密閉空間の中にいるような感覚
──鈴木さんがこれまでに使ってきたソニー製品で、印象に残っているものは何かありますか?
いっぱいあります。父親が大のソニーファンで、うちの家電製品は基本的にすべてソニーでしたから。ソニーが参入していないジャンルの製品だけですね、違ったのは。
──ということは、鈴木さんの血の中にはソニー成分がけっこう濃いめに入っているんですね。
家系的には筋金入りだと思います(笑)。なので、初めて自分で買ったポータブルプレイヤーはもちろんウォークマンでした。カセット、CD、MD、MP3と、すべての時代のウォークマンを使ってきています。あと、僕は音楽が大好きで、DJをする際のヘッドホンもソニー製にこだわっていました。僕の中では「ヘッドホンといえばソニー」という絶対的な信頼があるので。
──普段はどのような環境で音楽を聴くことが多いですか?
時と場合によっていろんな環境で聴きますね。イヤホンでも聴くし、スピーカーでも聴きます。あとはライブやフェスに行くことも好きですし、音楽は常に日常とともにある感じですね。アナログレコードも好きで、何千枚と持っています。
──そんな方に対してはちょっと的外れな質問になるかもしれませんが、どういうときに音楽を聴きたくなりますか?
もちろん気分を変えてリラックスしたいときも聴きますが、最近は音楽がヘルスケアやウェルネスの分野で活用されるケースが増えていますよね。自分もそういう効果を取り入れようと思って、集中するために始業前の15分間でホワイトノイズを聴いています。
──そういう用途には、ノイズキャンセリング機能が威力を発揮しそうですね。
めちゃくちゃいいと思います。今回「WF-1000XM5」を試させていただきましたが、周囲の音から遮断されることによって、まるで密閉空間……しかもすごく大きな密閉空間の中にいるような感覚を得られましたね。
──「WF-1000XM5」は「世界最高ノイキャン」(※)を謳っていて、業界最高水準の静音性を確保できるんです。
※完全ワイヤレス型ノイズキャンセリングヘッドホン市場において。2023年4月10日時点。ソニー調べ、電子情報技術産業協会(JEITA)基準に則る。
本当にこれは集中したいとき、あるいは音楽をしっかり味わって聴きたい用途にすごく適したイヤホンですね。僕は出張などの移動がすごく多いので、東海道新幹線の座席を自分のメディテーションルームとしてよく使っていますが、「WF-1000XM5」があればどこにいてもその場をメディテーションルームにできそうです。
──持ち運べるメディテーションルーム?
そうですね(笑)。心を静めて内省したり、次へ向けてのムードを高めたり……僕に限らず、そういう場を持ちたい現代人はたくさんいるような気がします。忙しい方々にはすごくオススメできるイヤホンだなと思いますね。
──そんな本製品で聴いてみたい曲として、鈴木さんには事前に3曲を挙げていただきました。ベートーヴェンのピアノソナタ第15番「田園」、アレサ・フランクリン「I Say a Little Prayer」、ブライアン・イーノ & フレッド・アゲイン「I Saw You」というラインナップですが、この選曲の理由は?
このプロダクトのことをちゃんと理解したいと思ったので、まず古典的な楽器のみで演奏されているクラシック音楽、次に音楽がデジタル化する以前の時代のボーカル音楽、そして最新のデバイスに最適化されているであろう現代のデジタル音楽、という軸で選ばせていただきました。
──さすが、とても理に適った選び方ですね。聴いてみて、率直にいかがでした?
もちろん僕は音楽については門外漢なので、専門的なことは言えないのですが……アナログな楽器の音は臨場感が素晴らしいなと感じましたし、デジタルな曲はすごく高い解像度で1音1音がクリアに聞こえてきた印象です。どちらもすごくいい体験だなと感じられました。
シンプルなグラスほど作るのが難しい
──イヤホンに限らず、普段身に着けるものや使うものを選ぶ際にこだわっているポイントは何かありますか?
やはり最初のデザインの話とも重なりますが、「心地よさがあるか」と「上質さがあるか」の2点はよく見ていますね。洋服でもなんでも、デザインだけでなく素材や質感、遊び心にクリエイティビティ、そして職人技など、仕事柄あらゆるポイントを五感で気にしてしまうので、ものを買うという行為がいつも大変(笑)。その分、一度これと決めたらずっと長く使っていくタイプではあると思いますけど。
──上質なものを選ぶことの重要性については、どのようにお考えでしょうか。それによって何が得られると思いますか?
そうですね……ちょっと話は逸れるんですけど、僕、コロナ禍で生け花を始めまして。
──生け花! 素敵なご趣味ですね。
家の中に花が1本あるだけで、野草や枝が1本あるだけでもすごく心地よい空間になるんです。モノの力って、そういうことだなと思っていて。自然の造形や、こだわりをもって人間が作った上質なものが生活の中にあると、ふわっと花が咲くように新鮮な景色が現れてくる。目が豊かさを感じて、心も豊かになっていく感覚でしょうか。
──単に機能さえ満たせばいいということではないと。
先ほど「余白」の話をしましたけど、これは自分がモノを選ぶときにもけっこう大事な視点です。あまりにもガチガチにデザインされすぎているものだと、自分との距離を感じてしまう。だから「どういう使われ方をしても機能しますよ」という余白のあるものに惹かれますね。ただ、そういうものを作るって、本当に難しいのですが……僕も毎回、悩みに悩んで、試行錯誤の繰り返しです。
──同じような話になってしまうかもしれませんが、鈴木さんにとって「美しいデザイン」とはどういうものを指しますか?
