和楽器バンド10周年ベスト発売記念インタビュー|活動休止を前に語る、これまでとこれから (2/2)

12月のライブでどんな曲を歌っていたいか想像したら「こんな曲調かな?」って

──先ほど、町屋さんは「八奏絵巻」を「マッシュアップ」と表現していて、響きこそ簡単そうですけど、すべて人力で演奏してますからね。

町屋 実際に手を付け始めたら途中で曲の作り方が変わっちゃって。最初は全曲同じキーでメロディとコードを打ち込んで、メロディの抑揚を譜面で見ながら「ここ、サビっぽいから使えるな」という感じで作ろうと思ってたんですよ。そしたら歌詞がつながらなくて、まったく意味を成さなくなると思ったので、逆に旋律の抑揚もある程度気にしながら、歌詞を中心に曲を組んでいく方向にシフトして、トイレに2時間ぐらいこもって作りました。

──トイレにこもる必要があったんですか(笑)。

町屋 僕はだいたい、布団の中かトイレで歌詞を書くんで。

山葵 「八奏絵巻」には、このアルバムに収録されていない和楽器バンドのオリジナル曲の要素が何かしら入ってるんですよね。

──それはすごい! 今作はオープニングナンバーの「六兆年と一夜物語(Re-Recording)」の冒頭に映写機の音が入っていて、最後に10年間の集大成的な「八奏絵巻」があることで、和楽器バンドの歴史を描いた1本の映画のような構成になっています。

町屋 実は、映写機の音を入れる場所はけっこう迷って、最初は3曲目「華火」のイントロにあてていたんですよ。この曲は僕らにとって初めてのオリジナル曲だったので。だけど、アルバムの1曲目が流れてくる瞬間のドキドキとかワクワクってすごく重要じゃないですか。全体の並びを考えたときに、1曲目の「六兆年と一夜物語(Re-Recording)」が映写機を回す音で始まることでこのアルバムのストーリー性をさらに高めることができるなと思って、こういう形になりました。

──結果として、作品のメッセージが明確になったし、グッとまとまったと思います。ゆう子さんが作詞作曲を手がけた「GIFT」に関してはどうでしょうか。

鈴華 ここ1年ぐらいライブのMCでよく言っていた言葉を入れようと思っていたので書きたいことが明確だったし、すごく楽に歌詞が出てきました。旋律に関しても、10周年の締めくくり……12月10日のライブでどんな曲を歌っていたいかを想像してみたら、「こんな曲調かな?」というのがすぐに出てきました。曲の雰囲気とか、どれぐらいのキーで歌いたいかっていうのもわりとすっと出てきたので、書くのはめちゃくちゃ早かったです。みんなの思い出に残る曲になるといいなと思いながら書きました。

鈴華ゆう子(Vo)

鈴華ゆう子(Vo)

町屋 キーの検証はけっこうしたよね。

鈴華 最後に転調するかしないかとか、どのキーで歌うと一番明るくなるかとか。半音違うだけでも雰囲気が全然変わってくるんですけど、ベストなキーになりました。

再録して、自分でも「あれ? 俺、こんなことやってたんだ……」って

──再録曲を聴いて思ったのは、やっぱりギターの音は引っ込めるんだ、と。

町屋 ギターを引っ込めると和楽器の音がめっちゃ前に出てくるんですよ。

鈴華 なので、私はいつもミックスのときに「ギター上げろ!」っていう役をやってます(笑)。

町屋 ギターソロも小さくしがちだから。

──ソロですら小さくするんですか(笑)。

町屋 ギターは歪ませたら伸びる楽器だし音も上がりやすいので、それを恐れてわりと引っ込めがちなんですよ。で、ほかの楽器を食っちゃうのも嫌だなと思ってるとさらに小さくなるという現象が。

蜷川 レコーディングの順番も大きいよね。ギターはいつも最後に入れてるし、まっちー(町屋)はディレクションもしてるからみんなのフレーズを全部知ってるし。だから「ここはこの楽器を聴かせたい」とかやってるうちに自分の音を小さくしちゃうんじゃない?

町屋 このバンドでギターを先に入れるというのは相当難しいっすね。

黒流 そもそも、結成した頃の音源では和楽器の音は聞こえないことが前提だったからね(笑)。スタッフさんが変わるたびに楽器の説明をするところからスタートしてたし、「毎回、苦労してたな」って今回録音してるときに思い出しました。こっちから何も言わないと除夜の鐘みたいな環境音的な扱いになっちゃうので、「そうじゃないですよ」って(笑)。今はそういうことはまったくなくなりました。あと、今回再録してすごく面白かったのが、実は太鼓のフレーズって「細雪(Re-Recording)」以外、最初のバージョンとほぼ同じなんです。掛け声も同じ。だけど、先行配信されている「六兆年と一夜物語(Re-Recording)」と「千本桜(Re-Recording)」を聴いた人から「黒流さんの声が増えてる!」とか「フレーズが増えてる!」ってすごく言われて。でも、それは今まで僕の音が前に出てきてなかっただけなんですよ。

黒流(和太鼓)

黒流(和太鼓)

山葵 「六兆年と一夜物語(Re-Recording)」の掛け声も前からやってたんですか?

