WANIMAが8月18日にニューシングル「Chopped Grill Chicken」をリリースする。
昨年9月に初の無観客ライブ「COMINATCHA!! TOUR FINAL LIVE VIEWING ZOZO MARINE STADIUM」を開催したWANIMA。本公演は全国の映画館およびライブハウスでのライブビューイングとライブ配信が実施され視聴者数はおよそ10万人を記録した。その翌日にはミニアルバム「Cheddar Flavor」をサプライズでリリース。今年に入ってからも、福岡ソフトバンクホークスのプロジェクト「ファイト!九州」のテーマソング「旅立ちの前に」やシングル「Chilly Chili Sauce」をリリースするなど、WANIMAは精力的な活動を展開している。
「Chopped Grill Chicken」は、「Cheddar Flavor」「Chilly Chili Sauce」と連なる3部作の完結編として制作された1枚。“怒り”をテーマにした表題曲や、全国ツアー「Cheddar Flavor Tour 2021」のみで披露されていた新曲「離れていても」など全4曲が収められている。音楽ナタリーでは、彼らが「バンドの新たな土台ができた」と口をそろえて語る今作の制作背景に迫った。
取材・文 / 石井恵梨子 撮影 / 草場雄介
いつも笑顔ではなく自然体で
──撮影中、あまり笑顔じゃなかったですね。
KENTA(Vo, B) そうですか? 雑談してるときは笑顔でしたよね?
──“いつでも明るく、とにかく満面の笑顔で”というスタンスをやめたのかなって。それは今作の音ともリンクしているように感じました。
KENTA まず前提として、3人で話すときは自然と笑顔になったりするし、やめたとかではないです。もともと僕らが笑顔で写真を撮ってもらっていたのは、理想があったからなんです。僕らの周りにはつらい思いや苦しい思いをしているけど、そんな状況にありながらも明るい笑顔で踏ん張ってる奴らが多くて。僕らはそういう奴らからパワーをもらったし、そういう奴らに憧れてここまで来れました。で、せっかくやったら人前に出るときは、笑顔の俺たちを残したいという思いがあって。でも、これまで活動してきて僕らの力不足でちゃんと伝えきれずに勘違いされることも多かったから、今のWANIMAに必要なのは表面的なことじゃなくて、改めて自分たちの内側の気持ちを大切にしようと思ったんです。あとサウンド面で言うと、最近はメンバー3人で話す機会が多くて、改めてWANIMAサウンドの可能性を追い求めてみた結果、今は3人で鳴らすことの可能性にもう一度賭けてみようと思って。
FUJI(Dr, Cho) 今まで無理に笑っていたつもりもないし、不自然だったことは1回もないんですけどね。
──先日の「SATANIC CARNIVAL 2021」(PIZZA OF DEATH RECORDS主催のライブイベント)でのライブを観ましたけど、歌の刺さり方、届き方がこれまでと全然違っていましたね。
KENTA ありがとうございます。
──歌であれだけ伝わるんだから、エンタメに特化したサービスはいらないだろうなと思いました。無理に笑顔で、楽しくやんちゃなトリオでいる必要もないだろうなと。
KENTA 「サタニック」は僕らがずっと一緒に戦ってきたPIZZA OF DEATH(WANIMAの所属事務所)がやってるイベントで、このコロナの状況で開催の決断をするのを身近で見ていました。で、今の僕たちが伝えたいこと、WANIMAサウンドで届けたい思い、会場に来てくれたみんなの状況を考えると、演奏したいのは“エロカッコいい”曲や茶化しの曲ではなかったし、そういうのは必要ないのかなと思ったんです。デビュー前から付き合いのあるLEFLAHクルーも見守ってくれていたし、目の前の方々に僕らの思いがしっかり伝わればいいなと思いながら音を出していました。
音楽が鳴っている間くらいは怒りを吐き出してもいい
──今回のシングルは、昨年9月リリースのミニアルバム「Cheddar Flavor」、今年4月リリースのシングル「Chilly Chili Sauce」に続く3部作として制作されたそうですね。その中で「Chopped Grill Chicken」「Get out」を聴いて驚いたんですけど、どちらもガツンとくるロックナンバーで原動力になっているのは怒りですよね。
KENTA 「Cheddar Flavor」は“誰かに歌うな、自分に歌え”、「Chilly Chili Sauce」は“少しでも寄り添うことができないかな”という思いで作りました。もともとこの3部作は「Cheddar Flavor」のオープニング曲「Call」から、今回のシングルのラストを飾る「いつかきっと」までライブのセットリストをイメージした構成になっていて。
──ライブの後半戦と考えるなら、怒りを爆発させるのもありだったと。
KENTA そう。音楽が鳴っている間くらいは、怒りや憎しみ、反骨精神みたいな感情を吐き出してもいいんじゃないかと思ったんです。聴いた人がそれぞれの場所でスカッとしてほしくて。日常の中でそういう感情を吐き出せずに、常識とか世間にとらわれてわけがわからなくなっている人も多いと思うから。音楽を聴いている間くらいは自分の怒りを吐き出してもいい。「Chopped Grill Chicken」と「Get out」はそういう思いで作りました。“言っちゃいけない”みたいな空気や、間違っているのにうやむやになったり……それってもう大人だけじゃなくて子供たちも感じていると思います。
──こんなWANIMAがあるのかって、びっくりしました。
KENTA 僕らの中では「Are You Coming?」(2015年11月発表の1stアルバム)の「いつもの流れ」など、そういう曲もあったつもりでした。でもこのコロナの状況もプラスされているから、そう思われたのかもしれないです。それぞれ自分の中にある怒りを重ねたり、頭によぎることがあるんだろうなって。
──これまでより踏み込んだ表現になったとは思いませんか?
