R-指定が「SUPERIORITY」を聴いた感想
──RHYMEBERRYと我儘ラキアではかなりサウンドアプローチは違いますが、その部分に戸惑いは?
MIRI もともとLinkin ParkとかRage Against the Machineが好きだったし、日本で言えばOZROSAURUSが大好きなんですよ。
──オジロも現在はバンドスタイルですからね。確かに。
MIRI だからオーセンティックなヒップホップより、バンドやロックが好きだったし、むしろそっちをやりたかったんですよね。そのサウンドでラップをぶっかませるアイドルがいたら絶対面白いよなって。
R-指定 最新作の「SUPERIORITY」(2021年6月に発売された我儘ラキアのミニアルバム)も、サウンドやラップのアプローチは幅広いですね。楽曲によってラップの乗せ方や発声、ビートアプローチの仕方を変化させてたので、めちゃくちゃ器用やなって。RHYMEBERRYのときにライブで観たMIRIさんの延長線上もあったし、ロウなテンションで今っぽいラップの刻み方をする新しいアプローチをしたり、いろんな感触のラップを聞かせてくれて。
──RHYMEBERRYから数えたら今年でラップ歴は10年になりますね。
MIRI でも「ラップ歴10年です」なんてことは全然意識してなくて。むしろ、ラップをしっかり聴く、ラップをちゃんとやろうと思ったのは最近なんですよ。10年なんて言えない、むしろ最近始めたくらい(笑)。
──そう思うのは「リリックを自分で書く」という部分ですか?
MIRI そうですそうです。ラップアイドルを始めたときはこの歌詞をこうラップしてくださいと指示があったので……やっぱりそれだとラップに興味を持ちにくかったんですよね。でも、自分でリリックを書いて、自分でラップにしたときに、もっとラップがうまくなりたい、いろんなフロウを試したい、こういう韻の踏み方をしてみたいと思い始めたんです。そこでやっと自分でラップに興味を持つようになったし、ラップ自体に向き合えるようになりました。
真っ暗な部屋から救い出してくれた
R-指定 最初にラップを書いたのは?
MIRI まだ高校生だったRHYMEBERRYの頃に、大人や周囲に対して「ふざけんじゃねえよ!」みたいな気持ちが爆発した瞬間があったんです。アイドル特有のしがらみとかうまくいかない状況、いろんな視線からの勘ぐられ方に怒りをおぼえた時期があって、実際に活動の中でいろいろと嫌な部分も見ることになって。で、その気持ちや状況をSNSにぶちまけようと思ったんですけど、「でもそれってめちゃくちゃダサいな」って。それで、その気持ちや経験をちゃんとリリックにしようと思って書いた歌詞があって、それが最初ですね。そこからバトルにも出るようになりました。
R-指定 いやあ、めちゃくちゃラッパーらしいラッパーのなり方ですよ。
MIRI そのときの反抗心とか、思春期っぽさが反映された言葉は、今振り返っても大事なリリックだと思いますね。
R-指定 でも「もう吐き出すしかない」ってところで、自分の言葉を獲得してラップを始めるっていうのはすごくナチュラルな流れだと思いますね。だって初期作品で尖ってないラッパーなんています?
──スチャダラパーもRHYMESTERも初期作は悶々とした感情と尖った感情が交差してますからね。
R-指定 そうそう。
MIRI そういう感情をうまく作品に落とし込めるようになってから、ファンの方にはすごく丸くなったと言ってもらえるようになりましたね。当時は毎日病んで、真っ暗な部屋でLo-fi beatの音楽を聴いてるみたいな。マジで死ぬんじゃないかと思ってたんで。
R-指定 いやあ、だいぶいい感じで仕上がってますね(笑)。俺も窓閉め切って真っ暗な部屋で「Case」(2021年9月に発売されたCreepy Nutsの最新アルバム)を制作しましたからね(参照:Creepy Nutsの3年半ぶりフルアルバム「Case」インタビュー)。
──かなり直近で(笑)。
R-指定 自分を追い込みすぎて生活も破綻し、食生活もガタガタになり、30歳で見事痛風になるという(笑)。
MIRI アハハ。私がそこで救われたのは、自分のリリックをファンの人が口ずさんでくれてたときなんですよね。自分の曲がこういうふうに受け止めてもらえてる、自分の曲がリスナーの中で生きてるってわかったときに、改めて人に生かされてると思ったし、尖ったり、落ち込んだりしちゃダメだなと思いました。
R-指定 作品を作って、それを仲間のラッパーが理解してくれたり、リスナーが口ずさんでくれるときに、自分の沈んだ時間も無駄やなかったんやなって俺も思うし、そういう時間がMIRIさんにもあったんですね。
MIRI もともと、自分の声やラップにすごくコンプレックスを持ってたんですね。昔はもっと声が高くて、ラップになるとそれが自分でも耳障りで。だから自分で喉を潰したこともありました。
R-指定 え、アイドルがそんなことある!? もんたよしのりやないんやから(笑)。
MIRI やっちゃいけない発声で歌ったり、エアコンつけっぱなしで口を開けるようにして寝たり。
──ZEEBRA「真っ昼間」で禁止された行動を(笑)。
R-指定 「冷房ならあるがのどに悪ぃし」を実践したんや(笑)。
MIRI それでポリープができちゃって。だけどラキアに入ってからいろんな声の使い方を練習して、少しは自信を持てる、自分を認められるようになったし、ラキアのCDを自信を持って人に渡せるようになったのが一番の成長かなと思いますね。
アイドルとして元気を与えたい
──ちなみにMIRIさんはCreepy Nutsの楽曲に対してどんな魅力を感じていますか?