黒流 やってたやってた!

山葵 え、知らなかった……(笑)。

鈴華 あははは!

黒流 自分でも「あれ? 俺、こんなことやってたんだ……」って。

山葵 俺、「今回、黒流さん攻めたな……」って思ってた(笑)。

──あはは!

蜷川 掛け声といえば、再録バージョンの「起死回生(Re-Recording)」では女性陣も掛け声に参加していて。レコーディングが続いたせいで睡眠不足でヘトヘトになって、最後に「おつかれさまでした!」って帰ろうとしたタイミングで、「べにさん、あとひと仕事残ってます!」って。もうボロボロの声で「ファイ!」「ファイ!」って叫びをみんなで録りました(笑)。

町屋 前回は力強さを意識して男性陣だけで録ったんですけど、今回はベストだしみんなでやろうということで、全員の声が入ってます。

──黒流さんも言っていましたけど、再録曲を原曲と聴き比べても大きなフレーズの違いは感じなくて。実際は変えていたりするんですか?

町屋 フレーズはほとんど変えてないです。10年間のライブで若干変わった手癖が入ってる程度で、基本的にはオリジナルを踏襲しています。

鈴華 やっぱり、原曲ファンがいるじゃないですか。だからリレコーディングでいじりすぎるのは違うという美的感覚がもともと私たちにはあったし、あくまでもよりいい音で録るというのがテーマとしてありました。

山葵 手癖で変わった程度のところを楽しんでもらうという感じですね。

うちのバンドってインテリなほうなんですか?

──今作はベスト盤ではありますけど、過去曲の再録をしていることもあって、今の和楽器バンドのバンド感が色濃く出ていると感じました。

蜷川 箏や三味線の単音とか、それぞれの楽器の音もしっかりと聞こえてくるし、ゆう子さんの歌声もしっかり前に出てる。これはこれまで試行錯誤を重ねてきた結果なので、すごくいいアルバムになったと思います……あの、もう長い長いお付き合いだし、せっかくの機会だからちょっと伺いたいんですけど。

──唐突ですね(笑)。なんでしょう?

蜷川 ほかのアーティストさんのインタビューもされてると思うんですけど、うちのバンドって音作りとかクリエイティブなことに関してインテリなほうなんですか?

蜷川以外全員 ふっ。

町屋 全員鼻で笑う(笑)。

鈴華 あはは!

蜷川 こだわり派なほうなのかなと思って……。

──こだわり派なほうですよ。

山葵 もしそうじゃなかったとしても、「いや、雑なほうです」とは言わないでしょう(笑)。

蜷川 私はこのバンドしか知らないから……。

──(笑)少なくとも僕が知る範囲では、いい意味でかなり変態度が高いバンドだと思いますよ。そもそも、こんな編成のバンドがいないですからね。

町屋 僕、このバンドに入ってなかったらこんな変人にはなってなかったと思いますよ。だって、8人分の音をまとめるにはちゃんとやらなきゃいけないから。

町屋(G, Vo)

町屋(G, Vo)

──そうですよね。町屋さんは和楽器バンドに入ってから各メンバーの担当楽器だけでなく、シタールやバイオリンまで学んでますし。

町屋 はい。4人とか5人編成の普通のバンドなら特殊な知識は全然いらないんですよ。

鈴華 もっと好き勝手にできる。

町屋 うん、そう。でも、このバンドでは常に三味線とか尺八とかを入れなきゃいけない。こういう和楽器って普通のバンドならポイントポイントで使う音色じゃないですか。我々の場合はそれをデフォルトで使わなきゃならないので、そうなると考え方をシフトチェンジしなきゃいけないんですよ。

蜷川 このバンドだとそれが普通のアンサンブル作りみたいな感じなので。でもほかのバンドさんはそうじゃないだろうし、人数だってうちらの半分くらいだし。だから、そういった音作りとかクリエイティブの面でこのバンドはインテリジェンスの部類に入るのかなって。

──なるほど。確かにインテリと言われたらそうですけど、和楽器バンドの場合は頭でっかちな感じがしないというか、ちゃんと音楽ファーストになっているんですよね。自己満でこのバンドをやってないというか。すべての音やアンサンブルに理由があるじゃないですか。

