ナタリー PowerPush - 渡辺俊美

3アイテムを一挙リリース 粋な不良が現在の心境を語る

ヒロシくんに「エモーショナルにやろうよ」って肩叩かれた

──ここ数年来のSOUL SETはマイルドな口当たりの作品が続いていたと思うんですけど、今回は熱いエモーションが際立っているのはどうしてなんでしょうね?

インタビュー写真

最初からヒロシくんに「エモーショナルにやろうよ」って肩を叩かれたというのがあって。というのも、去年出た「モテキ的音楽のススメ COVERS FOR MTK LOVERS盤」で僕がくるりの「東京」をカバーしたんですけど、ヒロシくんは僕が声を張って歌っている感じが妙に気に入ったらしく「これでいこうよ!」って思ったみたいですね。僕としては、どちらかというと、マイルドな感じをさらに押し進めて、年を取って熟成されたものを表現したかったんです。例えば、今回のアルバムでいうところの「アナタヲ」みたいな、ファルセットの歌を歌いたいなと思ってたんですよね。だから、最初はそんな調子で歌っていたら、ヒロシくんから「いやいや、もっと張り上げてよ」っていうリクエストがあったので、握り拳で歌うようになったという。

──俊美さんと川辺さんは一時期、個々で作業されることが多かったと思いますが、今回は密にやり取りをしたとか。

そうですね。僕が音や歌を入れているときは結構スタジオに来てましたね。制作時間に余裕がなかったこともあるんですけど、時間を置かずその場で答えが出せるようになったことが大きいんじゃないですかね。楽器にしても、歌にしても、ヒロシくんが思ったことをちゃんと表現できているのかなってことは常に考えるんですけど、かつては何個音を入れても「大丈夫かな?」って不安を感じることが多かったんですね。でも、ようやくその場で答えが出せるようになった上に、今回はヒロシくんから具体的なリクエストをもらったことで、より泣けるアルバムになったんじゃないかなと。ただ、BIKKEはトラックダウンにも、マスタリングにも来なかったので、出来上がりにびっくりしたみたいですね(笑)。

──中でも「Wonder Land」はダウンテンポのディスコビートと、俊美さんの歌謡曲的な泣きのメロディが組み合わされた曲で。非常に突き抜けたものを感じました。

はははは(笑)。ちょうど由紀さおりさんが欧米でブレイクした時期だったので、そういう歌謡曲的な要素も入れたかったというか。由紀さんの何十年ぶりかのヒットというニュースには、信じたことを続けていく勇気をもらったんですよね。それに僕が10代だった頃、久保田早紀さんの「異邦人」からはじまり、そうそうたる歌謡曲が山ほど生まれて。同時期のRCサクセション「ラプソディー」から忌野清志郎さんと坂本龍一さんの「い・け・な・いルージュマジック」まで、僕にとっては全部一緒だったというか。そういう音楽の刷り込みももちろんありますから。僕の中にあるものを素直に出すと、こういう曲になるっていう。

SOUL SETは、ずっと迷ってる子供たちだった

──では、BIKKEさんが本作で果たした役割は?

インタビュー写真

昨日も久しぶりに3人で酒飲んだんですけど、BIKKEとはお互い気を使っちゃって、リズムが合わないんですよね(笑)。というのは冗談半分、本気半分なんですけど、今回、BIKKEの歌詞で僕が好きなのは「Wonder Land」と、力強い問いかけの「Over」。それから「アナタヲ」の「うぜえよ、『母さん』」っていう一節は、「これ、大丈夫かな?」って何度も繰り返し聴いて確認するくらい強烈なものがありましたね。最後にできた「春は、今、、」では「子供の曲を書いて」ってリクエストしたんですけど、それに反応してすぐに歌詞が出てきたんですよ。まあ振り返ってみると、リクエストしたり、イメージを伝えれば、仕上がりは早かったなって。「INNOCENT LOVE」も「隠せない明日を連れて」も「Key word」もそうだった。それはようやくわかりましたね(笑)。

──20年経ってようやくですか(笑)。テーマなしのまま、思考が何周もして、それがそのまま言語化された歌詞も素晴らしいですが、今のBIKKEさんはストレートで力強いですよね。

そうですね。俺、いろんな男と付き合ってきたけど、やっぱりヒロシくんとBIKKEは優しいですよ。すっごい優しい。だから、自分の周りで女の子にお勧めできるのはヒロシくんとBIKKEかな。ちなみに自分のことは「俺はダメだよ。俺はやんちゃだから」って言ってるんですけどね(笑)。

