新しいことに挑みつつ、本来の魅力も突き詰めた2年間

──このたび完成したメジャー1stアルバム「あい」は昨年以降にリリースされた「My Generation」「STARS」「陽炎」「エンドレス・リピート」「あばく」「喜劇」と新曲で構成された、w.o.d.本来の魅力と新たに獲得した表現が共存した素晴らしい作品だと思います。

サイトウ　うれしいです。

元良　まだ自分では客観的に聴けないんですけど。

サイトウ　もちろん手応えはありますけどね。1曲1曲、何かしらプラスアルファというか、新しいことにチャレンジをしようという話もしていて。それは今回のアルバムのコンセプトでもありますね。

Ken　うん。

サイトウ　実際、1曲ごとに新しい挑戦ができたと思っていて。メジャー1stアルバムですけど、「これがw.o.d.です」と改めて示すというより、いろいろチャレンジした結果を見せられたアルバムなのかなと。

元良　確かに。かなり長い期間作っていた気がしますね……。

Ken　2年近くかかったからね。

元良　だから曲名を眺めるだけでも感慨深いし、いい曲ばっかりだなって。「My Generation」と「STARS」は同時期に作ったんですけど、この2曲ができたことでw.o.d.の今後の方向性が見えてきた。「My Generation」は新しいことをガッツリやって、「STARS」はこれまでのw.o.d.らしさをさらに突き詰めて。

──その2曲がアルバムの両軸になった、と。

元良　まさにそうなりましたね。

あんな挑戦、こんな挑戦てんこ盛り

サイトウ　みんなで「チャレンジしよう」と決めてから1発目に作ったのが「My Generation」だったんですが、外部プロデューサーとして中野雅之さん（THE SPELLBOUND、BOOM BOOM SATELLITES）に参加していただいて、コミュニケーションを取りながら曲作りをしました。

Ken　そういう方法で曲を作ったこと、なかったよね。

サイトウ　そうだったね。ｗ.o.d.らしさを残しつつ、新しいことをやる……と言っても、最初は何をやればいいかわからなくて。いろんなアイデアがある中で、一番しっくり来たのが中野さんにプロデュースしてもらうことだったんです。俺らはBOOM BOOM SATELLITESが大好きだったし、「一緒にできるわけないやろ」と思いながらもダメ元でお願いしてみたら、すぐにOKしてくれて。

元良　第1希望は難しいと思っていたんですけどね。

Ken　中野さんがプロデュースしてくれたおかげで「どんどん新しいことをやっていこうぜ」というモードになって、バンドが大きく変わりました。

サイトウ　w.o.d.らしさを守りながら新しい要素を入れる方法を教わりました。中野さんもその方向性に賛同してすごく丁寧に接してくれたし、「My Generation」ができたのはめちゃくちゃデカかったです。あと「STARS」は初めてタイアップ曲（※テレビアニメ「BLEACH 千年血戦篇-訣別譚-」のオープニングテーマ）に決まって。特定の作品のために作ることを初めて経験して、すごく面白かった。

元良　うん。

サイトウ　アルバム用に作った新曲のうち、「ネックレス」「あばく」「Take It Easy」「あなたの犬になる」は伊豆スタジオで合宿して録りました。

──くるりのドキュメンタリー映画「くるりのえいが」の舞台にもなった場所ですね。1970年代後半から現在に至るまで、数多くのアーティストが名作を生み出してきた老舗スタジオです。

サイトウ　めっちゃいい音が鳴らせるスタジオで、これまであまりできなかった音作りもやりました。スケール感の大きい曲を作れたのは、その影響が大きいですね。あと、「ネックレス」はいしわたり淳治さんと歌詞を共作しました。ディレクターが「作詞家の人と一緒に詞を書いてみない？」と提案してくれて、すぐ候補に挙げたのがいしわたりさんだったんです。SUPERCARが好きだったし、もともとロックバンドで歌詞を書いていた人のほうがやりとりがしやすいんじゃないかと。いしわたりさんはJ-POPシーンでもたくさん仕事をしているし、すごく相談しやすくて。歌詞においても新しいことができましたね。

元良　エンジニアさんも曲によってかなり違うんですよ。

サイトウ　まず「陽炎」はアルバム「感情」と同じく近藤祥昭さん（GOK SOUND）にお願いしました。ニュアンス的に「感情」と近い、アナログテープならではのサウンドにしたかったんですよね。それから「喜劇」「2024」はヒップホップ系アーティストのプロデューサーやエンジニアとして有名なIllicit Tsuboiさんと一緒に作りました。

