我儘ラキアの最新ミニアルバム「SUPERIORITY」を携えたライブツアー「SUPERIORITY TOUR」が10月16日に開幕する。
12月まで全国9会場にて公演が行われる「SUPERIORITY TOUR」を前に、音楽ナタリーでは我儘ラキアのメンバー・MIRIと、彼女が目標とするラッパー・R-指定(Creepy Nuts、梅田サイファー)へインタビュー。MIRIにとってR-指定は初めてフリースタイルセッションした相手だという。2人は当時のエピソードを振り返りながら、MCバトルで味わった苦悩と快感、互いの楽曲の魅力について語り合った。さらに、アイドルかつラッパーとして高みを目指すMIRIは自身の活動に対する強い思いも明かす。
取材・文 / 高木“JET”晋一郎撮影 / 山崎玲士
MIRI、R-指定に教えを請うも
──MIRIさんとR-指定さんは、RHYMEBERRY主催イベント「韻果MATSURI Vol.8」(MIRIが以前所属していたラップユニットによる2015年のライブイベント)や、サイプレス上野監修のコミック「サウエとラップ~自由形~」の発売イベント(2017年開催)などで何度か共演されていますね。
R-指定(Creepy Nuts、梅田サイファー) 最初にフリースタイルセッションしたのはAlaska Jamのイベント(2015年開催「clubasiaからこんにちは vol.4」)やったかな。
MIRI(我儘ラキア) 私はあのときが人生初のフリースタイルだったのでめちゃくちゃ覚えてます! 「フリースタイルやってみなよ」とAlaska Jamの森心言さんに言っていただいたんですけど、「やったことないんで無理ですよ!」とビビってたら、「大丈夫大丈夫。ノリで!」って(笑)。
R-指定 雑なフリで(笑)。
MIRI それで覚悟を決めたんですけど、やっぱり緊張してたので、Rさんに勇気を振り絞って「フリースタイルってどうやったらいいんですか?」と聞いたんですよ。そしたら「……まあ、僕もわかんないっす」って。
R-指定 ホンマですか?(笑)
MIRI 天下のRさんにフリースタイルについて聞ける、真髄に触れられるかもしれないと思ったのに「えー!?」って。それでめちゃくちゃ焦りながらフリースタイルした記憶がありますね。内容は緊張しすぎて覚えてません(笑)。
R-指定 ひどいなー、そのときの俺。でも、方法論をつかめてはいなくても、がむしゃらにフリースタイルする中にMIRIさんの人間性が出てたのは覚えてますね。
──Rさんの「僕もわからない」っていうのは、武道の達人が「まだこの拳は極めてない」と言うような、ちょっとしたイキりですか?(笑)
R-指定 だとしたら恥ずかしすぎるでしょ(笑)。でも実際、フリースタイルの方法や自分に合うスタイルは、自分で見つけるのが醍醐味という考え方が自分の中にはあるんですよね。だから「フリースタイルはどうすればできるのか」っていう質問には、ちゃんと答えたこと、答えられたことがないと思います。もしくは単純にアイドルに話しかけられて、緊張してぶっきらぼうな答えになったのか(笑)。
MIRI でも、あの日があったから今の自分がいると思います。私が即興で出した言葉にお客さんが反応するのは人生で初めての経験だったし、その楽しさを経験してバトルに出ようと思ったんで、ホントに人生が変わった瞬間だったのかなって。
周りは全員敵、実力主義のラップの世界
──MIRIさんは「戦極MCBATTLE」(参照:「戦極MCBATTLE」主催・MC正社員 武道館大会直前インタビュー)や「CINDERELLA MCBATTLE」などの大規模な大会のほか、小さなバトルにも当時は出場されていましたね。
MIRI 当時、ラップするアイドルとしてもう1つレベルアップしたいと思ってたんですよね。一緒にラップを練習できる友達もいないし、サイファーに参加しようかなと思ったこともあったんですけど、職業はアイドルだし、サイファーって駅前とか人が多く出入りする場所でも行われるから、それをファンの方が見てショックを受けたら嫌だなって。そう思ってたときに「戦極」主催者のMC正社員さんに声をかけていただいて、これはチャンスかもと。それで2015年12月の「戦極」13章に出たんですが、ホントに怖かったですね。
