「WIND PARADE '22」茂木欣一(フィッシュマンズ)インタビュー|世代超えた4組が鳴らすグッドミュージック (2/2)

この人たちの声が同じ秩父に響くのか

──今回の「WIND PARADE」の出演者ラインナップが発表されたときに、SNSで「全組好き」といったような声がけっこう上がりまして。実際、かなり強力で絶妙な顔合わせだと思います。せっかくなので、それぞれの印象を教えていただけたら。

くるりはデビューのときから曲を知っていたし、岸田(繁)くんとは「RISING SUN ROCK FESTIVAL」の会場を夜中一緒に歩いたこともあるような仲ですね(笑)。フェスの会場で会うと、お酒を飲みながらしゃべったりしますよ。

茂木欣一

──そうなんですね。

気が付けばくるりもデビュー25年くらいですよね。くるりはね、小嶋さんが「カッコいいバンドを見つけたから聴いてほしい」ってデビューアルバム(「さよならストレンジャー」)を持ってきたのが出会いだったんです。当時自分が暮らしていた千歳船橋の街で、小嶋さんと聴いた記憶がありますね。

──バンドとしての魅力はどのあたりに感じますか?

最初はわりとフォーキーなところがあるのかなと思っていたんですけど、作品を重ねるごとにロック色が強くなったり、世界中のいろんな音楽やクラシック音楽を取り入れたり……めちゃめちゃ幅広いですよね。岸田くんが聴いている、分析している音楽の幅広さ、制作手法の幅広さには毎回本当にびっくりしています。「NIKKI」(2005年リリースアルバム)はよく聴いた記憶がありますよ。くるりの集大成としてとてもよくできたアルバムだなって思ったし……「THE PIER」(2014年リリースアルバム)も本当にびっくりした! スカパラのツアーの移動中、ちょうど京都の街に入るときに聴いていたんですよ。「今京都の街で最新盤を聴いてるんだけど、街にものすごくフィットしてるね。最高だよこのアルバム」って岸田くんにメールしてね。もう、あのアルバムはカテゴライズできない。くるりっていうジャンルだなと思いました。オリジナリティがあって、いびつで楽しくて。そういうワクワクするアルバムが大好きなんです。くるりのアドベンチャー精神を忘れていない感じが好きですね。

くるり

くるり

──カネコアヤノさんはいかがでしょう?

カネコアヤノさんの音楽をちゃんと聴くようになったのは、あるときに「フィッシュマンズとライブをしたがっている」という話をいただいたことがきっかけだったんです。アヤノちゃんの音楽って、全然体験したことない感じというかね。彼女もまたフォーキーなところがあるけど、一方で爆発しそうな部分も抱えていて……キャンバスにきれいに収まらない感じに、僕は峯田(和伸)くんを思い出したりもしたんですけど。

カネコアヤノ

カネコアヤノ

──それこそくるりと同じように、カネコアヤノでしかないという。

そうそう。フォーキーなようでいて、パンキッシュな一面もあるのかなって。彼女のライブを生で観たことがないので、今回すごく楽しみですね。僕、今の子たちはアヤノちゃんや折坂悠太くんの音楽をどんな感じで聴いているんだろう?って、逆に聞いてみたいんですよ。彼らの音楽を聴いていて思うのは、フィッシュマンズもそうなんですけど……漠然と、はっぴいえんどからの音の歴史を感じるというかね。折坂くんの音のアンサンブルの組み立てとか、尋常じゃないですもん。くるりにも同様のものを感じるけど、ああいう雰囲気ってなんて表現すればいいのかな。

──独特な異国情緒というか。

異国情緒ですね。それこそ細野晴臣さんのソロアルバムのようなムードを感じるんですよね。

──折坂悠太さんについてはいかがでしょう?

今年の「FUJI ROCK FESTIVAL」でスカパラの出番の前が折坂くんだったからステージ脇で観ていたんですけど、まあ声が気持ちよくて。すごく魂を感じました。バンドスタイルだったんですけど、アレンジもすごく丁寧に練られていたし、1つひとつのステージをとても大事にしている人なんだろうなって。とにかく声に引き込まれたな……佐藤くんもそうですけど、「アー」とか「イエー」みたいな、言葉にならないような思いみたいなものを発する声に僕はすごく引き込まれちゃうんです。岸田くんもアヤノちゃんもそうですけど、今回の出演者は声の魅力もすごいですし、それだけでもめちゃくちゃ貴重な機会なんじゃない? この人たちの声が秩父に響くのかと思うと、とんでもない時間になる予感がしますね。

折坂悠太

折坂悠太

「WIND PARADE」でしか経験できないものを感じて

──当日のフィッシュマンズのステージについても、お話を聞かせてもらえたら。

なんと言っても今回は時間を90分もらえているので! みんなには、ワンマンに近いムードで観てもらえると思います。フィッシュマンズの演奏って長いんですよ。ご存知かとは思いますが(笑)。

──存じ上げております(笑)。

フィッシュマンズで演奏しているときって、「この曲にはこのくらい必要だろう」という感覚で音を鳴らしているから時間がまったく気にならなくなっちゃうんですよね。だから、90分くらいあるとすごくうれしくて。皆さんには「フィッシュマンズってこういうバンドなんだ」としっかり体感してもらえると思います。プレイヤー1人ひとりが気持ちいい音を鳴らすので、僕ら独自のアンサンブルを……低音から高音まで、こういうレンジの鳴らし方をしている音楽なんだということを、大きな音で思いっきり感じてもらいたいですね。あとは、せっかく個性的なバンドやボーカリストの皆さんがいらっしゃるので、コラボレーションもできたらいいなと思っていて。今日の時点ではどんな形になるかはまだ決まってはいないですけど、できる限り実現できればいいなって。来る方には「WIND PARADE」でしか経験できないものを感じてもらいたいですね。

