そのストーリーや操作性からPlayStation®屈指の名作と語り継がれるアドベンチャーゲーム「ワンダと巨像」が、2018年2月8日にフルリメイクされPlayStation®4(PS4®)のタイトルにラインナップされた。ナタリーでは今もなお世界中で愛され続け、より美しく生まれ変わった「ワンダと巨像」の魅力を伝えるべく特集を展開する。
音楽ナタリーには「ワンダと巨像」をはじめ、「ICO」や「人喰いの大鷲トリコ」といったタイトルを手がけるゲームデザイナーの上田文人の作品を愛する米津玄師が登場。十代の頃に初めて触れてから、自身の現在の創作に大きな影響を与えていると言う「ワンダと巨像」との思い出や、PS4®リメイクをプレイしてみて感じたことなどをじっくりと語ってもらった。
取材・文 / 清本千尋 撮影 / 草場雄介
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自分の創作に大きな影響を与えた作品
──まずは「ワンダと巨像」との出会いを聞かせてください。
ゲームや音楽が好きな同級生が「ICO」(「ワンダと巨像」と同じ上田文人氏が手がけたアドベンチャーゲーム)を「面白いからやってみて」って貸してくれて、初めて上田文人さんの作品に触れたんです。中学生になって、「ICO」と同じチームが制作した「ワンダと巨像」が発売されることを知って、その友達と一緒に発売日にソフトを買いに行きました。自分はマンガとかアニメとかいろんなものに影響を受けて音楽を作っているけれど、「ICO」や「ワンダと巨像」は、その中でも重要な一角を担っていますね。
──具体的にはどういうところに影響を受けたと思いますか?
アートデザインの面でかなり大きい影響を受けたと思います。異国感漂う世界観と言うか。俺は子供の頃からファンタジーの世界への憧れが強かったんです。学校へ行って、勉強して、帰ってきて、ごはんを食べて、寝て……みたいな毎日の中で、「もしかしたら本当にこんな世界があるんじゃないか?」っていう、ワクワク感があるものへの興味がすごくあったんですよね。
──日常とはかけ離れた異世界への憧れがあったんですね。
小学生の高学年くらいから中学生にかけてって、自我が芽生え始める頃で、初めて孤独とかそういうものを意識し出すような時期だと思っていて。自分もほかに違わずそういうものを感じるようになり、そんな時期に「ICO」や「ワンダと巨像」をプレイしたんですが、この2つのゲームはうまくそういった時期の自分を射抜いてくれたと言うか。自分の大切な人のために何かを投げ打って異世界を冒険する行為が、初めて孤独を感じた十代の自分にはものすごく尊いことに思えたんです。全然違う世界で巻き起こっている出来事だけれど、「これは自分のことだ」と感じたんですよね。だから好きになったんだと思います。
──孤独みたいなところで言うと、「ワンダと巨像」はほかのゲームと比べて登場人物が極端に少ないですよね。仲間がいるわけではなくて、味方は自分と大切な人の2人きり。
そうそう。「ワンダと巨像」はあれだけ広大なフィールドを歩き回っていても、敵は16体の巨像だけ。常に孤独が付きまとうゲームなんですよね。「ワンダと巨像」の根底には寂しさや孤独感がある。そういうところも自分の作品に影響を与えたのかなと思います。
──「ワンダと巨像」のPS2®版が発売されたのは、2005年です。米津さんは当時14歳だと思うのですが、手にしたときのことを覚えていますか?
覚えていますね。装丁がすごく凝っていて、今でこそないですけど、パッケージが白い半透明で、そのとき付いていたゲームの説明書にすごくワクワクさせられました。普通の説明書とは全然違ったんですよ。今話していて感じたことなんですが、自分のCDを作るときに「手に取ったときに面白いものにしたい」と考えるのは、「ワンダと巨像」を手に取ったときの感覚があってのものなのかもしれません。数年前にブックレットが付いた「ICO」と「ワンダと巨像」のセットが発売されていて、そのボックスを手に取ったときも緻密に計算して作られたものだなと感じました。
シンプルさが潔く、美しい映画のようなゲーム
──ワクワクさせてくれる説明書を読み、いざ「ワンダと巨像」の世界に飛び込んでみてどう思いましたか?
とにかく最初は怖かったですね。めちゃくちゃデカい巨像が、明確な敵意を向けて襲いかかってきますし、巨像を倒して神殿に戻ってきたときもワンダは黒いもやに取り囲まれていて……その光景がひたすらに恐ろしかったです。
──自分をワンダに投影しているのであれば、なおさら恐怖を感じますよね。
はい。だけどストーリーを途中で止めたくないという気持ちが強くありました。俺はゲームをやっていて、クライマックスに差し掛かっていることがわかると終わっちゃうのが寂しくてやめちゃうことが多くて。「ワンダと巨像」はほどよいボリューム感で、やろうと思えば1日2日くらいでクリアできちゃうんですけど、そういうやめ方はせずエンディングまで見届けなくてはいけないと思ったんですよね。
──最初に16体の巨像を倒すという目的を告げられるので、巨像を倒した数で終わりまで近付いていることはいやでもわかってしまいますからね。
それにどう考えても誰もが喜ぶようなハッピーな結末が待っていないと言うのが、最初の時点からなんとなく予感としてあって。物語が進んでいくごとにワンダの体の血の気がなくなってきて……もう後には戻れないんだとわかったら、進むしかない。だからストーリーを絶対に完結させないといけないと思いました。
──米津さんはいろいろとゲームをプレイしてきたと伺っていますが、ほかのタイトルと「ワンダと巨像」で、決定的に違うところはどんなところだと思いますか?