──「戦極」の13章は渋谷O-EASTでの開催となり、生のMCバトルが初めて1000人を集めるという、現在につながるMCバトルの浸透を象徴する大会でした。
MIRI それでも今よりバトル自体にダークな雰囲気があったし、バトルMCもみんな挨拶もしてくれないし、イヤフォンしてフード被ってブツブツ言ってるみたいな。
R-指定 うわー、想像できるわ(笑)。時期的には「高校生RAP選手権」(BSスカパー!「BAZOOKA!!!」発の高校生を対象としたMCバトル企画)が話題になって、「フリースタイルダンジョン」(テレビ朝日系のMCバトル番組)もスタートした時期やけど、まだブーム以前やったと思うし、バトルの空気はブーム以前と以降で全然違う。
MIRI お客さんの空気も全然違いましたよね。「戦極」での最初のバトル相手はK-razyくんだったんですけど、お客さんから「K-razy! MIRIぶっ殺せ!」とか声がかかったり。だからもう周り全員敵みたいな(笑)。
R-指定 K-razyも頭角を現してた時期やから、お客さんの期待値も高かったやろうし。
MIRI でもバトルが終わったら、ほかのMCから「おつかれさま、いいバトルだったよ」と言ってもらえて、「これが実力主義のラップの世界なんだな」と痛感しましたね。
漢さんとのバトル前に死を覚悟
MIRI Rさんの初めてのバトルはいつですか?
R-指定 2007年かな。もう梅田サイファーには参加してたからフリースタイルはしてたし、オープンマイクに出た経験もあったんですけど、初めてのバトルは高2のとき、平日のイベント。学校と部活が終わってからアメ村(アメリカ村)に行ってのバトルでしたね。めちゃくちゃ自信はあったんですけど、確か3回戦で負けて。とにかく悔しかった。MIRIさんの話にあったような怖いと思ったバトルは、その何カ月かあとに出た、韻踏合組合主催のイベント「ENTER」のMCバトル。その2回戦の相手が、ゲストライブで来てた漢 a.k.a. GAMIさんだったんですよ。当時は今みたいに漢さんと接点もないし、ファニーな部分も世の中には知られてなくて。むしろ「MSCの漢」っていうハードな面しか知らなかったから、「ああ……このバトルで俺の人生は終わるっぽい」と。
MIRI アハハ!
R-指定 まだ17歳でしたけど、媚びたり逃げたりしたほうが失礼やっていう「ラッパーの矜持」はあったんで、もうめちゃくちゃ言おうと。それで何かあったらもうしょうがない、でも出番前には一応おとんとおかんには感謝の念を送って。
──死ぬ前提だ(笑)。
R-指定 もちろん何も起きないんですけど、死を覚悟するぐらい怖かったですね。
MIRI 普段はそこまで緊張しないんですけど、バトルだけは異常に緊張するんですよね。ホントに口から心臓飛び出るんじゃないかって。
R-指定 それは俺もどのバトルでも感じるし、それでもうバトルに出続けるのは止めようと思ったんですよね。普通のバトルでも、「ダンジョン」のようなテレビ収録であっても、バトルすること自体、メンタルが削られるし、寿命縮みます。
MIRI 絶対縮む(笑)。
R-指定 バトル前は夢に出ますからね。「UMB」(MCバトル「ULTIMATE MC BATTLE」の略)に出る前は、本選会場のLIQUIDROOMに着いたらなぜか筆記試験を受けさせられて、それに落ちて試合に出られへんっていう。福岡代表だったPOCKYさん(現:PEAVIS)も筆記で落ちてて、「まさか筆記とは……」と2人で落ち込んで。
──っていう夢を見たと(笑)。
R-指定 夢夢。それで「UMB」の当日にPOCKYさんに会ったとき、「あっ! この場面、夢で見た」ってフラッシュバックしたんですけど、この話してもわからんしなーって(笑)。でもそのぐらい正気じゃなかったですね。
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目が怖すぎてファンが離れる