GLASGOWインタビュー
「休息充電」は初めてに近い作り方
──GLASGOWとしては、今回の「休息充電」が初のアニメタイアップなんだそうですね。
アラタニ(Vo, G) はい。特に僕はアニメが大好きなので、このお話をいただけたのは本当に光栄だったし、うれしかったですね。その分、どういう曲にしたらいいのかはとても悩みましたが(笑)。
藤本栄太(G) 僕はアラタニほど深くアニメを通ってきたわけではないんですけど、親が喜びそうだなと(笑)。ようやく親や友達に喜んでもらえる仕事ができて、非常にうれしく思っております。
──いい話ですね(笑)。実際の曲作りはどんなふうに進めていったんでしょうか。
アラタニ まず僕がメロディを作って、作詞は藤本がメインで作り始めたんですけど、今回は詞の共作でいしわたり淳治さん、編曲にAPAZZIさんが入ってくださっていて。つまり僕ら2人だけで作る今までのやり方とは違って、“チームで作る”という初めてに近い作り方だったんです。
藤本 バンドだけで完結させるものではなく、チーム全員が理想とするゴールを目指して一緒に作っていく中の一員として参加させてもらった感じだったので、今までにない経験をさせてもらいました。
アラタニ 最初のデモ段階ではもっとテンポも遅くて、鼻歌で簡単に歌えるような感じの曲だったんですよ。そこからチームの皆さんと話し合いながら今の形になっていったので、本当に僕らだけの曲ではなく、チームみんなの曲という感じがしていて。
──なるほど、最初はもっとゆったりした曲だったんですね。
アラタニ 原作マンガを何度も読み込んでいるうちに、難しいことを何も考えずに休日を楽しんでいるわるものさんがうらやましくなってきちゃって(笑)。だから僕も難しく考えるのをやめて、ベッドとかでだらんとしながら出てきたのが最初のデモだったんですよ。それを「どうしたらもっと『わるものさん』を好きな人たちに愛してもらえる曲になるか」とみんなで話し合う中でテンポも上がり、前向きな感じになっていったという流れでしたね。
──個人的に、作品のイメージからするとちょっと意外なくらい疾走感のある曲だなと思っていたので、それを聞いてとても腑に落ちました。変な言い方ですけど、エンディング曲なのにオープニングっぽいというか。
アラタニ それ、すごく言われます(笑)。自分たちだけで作ったらたぶんこうはなっていなかったと思うので、そういう意味でもちゃんと作品のための曲作りができたという手応えがあります。「GLASGOWの曲としていいか悪いか」は一旦置いといて、「『わるものさん』の曲としていいか悪いか」を基準にすべてを判断していった感じでした。
母音をちゃんと発音することを意識した
──具体的な作業としては……例えば藤本さんといしわたりさんの役割分担はどのように?
藤本 まずこちらで叩きを作ってお送りして、いしわたりさんの手が入って戻ってきて……というのを何往復もさせてもらいながら進めました。いしわたりさんの指示って、すごく明快で論理的なんですよ。「ここはこういう理由でこの言葉が適切だと思う」みたいに、全部にハッキリした根拠を示してくれるんです。
──プロの仕事!って感じですね。
藤本 本当にそうなんですよ。これまでGLASGOWが作ってきたものって、よくも悪くもぼやっとしたものが多かったんですよね。抽象的というか、理屈では説明しきれないようなものがカッコいいなと思ってやってきたんですけど、いしわたりさんがそうではない価値観を僕らの曲に持ち込んでくれた。自分にとっては本当に新鮮な経験でしたね。
アラタニ それはボーカルスタイルにも似たようなことが言えますね。今までは、わかりにくいとまでは言わないですけど、あえて言葉として聴き取りにくい歌い方の美しさを追求してきたような部分もあるんですよ。それに対して今回の曲はすごく“言葉として伝える”ことが重要なタイプの歌詞になっているので、母音をちゃんと発音することを意識しました。それも新たな挑戦の1つでしたね。
──なるほど。お話の端々からお二人が「わるものさん」という作品と真摯に向き合って柔軟にアジャストしていったことがひしひしと伝わるんですけど、そうは言っても音像の部分で“譲れないGLASGOWらしさ”みたいなものもしっかり残していますよね。
アラタニ ああ、ギターの感じとかですよね。
──まさにそうです。ギターの使い方に特にそれを感じました。
アラタニ そう受け取っていただけるのはすごくうれしいです。でも僕らとしては「自分たちの武器は絶対に残そう」というような意識は実はなくて。とにかく「この作品にとってふさわしい形とは?」だけをひたすら追求していた感覚でいるんですよね。
藤本 そうですね。こういう言い方は創作をする人間として適切ではないかもしれませんが(笑)、自分たちのエゴを押し通すというよりはチームの人たちに受け入れてもらえる、喜んでもらえることを第一に考えていた気がします。
──となると、僕が感じた“GLASGOWらしさ”はお二人のエゴで無理にねじ込んだわけではなくて、「それが作品にとって有効である」と判断したうえでの選択に過ぎない?