わかりやすくゲーム然としていないですよね。ゲームをやっていると言うより、物語の中に没入していく感覚があると言うか……簡単な言い方になってしまいますが、映画を観ているような感覚でゲームができるところが特徴だと思います。ほかのゲームだとプレイ画面に体力だったりMPだったり、いろんなゲージがあるじゃないですか。まるでコックピットの中にいるようですよね、それもまたいいんですけど。「ワンダと巨像」はそういう要素を極限まで削ぎ落としたことによって、主人公に自分の気持ちを投影できる。研ぎ澄まされたシンプルさが潔くて、本当に美しいゲームだなと思います。
──哀しく美しいストーリーも「ワンダと巨像」ならではだと思いました。
そうですね。特にエンディングは衝撃的でした。
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生き物らしさが増したことで“一撃”がより切なく
- PlayStation®4ソフト「ワンダと巨像」
2005年にPS2®のソフトウェアとして発表された、PlayStation®屈指の名作と語り継がれるアクションアドベンチャーゲーム。広大なオープンフィールドの美しい景観や、強大な巨像にしがみ付きよじ登るという斬新なゲーム性で話題を集め、現在も世界中で愛されている。2018年2月8日に新たな機能「フォトモード」などを搭載したPS4®フルリメイクが発売された。
- ストーリー
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「最後の一撃は、せつない。」
その世界では、望めば死者の魂を取り戻せると伝え聞く。
青年の名は、ワンダ。魂を失った少女を救うため、足を踏み入れることを固く禁じられた禁忌の地、果てが霞むほど広大な「古えの地」へと向かう。たどり着いた「古えの地」、祭壇に少女の亡骸をそっと横たえたワンダは、天からの不思議な声を耳にする。
その声は「この古えの祠に立ち並ぶ16体の偶像すべてを破壊することができれば、望みが叶うだろう」と告げる。ワンダは16体の偶像を破壊するために、対となる16体の巨像を探し、打ち倒すことを決意する。
天からの声の主は何者なのか。偶像とは、巨像とは何なのか。たとえその行いが、我が身に恐ろしい結末を招くものだとしても、ワンダは少女の魂を取り戻すため、広大な地を駆ける。たった1人、16体の巨大な敵に挑む。
©2005-2018 Sony Interactive Entertainment Inc.
- 米津玄師(ヨネヅケンシ)
- 1991年3月10日生まれの男性シンガーソングライター。2009年より「ハチ」という名義でニコニコ動画にVocaloid楽曲を投稿し、「マトリョシカ」をはじめ数々のヒット曲を連作。2012年5月に本名の米津玄師として初のアルバム「diorama」を発表した。楽曲のみならずアルバムジャケットやブックレット掲載のイラストなど、アートワーク面でも才能を発揮。マルチな才能を有するクリエイターとして注目を集めている。2013年5月、シングル「サンタマリア」でメジャーデビュー。2014年4月に米津玄師名義としては2枚目のアルバム「YANKEE」を発表し、6月には初ライブにあたるワンマン公演「Premium Live 帰りの会」を東京・UNITで開催した。2015年10月に3rdアルバム「Bremen」をリリース。2017年2月にはテレビアニメ「3月のライオン」のエンディングテーマ「orion」を、6月にはテレビアニメ「僕のヒーローアカデミア」のオープニングテーマ「ピースサイン」をそれぞれシングルとしてリリース。8月にはアニメ映画「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」主題歌「打上花火」の作詞・作曲・プロデュースを担当した。11月に菅田将暉や池田エライザなどが客演として参加した4thアルバム「BOOTLEG」をリリース。オリコンをはじめ、トータル23のランキングで1位を獲得した。アルバム発売日から年をまたいで行われたワンマンツアー「米津玄師 2017 TOUR / Fogbound」の追加公演は東京・日本武道館で2DAYS開催され、いずれの日程のチケットもソールドアウトした。2018年2月にTBS系ドラマ「アンナチュラル」の主題歌「Lemon」をリリース。10月27、28日には千葉・ 幕張メッセ国際展示場1~3ホールを使ったキャリア最大規模の単独公演の開催が予定されている。
- 米津玄師「Lemon」
- 2018年3月14日発売 / Sony Music Records
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レモン盤 [CD+レターセット]
2160円 / SRCL-9745~6 -
映像盤 [CD+DVD]
2052円 / SRCL-9747~8 -
通常盤 [CD]
1296円 / SRCL-9749