ナタリー PowerPush - 渡辺俊美
3アイテムを一挙リリース 粋な不良が現在の心境を語る
“右ならえ”な発想が大嫌い
──その一方で俊美さんは2月にジャズコンピレーションアルバム「BRUSHING WORKS INTER PLAY -My Favorite Swings-」をリリースされましたよね。これは元々、SOUL SETが活動のペースを落としていた最中の2002年に発表したコンピレーション「BRUSHING WORKS INTER PLAY -Redevelopment-」を発端として、そこから派生していったジャズのコンピレーションシリーズのベスト盤的な内容になっています。このシリーズで俊美さんが表現したかったことはなんですか?
「INTER PLAY」シリーズは、マニアックな音楽の参考書や説明書みたいなものではないんです。ジャズというのは、同じ曲でも年を経ることで好みや感じ方が変わったり、聴くポイントが変わったりする。もう聴かないもの、再び聴くもの、永遠に聴くものって感じで変化していくし、懐メロという意味ではなく、そのタイミングの感じ方や聴き方があるんですよね。例えば、若いときはドラムやメロディしか聴かなかったのに、年を経ることでベースラインに耳を惹きつけられたり、あとは音質にこだわったりするようになる。ジャズはそうやって進化していく生き物なんだよっていうことをこのシリーズではまず紹介したかったんです。
──確かにそういう側面はありますね。でも、それは意外と知られていないと思います。
うん。僕の中では時代小説のような一つの歴史のような感じです。「こんな音楽がありますよ」とか「こんな人がいましたよ」っていうようなもの。ジャズっていうのは、僕にとっては映画「ゴッドファーザー」みたいなものなんですよね。あの作品は世代を超えた家族映画なので、10代で観たときと、20代、30代、40代で観たときで、全然感じ方が違うんですよ。
──なるほど。
時代小説にしたって、例えば織田信長を誰も見たことがないわけだし、下手したら実在の人物ではないかもしれない。でも作者や読み手それぞれの思いで、イメージが膨らんでいく。モダンジャズにおけるスタンダードの解釈もそれと近いものがあって、例えば「STAR EYES」って曲には、いろんなジャズミュージシャンが表現したそれぞれの「STAR EYES」がある。だから、1枚のアルバムにいろんな人が解釈した同じ曲を入れて聴き比べるたりすることもできるんですよ。
──要するに同じスタンダード曲を取り上げるにしても、人それぞれ解釈や演奏が違う、と。
そう。今の時代って「あれが売れてるから、それっぽく作ろう」みたいな、“右ならえ”な発想じゃないですか。僕、そういうのが大嫌いなんです(笑)。個性っていうのは放っておいても生まれるものだから、好きなものを追求するだけでいいと僕は思うんですけどね。
──さらに「INTER PLAY」シリーズから派生したイベントが全国各地で行われています。これは、いわゆるクラブイベントというよりは、曲をかけて、その合間に俊美さんがしゃべるというスタイルだそうですね。
しゃべるのは曲紹介っていうよりも、「このプレイヤーはどスケベで、結婚3回もしてね……」っていうような小咄に近いもの(笑)。そういう話を挟むことで、聴く人それぞれがより具体的なイメージをもって音楽を楽しむことができるんじゃないかって。そう、ジャズは落語にも近いんですよ。古典的な演目があって、その噺家のアレンジによって変化するっていう。ただ、おっさんの面倒なうんちく語りにだけにはしたくなくて、酒を飲んで気楽に楽しめるものであってほしいとは思っているんですけどね。
ウディ・アレンにハマったことがZOOT始動のきっかけ
──そして俊美さんは2002年にTHE ZOOT16での活動を始め、今に至るわけですが、THE ZOOT16というのは昔のジャズメンが着ていたズートスーツ(※1950年代~1960年代のアメリカの黒人ミュージシャンが好んで着用したルーズなスーツのこと)のことでもあり、「ずっと16歳」という意味でもあるんですよね?
そうです。ただ、THE ZOOT16はやりたいことが具体的にあってスタートさせたわけではなかったんですよ。当時はSOUL SETがほとんど活動していなかったので、歌詞を書いてみたり、それまでの自分がやってこなかったことに挑戦したかった。当時、僕は映画監督のウディ・アレンにハマっていたんですけど、あの人は1967年から毎年作品を発表しているんですよね。それを知って、「自分もそういうことしたい」と思ったのがZOOT始動のきっかけだったんです。
──そして、その後のTHE ZOOT16は3枚のアルバムをはじめ、ミニアルバムやシングルを出す過程で、俊美さんらしくいろんな音楽がミックスされていきますよね。
そうですね。最初は音楽的に明確な方向性もなく、THE CLASHのようにレゲエやロカビリーを混ぜたり、ジャンプブルースを混ぜたりして。僕はそういう混血的な音楽が好みなんですよ。そんな中、自分なりの答えが出たのは、マヌ・チャオ(※パリ生まれのアーティスト)の音楽を聴くようになってからですね。反米のポリティカルな姿勢とさまざまな音楽をミックスした彼の混血音楽はレベルミュージックとして自分に響くものがあって、「俺も言いたいことを言おう!」って思ったんです。人がどうこうっていうのは関係ないし、社会的なメッセージ性ってことに限らない「自分はこう思うんだ!」という思い。そういうものを吐き出すことが大事だと思ったんですよ。
──THE ZOOT16では、そういう強い意志を伴った率直な表現の音楽に惹かれる俊美さんを垣間見ることができます。不良の音楽というか。
でも、音楽をやってる人でそんないい人なんていないでしょ。大体ポンコツですよ。名立たるクラシックの作曲家だって、メチャクチャな人が多いし、音楽の世界はおかしい人たちが競い合っているんだと思ったほうがいいですよ。こないだも自分の周りを見回してみたら、ちゃんとした大人は1人もいないなって思いましたからね(笑)。そして、正直言ってまっとうではない音楽の世界で何を歌うかといえば、少なくとも「がんばれ!」ではない。だってそれは「まずお前ががんばれよ!」ってことになるわけだから(笑)。そうなったときに歌えるのは「自分はこう思う」っていうこと。それに尽きると思うんですよね。
渡辺俊美(わたなべとしみ)
1966年12月6日生まれ、福島県出身のアーティスト。1990年に結成したTOKYO No.1 SOUL SETのシンガー、ギターとしてデビュー。「ロマンティック伝説」「黄昏'95~太陽の季節」などのシングルを発表した後、1995年にアルバム「TRIPLE BARREL」でメジャーデビューを果たす。その後も「Jr.」「99/9」といったアルバムをリリースするが、2000年以降TOKYO No.1 SOUL SETとしての活動は休止となり、ソロユニットTHE ZOOT16を始動させる。2002年のシングル「Na-O-Su-Yo / Dirty Huggy」以降、2006年まで毎年作品を継続的に発表し続けた。また2010年には、ともに福島県出身の松田晋二(THE BACK HORN)、山口隆(サンボマスター)、箭内道彦(風とロック)と猪苗代湖ズを結成。2011年の東日本大震災発生後も精力的にチャリティ活動など展開し、シングル「I love you & I need you ふくしま」を発表した。そして、2012年2月にTHE ZOOT16のベストアルバム「Z16」、ジャズコンピレーション「BRUSHING WORKS INTER PLAY -My Favorite Swings- selected by TOSHIMI WATANABE」をリリース。同年3月14日にTOKYO No.1 SOUL SETの約3年ぶりとなるオリジナルアルバム「Grinding Sound」を発表する。