音楽ナタリー Power Push - WATARU

これが俺の“アイランドミュージック”

アイランドミュージック=自然に触れて生まれた音楽

──ミニアルバムについても触れていきたいと思います。WATARUさんの楽曲は開放感あふれるサウンドながら、挫折や苦悩を盛り込んだ歌詞が多く見受けられますよね。それが端的に表れているように感じたのが「おしえて神様」でした。

もともと自分の作る楽曲は、暗い曲調だけど明るく歌うってスタンスだったんですよね。

──徐々に変化したと。

詞はどこで何を考えたかを明確にまとめて、心情を聴く人にうまく伝えられるようにしようと考えています。自分の体験からしか書けないので、それをわかりやすくイメージしてもらえるようにしていきたいです。

──歌詞の表現はストレートですよね。

普段話す言葉もストレートなんですけど、そのほうが純粋な自分の気持ちが伝わりやすいと思うし。変に難しい言葉を使っても、人に伝わらなきゃ意味がないので。

──音楽性についてはご自身のスタイルを“アイランドミュージック”と呼んでいますが、その定義とは?

海や自然に触れることで感じた思いを盛り込んだ歌ですね。「俺の音楽のジャンルってなんだ?」って考えたことがあったんだけど、ヒップホップではないし、レゲエとも違う。自然に触れることで生まれた、自分の心境によって作られた歌だから、アイランドミュージックって呼んでいるんです。

歌詞にリアリズムを

──「同じ空の下」は恋愛の曲ですけど、相当つらそうな内容になってますよね。

WATARU

自分もつらいんですけど、ホントにつらいのは相手の女性ですよね。だからこの曲には「傷付けちゃったけど、もうそんなことはしないし幸せにするよ」って思いを込めてます。別れてまた出会ったときの「ごめんなさい」って思いとか、嘘なく書くからこそストーリーが生まれるので。

──相手のことを考えて歌詞に反映することは多いですか。

そうですね。でもモヤッとした感情を歌うより、今考えたことをそのままメールとか手紙にまとめて、それをもとに歌詞を書くことが多いです。手紙みたいな感じですかね。

──特定の相手について歌いつつ、さまざまな人が共感できる歌詞に仕上がってますよね。

みんな恋愛するじゃないですか。だからこそそういうことがわかるんだろうし。同じようにうれしいこと、つらいことを「こういうことあったな」って感じてくれたらいいのかなって思います。

──「わからねえよ」は無料ワンマンのときにMCで、千葉の知り合いについて歌った作品だとお話しされてましたね。

これも超リアルな話。当時付き合ってた子と別れてすごい落ち込んだことがあったんです。1人になってものすごく寂しくなって、現実を受け止められなくて。そんなとき知り合いが誘ってくれて一緒に飲んだんですけど、ものすごい傷を負ってたから「うれしいけど笑えねえよ!」「笑ってるふりしてんだよ! つれえよ!」って心境で。その感情をそのまま反映したんですよね。

──失恋の楽曲って「つらいけど仲間がいるからがんばれる」で完結する曲が多いですよね。でも「わからねえよ」の場合「やっぱりつらい」という心境に戻っていて、悩みが解決しないまま完結してます。答えを言い切らない手法が、よりリアルさを生み出しているように思うんです。

実際、時間しか解決してくれない問題のほうが多いですよね。今後もそういう歌を作っていくのがいいかも。

自分も相手も大切にできなくなる

──「Hawaii」はライブでも代表的なナンバーで、現地の情景を詳細に描いてますね。

ハワイに対する思い入れと音楽活動を行っていく覚悟、それからあの地で生活して感じたことをこの曲で残したかったので。特に音楽活動を始めるためのインスピレーションはハワイで得たものが多かったから。自分の中でハワイは大好きな場所でありつつ、小学校の頃からずっと抱いている印象がそのまま残っている場所なんです。今でも住みたいって思うし。MVもハワイで撮ったんですけど、自分が住んでいた場所とか、思い出のある場所でしか撮影したくなかったので。