町屋 それはめちゃくちゃ大事にしてます。理由がないことは基本的にしないし、すべてに意味を付けてます。これって時間とお金をかければどんどんブラッシュアップできるんですけど、どこで線を引くかというところに関しては、その工程を加えることでCDの売り上げが伸びるかどうかが大事で、お客さんの耳なら分かりそうだと判断したところは手間暇をかけますね。

7年ぐらい寝てたんですよ(笑)

──町屋さんのこだわりはあまりにテクニカルで、こちらの不勉強もあって理解が追いつかないことも多々あるんですけど、そこにちゃんと明確な理由があって筋が通ってるから話を聞いていて楽しいです。

蜷川 よかった。貴重な意見が聞けました。

──いえいえ。今話を聞いていて思いましたけど、町屋さんのミュージシャンとしての才能をここまで引き出したのは和楽器バンドなんですね。

町屋 僕、今でも自分はすごく器用貧乏だと思ってるし、それがコンプレックスになってる部分がすごくあるんですよ。ギターを極められてるわけでもないし、作詞作曲を極められてるわけでもないし、歌を極められてるわけでもないし、エンジニアなわけでもない。ただ、それらすべてに本気で取り組むことによって1つひとつ点を作っていくと、次第にそれらが集まって線になるじゃないですか。その線がつながっていくと今度は面になる。さらに、面を積み重ねていくと立体になる。器用貧乏なりに自分の長所を生かすにはそういうやり方しかないと思うので、まずは立体にすることを目標にして、時間の許す限り自分を掘り下げようとしていますね。

──町屋さんのように、この10年間で音楽的、精神的に変わったと特に感じるメンバーはいますか?

鈴華 それはもう、変わったことは各々いっぱいありますよね。

山葵 まあ、僕の場合は筋肉ですかね。

山葵(Dr)

山葵(Dr)

──あはは! 山葵さんは今や「SASUKE」に出場しているぐらいだし、まさにそうですね。

町屋 でも、筋肉が付きすぎると叩きづらくなるという(笑)。

山葵 そういう弊害は生まれてます(笑)。

蜷川 ゆう子さんの歌い方もデビュー当時から全然変わりました。

町屋 ゆう子はすごくいい変化をしたと思っています。マイクを変えたことも影響しているのかもしれませんが、10年もやってると声も少し変わるので、特にここ2、3年の声質の変化はすごくいい方向にいってると感じてます。曲を作る側としてはすごくやりやすいですね。

鈴華 声って30代のうちはまだ成長中なんですよね。私の30代はほとんど和楽器バンドに時間をつぎ込んでいて、バンドとしての表現という縛りがある中でも試行錯誤しながら鍛えられた感じはあります。歌に関して自分で評価するのはすごく難しいですけど、精神面ではだいぶ鍛えられました。これだけメンバーがいる中で気を使うことをやめられるようになったというか。8人それぞれの考え方があって、男女がいて、その中でリーダーになって。最初はとにかくみんなが心地いいことが一番大事だと思っていたんです。ですけど、10年も経つと変化があって、人と人との向き合い方やチーム感、そういったことを大事にするようになりました。

蜷川 人数が多いから、8人の意見がぴったり合うことって絶対にないんですよ。そういう意味では神経質になりすぎてもよくないし、逆にみんなが穏やかにうまくいくことばかりにベクトルを向けすぎてもうまくいかない。結局のところ、私たちはもともと仲良しでバンドを始めてるわけではないし、みんな個性が強いし、団体なんだけど個人戦みたいなところがあるので、みんなの色がちゃんと出ることがこのバンドにとって一番素晴らしいんだと思います。

──べにさん自身はどうですか。

蜷川 デビュー当時は、リーダーがいて、まっちーが音作りをしてくれて、スタッフさんが楽器を全部用意してくれて、リハに行って……って周りがお膳立てをしてくれてたんですけど、途中から「あ、違う」って。たくさんのお客さんがいつも楽しみにして観てくれているステージに立つまでに、これだけの人が準備をしたり、仕事を取ってきてくれてるんだと思ったら「ちゃんと自分を出さないと」って思うようになって。それからは活動に対する姿勢がガラっと変わって、ちゃんと自分の仕事全部に責任を持って、自ら発信をしなければいけないなと思うようになりました。

蜷川べに(津軽三味線)

蜷川べに(津軽三味線)