──それから、これまでは3人で作品を作ることが多かったSOUL SETが、今回の作品ではPort Of Notesの小島大介さん(G)、HICKSVILLEの木暮晋也さん(G)、上田禎さん(Key)、Double Famousの坂口修一郎さん(Trumpetなど)といった、外部のプレイヤーを適材適所で起用している点は大きな特徴ですよね。

そうですね。輸血とまではいかないまでも、プラグインというか、人間のあたたかさが入った気がします。参加した全員に共通しているのは、人間的にすごい真面目で、ほんわかしてて、音楽に対する愛がすごい強い人たちだったこと。だから、こちらが1つお願いすると想像だにしない答えが10個ぐらい返ってくるんですよ。そういうフィードバックが楽しかったですし、今回のアルバムが完成に向かって加速していった大きな要因だと思います。

──ゲストを交えた前作「全て光」を経て、人とものを作り上げていく段階に入ったというか、川辺さんは「20年音楽をやってきて、ようやく社会性が芽生えた」というようなことをおっしゃっているようですが。

はははは! 俺もそう思います(笑)。やっと潔くなったというか、決断が早くなったというか。それ以前は、お腹減ってるのに何を食べたらいいかわからず、ずっと迷ってる子供たちって感じでしたね。

──1990年代のSOUL SETは、制作が難航してなかなか作品が完成しなかったことはよく知られていましたもんね。

そう。「これ、いらない」とか超ワガママ(笑)。何出されても食わなかったですからね。でも、ようやく「俺、これ!」って決められる大人になりました。

──3人が核になって、そのやり取りも密になりつつ、ゲストプレイヤーを交えて、作品のクオリティが上がっているという意味でSOUL SETは新しい段階に入ったんじゃないかな、と。

ですね。若いときは自信がなかったから「大丈夫かな?」って思ったし、みんなが「いい」って言っても「え、本気で言ってんの?」っていう気持ちが強かったんです。でも、作品のリリースを重ねて、ライブもやってきて、いろんな人と出会ってきたことによって、「ああ、自分がやってきたことは間違いないんだ」って思えるようになったというか。今は自信があるから、その場で決断できたんだろうし、ようやく勘でアルバムを作ることができるようになったんだと思いますね。

TOKYO No.1 SOUL SET ニューアルバム「Grinding Sound」2012年3月14日発売 avex trax

  • Grinding Sound
  • CD+DVD盤 3990円(税込)AVCD-38452/B / Amazon.co.jpへ
  • CD盤 3000円(税込)AVCD-38453 / Amazon.co.jpへ

TOKYO No.1 SOUL SET ニューアルバム「Grinding Sound」2012年3月14日発売 avex trax

  • VARIOUS ARTISTS「BRUSHING WORKS INTER PLAY -My Favorite Swings- selected by TOSHIMI WATANABE」2012年2月15日発売 1980円(税込)UCCU-1346 UNIVERSAL JAZZ / Amazon.co.jpへ

TOKYO No.1 SOUL SET ニューアルバム「Grinding Sound」2012年3月14日発売 avex trax

  • THE ZOOT16 ニューアルバム「Z16」2012年2月8日発売 2500円(税込)PECF-1038/cap-136 felicity  / Amazon.co.jpへ
渡辺俊美(わたなべとしみ)

1966年12月6日生まれ、福島県出身のアーティスト。1990年に結成したTOKYO No.1 SOUL SETのシンガー、ギターとしてデビュー。「ロマンティック伝説」「黄昏'95~太陽の季節」などのシングルを発表した後、1995年にアルバム「TRIPLE BARREL」でメジャーデビューを果たす。その後も「Jr.」「99/9」といったアルバムをリリースするが、2000年以降TOKYO No.1 SOUL SETとしての活動は休止となり、ソロユニットTHE ZOOT16を始動させる。2002年のシングル「Na-O-Su-Yo / Dirty Huggy」以降、2006年まで毎年作品を継続的に発表し続けた。また2010年には、ともに福島県出身の松田晋二(THE BACK HORN)、山口隆(サンボマスター)、箭内道彦(風とロック)と猪苗代湖ズを結成。2011年の東日本大震災発生後も精力的にチャリティ活動など展開し、シングル「I love you & I need you ふくしま」を発表した。そして、2012年2月にTHE ZOOT16のベストアルバム「Z16」、ジャズコンピレーション「BRUSHING WORKS INTER PLAY -My Favorite Swings- selected by TOSHIMI WATANABE」をリリース。同年3月14日にTOKYO No.1 SOUL SETの約3年ぶりとなるオリジナルアルバム「Grinding Sound」を発表する。