そうですね……やはり今日の話の中にも出ましたけど、理に適ったものの美しさ。“理に適っている”ということは“無駄がない”ということであり、そうなる過程でいろんなものがそぎ落とされていった結果だと思うんです。そういうものを人は「美しい」と感じるはず。
──「機能美」という日本語もありますしね。
プロダクトの場合で言うと、機能と形状がきちんと融合しているということがひとつ“理に適っている”状態と言えます。自分も常にそういうものを目指していますし、ソニーの製品からもその意志を感じますね。プロダクトデザイナーから見ると、やっぱりソニーの製品ってすごくレベルが高い。1つひとつの要素にしっかりと意味があることを発見できるし、“なんとなく”デザインされたものなんてまったくなくて。「ここはこういう理由でこうなっているんだ」という根拠が細部まで見て取れるくらい、高い解像度で作られているものばかりです。
──「一流は一流を知る」じゃないですけど、鈴木さんだからわかるソニーのすごさがたくさんあるんでしょうね。
ああ、でも案外そうでもないと思いますよ。現代の人たちはたくさんのものに囲まれていて、さまざまなものに触れてきているから、自然とものを見る目が養われている。だから、専門的な知識がなくても本質的なよさは誰しもに伝わるのではないでしょうか。
──つまり、理屈では説明できない僕のような人間でも感じ取れるよさを持つものが、本当にいいデザインであると。
うん、そうだと思います。逆もまたしかりで、例えばこの充電ケースのフタがありますよね。開閉の際に指の皮を挟まないような作りになっていて「よくできてるなあ」と思いましたが、仮にここで指を挟んで痛い思いをすると、今のユーザーは「もう二度と使いたくない」と強烈なアレルギーを持ってしまうものです。
──なるほど。「どこがどうダメなのか」を言葉にはできなくても、現実として「使わない」という選択はできてしまう。
そういうことです。でも、ここに指を挟まないように作るのってけっこう難しい……。マニアックな話ですけど、ソニーは昔からヒンジに定評があるんですよね。VAIO Zの頃からXperiaに至るまで、ずっとヒンジがヤバい(笑)。
──(笑)。意識はしてなかったですけど、確かにこのフタがガタついていたりしたら不安になりますもんね。
そんなふうに、ユーザーの意識の外で深層心理的に「いいものだ」と感じてもらえるもの作りを目指すのが、プロダクトデザイナーとして一番燃えるところですよ。
──大変な仕事ですね……。
ははは(笑)。でも、楽しいですよ。
──そうなってくると、デザイナーのこだわりを詰め込めば詰め込むほど、究極的には“デザインを感じさせないもの”に行き着きますよね。矛盾するような話ですが。
いや、でもその通り。我々の世界ではよく「シンプルなグラスほど作るのが難しい」という言い方をするように、一見シンプルに見えるデザインほど、実は究極に突き詰めた結果なんです。「WF-1000XM5」もまさにそのようなプロダクトになっていますよね。
ソニー「WF-1000XM5」
世界最高のノイズキャンセリング(※1)を搭載した完全ワイヤレスイヤホン。LDACコーデックに対応しており、ハイレゾ音質(※2)も高音質に再生できるだけでなく、あらゆる圧縮音源がイヤホン側でハイレゾ級(※3)にアップスケーリングされる。ソニー史上最高クラスの通話品質(※4)を誇り、音や人の声が気になる環境下でも正確かつクリアに集音するため快適な通話が可能。装着性と機能性を兼ね備えつつ、極限まで小型化したボディも特徴で、マルチポイント接続にも対応しているので仕事の現場でもプライベートでも活躍できる。
※1 左右独立型ワイヤレスノイズキャンセリングヘッドホン市場において。2023年4月10日時点。ソニー調べ。電子情報技術産業協会(JEITA)基準に則る。
※2 ハイレゾワイヤレス。ハイレゾコンテンツをLDACコーデックで最大転送速度990kbpsで伝送する場合。「Headphones Connect」アプリから操作が必要です。
※3 DSEE Extreme ON時にCDやMP3などの圧縮音源をSBC / AAC / LDACのコーデックでBluetooth再生する際、最大96kHz / 24bitまで拡張(再生機器の仕様によっては圧縮音源をLDACで伝送する場合でもDSEE Extremeが無効になる場合があります)。
※4 ソニー完全ワイヤレス史上最高通話品質。2023年7月25日時点。ソニー調べ。
プロフィール
鈴木啓太(スズキケイタ)
1982年生まれ、愛知県出身のプロダクトデザイナー。多摩美術大学プロダクトデザイン専攻を卒業後、NECデザイン、イワサキデザインスタジオを経て2012年に独立し、「PRODUCT DESIGN CENTER」を設立する。自身が手がけた「富士山グラス」は「Tokyo Midtown Award 2008 審査員特別賞」を、2019年に車両プロダクトデザインを担当した「相模鉄道20000系」は「ローレル賞2019」を受賞。現在、「グッドデザイン賞」審査委員、金沢美術工芸大学客員教授、東京藝術大学デザイン科ゲスト講師を務める。