KENTA ……うーん、3部作の制作を始めてから、自分たちの出す音に今まで以上に責任を持ちたいと思ったし、レコーディングの段階から細かいところを意識したんですね。マイクを立てる位置だったり、それぞれの楽器の音色だったり。思い返すと僕らが世に出た頃は、「CDが出せた!」「フェスに出れた!」「ツアーが組めた!」といろんなことに浮足立ってたんですよね。1つひとつ段階を踏んでいたつもりだったけど、準備や知識もないまま知名度だけが上がって、いろんな人に支えられていたからなんとか立っていられただけなのに勘違いしていたことばかりで。でもそういう時期を経て、この3部作では本当に3人とも地に足を着けて、どういう音を出したいか、どこに向かってるのかをはっきりさせたので。その覚悟が音になっているから、より明確に怒りだったら怒りの歌として聞こえるんだと思います。
──KO-SHINさんはどうですか? そもそもKENTAさんから“怒り”というテーマが出ること自体これまで少なかったと思いますが。
KO-SHIN(G, Cho) これまであまりなかったけど、根本にそういう気持ちがあるのは知っていたから、それをこの状況で出すのは自然かなと思いました。曲を録るときはギターの音も怒りを意識していて、色で言うと赤、強い感情が伝わる音で行こうと決めて。気持ちが乗った音になったと思います。
FUJI さっき「今までより踏み込んだ」という表現をされましたけど、僕としては「より研ぎ澄ました」という感覚のほうが近いかもしれません。怒りの曲はリリースしていないだけで、実はWANIMAにはけっこうあったりするんです。今回の3部作は自分たちの今後の土台になるようなものを作ったので、怒りの感情を含めてWANIMAというバンドの多面性を見せられたのかなと思います。
これまでの経験を経て、新たなスタートを切る
──「Everybody!!」(2018年1月発表のメジャー1stアルバム)で広まった明るくて常に笑顔のバンドという世間のイメージに区切りが付きそうですね。ここからは新しいWANIMAのスタートというか。
KENTA はい。なので最後の「いつかきっと」は、それぞれ置かれた状況は違うけどここからもう一度、という気持ちを曲にしました。
──ただデビュー当時、「みんなを楽しませるバンドでありたい」「スタジアムやアリーナで大きな祭りを開催したい」と思っていたのも事実でしょう?
KENTA はい。僕らは面白いことや、サプライズが好きなので。やから「Everybody!! TOUR」では誰もやってないことをやりたいと思って、アリーナツアーでセンターステージを組んでみたりしました。お客さんと一緒にその日1日を作り上げるっていうライブの方向性は今も変わらないです。
──それでも、気付けば何かがズレてしまっていた?
KENTA ズレていたわけでもないんです。それを経て、今同じことをやってワクワクするかと言われたらそうじゃないというか、「次どうしたい?」と自問自答した結果なんですよね。もちろん今までも確実にお客さんと作り上げてきたから、間違いではない。でもコロナ禍になって、改めて一から自分たちで企画を考えたときに、土台となるようなCDを作りたかった。この3部作は、いつ振り返っても間違いじゃなかったなと思えるだろうし、後悔しないと思う。この3枚を作ったからこそ、今後のWANIMAに対してワクワクできるのかなって。
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音を出す気持ちもツアーに対する覚悟も違う