ナタリー PowerPush - 忘れらんねえよ
自称クソバンドが目指す「デカい世界」
どういうヤツが歌うのかっていうことが重要
──では、売れている音楽の世界で戦うためにはどうすればいいんでしょう?
いい音楽を作るのは当たり前なんですけど、もう1つ、ラジオで怒髪天の増子(直純)さんとお話したとき(関連記事:忘れらんねえよ、憧れの怒髪天・増子と熱血トークを展開)に確信したんですけど、どういうヤツが歌うのかっていうことがスッゲー重要なんだって。怒髪天の「男、走る!」って曲に「生きていりゃ脈はある」って歌詞があるんですけど、これをそこらへんにいるフニャフニャしたヤツが言うのと、増子さんが言うのとでは説得力が全く違う。「この人の言葉を聴きたい」「この人の言うことなら信じられる」って思わせられる人なんですよね。
──なぜ増子さんの言葉は輝くんですかね?
浅井さんもそうなんですけど、ハートの一番奥にある衝動にちゃんと誠実に従う覚悟ができてるからでしょうね。その覚悟を決めてバンドをやり続けているすさまじさが人間的な力になってるんだと思います。ただその一方でオレ、今31歳なんですけど、そのオレより若い人たちの中にも強い覚悟と熱さを持ってる人はいっぱいいて。
──例えばどなたが?
AKB48だって「アイドルとして駆け上がるんだ」って覚悟の決まった、それこそ当たり前の青春を捨てた、いい目をしていると思ってるし、もっと身近なところでいうとTHEラブ人間の金田(康平)くんなんかも覚悟が決まってるし、リスクもガンガンとっていく。「下北沢にて」みたいなイベントを自分たちで仕切るのってホントにスゲーなと思っていて、オレだったら胃に穴が開くと思うんですよ。失敗したら大恥かくし。「けど、やるんだ!」っていう、あのまっすぐさは魅力的ですよね。
「分析したい!」っていう衝動に従っている
──それに最近気付いたということは、これまで柴田さんは覚悟を決めきれなかった?
というよりも、覚悟を決めなきゃいけないことを知らなかった感じですね。現場で目の前の敵を倒すことだけをガムシャラにやってきてたから、「どういう人が世の中に刺さっているんだろう」「自分はどういう状態にあって、今何を考えなきゃいけないんだろう」って考えるヒマも材料もなかった。でも今ならしつこく手紙を書けば(笑)、アイゴンさんや増子さんのような憧れの人に会えるかもしれない状況にはなれていて。そういう人たちとお話しているうちに「あっ、覚悟を決めなきゃいけないんだな」って考えられるようになったんですね。
──「衝動と向き合う」「覚悟を決める」という感情的な行動に移るために、考察や分析といった理知的な作業をしたんですか?
そういうタイプなんですよ。例えば浅井さんは、いい意味でオレみたいな小さいことは一切考えてないと思うんです(笑)。なのに極上のロックンロールを作れてしまう神みたいな人なんですけど、オレは残念ながら浅井さんタイプではない。31歳にもなって美容院で「同じ髪型にしてくれ」って頼んじゃうくらい浅井さんに憧れて憧れてしかたないんですけどね。ただ、(親指で胸をさして)ここを信じられるようになったことだけは浅井さんと一緒だとも思っていて。浅井さんが「いい音楽作れば、それでいいじゃん」っていう衝動や欲望に忠実に生きられているように、オレは「分析したい!」っていう衝動に従っているんです。
──あはははは(笑)。
分析っていう行為をロックンロール的な視点で見ると「マーケティングしやがって」って思われるのかもしれないけど、オレはマーケしたい! その声に従うのがオレのロックンロールなんです。
まずはO-EASTやリキッドに“行ける”ようになりてえ
──その覚悟とマーケティングの1枚「この高鳴りをなんと呼ぶ」で幕を開ける2013年って、どんな1年にしたいですか?
下北沢界隈でチラシを配っていると、みんな結構オレらのことを知ってくれてるんですよ。女の子から「あっ、忘れらんねえよの人ですよね」って言われたりして。「この子、抱けるんじゃねえか?」って感じなんですけど(笑)、これがN'夙川BOYSなんかがやっているShibuya O-EASTのような、いわゆる「ライブハウス」ではない大バコに行くと、まあビックリするくらい知られてないし、チラシも受け取ってもらえない。「この差を埋めてえな」っていうのが今年の目標ですね。
──ただ、売れている世界の人たちってもっと大きなホールやアリーナに立つ人たちですよね?
そうなんですよ。最近ライブバンドの限界っていうものを感じていて。いわゆるライブバンドって行けてO-EASTやリキッド(LIQUIDROOM ebisu)だと思うんですよ。それも“行けて”というだけ。そっから先、チャートに入ってO-EASTやリキッドをソールドアウトさせたり、もっとデカいホールでやれたりするかどうかは、メロディと歌詞が一流かどうかで決まってくる。実際クリープハイプはそっちの世界に行ったじゃないですか。それはメロディが美しくて、しかもどこか寂しい「オレンジ」みたいな本当に最高の曲を作ったから。しかもそのメチャメチャいい曲をずっとシンドイ戦いをしてきた尾崎(世界観)さんが歌っているからなんですよね。だからまずはO-EASTやリキッドに“行ける”ようにはなりてえな、って思ってます。
──一気に「武道館だぜ!」とならないあたりが面白い(笑)。
分析家なんで(笑)。「いきなり武道館なんて行けねえよ」っていうのはわかってますから。ただ、最終的な夢はもちろん武道館ですよ。だって実際に30年バンドをやり続けて行ってみせた怒髪天みたいな大先輩がいるんだから。ほんと最高ですよね。「覚悟を決めていい曲を書き続けていれば、ちゃんと行き着くことができるんだ」って、全バンドマンに希望や立ち上がる力を与えてくれた。だから「オレらもちょっとずつでもいいから行ったる」って感じですね。
──アラサーならではのクレバーさを垣間見せつつも、勇気を持って一歩踏み出す熱さと覚悟を感じられる、いいお話の数々ありがとうございました! 正直、グッときました!
まあ、全部ウソ。このあいだ「(人生が変わる1分間の)深イイ話」でやってた話の丸パクリです!(笑)
収録曲
- この高鳴りをなんと呼ぶ
- 中年かまってちゃん
- だんだんどんどん
- [スタジオライブ]CからはじまるABC~この街には君がいない~北極星(「オールナイトニッポン ぶっとおしライブ」より)
忘れらんねえよ (わすれらんねえよ)
柴田隆浩(Vo, G)、梅津拓也(B)、酒田耕慈(Dr)からなるロックバンド。2008年に結成され、都内を中心に精力的なライブ活動を続ける。2011年4月に「CからはじまるABC」が日本テレビ系アニメ「逆境無頼カイジ 破戒録篇」のエンディングテーマに起用され、着うたなどのデジタル配信を経て同年8月にCD化。同年12月には2ndシングル「僕らチェンジザワールド」を発売し、同曲のPVに俳優の萩原聖人が出演したことで話題を集める。翌2012年3月に1stアルバム「忘れらんねえよ」を発表。柴田の卓越したメロディセンスや下ネタを織り交ぜた独特な歌詞で、着実に人気を高めている。2013年1月、ニューシングル「この高鳴りをなんと呼ぶ」をリリース。