藤本 ああ、それは本当におっしゃる通りだと思います。
アラタニ あと、言っても作ってる人間は同じなので(笑)、どれだけ他者に合わせていっても芯の部分は自然と残るということなのかもしれないです。
バンドマンもアニメ監督も根本は変わらない
──めちゃくちゃ細かい話になるんですけど、例えばサビ裏でずっとギターのオブリが鳴っていますよね。あれってアニソンの文法にはまったくないものだと思うんですよ。
アラタニ はいはいはい(笑)。
藤本 そこを指摘してもらえるの、めっちゃうれしい(笑)。
──あの部分は特にGLASGOWならではというか、「わるものさん」に即して作るだけでは絶対に出てこないアレンジだと思うんですよね。
藤本 実はあれ、最初にAPAZZIさんに送ったラフスケッチみたいなデモの段階ですでに入れていたやつなんですよ。それをそのまま採用していただいた感じで……それはつまり、僕らから自然に出たものが第三者視点でも「作品にマッチする」と判断してもらえた、ということだと思う。それはすごくうれしかったポイントです。
アラタニ そういう細かい話でいうと……これは作品にマッチさせたほうの話ですけど、「休息充電」では今までにないくらいコードをたくさん使っているんですよ。これまでは3コード、4コードくらいでミニマルな作り方をすることが多かったんですけど、今回は至るところで細かくコードを変えていて、なんなら経過音としてディミニッシュ(減三和音)まで使っていたりとか。それはまさに先ほどおっしゃった“アニソンの文法”に則ったものですね。
藤本 そういったことも含めて、今回の曲は本当に自分たちだけではできなかったものという感覚が強くて。
アラタニ 本当にそうだよね。
藤本 これまでバンドをやってきた中で、音楽に対して情熱を持っている人たちと接する機会はもちろん日常的にあったんですけど、音楽以外の領域で情熱を持って仕事している人と深く関わるのは初めてで、単純にそれがすごく刺激的な経験でした。例えば僕らがギターの話をするときのテンションと、監督がアニメの話をするときのテンションってほとんど同じなんですよ。子供か?というくらいの熱量で。
アラタニ 確かにね。
藤本 本気で何かに取り組んでいる人って、表面上やっていることは違っても根本は変わらないんだなあと。それを実感として知ることができたのが今回一番の収穫でしたね。
プロフィール
GLASGOW(グラスゴー)
東京を拠点に活動するロックバンド。現在はアラタニ(Vo, G)、藤本栄太(G)の2人で活動している。2018年9月に活動を開始。2018年に自主制作CD2枚の累計売上が1000枚を超える。2019年12月に自主レーベル・whiteluck recordsを設立。2021年にTOKYO FM主催のオーディション企画「FESTIVAL OUT」で優勝を果たす。2023年3月に初の全国流通盤となるEP「FOOLISH AS THEY MAY SEEM.」を発表。2024年1月にテレ東系のテレビアニメ「休日のわるものさん」のエンディング主題歌「休息充電」を配信リリースした。