映画「ウエスト・サイド・ストーリー」ブルーレイ+DVDセット発売記念特集|“スピルバーグの教え子”森崎ウィンが魅力を掘り下げる

2021年公開(日本公開は2022年)の映画「ウエスト・サイド・ストーリー」のブルーレイ+DVDセットが、5月18日にリリースされた。

「ロミオとジュリエット」をモチーフにした伝説のミュージカルを、初めて映画化して大ヒットを記録した「ウエスト・サイド物語」(1961年)を、巨匠スティーブン・スピルバーグ監督が60年の時を経て再び映画化。劇中では、多くの移民が暮らす1957年のニューヨークのウエスト・サイドを舞台に、社会の分断を乗り越えようとしたトニーとマリアの“禁断の愛”の物語が、数々の名曲とダイナミックなダンスに乗せて描かれる。

リリースを記念して、音楽ナタリーでは俳優でアーティストの森崎ウィンにインタビューを実施した。2018年公開のスピルバーグ監督作「レディ・プレイヤー1」でメインキャストであるダイトウ / トシロウ役を射止めてハリウッドデビューを果たした森崎は、2020年上演のブロードウェイ・ミュージカル「ウエスト・サイド・ストーリー」Season2でトニー役としてステージに立った経験もある逸材だ。森崎ならではの視点で語られる、スピルバーグ版「ウエスト・サイド・ストーリー」の魅力、見どころとは? じっくりと語ってもらった。

取材・文 / 三橋あずみ撮影 / 藤記美帆

「ウエスト・サイド・ストーリー」

夢や成功を求め、多くの移民たちが暮らすニューヨークのウエスト・サイド。だが、貧困や差別に不満を募らせた若者たちは同胞の仲間と結束し、各チームの対立は激化していった。ある日、プエルトリコ系移民で構成されたシャークスのリーダーを兄に持つマリアは、対立するヨーロッパ系移民のグループ・ジェッツの元リーダーのトニーと出会い、一瞬で惹かれあう。この禁断の愛が、多くの人々の運命を変えていくことも知らずに──。

映画「ウエスト・サイド・ストーリー」より。

映画「ウエスト・サイド・ストーリー」より。

主な登場人物

トニー(アンセル・エルゴ-ト)

トニー(アンセル・エルゴ-ト)

ヨーロッパ系移民のグループ・ジェッツを仲間のリフとともに結成した元リーダー。

マリア(レイチェル・ゼグラー)

マリア(レイチェル・ゼグラー)

シャークスのリーダー・ベルナルドの妹。

アニータ(アリアナ・デボーズ)

アニータ(アリアナ・デボーズ)

ベルナルドのガールフレンド。

ベルナルド(デヴィッド・アルヴァレス)

ベルナルド(デヴィッド・アルヴァレス)

プエルトリコ系移民のグループ・シャークスのリーダー。

バレンティーナ(リタ・モレノ)

バレンティーナ(リタ・モレノ)

ジェッツの溜まり場で、トニーが働くドラッグストアの店主。

森崎ウィン インタビュー

トニーは動物的な嗅覚がすごい人

──まずは、ウィンさんと「ウエスト・サイド・ストーリー」との出会いから聞かせてもらえますか?

作品の知名度の高さは幼い頃から知っていたし、「ウエスト・サイド物語」(1961年公開映画)もどこかのタイミングで観ていたとは思うのですが、しっかりと内容に触れたのはミュージカルをやることになったのがきっかけでしたね。

森崎ウィン

──ウィンさんは、2020年に上演された「ブロードウェイ・ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』Season2」に出演されました。本格的なミュージカルは初挑戦ながら、トニー役を演じられて。

すごいですよね。当時、自分はミュージカルにチャレンジしたかったので「ぜひ受けさせてください」と、推薦いただいたトニー役のオーディションに臨んだんです。受かったときは純粋にうれしかったですし、歴史ある作品に携われる感慨深さがありました。ただ、クラシカルなミュージカルなので歌い方のアプローチもそれまで僕が歌っていたポップスとは違っていたから、初めて直面する壁もあって。地声で出る音域をファルセットで歌うことになっていたり、あとはリズムの取り方がすごく難しかったのをよく覚えていますね。

──そうだったんですね。では、ミュージカルで役に向き合っていく中でウィンさん自身が得た“トニー像”とは、いったいどのようなものでしたか?