“これ以上足せない”ではなくて、“これ以上削れない”のが完璧

──Kenさんはベーシストとして、何か新しい挑戦はできましたか？

Ken　全体的に音色が変わった気がします。前作「感情」まではエフェクターをほとんど使っていなかったんです。今回は「あばく」「2024」で試しにやってみて。これも「My Generation」制作時の経験がデカいですね。

サイトウ　そうね。「エンドレス・リピート」も中野さんと一緒に作ったんですけど、「My Generation」とはやり方を変えたくて。そこでドラムのループ素材を中野さんに作ってもらって、そこにベースのリフを乗せるところから始めました。

元良　すごく面白かったです。俺はポリシー的に、ドラムのフレーズはそこまで独創的でなくていいと思っていて。「感情」の制作を経て気付いたんですけど、3人のグルーヴがしっかり合っていることが一番大事じゃないかなと。今回のアルバムも基本的にはそういう考え方だったんですが、エンジニアさんごとのサウンドの特徴だったり、「このスタジオでこのマイクを使うと、こういう音になる」という予測がかなり正確に立てられるようになったんです。

──録った音がどんなふうになるかイメージできれば、自ずと演奏の方向性も決まっていきますよね。

元良　そうです。余計なことを考えなくていいし、レコーディング中はずっと楽しかったですね。ドラマーならではの視点だと、「あばく」の音作りが印象に残っていて。最後のセクションまで拍子の表にバスドラの音が入っていないんですけど、ここまで削れたのは我ながらすごいなと。ギターをめっちゃ重ねるのもいいけど、どこまで削れるか挑むのも面白い。ある好きな映画に「“これ以上足せない”ではなくて、“これ以上削れない”ものが完璧なんだ」というセリフがあるんですけど、まさにそういう感じでした。

愛、I、EYEの「あい」

──サイトウさんの歌詞も変化していますよね。「最近調子どうだい？」から始まる「Take It Easy」もそうですけど、意識が外に向かっているというか。

サイトウ　意識が変わったというよりは、身近なことを歌うようになったと言えばいいのかな。大きな概念ではなくて、もっと身近なことや、そこから見えるものを歌っている感じ。そのほうがリアリティがあるし、曲の個性にもつながると思ったんです。もちろん人によって感じ方や捉え方は違うけど、身近なことをテーマにしたほうが聴く人がグッと入り込めるんじゃないかなと。つまり距離が近いってことですね。

──なるほど。「あい」というアルバムのタイトルについては？

サイトウ　曲が半分くらいそろった段階でリリース日をどうするか話し合ったんですが、ジャケットアートワークを手がけてくれた寺澤圭太郎さんとのイメージの共有も含めて、タイトルも早めに決めたほうがいいという話になり。それで恥ずかしがりながら提出したのが「あい」でした。

Ken・元良　（笑）。

サイトウ　タイトルだけじゃなくて、みんなに曲を聴かせるときも毎回緊張するんですよ。

──「あい」には「愛」「I」「EYE」という意味もあるし、五十音のはじまりの音でもあって、めちゃくちゃいいタイトルじゃないですか。

サイトウ　自分的にはしっくり来てたんだけど、それが人に伝わるかわかんないじゃないですか（笑）。でも、ひらがなで「あい」としたのがよかったみたいで。

Ken　俺らもその場で「いいじゃん」って話しました。

元良　サイトウさん、タイトル付けるのうまいんですよ。楽曲タイトルだと「喜劇」「My Generation」もびっくりしたし、毎回感動しています。

Ken　レコ発ツアーのタイトル「I SEE LOVE Tour」もすごいよね。タイトルに込められた意味が全部入ってる。

サイトウ　ありがとう（笑）。

──アルバム「あい」を引っさげたツアーでも、新しいトライが増えそうですね。

サイトウ　絶対いいツアーになると思います。俺らの芯の部分を残しつつ、ライブならではのモードというか、ちょっとアレンジを変えたいので、それもめっちゃ楽しみですね。あと、今回のアルバムはどっしり聴かせる系の曲が多いんですよ。今までは勢いとか熱量で押し切ることが多かったんですけど……。

Ken　俺らそういうの得意だしね。

サイトウ　うん（笑）。そういう部分ももちろんあるけど、どっしり、じんわり聴いてもらう曲も丁寧に演奏できたらいいなと思っています。