フィッシュマンズ

フィッシュマンズ

──期待しています。では最後に、読者の皆さんへメッセージをお願いします。

自分のフェス体験の話にもつながるんですが、フェスって刺激的な出会いと発見の場だと思うんです。「こんなバンドがいるのか!」という出会いがたくさんあって、その衝撃がたまらなく気持ちよかったり、ショッキングだったりする。衝撃の理由がその瞬間にわからなくても全然いいんです。「大好きなバンドに自分はあのとき出会っていたんだ」と、あとになって気付くこともけっこうありますからね。僕だっていまだにそうですよ。スカパラでヨーロッパや中南米に行くたびに「こんなバンドがいたのか!」と、リズムアレンジにめちゃくちゃ影響を受けたりして(笑)。世界は広いなと思わされます。だから、フィッシュマンズを全然知らなかった方が「何このグルーヴ!」とか「こんな曲があるんだ!」と、新しい音楽的発見をしてもらえたら、何よりもうれしいです。

──本当にそうですね。

中学1年生の自分があの日の横浜スタジアムで観たアクトに「なんなんだこれは!?」と衝撃を受けて、それ以降の人生がこんなに豊かになるとはっていうね。今は恐れ多くも届ける側にいる……こんな人生が待っているんだから、フェスはやめらんないですよね。まあ、今年のグラストンベリーに出ていたポール・マッカートニーの顔を見たらわかるって話で(笑)。何歳になってもライブですよ。7月、8月といろんなフェスに出させてもらっていますけど、世界中の人がコロナ禍で大変な思いをしている中、ネガティブに引きこもることなく何ができるのかっていうことをイベントチームの方たちは常に考えてくれているじゃないですか。そうやって1つひとつの可能性を探ってくださっているチームの皆さんには、本当に感謝しています。僕らは最高の演奏で返すしかないので、絶対に盛り上げます!という感じですね。

茂木欣一

「WIND PARADE '22」をプロデュースする「FUJI & SUN」&「ライブナタリー」とは?

FUJI & SUN

「FUJI & SUN」メインビジュアル

「富士山と学び、富士山と生きる。」をコンセプトに、世代やジャンルを超越したボーダーレスな音楽やカルチャーを富士山の麓で楽しむキャンプフェスとして、2019年に誕生したライブイベント。富士山麓の雄大な空間とジャンルレスな音楽が融合して生み出される“非日常”な空気感が魅力で、会場には地元のグルメを中心としたフードエリアやアウトドアグッズのブース、アクティビティの体験コーナーなども用意されている。

茂木欣一 コメント

会場の富士山こどもの国には、昨年「CAMP TV」(WOWOW)の収録でお邪魔しましたが、1人キャンプをやってみたくなりましたね(笑)。あとは火。焚き火の炎をただただ見ているだけで、こんなに頭の中を空っぽにできるんだっていうことも、自分の中で新たな発見でした。室外機の音もない、完璧な自然の中の静寂。その中で聞こえるのは風の音や炎の爆ぜる音だけっていう。すごく快適な時間を過ごせる場所でしたね。


ライブナタリー

「ライブナタリー」ロゴ

2018年1月に設立。リアル・オンラインを問わず、ポップカルチャーにまつわるイベントやライブの企画を数多く行っている。2021年1月に“ポップカルチャーのお祭り”をテーマに行う複合オンラインイベント「マツリー」を初開催。2022年1月に行われた「マツリーvol.2」では、東京スカパラダイスオーケストラが生配信ライブを実施した。

茂木欣一 コメント

ライブの魅力をよくわかってくださっている方たちがいろんなアイデアで音楽を広めてくれることに、僕らみたいなバンドをやっている人間は本当に感謝しています。コロナ禍になって身動きが取れなかったバンドマンには、配信ライブは本当にありがたい“救いの手”でしたし。僕、スカパラのライブでファンの皆さんに「会えないときも僕らはワイヤレスでつながってるから」と伝えるんですけど、たとえ会えないときだって、僕らとリスナーがつながるための媒介役となってくれているのがナタリーの皆さんのような存在だと思うので、ただただ感謝ですね。

プロフィール

フィッシュマンズ

1987年に佐藤伸治(Vo, G)を中心に結成されたロックバンド。1991年に小玉和文(ex. MUTE BEAT)のプロデュースのもと、シングル「ひこうき」でメジャーデビューを果たす。当時のメンバーは佐藤、茂木欣一(Dr)、柏原譲(B)、ハカセ(Key / 後のHAKASE-SUN)、小嶋謙介(G)。ライブではzAkがPAで加わるなどして、徐々に独自のサウンドを作り上げていく。ハカセ、小嶋の脱退を経て、1996年にアルバム「空中キャンプ」をリリース。レゲエを軸に、ダブやエレクトロニカ、ロックステディ、ファンク、ヒップホップなどの要素を取り入れた、独特の世界観で好評を博す。その後も木暮晋也(G / Hicksville)、ダーツ関口(G / ex. SUPER BAD)、HONZI(Key, Violin)をサポートメンバーに迎え、音源リリースやライブ活動を展開。1998年末をもって柏原がバンドを脱退し、その後の動向が注目される中、1999年3月に佐藤が急逝。これによりバンドは活動休止を余儀なくされるが、バンドは2005年夏に「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2005 in EZO」で、ゲストボーカルを迎える形で復活。その後も単独ライブやイベント、フェスなどで不定期にライブを行っている。