精魂込めて作ったものを余すところなく体験してもらえる
──続きまして、音楽クリエイターとしての目線でも1曲聴いていただきたいと思います。スカパラの近作から「青い春のエチュード feat.長屋晴子(緑黄色社会)」の音源をご用意しましたので、ぜひ聴いてみてください。
ああ、なるほど。了解しました。……(再生機の設定をいろいろ試しながらひと通り聴き終えて)ありがとうございます。
──今度はイコライザー設定をいじっておられましたね。
自分たちの音楽なので、設定によって聞こえ方がどう変わるのかを試してみようかなという気持ちになったんですけど……でも、基本的にはいじらなくていいですね。EQ設定はオフでいいです。「何もせず、そのまま聴いてください」と言えるのは、作り手としてはとてもありがたいです。
──レコーディングのときにこだわって工夫したことの再現度についてはいかがですか?
管楽器のバランスをすごくこだわって録っているんですが、ちゃんと1つひとつの音が分離して聞こえました。スカパラのメンバーは、トランペット、トロンボーン、テナーサックス、バリトンサックスとみんな個性的なので、それを感じられたほうがいいなと思ってそういうふうに録っているんですね。そのうえで、録音というよりは演奏の工夫として、バラバラではなくまとまった管の塊としても聞こえるように意識しているわけです。その両方がきちんと意図した形で聴けるので、聴くたびに新たな発見ができそうですね。
──管以外の部分に関してはどうでしょうか。
特に印象的だったのがドラムの音色ですね。とにかくドラムの音がすごくいいです。力強いんだけどうるさくないというか、耳に痛くない。ベースの音色も再現度が高いですし、リズム隊本来の音に限りなく近いと思います。あとは長屋さんのボーカルも……まあ彼女の歌はどんな環境で聴いても素晴らしいんですが、僕はこの曲の中にある「ごめんね」という部分のボーカル表現がとても好きで、そこにまた改めて聴き入っちゃいましたね。それらすべてが、こんなに小さなものの中で再現できてしまうというのは……ちょっとすごくないですか? すごい世界ですよね。
──オーディオに限らずどんなジャンルでも、本格的に楽しむためには大がかりな道具が必要になるのが当たり前ですもんね。
自分たちが精魂込めて作ったものを、こんな手のひらサイズの機器で余すところなく体験してもらえるというのは驚きですね。音楽はいつでもどこでも楽しめるインスタントハピネスだと自分は考えているんですが、それを体現してくれる機器だと思います。満員電車の中やエコノミークラスの真ん中の席など、窮屈な思いをせざるを得ない環境でも音楽が救ってくれるということを考えると、この小ささは本当にありがたいですね。
──谷中さんは先ほどから「WF-1000XM5」だけでなく、試聴用に用意したプレイヤー(ウォークマン「NW-A300シリーズ」)のほうにもだいぶ興味を引かれているご様子ですね。
これ、めちゃめちゃいいですよね(笑)。こんなにコンパクトなサイズなのに、ハイレゾ音源をこのレベルで聴けるというのは……もう少し大きいやつ(NW-ZX2)は持ってるんですけど、これも欲しくなっちゃいますよ。僕は昔からソニー製品のデザイン性もすごく好きなので、その意味でもこれは無条件降伏しちゃいますね。
──では総括として、「WF-1000XM5」をどんな方にオススメできそうか伺いたいんですが……例えばミュージシャン仲間に「どんなイヤホンだった?」と聞かれた場合、どんなふうに答えます?
「世界一だよ」と言いますね。僕の場合はちょっとソニーが好きすぎるというのもありますけど(笑)。なんて言うんでしょうね……いびつに化粧したり装飾したりすることなく、音楽をあるがままの姿で楽しんでもらえたらそれが一番ミュージシャン冥利に尽きることだと思うので、「ナチュラルで生き生きした音を楽しめるイヤホンだよ」と友達には薦めるかな。限りなくモニターヘッドホンに近い自然な音で聴けるんだけど、それでいて物足りなくはない。誠実さと謙虚さのあるイヤホンだと思います。
──そのバランスを取るのって、非常に難しいことだと思うんですよね。
すごいですよね。もう脱帽するしかないです、完全に。ミュージシャンの友達だけじゃなくて、これはやっぱり一般の人にも使ってほしいなあ。
──これでスカパラの曲を聴いてほしいですよね。
うん。耳にもよさそうな気がするんですよ。変な毒がないというか、過剰な刺激がない、本当にきれいな音なので。人体へいい影響しかない感じがしますね。
プロには2通りある
──本特集のテーマ「プロが選んだイヤホン」にちなんで、「プロとは何か」というお話も伺えたらと思います。谷中さんはどんな人をプロと呼ぶのだと考えていますか?
