ナタリー PowerPush - 忘れらんねえよ
何よりも大切なものを見つけたから「僕らパンクロックで生きていくんだ」
時間が経てば絶対に伝わる
──やっぱり柴田さん、面白いなあ。
「またなんか分析とかしてやがるよ、コイツ」って感じで?(笑)
──言うなればそういう感じで(笑)。シングルが好調で、バンドの評価も上がりつつあるのに、まだ考え込んでる。
どうやったって満足できない(笑)。ただそれってもっとよくなる可能性や伸びしろがあるってことなんだからってオレは解釈してますけどね。
──「僕らパンクロックで生きていくんだ」って、まさにその伸びしろの部分を埋めようとしている楽曲ですよね。前作のタイトルでもある「この高鳴りをなんと呼ぶ」という疑問に対して「『パンクロック』と呼ぶんです」ときちんと応答している上に「生きていくんだ」と宣言までしているわけですから。
おっしゃる通り、気持ちの進化みたいなものがあって。「この高鳴り~」のときも純粋に音楽に向き合うというか、何がウケるのかとか、何が売れるのかとか、そういうものを一切排除して、自分たちの中から出てくるものだけを信じてやってはいたんですけど、おっかなビックリだったんですよね。一部「忘れらんねえよらしくないよね」「下ネタとかギャグとかないし」って声もあったし。
──まだ誤解されていた時期ですもんね。
ええ。でもいざリリースしてみたら、ちゃんと世の中に届いた。だから今は確信があるんですよ。自分たちの音楽に純粋に向き合えばきっとうまくいく、って。「この高鳴り~」とトンマナ的には近いところにあるんだけど、さらに上をいくこと、「僕らパンクロックで生きていくんだ」「それでいい」って言えるようになった。……あっ、この話って別にする必要はない気もするんですけど、パンクロックってちょっと言葉がキツいし、聴く人を狭めちゃいそうじゃないですか。だから歌詞の中にある「君がいないから歌うたえる」みたいな、フワッとしたワードをタイトルにしたほうがいいんじゃないか? そのほうが各地のラジオ局のヘビーローテーションを獲れるんじゃないか?とかいろいろ邪悪なことを考えた瞬間もあったんですよ(笑)。でもディレクターと話した結果「それは違うでしょ」「音楽って自己表現でしょ」と。今回リード曲で言いたいことは「自分たちの音楽に純粋に向き合うこと、そういう気持ちや姿勢が自分たちの中にあるかないか」だけなんだから、ちゃんと「僕らパンクロックで生きていくんだ」って言おうよ、と。もうねえ、間違った方向にかもしれないんだけど、なんか全力で走り出しちゃってるんですよ(笑)。
──でも走る方角はきっと間違ってないはずですよね。バンドメンバー3人だけで走り出しちゃってるんなら確かに「それってただのプチ宗教、プチカルトなんじゃないの?」って気もしちゃうんだけど、會田茂一さんっていう外部の監査役もGOを出してるわけですから。
だから大丈夫だと思ってます。「ま、なんとかなるでしょ」って。万一、短期的には結果が出なくても、時間が経てば絶対に伝わるからって。ただ不安はゼロって言ったらウソになりますけどね。時間の問題とか言っちゃってるけど、結果出なかったらどうしよう? 自分たちの音楽と純粋に向き合うことがすべてって言っちゃってるだけに、これがダメだったら、そんときはリストカットでもしなきゃ自分の存在意義を確認できなくなっちゃうんじゃないか?って(笑)。
レコーディングに必要なもの=裸でドラムを叩く楽しさ
──でも「これを歌ってるバンドって絶対そういうダークサイドに落ちそうにないなあ」ってくらいタフだしポジティブな曲ですよね。しかもいわゆる「ポジティブないい曲」なんて軽いもんじゃない。「君がいないから歌うたえる」「君のこと忘れるんだ」と、パンクロックで生きていく過程にはつらいことがあることも承知の上で、なお前を向く覚悟や憂いみたいなものも漂っているし。
そういう曲をパッと作れたのは、アイゴンさんっていうカッコいいロックを作る術を知っている偉大な先人とまたご一緒できたからなんでしょうね。
──前回も3~4テイク録ったらOKが出た、って言ってましたけど「パッと」ということは今回も制作は早かった?
リードトラックはアレンジ決めから歌入れまで3日間くらいしかかかってないですね。でも、そういうものなんだろうな、って。アレンジやレコーディングのときに考えるべきことなんてホントは何もないんですよ。オレらのするべきことは「この曲にはこのリズムを乗っけてみたらどうだろう?」って感じで曲に対して何かを別のところから持ってくることじゃなくて。ここに歌があって、言葉があったとき、この曲が呼んでいるリズムを探してくる作業なんですよ。それが見つからなければ何カ月もかかるのかもしれないけど、見つかっちゃえば3日で終わる。なんつうのかな? そっちのほうが楽しいんですよね。ちょっと話がそれるのかもしれないんですけど、今回ウチのドラムの酒田(耕慈)がアイゴンさんとチョー仲良くなってて。調子こいて「ちょっと裸になってみます」なんてアイゴンさんに言って、ホントに裸になって叩いたらメッチャいいテイクになるという(笑)。結果、そのテイクが採用されました。オレらの場合、ガッチリとアレンジを詰めるよりもそういう現場の空気みたいなものを盤に記録したほうがいいものができるんですよ。
収録曲
- 僕らパンクロックで生きていくんだ
- おしぼりを巻き寿司のイメージで食った
- 戦って勝ってこい
- [スタジオライブ]北極星~この高鳴りをなんと呼ぶ
忘れらんねえよ(わすれらんねえよ)
柴田隆浩(Vo, G)、梅津拓也(B)、酒田耕慈(Dr)からなるロックバンド。2008年に結成され、都内を中心に精力的なライブ活動を続ける。2011年4月に「CからはじまるABC」が日本テレビ系アニメ「逆境無頼カイジ 破戒録篇」のエンディングテーマに起用され、着うたなどのデジタル配信を経て同年8月にCD化。同年12月には2ndシングル「僕らチェンジザワールド」を発売し、同曲のPVに俳優の萩原聖人が出演したことで話題を集める。翌2012年3月に1stアルバム「忘れらんねえよ」を発表し、2013年1月には會田茂一プロデュースの3rdシングル「この高鳴りをなんと呼ぶ」をリリース。そして6月、同じく會田プロデュースの4thシングル「僕らパンクロックで生きていくんだ」を発表する。