音を出す気持ちもツアーに対する覚悟も違う

──今だから聞きますけど、「COMINATCHA!!」（2019年10月発表のメジャー2ndアルバム）の頃って少し迷っていました？

KENTA　うーん……あのアルバムではいろんなWANIMAを見せたい、もっといろんなことができるよと伝えたかったんですよ。例えばレゲエ調もできる、ヒップホップ調もできる、全部がWANIMAサウンドになるみたいに。それをいろいろ取り入れてみたら入り口が多すぎて、自分たちの中でも軸が見えづらかったところはありました。それはやってみてわかったことで、いろんなWANIMAを出しすぎたかなと。

──だからこそ確かな土台が欲しかった。

KENTA　3部作はスタートから全部自分たちで考えて決めていったことやから、どこを切り取ってもちゃんと説明できる。もちろん「COMINATCHA!!」も自分たちで決めたんやけど、今回みたいに強い気持ちやったかって言われると、今のほうが音を出す気持ちもツアーに対する覚悟も全然違います。ただ、あれがあったから今ここに向かえているんだと思います。

──怒りの歌を作るにあたって何か意識したことはありました？ 昔の話ですけど、「つらいことがあるからって中指を立てる曲を作ってもしょうがない」というKENTAさんの発言があって。

KENTA　んー、この2曲もそうですけど、どこか1つに向けて攻撃したり、中指立ててるわけやなくて、やっぱり自分たちにも腹が立ってるんですよ。結局は不甲斐なかったり、情けなかったり、悔しい思いをしたり、「自分がこうしておけば」と思うところから怒りが生まれることがあって。だから、どこか1カ所にだけ中指を立てるのは違うなと。あとは聴いたときに少しでもスカッとするように、それがWANIMAサウンドの喜怒哀楽の怒の表現の強さやろうなとは思っていました。

FUJI　あとはどうやってこの曲の色味を強く出すか、そこは先ほどお話ししたように研ぎ澄まさなきゃいけない部分でした。それこそマイクの位置だったりにもこだわって、どういう音にすれば怒りの表現ができるのかを歌詞に沿って考えました。

KENTA　「Chopped Grill Chicken」って3部作の中でもスネアの音色とか全然違うんですよ。そういうところまでちゃんと考えて作れたのが昔とは違うところだと思います。昔は何やっていいか全然わからんやったし、レコーディングもいっぱいいっぱいで、録り終わったあとに「ああ……こうしたかったけど、言葉にもできんやったな」みたいなことが多くて。今はアイデアもパターンも明確でいろいろ試せるようになったし、より自分たちの気持ちが音に出せてる。最初に言われたような撮影にしても、今ならなんで笑うのか、キメて撮るのかをちゃんと説明できたと思うんですよ。昔はそういうの、言葉にもできんやった。

──上昇のスピードが速すぎたんでしょうね。でも今は迷ってる様子がまったくないから、大丈夫なんだろうなと思えます。

KENTA　はい。そうですね。

霧が晴れるまで

──さらに素敵なのは、この作品が怒りの歌とポジティブな歌、まったく違う2色の曲があるという見せ方ではないところで。

KENTA　はい。大きく分けると、1曲目の「Chopped Grill Chicken」と3曲目の「Get out」はスカッとしてほしい怒りの歌、2曲目の「離れていても」は感謝の歌、4曲目の「いつかきっと」はそれぞれの場所からの船出の歌になっています。

──ただ、全部がつながっていますよね。「Get out」は「まだまだ世は明けない」で終わるけど、最後の「いつかきっと」は「待ち侘びた夜明け」という言葉から始まります。さらに後半には2曲目で出てきた言葉が再び繰り返されて、細かいキーワードがきれいに総括されていくような流れがあります。

KENTA　そうですね。3曲目と4曲目がつながったときに、そう感じられるようにしたくて。「まだまだ世は明けない」と書いて、まだ世の中はそうかもしれんけど、WANIMAと聴いてる人たちは世の中と関係なく、自分のマインドでいつか羽ばたくときが来るんじゃないかと思って作りました。だから今、それを指摘してもらえたのはすごく救われます。

KO-SHIN　最後の「いつかきっと」はまさに次に向かう、本当にこれからを示した1曲になりました。最後「ここからもう一度」で終わる詞もいいですし、聴いた人たちが拍子抜けしないように、これから自分たちがしっかりしていかないといけないなと思わされました。

FUJI　レコーディングでは、自分自身に歌うようなイメージでドラムを叩きました。だからこそ力強い楽曲になったし、サウンド的には開けてるんだけど地に足が着いた印象になったのかなと思います。

──ここで何度も繰り返されるのは「はじまり」という言葉です。漠然とした質問だけど、何が始まっていくイメージなんでしょう？

KENTA　自分たちが今置かれてる状況や、コロナという霧が晴れたあとのWANIMAの新たな始まりです。今回の3部作でしっかりと土台を作ったので、今は種を蒔いた状態。次にどんな芽が出るか、どんな花が咲くかは自分たち次第やと思っています。