トニーを演じることになってから「ウエスト・サイド物語」を観返したりもしたんですけど、知らないうちに映画版のトニーに自分が寄っていってしまうのは嫌だったので、あまり深く観ることはしなかったんです。役の作り方は無限大にあるし、僕がトニーを演じる意味を……そこは断固として、しっかりと持ちたかったんですね。そういった思いがある中で自分なりに役に向き合って最終的にポンと浮き上がってきたのは、トニーは動物的な嗅覚がすごい人なのかなと。衝動的に行動しますし、それこそトニーが歌う「サムシング・カミング」でも描かれているんですけど、何かを感じているときのワクワク感とか、新しいものに対しての興味とか……とにかくそういう感覚が鋭い人なのかなと捉えていました。

めちゃくちゃ縁を感じました。「マジか!」みたいな

──ウィンさんがミュージカルに取り組まれているくらいの時期に、スティーブン・スピルバーグ監督による映画「ウエスト・サイド・ストーリー」の公開決定のニュースも公になったかと思います。

そうなんです。もう、初めて知ったときはめちゃくちゃ縁を感じました。「マジか!」みたいな。

──ウィンさんは2018年公開のスピルバーグ監督作「レディ・プレイヤー1」に出演しましたね。この作品への参加は、ウィンさんの名前が世間に広く知れ渡るきっかけにもなりました。

ええ。しかも、僕が参加していた「ブロードウェイ・ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』Season2」に演出と振り付けで入っていたフリオ(・モンへ)というスタッフが、スピルバーグ版にも携わっているよと言っていて。「ウィンのことを監督に伝えたら『彼はすごくいい役者なんだ』と言ってたよ」と教えてくれたりもしたんです。とにかくすごい縁だなあと……。

森崎ウィン
森崎ウィン

──「レディ・プレイヤー1」でスピルバーグ監督の現場に参加して、特に印象に残っていることなどはありますか?

監督は役者に対してプレッシャーをかけないんです。アドリブでもなんでも、役者の中から出てきたものを受け入れるという形だったので、現場に入ったら自分の周囲のすべてに感性を張り巡らせて、あとは思い切り飛び込む勇気があれば!という感覚で演技していましたね。あと、監督はめちゃくちゃ画にこだわる方でした。「ちょっとだけ顎を下げて」と、本当にミリ単位で調整するみたいなことが何度もあって。そういった演出のこだわりが本当にすごかったですね。

──そうなんですね。

あと、これは今になって客観的に気付いたことなんですけど、スピルバーグ監督は余計なクセが付いていない、素直な役者を好むんじゃないかなって。今回の「ウエスト・サイド・ストーリー」のキャスト陣もそうですけど、監督が提示した課題に素直に取り組めて、なおかつ感性が強い人を集めているように感じたんですよね。

想像がつくんです、スティーブンが実際に言っている姿が

──そういったウィンさんならではの視点を交えつつ、スピルバーグ監督の「ウエスト・サイド・ストーリー」を観た感想を聞かせてください。

いやあ、これはヤバいですよ。めちゃめちゃいい! 長きにわたって愛されてきた「ウエスト・サイド物語」のメッセージ性をしっかり継承しつつも、すごく新しい作品になっているなという印象を受けました。「この画、めちゃくちゃきれいだな!」とか「うわ、ここの構図がヤバい!」とか、細かなところに注目する見方をしてしまったんですけど、そういう細かな部分を観ながらもちゃんとストーリーに感動して、僕、最後には泣いていました。

──特に感動したポイントは?

僕がまず感動したのは、トニーとマリアが出会う体育館でのダンスシーン。「ウエスト・サイド物語」での描かれ方も2人の周りがモザイクのようになっていて斬新なんですけど、スピルバーグ版はライティングが素晴らしかったです。トニーがマリアを見つめている、その目元だけにずっとライトが当たっているんですよね。マリアはマリアで周りの人との衣装の色のコントラストが美しく、白いドレスの彼女が1人だけポンッと……ライトを当てずとも浮かび上がってくる。それに加えて、周囲の人たちは後ろからの強い光で自然と存在感が消されていて、2人だけの世界が際立つという……あの作りに、もう超感動しました。これは本当にスティーブン・スピルバーグならではの表現だよなと思います。すごく好きでした。