鈴華 これは最近、彼女がよく話している「すごい変化」らしいんですけど、「あ、そうだったの!?」みたいな(笑)。

町屋 彼女は7年ぐらい寝てたんですよ(笑)。

蜷川 寝てました(笑)。インタビューでも「お兄ちゃんとお姉ちゃんがしゃべってくれるからいいや」と思ってたんです。

──ああ、それで合点がいきました。ここ数年、べにさんがインタビューですごくしゃべるようになったのはそういう理由だったんですね。

蜷川 ライブ中にお客さんの顔を近くでしっかり見られるようになったのも最近の話です。ちゃんと向き合っていかなければなって思いました。

黒流 あと、彼女は以前は標準語で話してたけど、途中で急に言葉が変わってダーッとしゃべるようになったので、「あ、自分を出してきたんだな」と感じましたね。

蜷川 そうですね(笑)。母国語(関西弁)じゃないと自分の本当の思いが出しづらいというのもあるんですけど。

今度またバンドとして集まったときに、今以上にすごいことになる

──先ほどべにさんがおっしゃっていましたけど、バンドを円滑に回すために自分が引くというのもよくないんですね。

町屋 ディレクションをやってて思うのは、このバンドに個性のない人なんていないし、どれだけ自分を出すかという、程度の問題なんですよ。自分を出すことがいい方向に作用するのも悪い方向に作用するのもその人にとっては経験になる。例えば、我の出し方を間違えて人が離れていくってよくあることですけど、そこで学びがあれば次からは人との接し方は変わると思うんですよね。そういう意味では、和楽器バンドも人間的な成長を見届けてもらうタームに入ってきたのかなっていうのはあります。みんな、人生の折り返し地点を迎えてるし、今後、それぞれの個性を生かすも殺すも自分次第なんじゃないかなと。

鈴華 自己責任だよね。わりとみんなそう思ってるはず。でも、活休に入ってからもいろんな挑戦は止めずに、さらに追求してかなきゃなという責任は感じています。「あのボーカリスト、消えたな……」ってなったらダメじゃないですか(笑)。「やっぱり、あのバンドのサウンドをまた聴きたいな!」とならなきゃいけないと思うので。

──活動休止だけど、意識を高く保っていないといけないんですね。だらだらしてる暇はないというか。

町屋 だらだらするのも自由なんですけどね。

鈴華 そうね。「追求していかなきゃいけない」とは言いましたけど、それは別にバンドのためではなくて、自分のためでもいいと思うんですよ。

蜷川 心にはずっとメンバーがいるんですよ、10年一緒にやってきた戦友として。でも、みんなそれぞれ個人でやりたかったこととか勉強したかったこともあって、そういうことにこれまでと同じ熱量で挑んでいく。そうすれば今度また集まったときにもっとすごいことになるよねって。

鈴華 みんながそれぞれ自分の人生を豊かにするようにがんばった結果、バンドとして集まったら今以上にすごいことになる。そのために、みんなバンドの縛りから一旦解放されてほしいんですよ。バンドから解放されて自由になったときに何が生まれてくるのか、それが楽しみです。

左から黒流(和太鼓)、町屋(G, Vo)、鈴華ゆう子(Vo)、蜷川べに(津軽三味線)、山葵(Dr)。

左から黒流(和太鼓)、町屋(G, Vo)、鈴華ゆう子(Vo)、蜷川べに(津軽三味線)、山葵(Dr)。

公演情報

和楽器バンド Japan Tour 2024 THANKS ~八奏ノ音~

  • 2024年11月22日(金)東京都 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
  • 2024年11月23日(土・祝)東京都 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
  • 2024年11月28日(木)大阪府 オリックス劇場
  • 2024年12月8日(日)愛知県 Niterra日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
  • 2024年12月10日(火)東京都 東京ガーデンシアター

プロフィール

和楽器バンド(ワガッキバンド)

ボーカル、箏、尺八、津軽三味線、和太鼓、ギター、ベース、ドラムからなる8人組バンド。個々にプロとしてアーティスト活動するメンバーが、ニコニコ動画にアップした“演奏してみた”動画などを通じて集合し、2014年4月にボーカロイド曲のカバー集「ボカロ三昧」をリリースした。2015年9月にはオリジナル曲を中心とした2ndアルバム「八奏絵巻」を発売。2016年1月に初の東京・日本武道館での単独公演「和楽器バンド大新年会2016」を即日完売で成功させ、同年3月にはアメリカ・テキサス州オースティンで開催された世界最大級のフェスティバル「SXSW 2016」にも出演した。2019年6月にユニバーサルミュージックへの移籍を発表。2020年2月には大阪・大阪城ホールで行われたオーケストラとの共演ライブ「Premium Symphonic Night Vol.2」でグラミー受賞アーティストEvanescenceのエイミー・リーと共演し、ワールドクラスのパフォーマンスを披露した。2024年1月に、同年末をもって無期限で活動を休止することを発表。10月にベストアルバム「ALL TIME BEST ALBUM THANKS ~八奏ノ音~」をリリースし、11月から活動休止前最後となるツアーを開催する。