KO-SHIN　僕もそう思います。個人的な話で言うと僕たちは30超えてますけど、何かを始めるにあたって「もう遅い」ということはないと思っていて。始まりって自分が信じる道を決めたときじゃないですか。それをやりだして見えてる先があるなら、いつでもそこがスタートだから。

KENTA　見えてる先がなくても、なんですけどね、俺は。聴いてくれる人たちがコロナでどんな状況かもわからんけど、俺らの姿を見て「WANIMAがやっとるなら」と思ってほしいんですよ。あきらめたくないんです。ワクワクしたいやないですか。やから「霧が晴れた時は」と歌っているけど、本当に霧が晴れるまでなんとか耐えて欲しいなって。

FUJI　僕は新しく何かをやるから今が始まり、とかじゃなくて行動するたびに「よし、ここからが始まり」と思えるかが大事かなと思います。

──ちなみに、3部作のタイトルが全部Cから始まるのは意識してのこと？

KENTA　それ初めて言われました（笑）。おっしゃる通り意識していて、この3部作はまずメンバー3人で企画したものなんですけど、チームに伝えるときに、全員が同じ方向を向いてなきゃいけないと思ったんですよ。やっぱり軸になるものやから、タイトルの頭文字は“Ｃ”から始まるものにして関連性を作って、デザインのテイストも統一しました。そういう小さなつながりも意識してましたね。

──“C”である意味はあるんですか？

KENTA　そこは、皆さんそれぞれが想像する“C”で（笑）。

みんなで作り上げるライブ

──皆さんは全国ツアー「Cheddar Flavor Tour 2021」の最中で、今現在は折り返し地点を過ぎたところですね（※取材は6月下旬に実施）。

KENTA　はい。WANIMAとお客さんみんなで作り上げて必ず成功させる、という強い気持ちでツアーを回っています。昨日で13本目まで終わったところですけど、全部がつながっているし、今まで以上に気合いも入ってます。

KO-SHIN　今までのツアーとは全然違いますね。無事に開催できてうれしいし、この状況下でも来てくれるお客さんへの感謝でいっぱいです。声出すのを我慢してるのもわかるし、それを補うかのように全力で手を叩いてくれるものうれしくて。そういうのは本当に伝わってきます。

FUJI　KENTAが言った通りで、「みんなで作り上げる」というのが本当に色濃く出ていて。今までのライブは自分たちが先導してお客さんを盛り上げて、それで忘れられない1日にして帰ってもらうイメージでやっていたんです。今はもっと、みんなで1つのライブを作り上げてる。こういう状況だからこそ、お客さんも強い気持ちで来てくれているし、WANIMAからもその気持ちは言葉にして伝えてるし。

──FUJIさんが言うように、バンドが先導するのがコンサートとしては普通だと思うんですよ。観客とともに作り上げるというのは、具体的にどういうことを指すんですか？

KENTA　声を出せないのも今までにないことだし、コロナに対する感覚、空気感とか常識みたいなのが県ごとに違うんですよ。そういうことも含めて、強い覚悟がないと回れないツアーなんですね。やから今WANIMAが何を届けたいか、目の前のお客さんにはっきり伝える必要があるし、ライブ中に強い言葉も言わなきゃいけない。ましてや、もともと椅子のないスペースに椅子を置いて、前後左右少しずつ空けるなど、お客さんにとっても今まで経験したことないスタイルやから、それでもライブに参加するってよほど強い気持ちがないと無理やと思うんですよ。その感覚が、一緒に作り上げるという言葉になっています。今俺らが信じてるライブスタイルをちゃんと作り上げられてる。

──愚問かもしれないけど、物足りなさはないですか？

KENTA　最初はその不安がありました。でも制限された中での無観客ライブ、有観客ライブを経て、今はもう不安はまったくないですね。お客さんに何を伝えたいか、どういう存在でありたいかってことだけ考えています。セットリストも毎回変えているんですけど、その分ワクワクしてるし、すごく緊張感のある内容になっているんじゃないかなと。「お客さんの代わりに歌うから、全然俺に任せて大丈夫よ」って伝えたいです。

──毎回セットリストを変えるってすごいですね。

KENTA　1つでもミスったらすべて台無しになるような緊張感があるし、自分たちをそうやって追い込むことによって、お客さんに伝わるものもあるやろうし。それが1日のサプライズにもなるし、忘れられない一瞬になると思う。この時期に集まってくれるお客さんを目の前にすると、自然とそういう気持ちが湧き上がってくる。それに生きてまた会えたことが奇跡だよなと思ったりもするんですよ。このツアーを完走したら、僕らは確実に成長できると思います。

FUJI　はい。物足りないどころか、より一層熱いライブになってる実感はありますね。

KENTA　過去曲ってお客さんと作ってきたノリがあるので安心感があるんですけど、そこにあえて頼らずに新曲を多めに演奏したりもしています。あとはどれだけスッとお客さんに届けられるか、今はいろんなこと微調整しながらやってる最中ですね。

FUJI　この状況がいいとは言わないですけど、制限されてるからこそ表現できることもあって。それはどれだけ距離があっても伝わるんですよね。

──「Chopped Grill Chicken」のリリース後の予定は決まっているんですか？

FUJI　10月末に横浜アリーナで2DAYS公演やります。

KENTA　楽しみにしておいてください。