水曜日のカンパネラ「赤ずきん」インタビュー|「エジソン」で注目の2代目ボーカル・詩羽、飛躍の1年の幕開けは“激詰め”する曲 (2/2)

ファッションと同じで詩羽に似合う歌を

──詩羽さんにボーカルが替わってからケンモチさんの曲の作り方も変わってきた印象があります。

ケンモチ けっこう意識的に変えています。特に2代目に替わって最初の頃は今までのイメージを引きずりすぎるのもよくないと思って、トラックの上ではカンパネラらしい部分を残しつつ、歌メロとか歌詞に関しては新しいことにもチャレンジしていました。より詩羽に合っていて、かつ新しいカンパネラを提示できるラインを探ってたかな。コムアイ時代に2年ぐらいカンパネラの曲を書いてない時期があって、その間に楽曲提供やサウンドプロデュースやCMの仕事をして「カンパネラっぽさ」みたいのが若干フラットに戻ってきた影響もあるかもしれないですね。

詩羽

詩羽

──詩羽さんの加入発表時にDir.Fさんが「ボーカルが代わるから音楽性も変わりますよ」みたいなことを話していて、「そんなことあるのかな」と思っていたんですが、ありましたね。コムアイさんの後期はどんどん音楽性がドープにディープになっていた気がしますが、ポップで華やかになったというか。

ケンモチ キャッチーにしようというのは意識しています。ファッションと同じような感覚で、客観的に見て詩羽に似合う歌や曲調を、パッと見パッと聴きで選んでいったらこうなったというか。

詩羽 ポップだったりキャッチーだったりするほうが私には向いてると思う。わかりやすくてメロディアスなものが多い今のケンモチさんの曲がすごく合ってると思います。

──「アリス」「エジソン」「織姫」「一寸法師」と、テーマやタイトルが誰でも知っているものに変わってきていますよね。以前は「オニャンコポン」や「南方熊楠」などマニアックなものもありました。

ケンモチ コムアイ時代にはまだ若干のサブカル精神があって、知る人ぞ知る名前や近現代の人物を扱うことが多かったんですけど、昨今はコンプラの流れもあるのでそういうのは避けて、もっとみんなが普遍的に知ってるものとか、世界中ですでに幅広く使われてそうなテーマを選ぶようにしています。例えば「赤ずきん」に版権がどうのこうのとは言われなさそうだなとか(笑)、そういうところを考えるようになってきた結果、より開かれたものが増えてきてる傾向にあるのかな。

詩羽

詩羽

詩羽がもともと持っていたセンス

──ちょっと話が戻るようですが「THE FIRST TAKE」を観て、改めて詩羽さんの歌唱力に感服しました。

詩羽 ヘヘッ。ありがとうございます。

──2021年の9月に東京・渋谷パルコの屋上でやった最初のライブを拝見しましたが、あれから1年ちょっとしか経っていないのに、すごく歌手っぽくなりましたよね。「歌手っぽくなった」と言うと語弊があるかもしれませんが。

詩羽 (ケンモチに)なりました? 歌手っぽく。

ケンモチ そうっすね……まあ、なったんじゃないですかね。

詩羽 そもそも「歌手っぽい」ってなんですか?

──声の出方がいっそうクリアになって、ステージ上での立居振舞が威風堂々としてきたと言いますか。とにかく成長速度が速いなって。

Dir.F 普通より速いと思います。そこはもうセンスなんじゃないですかね、詩羽の。がんばってカンパネラに合わせているというより、もともと持っていたものが開花したというか、自然体のまま大きくなっている感じで。

──無理をしている感じはない?

詩羽 それは全然ないですね。やりたくない仕事はもちろんあるけど……。

ケンモチ もちろんあるんだ(笑)。

詩羽 でもつらすぎるってほどつらいわけでもないし。この仕事をして、自分って体力的にも精神的にもけっこうタフなんだなと気付きました。「疲れる、しんどい」ってことがあんまりなくて、おいしいごはんを食べていっぱい寝てればなんとかなるので。大学に行ってたときは「社会人になるってどんななんだろう?」と思ってて、今はたぶん社会人なんですけど「これが社会人……社会人か?」みたいな疑問がまだあります(笑)。

詩羽

詩羽

──社会人の先輩から見て、詩羽さんは社会人ですか?

ケンモチ 普通の社会人とは違うけど、ちゃんと適応していると思いますよ。僕は会社員経験があるからわかるんだけど、学生時代から地続きで毎朝電車に乗って決められた場所に行くみたいなことがちょっとした心の安定になるんだよね。だから脱サラ後にすごく不安になって(笑)。「俺、明日何時に起きたらいいんだ?」とか「家から出なくていいのかな?」とか。1年ぐらいは「出勤したい……」って思ってました。だからすぐ順応できてるのはいいんじゃない?

詩羽 へー、そうなんだ。

ケンモチ でもまだよくわかんないよね。「社会人ってふわっふわだな」みたいな。

詩羽 実質的には社会人なんだろうけど、世に言う社会人とかけ離れているので、変な感じなんですよね。私の友達は普通に就職する子が多いので、就活の話を最近よく聞くんだけど、イメージを共有できなくて。面接のアドバイスだけしてます(笑)。自己アピールだけはめっちゃ得意だから。「とりあえず笑顔で」とか「とりあえず明るい声で」みたいなことしか言ってないんですけど(笑)。で、「あとはなんとかなるよ、大丈夫だよ」って言うのが自分の担当です。

ケンモチ 大正解。

──学生気分から切り替わってきましたか?

