ナタリー PowerPush - 忘れらんねえよ
何よりも大切なものを見つけたから「僕らパンクロックで生きていくんだ」
オレの一番大事なものを見つけてしまった
──作詞作曲はスムーズでした?
実はこの曲って以前からあっためてた曲で。サビはもう2年前くらいからあったんですよ。2年前のある日、突然詞と曲がセットで降ってきて、そのときから「スゲーいいメロだな」って思ってて。けど、Aメロがずーっとできなかったんですね。2年のうちに2~30本くらい作ってみたんですけど、サビがあまりにいいメロだから中途半端なものにしたくなくて、ずっと確信が持てなかった。でも今回シングルのレコーディング中のある日、「今回のレコーディングは充実してるなあ」なんて思いながら風呂に入ってたらいきなりこのAメロの詞とメロディがセットで降ってきて。「あっ、なんか来た!」みたいな(笑)。……で、今気付いた! Aメロからサビまですべてのパーツで詞とメロディがセットで降ってきてできた曲って今回が初めてだ。
──やっぱり今、柴田さんは何者かに呼ばれているのかもしれない。
ええ。2年間悩んでたAメロがこのタイミングで降ってきたことには意味がある気がしますね。特に歌詞は2年前のオレならOKを出さなかったんじゃないかな。
──当時なら「この歌が終わるころ僕は 君を忘れるんだ」とは歌えなかった?
そうそうそう。でも今はもう、なんか揺るぎないものを見つけちゃったから、そっからはもう逃げられないというか。オレが一番大事にしているものはこれだ! これ以外にない! これがなくなったらオレはオレでなくなる!っていうものがパキッとした形で見つかっちゃたから、この詞にOKを出せたんでしょうね。すごく概念的な話なんですけど。
──概念的って言われたそばから意地の悪い質問なんですけど、「これ」に名前って付けられます?
うーん……。「僕らパンクロックで生きていくんだ」っていう覚悟なんでしょうね。
AKB48と付き合うよりも排出口になりたい
──ホント今日の柴田さんって発言がいちいちカッコいいですよね(笑)。
ありがとうございます! これでAKB48と付き合えたりしたらいいんですけどねえ(笑)。
──カッコよくてパンクな生き方=AKB48と付き合うこと(笑)。
なのにそんな気配すらないという……。なんかでも、最近ホントに性欲とかなくて。もちろんセルフソリューション的な行為はやってますけど(笑)、今は好きな女性に好かれる喜びよりも、もっと大きな喜びが見つかっちゃったんスよね。ちょっとオカルトっぽい話になっちゃうんですけど、地球を1つの生き物にたとえるなら、人類っていうのはその生き物に寄生するウイルス、まあ善玉菌なのか悪玉菌なのかは別として、そういう微生物なんだって話があるじゃないですか。なんか最近それに近い感覚があって。オレらは地球っていう生き物にたまたま付いていた、いい音楽を排出するための排出口みたいな存在なんじゃないかって。音楽を排出することで「死にてえなあ」って思っている人たちに「まっ、生きてみるか」って思ってもらうための器官なんじゃないかって。サカナクションさんとかSEKAI NO OWARIさんっていうのは数ある排出口の中でも特にデッカい排出口。で「この高鳴り~」を出した頃からオレらもその穴の一員としてちょっとだけ認めてもらえてるような気がしていて。今はそれがすごい快感なんですよね。
──「オレの言葉を聴け!」的なエゴは?
もちろん「オレっていい曲書くなあ」「この言葉を聴かせてえなあ」って思いたい瞬間もあるんだけど、じゃあ、なんでそのいいメロディが降ってくるんだろう? なんでいい言葉が降ってくるんだろう?って考えると、いい音楽を地球にバラ撒かせるためなんじゃないかなって。「オレっていい曲書くなあ」「オリコンの世界に行きたいなあ」ってオレに思わせることによって、いい音楽を作らせようとしてるんじゃないか、って。
──その場合の主語は? 柴田さんにいい曲をバラ撒かせているのは誰?
音楽の神様みたいなもの?(笑) だからこの話ってオカルトっぽいんですよ。本来スゲー理屈っぽい人間のはずなのに、なんか最近そんな変態的なことばっかり考えちゃってるんですよねえ。オレ、クスリとかやってたっけな?(笑)
「ヒマ」をおしぼりになぞらえて歌うための定規
──でも2曲目の「おしぼりを巻き寿司のイメージで食った」って神様なんていう赤の他人から授かったものではまずないだろう、柴田さんにしか作れない曲ですよ。待ち人が居酒屋に来ないからってヒマに飽かせて「おしぼりを巻き寿司のイメージで食っ」てみるだけでもどうかと思うんですけど、挙げ句の果てには「おしぼりをおしぼりで拭い」てますよね(笑)。「お前、どんだけヒマなんだよ」って話じゃないですか。
そう聴いてもらえると一番うれしいですね(笑)。もうメビウスの輪ですから、これ。
──拭いたことで汚れたおしぼりをキレイになったおしぼりで交互に拭く、ちょっとした永久機関ですよね(笑)。こうやって誰もが知っている「ヒマだ」っていう気持ちを、誰も知らなかった新しいレトリックで表現できるのは柴田さん独自のテクニックだと思います。
ああ、確かに言葉もメロディも授かりものなんだけど、ジャッジはしてますね。言葉については「ぷぷっ!」って笑えるかどうかっていう一点で判断してるんですけど、その判断基準となる定規は自分の持ち物なんですよね。授かった言葉の数々を、生まれてからこの31年間大事にしてきたいろんなことに照らし合わせた上で選び取った1行が「おしぼりをおしぼりで拭いた」なんですよ。
──しかもこの曲って主題は「ヒマだ」じゃなくて「俺は誰かのために死にたいんだ」。なのに「おしぼりをおしぼりで拭」くことしかさせてもらえないっていう絶望的な歌ですよね。
そうなんですよ! よくもまあ、こんなどうにもひと言では説明できない感情や状況をうまく歌詞にできたなあ、オレ(笑)。だからさっきオカルトって言ったけど、やっぱり分析はしてるんだとは思う。「この高鳴り~」の結果なんかを受けて、その降ってくる言葉やメロディに対してオレの定規を当ててやれば強い曲ができるんだ、っていう分析ができていて。それに従ってるんでしょうね。
──薬物使用疑惑が晴れた(笑)。
よかったあ(笑)。
収録曲
- 僕らパンクロックで生きていくんだ
- おしぼりを巻き寿司のイメージで食った
- 戦って勝ってこい
- [スタジオライブ]北極星~この高鳴りをなんと呼ぶ
忘れらんねえよ(わすれらんねえよ)
柴田隆浩(Vo, G)、梅津拓也(B)、酒田耕慈(Dr)からなるロックバンド。2008年に結成され、都内を中心に精力的なライブ活動を続ける。2011年4月に「CからはじまるABC」が日本テレビ系アニメ「逆境無頼カイジ 破戒録篇」のエンディングテーマに起用され、着うたなどのデジタル配信を経て同年8月にCD化。同年12月には2ndシングル「僕らチェンジザワールド」を発売し、同曲のPVに俳優の萩原聖人が出演したことで話題を集める。翌2012年3月に1stアルバム「忘れらんねえよ」を発表し、2013年1月には會田茂一プロデュースの3rdシングル「この高鳴りをなんと呼ぶ」をリリース。そして6月、同じく會田プロデュースの4thシングル「僕らパンクロックで生きていくんだ」を発表する。