──確かに映像だと、WATARUさんの表情もリラックスしてますよね。

「Hawaii」のMVは何がやりたいっていうよりも、普段どこでどういうことをやってるかを再現したかったので。だからリアルでナチュラルなんです。「おしえて神様」のMVはロケーション自体は同じだけど、ちょっとアクトしてカッコいい雰囲気になってるから、「Hawaii」のMVと見比べてみても面白いと思います。

──このほか「同じ空の下」「波に乗ろう」のMVも公開されてますが、こちらの舞台は日本ですね。

その2本は千葉で撮ってます。場所もラフに決めてたんですけど、仲のいいカメラマンさんが付いてきてくれて、けっこう大掛かりな撮影になりました。「同じ空の下」の途中で飲み屋が出てくるんですけど、あの現場が「わからねえよ」の歌詞が生まれた場所です。

──「波に乗ろう」だとサーフィンに触れつつ、先ほどお話しされた自然に対する思いも歌われています。

WATARU

「波に乗ろう」は変わってしまった実家の周りの様子を見て、感じたことを歌にしましたね。緑もないし虫もいないこの場所で、これから育っていく子たちは何して遊んでんのかなって心配になるんです。自然で遊ぶからこそ命の大切さがわかる機会が多かったから、子どもたちには自然で遊んでみてほしいし、あえていろんな場所でけがもしてみてほしい。自然の中で遊ぶことでわかることってたくさんあるから。自然の中で危険な経験をしていないと、大人になってから自分も相手も大切にできなくなるし、傷付けるようになってしまうと思うんです。本来人間って自然に生きるものだし。だからこそ、これから俺らが子どもたちに何を教えるべきなのかも考えてます。

──歌詞からはどことなくノスタルジックな雰囲気も感じられますね。

緑を大切にしたいって気持ちもあるんですけど、もともと遊んでいた街がなくなってしまったことがとにかくショックで悲しかった。

──だけれどそういう経験があったからこそ書けた歌詞ですよね。

マンションが作られ始めたときも、ものすごいデモが起こったんですよ。東京は以前まで自然が多かった地域も都市化が始まってるし、仕方ないのかもしれない。でも田舎はまだ自然が残っているし、そういう環境を大事にしてる地域もあると思うんです。東京に憧れてる人は多いけどストレスを感じることが多いし、俺は東京で生まれて育ったから、逆に田舎がうらやましかった。もちろん歩いて10km行かないとコンビニがないとかは嫌ですけど(笑)、あんまり便利すぎるのも考えものなので。

──最近のライブはバンド編成で演奏を行っていますが、今後もこの形で活動していくんでしょうか?

いいグルーヴが出せるようになってきたので、今はこの編成でやれるところまでやっていきたいです。それから自然だけでなく、都内での活動で感じていることもあるんで、今後はそれぞれの環境で生まれた感情を音楽にミックスさせて、さらに俺ならではのジャンルを確立したいです。器用にやっていきますよ(笑)。

おしえて神様、真夏のライブ3本勝負!

2016年7月21日(木)東京都 GARRET udagawa
<出演者>
WATARU / アツヤキブルー / P*ROCK / セットラウンドリー
2016年8月16日(火)東京都 GARRET udagawa
<出演者>
WATARU / キャラメルパンチ / FRUITSEXPLOSION / RICHARDSON ZILLIS / tape me wonder
2016年8月17日(水)東京都 下北沢CLUB251
<出演者>
WATARU / 真田暎人 / sWan / and more
WATARU(ワタル)
WATARU

1989年東京生まれ。幼少時から空手やサーフィンなどのスポーツに親しみ、高校時代に音楽活動を開始。ハワイアンレゲエやヒップホップ、R&B、カントリーの影響を受け、千葉・外房でサーファーとしての活動を行いつつ、自身の音楽スタイル“アイランドミュージック”を確立する。2016年より都内を中心にライブ活動を積極的に行い、6月には大阪・東京で無料招待制のワンマンライブを実施。7月に自身初の全国流通盤にあたるミニアルバム「おしえて神様」をリリースした。