詩羽 学生って気持ちもないし、社会人って気持ちもなくて、ただ、がんばってお金稼いで生きていきたい気持ちだけはある感じ。たぶんこれからもそんなに変わらないんじゃないかな。

運だけで売れてる曲はない

──TikTokのようなプラットフォームから出てきた人たちの曲を聴いていると、サウンドの構成もメロディもかなり変わっている気がしますが、その影響は受けていますか?

ケンモチ 影響を受けるというか、ただただ感心するばかりですね。テレビが流行を作っていた時代には「この曲、何がいいんだろう」とか「なんで売れてるんだろう」みたいな曲がたまにありましたけど、今流行ってる曲でそういう疑問を抱かせる曲はほぼ1つもない。「やっぱすごいな」「こりゃ売れるわ」って納得できる曲しかないですね。単純に曲が全部すごいし、そのうえでさらに運がある曲が売れてる感じ。運だけで売れてる曲はたぶんないんじゃないかな。

詩羽

詩羽

──詩羽さんはTikTokユーザーに近い世代ですが……。

詩羽 歳は近いはずなんですけど、自分がすごくTikTokを使ってきたわけではないので、わからない部分はすごく多いです。今は動画をあまり出さないですけど、ときどき見て「どんな曲がバズってるのか」とかは一応知るようにしてます。「ははあ、この曲でこう踊るのね」みたいな。

ポップな曲は国境を超える

──今年最初のライブは台湾でしたが、詩羽さんは前から海外でライブをしたいと言っていましたね。いずれは「コーチェラ(Coachella Valley Music and Arts Festival)」のヘッドライナーを務めるぞと。

詩羽 はい! 行きまーす。フフフ。

ケンモチ 来年ぐらいにはもう行けてるでしょ。

詩羽

詩羽

──「これから水曜日のカンパネラとしてこんなことをしたい」みたいな話を3人ですることはありますか?

詩羽 3人では話し合わないんじゃないですかね。

ケンモチ 今度話すって言ってました。

Dir.F まさに今日このあと話します。そんな大ごとじゃないけどね。

詩羽 えー。じゃあ短めで。

Dir.F (笑)。紙で言うとペラ1枚ぐらいだから。

──Dir.Fさんはやっぱりいろいろ考えているんですね。

Dir.F 今はメディアが多いから、ユーザーがコンテンツにリーチするプラットフォームが多いし、その移り変わりも早いじゃないですか。その中でどう立ち回っていくかを早めに考えないとな、とは思ってますね。今のところ、世間的には「TikTokで流行った」ぐらいの存在感なんで、これをどうやって次の段階に持っていくか。マーケットが細かく分かれていて、お客さんもそれぞれガラパゴス化してるから、「あ、この子知ってる」ぐらいのタイミングでその全部に顔を出してファンを獲得していくのが、今年のタームかなと思ってます。

──具体的に考えていることは?

Dir.F 例えば「まだロック系のフェスに出れてないから、たくさん出たい」とか、「家族連れのお客さんが増えてきてるから、もっとみんなが来やすいところでやらないとな」とか、「武道館は今度はいつやろうかな」とか。音楽以外の活動もいろいろ画策しています。

──相変わらず頼もしい。家族連れ、増えていますか?

詩羽 ちっちゃい子がすごく多くなってますね。真似してくれる子がいっぱいいてうれしいです。三つ編みのツインテールにしてたり、ママにお願いしてアイラインを描いてもらってたり、あごにシールを貼って「口ピアス真似した」とか。自分が好きでやってる格好ですけど、プリキュアみたいな感じで感覚的に「ああいうのやってみたい!」って思われやすい“キャラクター感”があるんだろうなと思いますね。

──カンパネラは楽曲も以前からちびっ子受けがよかったですよね。小学校で「桃太郎」が流行ったこともありましたし。

ケンモチ 歌詞の内容はそんなに子供向けを意識していないけど、おそらくリズムが印象に残りやすいから子供にもウケるのかもしれないですね。「踊るエジソン 自尊心」とか「きっびっだーん きびきびだーん」とか、そんなに複雑じゃない。お正月に知り合いから「今ジョージアにいるんですけど、子供たちが『エジソン』めっちゃ踊って歌ってますよ」って動画が送られてきて、ビックリしました(笑)。こういうポップな曲って言葉を超えて流行るもんなんですね。国を超えて広がっていくような曲を、これからのカンパネラでも生み出していきたいです。

詩羽

詩羽

プロフィール

水曜日のカンパネラ(スイヨウビノカンパネラ)

2012年に結成した音楽ユニットで、初期メンバーは主演・歌唱担当のコムアイ、作曲・編曲担当のケンモチヒデフミ、それ以外担当のDir.Fの3人。2015年に「ヤフオク!」のテレビCMソング「ツイッギー」を含むアルバム「ジパング」をリリースし、音楽誌の年間ベストアルバムに選出されるなど大きな話題を呼んだ。2016年3月、アメリカ・テキサス州オースティンにて開催された「SXSW 2016」に出演。同年6月にワーナーミュージック・ジャパン内のレーベル・Atlantic JapanからEP「UMA」をリリースし、メジャーデビューを果たした。2021年にコムアイが脱退し、現在は2代目の詩羽が主演・歌唱を担当している。2021年10月には詩羽加入後の初音源として「アリス / バッキンガム」を配信リリース。2022年に配信された「エジソン」はTikTokを中心にSNSで話題を集め、バイラルヒットを記録した。2023年1月にABEMAの恋愛番組「隣の恋は青く見える4」主題歌「赤ずきん」を配信。4月には新作EP「RABBIT STAR ★」を配信リリースする。

※記事初出時、撮影クレジットに不備がありました。お詫びして訂正いたします。

2023年2月16日更新