プロにも2通りあると思うんですよ。職人的なプロと、サービスのプロ。真面目に技術を磨いて抜かりなく仕事をやり遂げることも大事だし、それをどうやって人々に届けるのか、どう人々の生活に影響するのかを見据えて発展させていくことも大事。その両面を疎かにしないよう、いつも心がけています。これがどっちかに偏っちゃうと……例えばサービス偏重になっちゃうと品質の追求が二の次になってしまう危険性があるし、職人的な方向にこだわりすぎると世の中の感覚と乖離してしまう恐れがありますよね。どっちも大事なんです。
──すごくよくわかるお話です。ミュージシャンで言えば、質の高い音楽を追求することも大事だし、大勢の人に喜んでもらうことも大事という。
プロとして、1人の人間としてその両方を兼ね備えることがすごく重要だと思います。どうしてもどちらかに偏ってしまう人の場合は「自分のできないことをできる人と組む」というやり方でもよくて、スカパラはわりと後者に近い仕事の仕方をしていますね。でも、今はけっこう1人で全部やる時代になってきていて……特に若手のミュージシャンには、逆算できる人が多いんです。お客さんの求めているものから逆算して、なおかつ自分たちの本筋も見失わない作り方に長けている人がすごく増えた。今はそういうことをすごく考えていかなきゃいけない世の中になっていますね。
──そんな谷中さんから見て、「この人は本当にプロだな」と感じる人を1人挙げるなら?
そうですねえ、難しいですけど……高校生の頃から好きだった人で言うなら、デヴィッド・ボウイがその筆頭かもしれない。作る音楽が優れているだけではなくて、ファッションやアートと音楽を結び付けた人だと思うし、自分をキャンバスにしてチャレンジをし続けて、しかもずっとカッコいいっていう……ずっとカッコよくいるのって、すごく難しいことなんですよ。大衆に受け入れられるものを作り続けるためには、どうしても少しは“媚びる”じゃないですけど、身近に感じてもらえる工夫をしたりするものなので。彼はそれをせず、一生カッコいいまま生き抜いた人じゃないですか。
──本当にそうですよね。
サービス精神もありますしね。デヴィッド・ボウイ自身は「あまり逆算するな」と言ってるんですけど。「自分が何を表現したいかだけを考えて、サービス精神は捨てろ」ぐらいのことを言いながらも、やっていることは非常にエンタテインメント精神にあふれている。「自分の音楽をどういうふうに届けるべきか」ということに対して、すごく意識的ではあったと思うんですよね。
──それは「グラムロック」という言葉にも端的に表れていますよね。
ああ、グラマラスロック。
──音楽性ではなく、見せ方に言及しているジャンル名じゃないですか。ボウイがやってきたことに対して人々がそういうカテゴライズをしたという事実が、今の谷中さんのお話をそのまま示唆していますよね。
そうですね、うん。デヴィッド・ボウイのエンタメは人に向いていました。もちろん内向きな部分もすごく持っていた人ではありますけど、人との関わりというものに対してとても真摯だったからこそ、あれだけのエンタメにつながっていったというのはあるでしょうし。本当にすごい人だと思いますね。
ソニー「WF-1000XM5」
世界最高のノイズキャンセリング(※1)を搭載した完全ワイヤレスイヤホン。LDACコーデックに対応しており、ハイレゾ音質(※2)も高音質に再生できるだけでなく、あらゆる圧縮音源がイヤホン側でハイレゾ級(※3)にアップスケーリングされる。ソニー史上最高クラスの通話品質(※4)を誇り、音や人の声が気になる環境下でも正確かつクリアに集音するため快適な通話が可能。装着性と機能性を兼ね備えつつ、極限まで小型化したボディも特徴で、マルチポイント接続にも対応しているので仕事の現場でもプライベートでも活躍できる。
※1 左右独立型ワイヤレスノイズキャンセリングヘッドホン市場において。2023年4月10日時点。ソニー調べ。電子情報技術産業協会(JEITA)基準に則る。
※2 ハイレゾワイヤレス。ハイレゾコンテンツをLDACコーデックで最大転送速度990kbpsで伝送する場合。「Headphones Connect」アプリから操作が必要です。
※3 DSEE Extreme ON時にCDやMP3などの圧縮音源をSBC / AAC / LDACのコーデックでBluetooth再生する際、最大96kHz / 24bitまで拡張(再生機器の仕様によっては圧縮音源をLDACで伝送する場合でもDSEE Extremeが無効になる場合があります)。
※4 ソニー完全ワイヤレス史上最高通話品質。2023年7月25日時点。ソニー調べ。
プロフィール
谷中敦(ヤナカアツシ)
1966年12月生まれ。東京都出身。1989年に東京スカパラダイスオーケストラのバリトンサックス担当としてデビュー。インストゥルメンタルバンドとしての確固たる地位を築く中、日本国内に留まることなく世界31カ国での公演を果たし、世界最大級の音楽フェスにも多数出演している。さまざまなアーティストとコラボを行っており、2022年7月から2023年3月にかけて“管楽器3部作”として「Free Free Free feat.幾田りら」「紋白蝶 feat.石原慎也(Saucy Dog)」「青い春のエチュード feat.長屋晴子(緑黄色社会)」を発表した。2023年10月から12月にかけて「東京スカパラダイスオーケストラ 2023 HALL TOUR『JUNK or GEM ~Autumn&Winter』」を開催する。また、ドラマ「渋谷先生がだいたい教えてくれる」で主演を務めるなど、俳優としても活躍している。