過去と未来と向き合って
──「COMINATCHA!!」は1曲1曲が非常にカラフルで、アルバム全体としても多様性が伝わってくる仕上がりでした。それに対して、「Catch Up」は全体の統一感が強く、ソリッドですが温かみもしっかり備わっていて、ロックバンドとして頭1つ飛び抜けた感があると思うんです。アルバム制作において、3人の中で何か共通認識みたいなものはあったのでしょうか?
KENTA 前作に比べて曲作りに対する意識が変わりました。1曲1曲テーマや期限を決めて、情熱を絶やさずに効率よく作ることを重視しました。その中でも、今まで通ってきた道に対するリスペクトを忘れずに、過去も一緒に連れてこれから先をどうやって自分たちが進むべきか、きっちり向き合って作らせていただいて。やから、アルバムの流れみたいなものがおぼろげながら浮かんできたら、今回はそれを明確に形にしていくための時間を作って。コロナ禍にKO-SHINがパソコンでLogic Proを使えるようになったことで、本チャンのレコーディング前のプリプロを自分たちでやるようになった。それで曲の全体像もかなりイメージしやすくなりましたし、無駄な時間を省いて効率よく作業できました。
FUJI 以前は3人でスタジオに入って、ゼロから作っていくことが多かったんですけど、今回から2人(KENTA、KO-SHIN)が形にして、KENTAから曲の色味やテーマを聞いたうえでドラムのビートを教えてもらい、さらに練っていくという作業に変わって。それによって、自分が得意だと思っていたビート感やタイム感が、突き詰めれば突き詰めるほど残念に思うほどできていなかったということにも気付けたし、今まで目を背けてきたところに割く時間も増えました。
──アルバムを聴くと、ドラムの音色や響きが曲によって違うように感じました。そこも、先ほどKENTAさんが言ったように1曲ごとにじっくり向き合った結果なんでしょうか?
FUJI 今回はドラムのチューニングだけじゃなくて、太鼓や金モノも曲の色味に合うものを選んだり、細かく変えたりしています。事前にプリプロで2人がつめてくれた結果、自分の中でもゴールがちゃんと見えていたので、いろんな調整ができたんだと思います。
KO-SHIN コロナ禍においてWANIMAが動きを止めずにやっていくために、レコーディングの手前で曲のイメージをしっかりつかむためにLogic Proを使うようになり、アイデアをまとめられるようになったと思います。誰かに任せずに2人で作業ができることもあって、昼夜問わずにずっとやっていました。そうやってプリプロの作業にたっぷり時間をかけられることで、1曲1曲に対して悩むことも増えましたけど、逆に今までにはないイメージも湧いてきた。だからこそ、よりスッとレコーディングに挑めました。
ツアーのヒリつきがアルバムに反映された
──最初は20曲と聞いてボリューミーだと思っていたものの、実際に聴いてみるとそんなに長く感じなかったです。
KENTA 20曲の中にはショートチューンという僕らが得意とする武器も含まれているので、実際には20曲合わせて1時間をちょっとはみ出るぐらい。あと、今回は頭3曲と最後の4曲に今の僕が伝えたい思いが詰まっていて。ショートチューン連発の頭3曲の勢いでもし「おっ?」と後ずさりしてしまうなら、そこをすっ飛ばして最後の4曲を聴いてもらってもいいし。正直中盤の畳みかけもヤバいし、各曲にロマンと情熱が宿っています。僕らの軸にあるものは崩すことなく、それぞれのトーンの中でWANIMAの幅広さを自信を持って伝えることができたので、そこも楽しんでいただきたいです。
──個人的にも冒頭3曲とラスト4曲の流れは鉄壁だと思いました。その間に挟まれた10数曲の楽曲も、まるでライブのセットリストのように気持ちいい流れのもとに並んでいます。
KENTA そのあたりの感覚は、最近のツアーを通じて鍛えられた。去年の3月から「Catch Up TOUR -1Time 1Chance-」を現状42公演行ってきて、全公演のセットリストを誰にも予想ができないような形で変えました。SEとアンコールを抜いて、全部で850曲ぐらいを42公演で演奏しましたが、そういうヒリついたWANIMAらしい感じをアルバムでも見せたかった。今回のアルバムに収録されている「サシヨリ」は、もともとはキッズでヘッズだった僕に、今の自分を見せたときに、「あいつ、カマしとるね。やっぱり間違っとらんな」と言わせなイカンという思いから作った曲でもあるから。デビュー前にLEFLAH Crewと行ったフェスの景色も思い出すし、演者もお客さんもそれぞれの目線で聴ける曲になっていると思います。
──なるほど。「Catch Up TOUR -1Time 1Chance-」でライブに対する意識は何か変わりましたか?