映画「ウエスト・サイド・ストーリー」より。

映画「ウエスト・サイド・ストーリー」より。

映画「ウエスト・サイド・ストーリー」より。

映画「ウエスト・サイド・ストーリー」より。

──確かに、2人の出会いのシーンはとても美しく印象的でした。

すごく素敵でしたよね。あとは自分が参加したミュージカル版との違いとして、トニーのバックボーンがしっかりと描かれているところも印象に残りました。僕はトニーを演じていたからトニーのことを追いかけて観てしまったんですけど、「あ、このトニーを先に知っていたら、僕が作るトニーも変わっていたかもな」と。ほかにもベルナルドがボクサーだという設定だったり、リフの過去や生い立ちもちゃんと説明されていたりとか、キャラクター1人ひとりの描かれ方が細やかでしたね。あとは、舞台だとセットの中でしか見せられないから、トニーとマリアがデートするのもマリアが働いているブライダルショップだったんですけど、今回の映画では2人で電車に乗って出かけていたり。そういった違いがすごくよくて、めちゃくちゃ感動しましたね。

──では、ウィンさんが特に監督のこだわりや演出意図を強く感じたシーンは?

終盤にアニータがドラッグストアを訪れるシーンですね。エニーボディズが店を出ていこうとするときにアイスが「頼むぞ ダチ公」と……エニーボディズをやっと仲間として認める場面。セリフの直前にアイスにトラックインするカメラワークは、スティーブン・スピルバーグらしさが全開になっていると思います。想像がつくんです、スティーブンが「トラックインしてきた、はいここ、どうぞ!」って現場で実際に言っている姿が(笑)。

映画「ウエスト・サイド・ストーリー」より。

映画「ウエスト・サイド・ストーリー」より。

──すごい、それは実際に現場に入られたウィンさんならではの視点ですね。

ここは監督の意図をすごく感じました。そして、そのあとにアニータが「私はアメリカ人じゃない プエルトリコ人だ」と言うときのカメラワークも……彼女がドアの前で振り返ってから、確かポンポンと2回大きく寄っているんですよ。あれが彼女の……なんて言うんだろう。プエルトリコから移り住んでアメリカは自分たちの国になったはずなのに、まだどこか外国人みたいな感覚であったり、血が変わることはないから自分はアメリカにいようがプエルトリコ人なんだっていう、彼女が持っているプライドを描くための効果的な撮り方だよな、とか。そこにきてアニータのセリフの吐き方が本当に素晴らしかったので、めちゃくちゃ感動しました。

──ウィンさんが直接スピルバーグ監督に感想を伝えられるなら、どんな言葉を伝えると思いますか?

うわあー! そうですね……よくぞ「ウエスト・サイド・ストーリー」を手がけてくださったと伝えたいです。これまで自分は「この話ってマリアがメインだよな」と思う部分があったんですけど、今回はトニーにも光がしっかりと当たっていて、彼のバックボーンをセリフに織り交ぜることで彼の輪郭がハッキリして、僕の中でモヤモヤしていた部分がきれいに説明された感覚があったんです。あとは、トニーが働く街角の店の店主が、オリジナル版と同じドクではなく、ドクの妻のバレンティーナという設定に変わっているじゃないですか。その設定が素晴らしすぎて。「ウエスト・サイド・ストーリー」って、男たちの抗争を描く中にマリアが1人浮き出てきて、女性の自立だったり、女性が前を向いて強く生きていく姿が描かれる作品だと思うんですね。初演当時の時代背景を考えると、そういった姿を描くことは本当にすごいことだったと思うんですけど、今の時代にもなお通じてしまうテーマなのかなと……昔と比べたら社会環境はよくなっているとは思いますけど、まだ僕なりに女性の生きづらさみたいな部分を感じることは、多少なりともあったりして。そういった視点からも、バレンティーナという女性がメインキャストの中に加わったのはめちゃくちゃ素敵だなと思いました。

映画「ウエスト・サイド・ストーリー」より。

映画「ウエスト・サイド・ストーリー」より。

──そのバレンティーナを演じているのが、「ウエスト・サイド物語」でアニータ役を演じたリタ・モレノだというのもまた……。

本当に! しかも「どこかに(Somewhere)」をエニーボディズではなくバレンティーナが歌っているのを観て「うわあー!」となりましたね。鳥肌ものでした。そう、今回のキャスティングで自分がグッと来たのがエニーボディズ。アイリス・メナスさんのエニーボディズがよすぎました。女性の体を持って生まれたエニーボディズは劇中で自分の生き方を探しているけど、今作では「私は女じゃない」と……「I'm not a girl!」と言っているんですよね。自分はボーイだ、とも言っていないんです。このセリフの表現はいろんな捉え方ができるなあと、すごく印象に残っていて。とても感慨深かったです。