス社の提供でお送りします。」をリリースした。