KENTA 自分の中でテーマと意識するポイントを明確にして、なんのために今日のライブをしているのか、自分たちは今何を伝えたいのかという思いをお客さんに届けられないとダメだと改めて思いました。ツアーは必ず慣れてくるから、そうならないように全カ所セットリストを変えた。ヒリつかないライブが一番ダメでワクワクせんし。そこを3人の共通認識として持ったうえで挑ませてもらっています。そういうツアーの経験が生きて「Catch Up」の曲順にも反映されたのかなと、今このインタビューを受けていて感じました。
FUJI 確かにこの曲順で聴いているとライブを体験しているみたいで、あっという間に1時間が過ぎます。スッと入ってくるし、アガれるところはアガれるし、落ち着いて聴けるところは落ち着いて聴ける。アルバムってたまに曲を飛ばしてしまうようなこともあるんですけど、このアルバムはいまだにそういうことをせず、延々と楽しめています。
──「COMINATCHA!!」は1曲1曲が独立した違う光を放つような、そういう印象がありましたが、今作は20曲がひとつの塊になって、グッと押し寄せてくるような感覚が強かったです。
FUJI 「COMINATCHA!!」は「COMINATCHA!!」で、あのときのベストを出したんですけど、「Catch Up」では今のWANIMAのベストがしっかり表現できたなと思います。
人生一度きり
──これは僕がWANIMAにインディーズデビュー時からインタビューしているからそう感じるのかもしれませんが、アルバムのトーンや歌詞を通して「WANIMA、大人になったな」と強く思いました。例えば、初期の楽曲には「みんな横並びになって進もうぜ」と訴えかけるような空気もありましたが、今作はその雰囲気もはらみつつ、皆さんがいろいろ経験したことを踏まえて「大丈夫だよ、やれるよ」と諭すというか、その説得力の強さが以前とは異なるものだと思ったんです。
KENTA 20代の頃は技術や実力が不足していて、目の前のことで精一杯でした。30代に入ってからは「人生一度きり、誰のものでもなく俺のものやんな。だったら、俺が決めていかないと」という考えに変わって。昨日でも明日でもなく「今日だけ全力で」ってね。20代の自分だったらきっと言葉にすることも躊躇したようなことも、今は「俺が言わな。俺が伝えないと」と思うようになってきました。そうなれたのも、ここまで変わらず支えてくれている人たちのおかげ。これからも誰のために、なんのために音楽をやっているのか、誰に支えられて今ここでこうしているのかということを忘れずにやっていきたい。そこに気付けたことは自分の中でもかなり大きかったと思います。
──その意識の変化って、具体的にどのぐらいのタイミングだったか覚えていますか?
KENTA コロナ禍です。すべてが止まったときに自分たちで動き出したことによって、失敗も成功もあった。僕は20代のときは躊躇してしまって何も挑戦せず後悔が残るタイプだった。それを経て30代になり、さらにコロナ禍になったことで、わからないなりにも飛び込んでみることが重要なんじゃないかと思うようになって。そこで助けてくれる仲間たちも周りにはいるわけだから、ちゃんと感謝の気持ちを忘れずに、迷いながらも自分に自信を持って決断していけたら、あとで振り返ったときに自分のことを認めてあげることができるかなと思えてきたから。あと、勝ちを狙って、挑戦して失敗する分にはいいと教わった。WANIMAは1つひとつのことに向き合ってきたバンド。しかしその一方で動くスピードが速かったがゆえに大事なことをすっ飛ばしてきたこともある気がします。
──思えば、2010年代後半以降の活動スピードって尋常じゃなかったですもんね。
KENTA 僕らはもともと、育ちも環境もよくないところから来た。周りの仲間もそういうやつらの集まりです。それを言い訳にせずにスカさずに仲間たちとやってきた。僕は基本マイナス思考だったから、自分で自分を鼓舞したり、周りのやつらから力をもらったりして歩いてきました。ド田舎からの逆襲のような気持ちで東京に出てきたはずなのに、気が付いたら「元気な歌を歌うバンド」みたいなパブリックイメージができあがっていて。それは自分たちの力不足でそうなってしまったところもある。どんなときも笑顔で写真を撮っていたのは、これが最後になるなら笑顔の写真を残そうと思っていたから。とんでもない闇を抱えているやつほど笑顔が眩しくて、そんなやつらに俺は支えられてここまできたから、今度は俺たちがそんな存在になろうって。でもそれを言葉では伝えられていなかった。僕らと近しい環境、例えば生まれ育ちが悪くて、それを言い訳にしないで踏ん張っているやつらと痛みや喜びをわかち合える音楽を鳴らしたかったのに、20代の頃はそれをできていたようでできていなかったように感じる。陽の部分ばかりが先行して本来のWANIMAを伝えられてなかったと。余談やけど、俺にはずっと一緒に住んでいる同い年の同居人がいて。童貞でアニメ大好きのオタクなんですけど、そんな彼から「俺みたいなやつの気持ちもわかるのにね。健(KENTA)は普段は根暗なのにね」と言われました(笑)。いろんなことに対してついつい愚痴が出ちゃいそうになるときもありますが、今は本当の意味でのWANIMAの思いを音で鳴らせている気がしているから、過去の曲であっても今の俺らが意思を持って、気持ちを込めて歌ったら届き方も以前とは違うと思うからそう信じてやっています。
FUJI 自分たちが成長していくことで、鳴る音も変わってくる。「Catch Up」はそれを強く実感できた1枚です。そこにたどり着けたことが、今後のWANIMAの活動にも影響が出てくるのかなと思っています。
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