MIRI 聴いていてすごく気持ちがいいんですよね。しゃべるように自然にラップしながらも、実はこことここで韻踏んでますけど何か?みたいな(笑)。いろんなラッパーと韻の話をするんですけど、やっぱりそこで出るのはRさんの韻のすごさなんですよ。でも聴き心地はすごくスムーズで、悪い意味じゃなくて、気持ちよく聴いてて気付いたら1曲終わってる、アルバム1枚終わってるっていう自然な流れに感動します。それからパフォーマンスですよね。ホントにお手本にさせていただいてます。
R-指定 ホンマですか。
MIRI オーディエンス全員でCreepy Nutsの音楽を沸き上がらせるような、お客さんの盛り上げ方は本当に参考にしてますね。
──我儘ラキアもこれから「SUPERIORITY」ツアーがスタートします。
MIRI コロナ禍のライブはホントに大変で。アーティストと観客のコール&レスポンスや一体感がライブの魅力だと思うし、場の空気を一緒に作っていくものだから、その構築が遮断されたり制限されると、ライブ自体がすごく難しくて。現状ではライブハウスに行くこと自体も煙たがられるけど、それでも生の音を聴きに来てくれる人がいるのはホントにうれしいし、全力でやるしかないって思いますね。来てくれた人には来てよかったと思ってほしいし、来て正解だよってパフォーマンスを通して伝えられるような、そしてアイドルとしてみんなに元気を与えられるようなツアーにしたいですね。
R-指定 アイドルとして人を笑顔にするっていうことをちゃんと意識してるという、腹の決まり方はカッコいいですね。その心持ちでライブをぶちかましてください。
MIRI ありがとうございます。私はR-指定さんに救われたという思いがあるし、今もシーンの最前線でジャンルを超えて活躍されている姿を見ると、私たちももっとがんばらなきゃなって思うんです。だからこれからも目標でいてください!
- 我儘ラキア(ワガママラキア)
- 星熊南巫、MIRI、海羽凜、川﨑怜奈からなる4人組アイドルグループ。2016年に大阪で結成され、2019年7月に現在のメンバー構成となる。“自分らしく生きていくことの追求”をコンセプトに、ロック、HIPHOP、R&B、EDM、ジェント、オルタナ、ハードコアなどさまざまなジャンルをクロスオーバーさせたメッセージ性の強い音楽を発信している。2019年12月に現体制初の楽曲「reflection」と、ミニアルバム「the darkest before the dawn.」をリリース。2020年12月に「WAGAMAMARAKIA」を、2021年6月に「SUPERIORITY」とミニアルバムを発表した。10月16日にはライブツアー「SUPERIORITY TOUR」をスタートさせ、12月30日まで全国9カ所を回る。
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- 我儘ラキアの記事まとめ
- R-指定(アールシテイ)
- 1991年9月10日生まれ、大阪府出身のラッパーで、Creepy Nutsおよび梅田サイファーのメンバー。MCバトル「ULTIMATE MC BATTLE」大阪大会で5連覇、「UMB GRAND CHAMPIONSHIP」で3連覇を成し遂げた。観客が投げたお題でフリースタイルを披露する“聖徳太子フリースタイル”などを織り交ぜた、オーディエンスを巻き込む形のライブパフォーマンスで人気を獲得。Creepy Nutsとして2017年11月にソニー・ミュージックエンタテインメントより「高校デビュー、大学デビュー、全部失敗したけどメジャーデビュー。」でメジャーデビュー。最新作は2021年9月にリリースされたCreepy Nutsの2ndフルアルバム「Case」。また深夜ラジオ好きでも知られ、2018年4月にはCreepy Nutsの冠番組「Creepy Nutsのオールナイトニッポン0(ZERO)」がスタートした。2020年10月よりテレビ朝日系のレギュラー番組「イグナッツ!!」に出演中。