ナタリー PowerPush - 忘れらんねえよ
何よりも大切なものを見つけたから「僕らパンクロックで生きていくんだ」
「自信がある」っていうより「信じざるを得ない」
──3曲目「戦って勝ってこい」では、その待ち合わせをすっぽかしたヤツすらも許してますよね。どこかに赴いた人に向かって「戦って勝ってこい」「そしたら二人飲もう」と歌っている。
結局は信じてるんですよね。だってみんなに勝ってほしいし、一緒に酒飲みたいですもん。というのも震災後、原発がヤバくなったとき、事故ってすぐのときに、レスキュー隊みたいな方がその現場に行くことになって、その娘さんが「戻ってきてよ」って言ってるのをニュースかなんかで観て。そんときにこのメロディ、「♪戦って勝ってこーい」っていうのが出てきたんです。なんつうのかな? そういう戦いに行こうとする人に対する、はかない思いとか、願いとか、祈りとかがこもっている気はしますね。
──この曲はおとぎ話の有馬(和樹)さんとの共作曲で、前回のインタビューではいみじくも「自分たちにはおとぎ話みたいなあったかくてスケール感のある音は作れない」って言ってましたけど……。
だから使えるものは全部使う。アイゴンさんもそうなんだけど、オレのできないことをできる人の力を思いっきり借りる総力戦に出てみました(笑)。以前有馬くんとやったときは……。
──1stアルバムの「ゾンビブルース ~おとぎ話 ありま君・牛尾君と~」って曲ですよね。
ええ。その頃のオレらはよちよち歩きで何もわかってなくて。ホントに有馬くんに助けを求めるような気持ちで共演させてもらったんですよ。今だからなお思うことなんですけど、彼の実力ってハンパないから。でも「この高鳴り~」でアイゴンさんとやらせてもらって、コラボレーションすることの面白さを勉強させてもらった上で「戦って勝ってこい」のアレンジ作業を自分たちで進めていたら、それこそ曲が有馬くんを呼んだんですよね。「有馬くん入れたら、この曲はたぶんオレらが想像している以上のところに飛んでくぞ!」って。当時と違ってオレら自身も有馬くんとちゃんと会話できる言葉をちゃんと持ててるし。そしたらホントにポンポンポン!と、2時間くらいでアレンジが決まって、レコーディングもすごく楽しくて。ベース、ドラム、リズムギターは一発録りで、歌やほかの楽器もほとんど1テイク目のものを使ってますしね。
──ホントに今の忘れらんねえよって自信に充ち満ちてますよね。
「自信がある」っていうより、自分らを「信じざるを得ない」んですよ。今回のシングルの制作においては「あれをミスったな」とか「これをやっとけばよかったな」っていうことが1つもないから。それこそ音楽の神様に信じさせられてる(笑)。
「SEXジャンプってそんな立派なもんだっけ!?」
──で、その信じざるを得ない楽曲をみんなに届けるためのラッピング、要はジャケットも……。
ねえ! ジャケット写真のことを取り上げてくれたナタリーのニュース、スゲーいっぱいリツイートされましたよね。ホントありがとうございます!
──いやどう考えても、あの写真自体の持つ強さゆえの反響の大きさなんだと思いますよ。(参照:忘れらんねえよ新作ジャケは福島のJKによる“あのポーズ”)
でもあれも授かりものですからねえ(笑)。
──まあそうですね(笑)。忘れらんねえよがアー写でやってたSEXジャンプを面白がって勝手にマネたファンの人たちが、これまた勝手に柴田さんに送りつけてきた写真の中の1枚ですからね。
なのにあんな1枚が、母校が震災で取り壊されることが決まって、だからその壁に描かれた桜の絵の前で最後卒業式の日に撮ってみましたっていう文章と一緒にポーンっと送られてきて。観たときちょっと泣いちゃったんですよ。SEXジャンプってそんな立派なもんだっけ!?って(笑)。
──あの写真ってそこが素晴らしいんですよね。やってることはド下ネタもいいところなんだけど(笑)、どこか切ないし、でも明るいし、躍動感があるし、女の子はかわいいし。感情をかき乱されるんですよ。
なんだこれっ!?ってなりますよね(笑)。ホントに情報量が多くて、奇跡的に美しい1枚。たぶんあの子たちって「震災被災者の私たちがこういうことやると切ない感じになってウケるよね」なんて1mmも考えてない。実際、写真の使用許諾をとるためにあの子たちに連絡してみたんですけど「アホか!」ってくらい明るい子たちだったし。ただただ「わーっ、SEXジャンプ楽しー!」って感じでバカみたいなことをやってるだけなのに、ここまでいろんなことを伝えられてしまう。人間って強えーなあって思いましたね。
──今回のシングルってジャケ買いされるケースがけっこうあると思います。
あるあるある。
──で、中身ももちろんジャケットに負けていない。
ないないない。ないと思いたい!(笑)
──もう怖いものないでしょ?
あるあるある(笑)。常にゼロイチの勝負が続いてますから。ライブを観たお客さんに「つまんないバンドだな」って思われたらその人とはもう一生会えないじゃないですか。だからライブは毎回怖いです。音楽活動、特にライブ活動をしている人はみんなそうなんじゃないですかね? 和田アキ子さんってステージの前は毎回ナーバスになるらしいんですよ。エヅきかねない勢いで。あのキャリアでもそうなる……というよりも一流になればなるほどそういうふうになるんでしょうね、きっと。
──となると、柴田さんは一生救われないですよね。一生ナーバスになり続けることになる。
一瞬だけは救われるんですけどね。いいライブをしたときだけは。その瞬間だけは快感を覚える。あとはCDが売れて、その数字を見たときだけ(笑)。その瞬間が終わったら、また「うわーっ怖えー」って日々が続いていく。でもさっき言った通り、見つけちゃったから。オレには「パンクロックで生きていく」しかないから、逃げられないんですよね。
収録曲
- 僕らパンクロックで生きていくんだ
- おしぼりを巻き寿司のイメージで食った
- 戦って勝ってこい
- [スタジオライブ]北極星~この高鳴りをなんと呼ぶ
忘れらんねえよ(わすれらんねえよ)
柴田隆浩(Vo, G)、梅津拓也(B)、酒田耕慈(Dr)からなるロックバンド。2008年に結成され、都内を中心に精力的なライブ活動を続ける。2011年4月に「CからはじまるABC」が日本テレビ系アニメ「逆境無頼カイジ 破戒録篇」のエンディングテーマに起用され、着うたなどのデジタル配信を経て同年8月にCD化。同年12月には2ndシングル「僕らチェンジザワールド」を発売し、同曲のPVに俳優の萩原聖人が出演したことで話題を集める。翌2012年3月に1stアルバム「忘れらんねえよ」を発表し、2013年1月には會田茂一プロデュースの3rdシングル「この高鳴りをなんと呼ぶ」をリリース。そして6月、同じく會田プロデュースの4thシングル「僕らパンクロックで生きていくんだ」を発表する。